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大阪シンフォニカー交響楽団 第73回定期演奏会

真摯で慈しみ深いヴェルディのためのレクイエム戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 第73回定期演奏会
2001年3月7日(水) 19:00 ザ・シンフォニーホール

ヴェルディ:レクイエム(死者のためのミサ曲)

緑川まり(S)、片桐仁美(A)、小餅谷哲男(T)、田中 勉(B)
大阪シンフォニカー合唱団

指揮:本名徹次

常任指揮者として最後となる本名さんの定期演奏会は、ヴェルディのレクイエムの1曲プログラム。 余計なものを挟まず1曲のみに集中することにも本名さんらしさを感じる。 個人的にはあまり好きな曲ではなく、そのため聴き馴染みが少ないのだが、演奏は本名さんらしく純音楽的に聴き応えのするものであった。 一口にいうと真摯であり、ヴェルディらしく劇的ではあるのだがオペラ的でなかった。 そして、黄泉の国のヴェルディのためのレクイエムであり、ひたすら音楽に立ち向った密度の濃い演奏であった。

第1曲 Reruiem, Kyrie:チェロによるおごそかで滋味深い響による開始から会場の空気がさっと引き締まる。 今回の演奏では終始チェロの響きが音楽の中心となっていたようだ。 合唱もハッタリのない真面目さ、ソロの独唱も誰が突出することなく、滋味深くよく纏まっていた。
第2曲 Dies irae:「怒りの日」の有名な太鼓の轟きは深い響きである。 このような迫力ある演奏をさせると若い大阪シンフォニカーは巧いが、本名さんが指揮するとよりソリッドに響いて野放図にならないのがいい。 このフレーズは繰り返されるごとに微妙に表情が違うようでもあった。 「くすしきラッパの音」では会場の後方左右にバンダのラッパを据えての演奏だったが、このラッパが巧い。 ラッパの響が会場にあふれて実に素晴らしい演奏となっていた。 「涙の日」では情感をたたえた片桐さんの歌が素晴らしかった。 そしてここにふわりと合唱が入り、オケがため息をつくように演奏すると、ふっと涙を流しそうで、じつに感動的な音楽だった。 なお、このアルトの片桐さんは実に巧い人だと思った。 重唱になるとすっと引いて合わせる巧さもあるし、独唱になると語りかけるようなじつに表情豊かな歌となるのである。 あとソリストではソプラノの緑川さんはよく伸びる安定した歌、小餅谷さんは刺激の少ない優しい声、田中さんは押し出しの強い声という印象。 しかしどの人も突出することなく曲に奉仕しているようで好感が持てる歌がくりひろげられた。
第3曲 Domine Jesu Christe:ヴァイオリンの澄んだ響きが印象的。 カノン風の4重唱はやや小餅谷さんの線が細く感じられる場面もあったが美しかった。 しかし全体的には盛り上がる場面は生き生きとしているが、それ以外ではちょっと散漫に感じることもあったが、これは曲をよく知らないことにもよるだろう。
第4曲 Sanctus:力強い二重合唱で明るくもある。 ここでは行進曲調になるとシンフォニカーらしいノリの良さも堪能した。 本名さんはここでも決して野放図にさせずきっちりと音楽の手綱を握っている。 しかしその抑えた中から自然と涌き上がってくるような濃さがある。 抑えても抑えきれない若さなのだろうか。 ノリのよい音楽を聴いてふっとそんなことを思った。
第5曲 Agnus dei:緑川さんと片桐さんの二重唱は先にも書いたようによく合っていて巧い。 合唱もよく揃って気持ちがいいが、どこか一本調子になって音楽に幅が欲しくなるような場面もあった。 強弱の弱の幅が狭いようでもあった。
第6曲 Lux aeterna:片桐さんは前曲とは違うドラマティックな歌いっぷり。 しかも抑えをよく効かせているためこれみよがしにならないところが素敵。 オケの左側にあるコントラバスと右側の大太鼓による重い響きと三重唱が神秘的であった。
第7曲 Libera me:緑川さんの歌、そして緊張感を持ってオケが入るところが巧い。 藤崎さんのファゴットはこの楽器特有の奇妙な音で緊張感をつなぎ、「怒りの日」のフレーズではティムパニの花石さんがマレットを使い分けて表情を持たせる。 全く緊張感が切れずに音楽が進行する。 本名さんとオケが一体となっている。 このあとの緑川さんのソロは、しみいるような歌となって聞き惚れた。 クライマックスは劇的に盛りあがるが、本名さんの振りは概して小さくて抑え気味ですらあった。 しかし指揮者とオケに自信が漲っているのだろう、振りは小さくても萎縮なんかせず、音楽がつぎつぎに溢れ出てくるとても充実した時間となった。 そしてその最後は指揮棒を両手に挟んで目の前で立てて祈るようにして終わった。 そして静寂の時間、ためらいがちの拍手が出ても本名さんは祈ったまま、これで拍手が小さくなってしばらくして両手をおろした。 ちょっとタイミングがはずれたせいかブラボーがかかりそうでかからなかったが、レクイエムという祈りの音楽にはブラボーは似合わないよなぁ... とも感じさせた瞬間であった。

すべてに渡ってきちんと整理された音楽、真摯で慈しみ深い音楽であった。 これまでどこかオペラ臭さをも感じて好きではなかった曲なのだが、ソロもオケも合唱も、すべてが指揮者のもとに一体となり、黄泉の国のヴェルディへのレクイエムとして捧げられた演奏だったと思う。 本名さんらしい密度の濃い演奏会であった。