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大阪シンフォニカー交響楽団 第72回定期演奏会

意欲的な取組・熱演だが戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 第72回定期演奏会
2001年1月30日(火) 19:00 ザ・シンフォニーホール

ボリス・ブラッヒャー:パガニーニの主題による変奏曲 作品26
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98

ピアノ:山口博明
指揮:曽我大介

弱冠35歳の音楽監督として就任した曽我大介さんによる記念の演奏会である。 昨年の定期演奏会初登場での幻想交響曲が素晴らしかったため期待が大きかったのだが、今回はその期待のせいか、ちょっとちぐはぐで複雑な感じを持って会場をあとにした演奏会であった。

まず第一にブラ4の第1楽章に序奏を付けたことは外せないだろう。 まずこの曲に序奏が必要か否かで判断すると、不要である、というのが聴いてみた率直な感想である。 しかし、演奏会でしか聴けないという今回の試み、その意欲と言った点では大いに評価できるし、このようなことは今後も続けていってほしい。 ただブラ4に話を戻すならば、冒頭に序奏を付けたことによって、この曲の持つそこはかとない寂寥感を逸してしまったと思うし、やはりブラームスが最後まで悩んで外したのが判るような気もするため、ではブラームスが不要と考えて外したものをあえて復活させて何を表現したかったのか、何のために序奏を付けたのか、その必要性は何だったのか... これが見えないために戸惑ってしまった。 またこの演奏会全体を通じて言えることだが、どことなくちぐはくな感じを受けた。 各々の演奏自体は、とても集中力が高くて素晴らしいとは思ったのだが、満足という点では疑問の残る演奏会となっていた。 以下に思いつくままに述べていきたい。
ブラ4の第1楽章は序奏のファンファーレから第1主題になってあれよあれよと進んでいく。 冒頭にファンファーレがあったので気分的にそう感じたのかもしれないが、テンポはやや早めで足早に主題提示部が過ぎ去っていった印象。 ピチカートがよく揃って分厚い音が響いてくるのだが弦に潤いが少ないという印象を持った。 大きな音は出るが底なりしていないので前に音が飛んでくるような感じ。 またこの楽章では、ティムパニが響きのない音を演出していたのも不思議に思った。 第2楽章冒頭のホルン(3rd.木山さん)は巧かったがやや音が大きく、第1主題での細田さんのホルンは(少々苦しい面もあったが)抑え気味であり、音量の点で少々アンバランスに感じた。 弦のピチカートは独特のリズム感でもって処理されていたようにも感じた。 この楽章、全体的に切り返しが早く、音楽が充分にこなれないうちに次々に処理されていくような印象を思った。 曽我さんも再現部あたりから弦に粘りを出すように指示されていたのだが。 第3楽章もやや早めのテンポで、クレッシェンドするティムパニで力強さはあったが全体的にやや雑に始まったような印象を持った。 コーダの部分では各パートが熱演しているし、各フレーズはよくまとまっているため、よく分離して聞こえくる。 各パートは頑張っているのはわかるけれども全体としての曲の纏まりを感じなかった。 これに比して第4楽章はよく纏まった分厚い弦の響きを伴った重々しい開始から熱演が展開されていった。 フルートが憂いを秘めた響きで会場を魅了する。 目の病気でこの演奏で退団される末原さんの渾身の演奏だった。 第16変奏からのスケルツォ風になる部分ではティムパニの強打と弦の分奏が見事な盛り上げであったし、 第24変奏からコーダにかけてはテンポを落としてゆっくりと練り上げてのフィナーレとなった。 曽我さんは終始的確に指示を繰り出し、オケもそれによく応えていたが、ほとんど指揮棒が縦方向の動きであったためか、全体的に聴き疲れのする熱演という印象になった。 これはブラ4という自分にとってほぼイメージが固定化されてしまった曲であるからなのだろうが(これを説明しろと言われるとツライのだが、カイルベルト/BPO、ザンデルリンク/シュターツカペレ・ドレスデンのような演奏としておこう)、この固定概念とは別の世界の演奏を知って満足することもあるし、また稚拙な技量ではあっても一体感を感じて満足することもあるのだが... モザイクの各部分が素晴らしくとも、これらを合わせたものはまた別物だよなぁと感じた演奏であった。
順序は逆に進むが、ラフマニノフのパガニーニ主題の狂詩曲は、山口博明さんの技巧が光っていた演奏だった。 ピアノはベーゼンドルファーを使用(僕がシンフォニーホールでの協奏曲でベーゼンドルファを見たのは初めてではないかな)。 力強さと、透明感を併せ持ち、抜群のテクニックで弾き切った、という印象である。 冒頭から凄い速さで曲が進んでいくのに、粒立ちの良い硬質な響きでピアノが対抗しているのにちょっと唖然。 巧い、とにかく巧い。 しかし第6変奏では透き通るような響きの中に熱い意思のようなものを強く感じた。 決して技巧的で冷たいだけの演奏にならないのが素晴らしい。 第11変奏からは極端にテンポを遅くし、オケもため息をつくようにして第12変奏のオーボエ、クラリネットの哀愁を秘めた響きもまた魅力的であった。 白眉の第18変奏も決して甘くはなりすぎず、しかしどこまでも美しい。 優しさに深みをたたえたピアノの音が会場を魅了していた。 またオケもチューバや低音楽器がじわりと曲を支えており、引き締まった響きで応えていたし、チェロがこれらをしっかりと受け止めて曲を進めるあたりの美しさは、まるで上質のベルベットで碧みがかったような響きにも聞えた。 ため息が出るほどの美しさであった。 このあとからまた力強いクライマックスまで、また抜群のテクニックを披露して、妥協のない音のつぶてが溢れ出てきた。 最後の最後で少々乱れたように聞こえたのは気のせい? 実に集中力の高い演奏であった。 会場もオケも惜しみない拍手でこれに応えていた。 ただし残念なのは、指揮者に1曲やってこいと言われて無理?してやったアンコールのトロイメライ。 これは演らないほうが良かった。 ここでも演奏会としてのちぐはぐさを感じてしまった。
冒頭のブラッヒャーのパガニーニは、初めて聴く曲。 曽我さんの明晰な棒から繰り出される熱い音楽となっていた。 音楽監督就任初の定期演奏会の第1曲目に現代音楽を持ってくること自体がまず嬉しい。 オケのソロ奏者の名人芸がちりばめらたような曲であったが、この各楽器間の繋がりも自然であり、弦楽器もコントラバスがきりっと締まって響いていたのも嬉しかった。 クライマックスでのホルンもよく締まった音も印象的で、ここでもとても集中力の高い演奏だったと思う。
曽我さんはどの曲でも各パートを大切にし、あるフレーズを際出させたりしながら全体を進めるような印象を持った。 このためブラームスよりもラフマニノフや、ブラッヒャーにその特質が生かされていたように感じた。 各曲ともに曽我さんの指示に的確に反応していたという意味では、指揮者の意思のよく反映された演奏であったと思う。 しかしこの意思を汲み取れなかった。 それぞれに意欲的であり、熱演ではあったのだが、それで満足したかというと個人的にはとても疑問の残った演奏会であった。