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大阪シンフォニカー交響楽団 第76回定期演奏会

マーラーの習作演奏と深いシューマンのピアノ協奏曲演奏戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 第76回定期演奏会
2001年10月5日(金) 19:00 ザ・シンフォニーホール

シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
マーラー:交響曲「大地の歌」

ピアノ:奈良田朋子
アルト:郡 愛子、 テノール:竹田 昌弘

指揮:トーマス・ザンデルリンク

桂冠指揮者トーマス・ザンデルリンク指揮によるマーラーの交響曲「大地の歌」というプログラムなのに2階席正面でも半分ほど空席がある。 マイシートエリア以外のA席はほとんど売れておらず、後方のB席が埋まっているちょっと寂しい観客動員であるが、マーラーの演奏も悲しいことにこれと同様に厚み・深み・うねり感に乏しくて残念だった。 また歌手も問題で、まずテノールが非力で声が届かない。 おまけに力強く歌う声が明るくてはマーラーらしさがない。 それに比べるとアルトはしみじみと歌う場面は良かったのだが、声量が乏しいのか調子が悪いのか「美について」の早いパッセージではまるで聞こえないなど不満が拭えなかった。 オケとしては、オーボエやホルン軍団など管楽器が抜群に巧くて、聴かせどころはきちっとしているのだけれど、先にも述べたように全体としての層の厚みがやや乏しくマーラーの習作演奏のような感じがした。 これに先だって演奏されたシューマンのピアノ協奏曲は奈良田朋子さん(とっても美形な方でちょっとドッキリ)が収穫だった。 奈良田さんの深く歌い込まれたピアノは、文学青年シューマンらしさを感じさせてくれる素晴らしいものだった。 しかしオケはここでもやや薄さを感じ、サラサラ流すように聞こえる面も散見されたのが残念だったが、総じてピアノと同じしっとりとした響きで統一され、一体となって曲を支えていた。 奈良田朋子さん、よく考えて弾き込んでいるという印象で今後も注目していきたい人である。 演奏会全体をふりかえって、どちらの曲でもオケのメンバーは個々には巧いし情熱をもって演奏しているのだが、やはりこれだけの大曲を演奏するにはもう少し合わせる練習が必要だったのだろうか。

さて、個々の演奏について簡単に振り返ってみる。 まずはシューマンのピアノ協奏曲。 冒頭こそ力強くカチっと決めてきたが、オーボエの主題のあと、少し湿り気を含んだ重く薄暗いピアノの響きでじっくりと歌い込んでいったのが印象的。 いかにもシューマンらしく詩情的で文学的な香りがする。 カデンツァも同様によく練り込まれたという印象で、声高にならず、こぶりでシューマンらしさをぎゅっと凝縮させたという感じだろうか。 第2楽章は少し早めに入ったようだがすぐに優雅さをたたえるように柔らかなタッチに戻る。 フルートの音がやや上ずっているのかつっけんどんな感じに聞こえたのが惜しい。 ゆっくりと回想を重ねて入った第3楽章は、力にまかせて弾ませるようではなくしっとりと重く主題を弾いていた。 後半、オケとピアノが絡みながらクライマックスを形成する場面でもピアノは柔らかさを持ち、強靭で上品さを失わず、力強く曲を閉じた。 オケはやや弦楽器に纏まり感が乏しくサラサラとした感じもしたが、オケの響きはピアノの深い響きと同じくしっとりとしていて一体感があった。 とにかく、奈良田さんのじっくりと深く歌い込まれたピアノがとても印象に残った上品で深みをもったピアノ協奏曲であった。
マーラーの「大地の歌」は、冒頭のホルン軍団の斉奏は力みすぎたのかちょっと抜けたようにも感じたがあとは自信に満ちて素晴らしかった。 あと終始素晴らしい音色と情感を漂わせたオーボエが見事だった。 全体的に管楽器が素晴らしく、きちんと曲をまとめあげていったが、弦楽器にうねり感が乏しくマーラーらしい深みには到達できずにマーラーの習作のような感じがした。 「大地の悲しみに寄せる酒の歌」では、ザンデルリンクの熱い思いをたぎらせたような開始であったが、テノールの声が遠いし力をこめて歌うと甲高くも聞こえて全くマーラーらしさがない。 ここで早々とテノールの歌う楽章は捨てることにした。 「秋にさびしきもの」は終始オーボエの哀愁のこもった響きが印象的で弦のささやきとも一体感があり素晴らしかった。 アルトもやや澄んだ声で始まり、もうちょっとドロくささが欲しいと思たが、徐々に響きに深みが感じられるようになった。 やはりこの楽章はオーボエが巧かったのが印象的だった。 「青春について」は軽快で、明るい声質のテノールとも相性が良いように思った。 オケも各パートの分奏が素晴らしくて、対旋律やそのまた対旋律とが織り合わされていくのを楽しませてもらった。 「美について」はアルトが軽く歌っているが声が遠い。 オケは音量を丁寧に絞り込んでいて巧い。 クライマックスもオケは余力を残して盛りあがっていくがアルトの早いパッセージではまるで歌が聞こえない(なんたること)。 ここを過ぎて一転してのどかな歌になるとしみじみと歌っているのだが・・・ 「春に酔えるもの」は力をこめて歌っているが精一杯な感じがして酔っ払いの歌としては無理があるようだ。 ゲストコンマスのソロは端正であっが、同様にオケの音も粘りがなく、またオケ全体も纏まり感が少なくパァーと散会するようにこの楽章を終わった。 ザンデルリンクの指示により「告別」に入る前にチューニングを実施。 長い「告別」はコントラファゴットの存在感のある響きで始まった。 チューニングの成果か、先ほどとは集中力がまるで違うように聞こえる。 オーボエとホルン軍団が巧い。 フルートも先のピアノ協奏曲にように突出することなく哀愁を感じさせる。 アルトもしみじみと歌っているし、各ソロが実に巧いのだが、なんとなく全体としての纏まり感が乏しいような気がする。 曲が長調に転じて明るさを取り戻すと何故かホッとした。 そしてアルトがいったん座ってオケだけの演奏になると、オケの自由度がぐんと増し、自在にオケが鳴り始めて、響きに粘りも出てくる。 ザンデルリンクが合わせものが得意ではないのを実感させるかのようである。 本当にオケの音が大きく情感も濃くなったのだが、ここでアルトがもどってきたら音楽の幅がぐっと狭くなった。 そして延々としみじみとさせたすえのエンディングはスパッと音を切って終わったが、ザンデルリンクさんの手がなかなか下りない。 オケの余韻が聞こえない。 静寂を楽しむ? なんか中途半端で不思議な感じの終わり方だった。