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大阪シンフォニカー交響楽団 第74回定期演奏会

奥行きが深く切れのよいドイツ音楽戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 第74回定期演奏会
2001年5月16日(水) 19:00 ザ・シンフォニーホール

ブラームス:大学祝典序曲 作品80
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
シューマン:交響曲第1番 変ロ長調 作品38 「春」

谷本華子 (Vn)

指揮:トーマス・ザンデルリンク

さすがにザンデルリンクさんが指揮すると、オーケストラから出てくる音楽の密度がまるで違う。 いつもように実直に音楽に向い、特に変わったことをやっているのではないが、音楽にコクがあり、他の指揮者とは聴き応えがまるで違うのである。 本当に素晴らしいドイツ音楽を堪能させてもらった。 また今回芸術監督の重責を離れたせいもあるのか、ザンデルリンクさんの表情が明るかったのも印象的であった。 就任当初はもっともっとと煽ることの多かった指揮も、今回は余裕の表情で抑える場面がしばしば見られた。 そのようなオケで特に印象的だったのは、弦楽器の分奏が緻密だったことである。 とくにヴィオラやチェロなどの中弦楽器が巧みで、音楽の中にこれらの楽器による表情が見え隠れし、はっとするような魅力に満ちていた。 いつもは総力戦で大きく熱い音での熱演を語られることの多いシンフォニカーだが、ザンデルリンクさんによって実に緻密に練り上げられた熱演であった。

大学祝典序曲は、オケの出来よりも曲の組立て方の巧さに魅力を感じた。 思っていたよりも軽い開始で、少々堅くオケ内での細かなぶつかりあいを感じたが、第1の学生歌でのトランペット、ホルン、トロンボーンがクレッシェンドするあたりでぐいっと引き込まれる。 このまま熱っぽくなるのかと思ったら第2の学生歌で弦楽器の分奏が爽やかで木管楽器も柔らかくて場面転換が実に見事。 最後のコーダまで抑制を効かせながら徐々に気分を盛り上げていくところなどザンデルリンクさんの本領発揮だろう。 そのコーダも膨らみのある洗練された豊かな響きで見事だった。 やっぱり力強いだけが熱演じゃない、そんなことを強く感じた。
ヴァイオリン協奏曲は、そもそもこの曲が独奏ヴァイオリン付きのシンフォニーのようなものであり、谷本さんも技巧的な面で奮闘していたが、ザンデルリンクさんの音楽の前では少々かき消され気味。 やや神経質にも感じたヴァイオリンであった。 第1楽章の序奏はファゴットがよく響く牧歌的な始まり。 このあと先の序曲のラストの余熱をやや引きずったような充実した音楽が展開されていった。 ここにカデンツァ風に入ってくる独奏ヴァイオリンの音像はやや遠くて堅い。 緊張しているからかなんとなく神経質にも聞こえる。 そしてこのあと容赦なく独奏ヴァイオリンよりも大きな木管楽器の音が朗々と被さってくるなどまさに独奏ヴァイオリン付きシンフォニー。 カデンツァでは繊細で誠実さのあふれるヴァイオリンであったが、名前が華子さんなのに大輪の華ではなく可憐な花といったところ。 これではザンデルリンクさんと対峙するには難しかったと思う。 第2楽章の冒頭、木管楽器とホルンの伴奏にのって出てくるオーボエがとても綺麗。 至福のひとときであった。 さらにこれに独奏ヴァイオリンがしっくりと絡んできたのでここではただただ聴き入るのみ。 どこか懐かしさも覚えた美しい楽章であった。 第3楽章の冒頭は気合の入ったヴァイオリンだったが、やはりこれに勝る豊かな音のオーケストラが相手とあっては少々これもから回り気味だったようだ。 そしてまたザンデルリンクさんに率いられたオケの表情が豊かであり、じつに楽しそうなのである。 これに対する谷本さんは必死で弾いているので熱演なのだがどこか苦行を強いられているようにも見えた。 そして終演。 とにかくごくろうさま、といった感じ。 結局3度ステージに呼び戻された谷本さんは最後になってようやく笑顔を見せたがかなりお疲れの様子。 たしかにザンデルリンクさんは併せものでも自分のブラームスを優先させるので、とてつもないエネルギーが必要だったのだろう。 相手が悪かった?
今回一番楽しみにしていたシューマンの「春」は、期待に違わぬ充実した演奏だった。 弦楽器を主体として組み立てられた深みのある響きに加えて何より演奏にキレがある。 熱演なのだが常に節度を保っていて余裕すら感じさせるところが素晴らしい。 第1楽章は自信に漲った豊穣な響きが広がり、やはり弦楽器の分奏がじつに素晴らしい。 序奏から第1主題に繋がる部分のビオラと第2ヴァイオリン、展開部での第1主題の楽器間の受け渡し、ラストの部分でのヴィオラとコントラバスの下支えなどなど、めくるめく音の世界に没入してしまった。 第2楽章もまた憧れをほのめかす木管楽器の美しさもさることながら弦楽器の分奏の見事さに魅了された。 冒頭ザンデルリンクさんはヴァイオリンの方ばかりをみて指示を出していたが、その背後にあるヴィオラ、チェロ、コントラバスがしっかりと生気あふれる音楽を出している。 そしてヴァイオンリンの音と合わさって響きの階層がきちんと作られている。 そして色々なメロディが見え隠れするなど、そこはかとなさもある。 とても素晴らしい響きで、この楽章をこれほどまでに美しく聴いたことはなかったのではないか。 そんな気がした。 アタッカで入った第3楽章は、これに対して力強い音楽であった。 多少粗さも演出したような音造りだった。 もたれることは無いが少々重いスケルツォであった。 朗々としたホルンも印象的だった。 最後の第4楽章の前に休みが入ったのはちょっと意外だったが(アタッカで入ってほしかった)、しかし休みをとったからだろうかオケの音に弾みが増したようである。 相変わらず弦楽器が素晴らしくまたホルンも要所をばっちりと決めていて巧い。 全体の音に幅があるので第1主題でのヴァイオリンの響きもチャーミング。 各弦楽器が乱れず切り返しが早しので音楽に弾力を感じる。 再現部の前で柔らかく鳴るホルンと牧歌的なフルートの独奏が見事。 そしてこのあとのチェロもまた雄弁。 終結部にかけてザンデルリンクさんの決して流麗とは言えない棒さばきから実に手馴れた音楽がつぎつぎと繰り出されてくる。 決して暴走なんかしたりせず、節度を保っている。 熱演だが晴れやかな気分に満ちて曲は締められた。 ブラボー。 とてもオーソドックスでありながら若いシンフォニカーらしく常に新鮮さを併せ持った素晴らしいシューマンだった。 これほどのものは滅多聴けないだろう。 久しぶりにザンデルリンク/大阪シンフォニカーのすばらしい演奏に酔った夜だった。