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大阪市民管弦楽団 第55回定期演奏会

じーんときた「英雄の生涯」戻る


大阪市民管弦楽団 第55回定期演奏会
2000年9月2日(土) 18:30 ザ・シンフォニーホール

ワーグナー:歌劇「リエンツィ」序曲
ワーグナー:ジークフリート牧歌
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」作品40

指揮:キム・ホンジェ 独奏:岡田英治(Vn)

指揮台の上にこぼれ落ちた1輪のバラの花をそっと手に取り、慈しむような笑顔を見せて胸ポケットにしまい込んだキムさん。 カーテンコールでの出来事そのままの優しい人柄が随所に滲み出た「英雄の生涯」は、ラストの前あたりから「もう終わってしまうんだなぁ」とジーンときた演奏会であった。 またアンコールを行わず、お開きとしたことも大正解であったと思う。

このような大曲は2階席からの方が全体を見渡せるので大好きなのだが、その上に今回は最前列という良い席を頂いたのでとても嬉しかった。 さて、この席から舞台を眺めると、指揮者の右前からチェロ・コントラバス・ホルン・チューバと扇型に並んでいるのがよく分かる。 まず「英雄の生涯」は全曲を通じてここが軸となる。 冒頭の壮大な英雄のテーマは、ここが軸となって発っせられた充実した響きによってホール全体が満たされた。
指揮者のキムさんは、ともすると技巧に走って軽薄になったり統制が取れなくて雑然となる恐れのあるR.シュトラウスの音楽を十分に締め上げながらも、慈しみを持って表現していたようである。 またオケも練習の成果を発揮して、それによく応えていたと思った。
「英雄の生涯」は難曲・大曲であるだけに今回の演奏でも印象に残る部分が多かったのだが、個人的には「英雄の敵」の冒頭の管楽器群が英雄を嘲笑する場面から弦楽器と絡む場面などが見事であると思った。 確かにホルンやラッパが目立つ曲ではあるが、木管楽器と弦楽器が絡むこれらの場面での真摯な響きは、練習に練習を重ねたアマオケだからこそできる演奏であり素晴らしかった。 もちろん「戦場での英雄」や「英雄の業績」のように全奏で思いっきり演奏し、壮大さで耳を奪う部分も見事であった。 全奏となってもオケ全体にリズム感があるため響きが拡散しないし、騒々しくも感じさせない。 また、このオケの女性ティムパニ奏者はいつもながら思い切りが良くて気持ちがいい。 オケの要ともなる部分だけに要所が見事に締まり、この存在は大きいと思う。 しかしながら「英雄の敵」やラストの「英雄の引退と完成」のようにヴァイオリンなどの弦楽器や木管楽器を主体として丁寧に語りかけるような場面、ここでの抑えた表現との対比がしっかり付いているからこそ曲が全体として纏まったものとなりお祭り騒ぎにならなかったように思う。 これぞ練習の成果ではないだろうか。 それゆえ、聴いているこちらもラストに近づくにしたがってジーンとくるものがこみ上げてきた。 「ああ終わってしまうんだなぁ」 これは舞台で演奏しているオケのメンバーも同様に思いながら演奏されていたのではないだろうか。 そのように半年以上にも及ぶ練習の成果が見事に曲として表現されていた演奏であったと思う。 これはCDなどではけっして味わえない演奏であると感じた。

書きたいことは色々とあるのだが、最後の一音がホールから消えるまで拍手がなかったことは幸いしていたし、またブラボーはかからなかったのだが、これは余韻を十分に楽しむためにはむしろこれで良かったと思う。 更にこの後にアンコールをやらなかったことは、このオーケストラの誠実さでもあると感じた。 関係者の皆さん、本当にお疲れさまでした。