BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
大阪シンフォニカー 特別演奏会「感動の第九」

熱く燃えた演奏、ベーレンライター原典版とは?戻る


大阪シンフォニカー 特別演奏会「感動の第九」
2000年12月22日(金) 18:45 ザ・シンフォニーホール

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番 変ロ長調 K.207
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 作品125 「合唱つき」 (「ベーレンライタイー原典版による演奏)

(アンコール、蛍の光)

指揮:本名徹次

本名さんによるベーレンライター原典版による第九も今年で3回目。 来年の第九は曽我さんに決まっているためこれで最後となるため、この3度目で最後となる演奏はどのようなものか期待して出かけた。 スコアを読めないし、これといった情報も持っていないので、ベーレンライターによる細かな指摘は出来るはずもないのだが、ベーレンライターによる演奏というよりも、年々本名さんの第九という印象が強くなる演奏であった。 細かな管楽器の扱いが異なるので新しい響きもするのだが、それを上回る本名さんによる集中力が高く熱く燃えた指揮・演奏が非常に印象的であった。 年々熱い演奏になったように思う。 特に終楽章のコーダで見せた暴走とも思える速度など、限界とも言える速さではないだろうか。 限界とは書いたが、オケも乱れることなくこの速度についてくるのだから本当に巧くなったものである。 だからベートーヴェンの時代に響いていたであろう楽器の響きを追求したベーレンライター版による演奏というよりも、本名版の演奏と言うべきかもしれない。 また力みかえったような熱唱をくりひろげた合唱もまたベーレンライターを意識していないような印象を持った。 すべてに渡って熱く燃えた第九であった。

まずは谷本さんによるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第1番。 フェスの名曲コンサートでは同じく本名さんの指揮によるメンコンを聴いたのだが、ホールの大きさゆえにこの人の良さを掴みきれなくて残念だった。 しかし今回はシンフォニーホールという器で、とても端正な音楽を聴かせてくれた。 オケはいつもどおりの対向配置でヴァイオリンは各6本、ビオラとチェロが各4本、コントラバス2本、これにホルンとオーボエが各2本という小編成である。 序奏から精緻でやや鋭角的なアンサンブルを響かせる、ここに神経の行き届いた可憐なソロがかぶさる。 オケに比して丸い音色を出しているが決してベタつかないのが素敵である。 また全般的にことさらモーツァルトのギャラント風を強調しない淡々とした曲の運び方であったように思う。 第2楽章では押しつけがましくない艶消しヴァイオリン・ソロ、第3楽章の上品にまとめたソロが印象的であった。 また演奏を裏から支える管楽器がきちんとしているのでとても安心感がある。 またソロとヴァイオリン群との会話が見事に決まっていた。 本名さんの絶妙なコントロールによって第2楽章や第3楽章でのヴァイオリン群とソロとの会話が息づいていたのが印象的だった。 ソロ演奏を誇示することなく楽曲として一つの纏まりが優先されたような演奏だったろうか。 端正なモーツァルトであった。
第九はヴァイオリン各12本、ビオラ8本、チェロとコントラバス各6本のいつもの編成である。 さて第1楽章で非常に印象に残ったのはティムパニの強打。 やや重い音でびんびんと耳に突き刺さってくる。 この強打や芯のあるコントラバスの響きによりストイックなのだが緊張感が高く非常に熱のこもった演奏となった。 相変わらず裏で吹くホルンや木管楽器のソロの受け渡しもとても巧いのだが緻密さよりも熱気が優先されたように思う。 この楽章最後のユニゾンは力をすぅと抜くように終るのはベーレンライター版ゆえ。 個人的にはもうちょっとタイトで控えめな演奏のほうが好きだ。 第2楽章はリズム感があり緊張感あふれるスケルツォであった。 ティムパニはマレットを先の細いものに持ち替えたようでタイトな音になった。 第1主題が第2ヴァイオリンから弦楽器群を反時計回りで受け渡されていく。 対向配置の妙でありベートーヴェンも意識していたのだろうか。 全般的に快速テンポながらプルトの後ろまできっちり弾いているのが印象的。 この楽章の終結部もふっとため息をつくように終る。 第3楽章の前にピッコロと打楽器が入りチューニング。 ソリストも登場するのも昨年までと同じ。 弦楽器が主体となり、ゆっくりとやや粘ちっこく謳いあげていった。 コンマスのバブアゼさんがオケの中央を向いてリーダーシップをとっているのも好印象。 プロだから巧いのはあたりまえだが弦・管楽器の各奏者の巧さが光っていた楽章だった。 ホルンのソロは細田さんだったがベーレンライターでは4番(? 3番)奏者が担当するのではなかったのかな。 それはともかくクライマックスはフレーズを短く切りながら緊張感を高めて終った。 終楽章は冒頭からテンポが速い。 本名さんはチェロ・コントラバスの方向を見ながら鼻息も聞こえるほどの力を入れているのたが基本的には簡素な音造りである。 テンポを落とした歓喜の主題は充分に引きつけるような指揮ぶりになったがじっくりと盛り上げて頂点に結びつける。 ソリストはバスの田中さんが豊かな歌いっぷりで抜けていたようだ。 テノールはよく透る声だが余裕が乏しく底が浅く感じられて耳につく声だった。 ソプラノもテノール同様で高音でちょっと苦しい場面もあったようだ。 メゾは元来目立つパートではないが届きにくかった。 合唱はオケの迫力に煽られたのか、音が前へ前へと出て力強さは特筆できるのだが、やや余裕のない歌いっぷりで多少聴き疲れがした。 ベーレンライター版がベートーヴェンの響きを追求するのなら、合唱団員を厳選して半数程度の人数であっても良いように感じた。 しかし本名さんは実に熱っぽく合唱を指揮しオケを引っ張ってゆく。
クライマックスにかかってもオケの各楽器の分離が非常に良いのは見事、巧い、煽られてもまったく乱れない。 打楽器が入ったコーダの速さは特筆すべきもので、斜め前に座った観客などあまりの速さにあきれて笑っていたほど。 しかしソリッドな音はまったく崩れることなく本名さんに導かれたまま熱演に幕が下ろされた。 凄い速さであった。
本名さん指揮による大阪シンフォニカーらしい熱く燃えた緊張感の高い演奏であったように思う。 3年間本名さんによる第九を聴いてきたが、熱演の度がその都度前回を上回ってきた。 そして最終回の今回、本名さん流ではこれ以上の熱さは望めないほどの演奏だったように思う。 ただ個人的には初回で耳にした多少手探りで実験的な印象もした第九が好きであった。 圧倒的な熱演も良いものだが、勢いに流されない熟考された演奏、どこか知的好奇心を刺激するものを期待してしまう。 こう思えるようになったオケの演奏水準の高さもあるのかもしれないが、ベーレンライター原典版とは何か、そんな根本的な疑問を持った演奏であった。