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ザ・シンフォニー特選コンサートvol.1 巨人!井上道義

剛の音楽、入念な音楽つくり戻る


ザ・シンフォニー特選コンサートvol.1 巨人!井上道義
2001年11月3日(月) 15:00 ザ・シンフォニーホール

モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K.183 (173dB)
マーラー:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

指揮:井上 道義
管弦楽:大阪フィルハーモニー交響楽団

思いもかけず頂いたチケットで井上ミッチーの演奏を楽しませてもらった。 3階の席は井上さんの真横だったこともあり、終始井上さんの顔を見ながら演奏を聴ける素晴らしい席だった。 演奏は、剛球をびゅんびゅんと投げるようでもあり、しなやかさも充分に感じさせる。 緩急や強弱をつけて曲を自在にコントロールし、曲を料理している面白さがあって、これが井上さんのたまらない魅力になったいると思う。 入念によく考えられた演奏であり、ぞんぶんに楽しませてもらった。 またオケも最近好調な大阪フィルだけあってそんな指揮に充分に応えていた。 老舗オケらしい余裕も感じさせる熱演であったが、ただ弱音になると粗雑さをのぞかせる面や、余裕があるせいかクライマックスでもff程度できっちりと纏めあげる巧さがかえって感興を減退させたようにも感じたが、これはいつもシンフォニカーやアマオケを聴いているからだろう。 大阪フィル、数年前に比べたら本当に巧くなったと思う。 あと、井上道義さんの指揮を見ていて気付いたのは、弟子の本名徹次さんとよく似ていること。 くねくねとした指揮ぶりだけでなく、ぐいぐいと音楽の中に入り込んでいく曲に向う姿勢も似ている。 ただ振っているオケが違うこともあるが、本名さんのほうがよりクールで現代音楽のようなモーツァルトで好みである。 井上ミッチーのモーツァルトも大阪フィルでなければもっとクールに響いて面白かったのではないか、と思った。 しかしモーツァルトもマーラーも鋼のような音楽で面白かった。

生憎の雨ということもあり、クワイア席は売り切れにもかかわらず約7割の入り。そして1階席も7割、2階席など3割しか入っていない寂しい客席だった(売り切れの3階席のみ9割が埋まっていた)。 そのせいか開始時間になってもオケは全員揃わず、5分ちょっと遅れて始まった。
モーツァルトのもう一つのト短調の交響曲は、指揮者を中心に半円形に弦楽器が左から1stヴァイオリン(8名)、ヴィオラ(4名)、チェロ(3名)、コントラバス(2名)、2ndヴァイオリン(6名)が並ぶちょっと珍しい配置。 さっそうと井上さんが登場。 指揮台はなく、指揮者がオケの中に入り込むようように陣取り、指揮棒なしでグィっと音楽をえぐり出すように始めた。 おお、速い。 堅くしまった響きの音楽がとうとうと流れていった。 オーボエもまた冴え冴えとした音で応える。 響きをスパスパと切っていくようにどんどんと曲を進めていった。 これに比して第2楽章はゆっくりとした出だし、若干オケの粗さが出たようだが、すぐに持ち直す。 緩急の変化をつけて時にはため息をつくように歩みを止めそうになる。 オケの中に入った井上さんが手・目を使って睨みをきかせているのがよく解る。 第3楽章はまた速くて力強い。 鋼のような音楽が出てくる。 フレーズを短く切って響きを開放させず悲劇的な感じがよく出ている。 中間部のトリオはオーボエ、ファゴット、ホルンによるアンサンブルだが、各自それぞれに巧いのだが、場所のせいかハモって聞こえないのが残念。 また堅くて暗いメヌエットとこの長調のトリオは対比すると思うのだが、同じ色で染められたようでちょっと平板でもあった。 終楽章の冒頭もやや粗く響いた。 どうも緻密な表現はいまいちだが、このあと響きが増してくると緊張感・集中力も出てくる。 非ロココ的に甘さを排して密度が濃く、格調高く演奏して曲を閉じた。 まさに入念に考えられたモーツァルト、面白い演奏だった。
メインのマーラーの巨人。 これも入念に考えらた演奏であった。 一音もおろそかにしない井上道義の巨人、タイトルどおりの音楽だった。 オケは通常配置で16型。 指揮台も置いて、譜面台には指揮棒があるのが見えたが、結局これは使わず、終始手で指揮をしていた。 第1楽章の冒頭の緊張感が素晴らしい。 精緻な音楽の中にどこか余裕をも感じさせるのはさすがに大阪フィル。 巧い。 ゆっくりと音楽は進んでいった。 バンダのトランペットが巧い。 トランペットのソロはちょっと甘さを感じさせてこちらも巧い。 ホルンは若干安定感を欠きそうになる場面も見られたが堅い響き、クラリネットが野太い音も魅力的であった。 全体的にここでも「剛」という漢字が目に浮かぶような演奏であった。 緊張感が高まりクライマックスになっても余裕を感じさせる。 弦楽器もきっちりと揃っていて見ていて気持ちが良いほどだった。 第2楽章の冒頭、低弦に煽りをかけて始める。 粘りのあるレントラーである。 途中、場所のせいかテューバの音がよく聞こえて吃驚したが、ワルツ風のトリオの部分は各楽器間の描き分けがきっちりとしてて巧かった。 またこのあとのホルンのソロも柔らかくて素敵。 そしてここから音楽は急に歩みを遅くし冒頭のように粘るように進んでいった。 しかしフィナーレにかけてだんだん速くなって力強く締めくくられた。 第3楽章のコントラバス・ソロは甘い響きでとても巧い(カーテンコール時も真っ先に指名されていた)。 ここから旋律を受け渡していく部分もそれぞれに巧くて聴き応えがある。 響き薄くならず充実している。 ハープの音まで太くきこえる。 井上さんは緩急を自在につけながら曲を進めてゆき、見栄をきったりもするのだが、何故かクサさはなくて、よく考えている、という印象を持たせる。 そしてしずかにゆっくりと第4楽章につなぐ。 物凄く堅い音であった。 全ての音が凝縮したような響きによる開始。 このまま曲は集中力を持ったまま進んでいった。 そして音楽が静寂を取り戻し、弦楽器による第2主題はため息をつくよう。 甘くはなくじっくりと考えこむようなでもあった。 そして再び嵐となるが、音楽は凝縮していて突っ走らない。 またゆったりとため息をつくような静寂となって音楽が伸び縮みする。 そしてエンディングにかけての音楽のタメは大きせず、チェロはゆっくりと歌い、ヴァイオリンもしっとりと曲を進めてしごくとあっさりと盛りあげていったような感じ。 充実した金管ファンファーレ。 力強いが暴走せずきちんと余裕を持ってこなしている風でもある。 ホルンが起立して吹くがベルアップしなかった。 またホルンの後ろにトロンボーンとトランペットが1本づつ一緒に起立して吹いていたが、このようなスコアだったかな? しかし充実した響きでもって全曲を閉じた(後述:スコアには追加しても良いとのことが書かれているそうです。 またベルアップも、最大の音量を得られるように、との注釈があって指揮者の裁量によるようですね)。 剛球をびゅんびゅんと投げるようであり、また強靭さも充分に感じ、とにかくよく考えられた演奏であった。 タイトルどおりの井上道義の巨人であった。