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ならチェンバーアンサンブル 第56回定期演奏会

心のこもったクリスマスプレゼント戻る


ならチェンバーアンサンブル 第56回定期演奏会
2000年12月23日(土) 14:00 なら100年記念会館中ホール

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 作品8 「四季」より「冬」
シベリウス:美しい組曲 作品98a
ワーグナー:ジークフリート牧歌
モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」

(アンコール:チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ)
(アンコール:クルーバー:きよしこの夜)

独奏:五十嵐由紀子(vn)
指揮:今村 能

本年最後のコンサートは、今年発見した素敵な団体ならチェンバーアンサンブルで締めくくる。 クリスマス・ファンタジーと題された今回の演奏会であるが、これまでの2回と違ってほぼ満員御礼状態。 相変わらず高齢者の方が多いためか人数は多くても落ち着いた雰囲気である。 今回の演奏会は指揮者の今村さんのトークがあった。 それによると昨年末のこの演奏会から1年間とても良いことがあったとのこと、そしてもっと良いことがあるようにと今回の演奏会の曲目はご自身が選び皆さんにもお話をしながら楽しんで欲しいとのこと、非常に和やかな演奏会となった。 そして肝心の演奏も終始まったく衒ったところがなく、どことなく北欧調な感じがするもので緻密で誠実なものであった。 じつに素敵なクリスマス・プレゼントとなる演奏会であった。

ヴィヴァルディの「四季」の演奏前、今村さんによる冬の部分のソネットの朗読があった。 とても暖かい人柄を思わせる素晴らしい朗読で、演奏への期待をとても高めるものとなった。 演奏はソロとオケが一体となっており、五十嵐さんのソロいぶし銀で端正であり、これに対してオケでは斎藤さんのチェロが歌うように語り掛ける場面もあって、イタリア的というより北欧調であろうか。 ちょっと押しだしの強くない上品な演奏であった。 この後の演奏もすべて五十嵐さんと斎藤さんの二人が要となって演奏を支えているようで、まさしくならチェンバーらしい演奏といえたように思う。
「美しい組曲」について今村さんは、ミニヨン・美しい・可愛いという話、フィンランドの氷の中の世界のお話をされ、会場の100年記念中ホールがガラス張りのホールであることより、ここにうってつけの曲であると話された。 そのお話のとおり、演奏は小さくまとめたような感じはあったが、端正なフルートの美しい音や語りかけるようなチェロを軸にした、じつに息づいたリズム感をもった演奏であったと思う。 全くおしつけがましくなく、すっと心に入ってくるような心温まるような演奏であった。
「ジークフリート牧歌」についてはワーグナーが北欧の伝説に興味があったこと、この曲の由来とコジマの163回目の誕生日となること、そして曲の由来より眠っているコジマに聴かせる音楽なので眠くなれば良いというようなお話だったが、実にさわやかで優しい演奏が展開された。 管楽器の響きがまろやかに弦楽器の音に溶けているのが素晴らしい。 曲が進んで次第に音楽にも熱を持ってくるのだが、各管楽器奏者とも決して声高になることがない。 各奏者とも優れた技巧を持っておられるのだが、それを誇示することはなく上品さを失わないのが素敵。 その中でもホルンの安定感が抜群であったように思う。 音楽は夢見心地に展開されてゆき、節度を持ち、上品さを失わない。 脂ぎった世俗人ワーグナーの姿は微塵もないさわやかな演奏であった。
「ジュピター」は一年中クリスマスのようなサルツブルク(ザとは濁らないとのこと)で育ったモーツァルトによる、クリスマスツリーの先端にある星にちなんだとのこと。 管楽器奏者に打楽器奏者が追加されたがここでも抑制のよく効いた演奏が展開された。 トランペットはピストン式だったがロータリのような横に広がる響きを出し、ここでも弦・菅楽器間の均衡のとれた演奏であった。 第1楽章の冒頭こそややヴァイオリンが薄いかなと思ったが、主題の展開部より厚みが増したように思う。 第2楽章では深みのあるヴァイオリン、少し粘り気のあるチェロ。コントラバスが滋しみ深いアンサンブルを展開していた。 第3楽章は管楽器が好調、特にアンサンブルの裏を吹くホルンがしっかりしているのでメヌエットの表情も生き生きとし、朗らかさ・ストイック・熱のこもった表情が描き分けられとても面白い。 終楽章もまた対旋律との会話が見事で、熱気を孕みながらも均衡のとれた演奏が展開された。 四重フーガも決して忘我状態で走ったり叫ぶことはない。 各パートとも懸命に演奏されており、それがまた見事に統率されている、そんな音楽であった。 解釈は終始オーソドックスなものだったと思うが、端正な熱演といえばよいだろうか。 終演後、両手をあげて拍手に応える今村さんも満足そうであった。
アンコールのアンダンテ・カンタービレこれまでは控えていたのか艶のある演奏が展開された。 五十嵐さんのソロも瑞々しく、チェロの斎藤さんとも息のあったアンサンブルが素晴らしい。 決して甘くないが懐かしさを感じる演奏であってこの日一番の出来であったように思う。
全編にわたって今村さんらしく緻密なのだがその底には熱気が脈々と流れ、誠実で温かい演奏会であったと思う。 今年発見したなかで一番の団体だと思うならチェンバー、今年1年を締めくくるのにふさわしい演奏会であった。