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奈良フィルハーモニー管弦楽団 第10回定期演奏会

いつもの気品に気合も感じさせる戻る


奈良フィルハーモニー管弦楽団 第10回定期演奏会
2002年3月3日(日) 13:30 奈良県文化会館国際ホール

ドヴォルジャーク: チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
ブラームス: 交響曲第1番 ハ短調 作品68

独奏: 上村 昇 (Vc)

指揮: 関谷 弘志

第5回から聴いてきた奈良フィルの定期演奏会も第10回となり節目の演奏会である。 いつもながらの気品のある演奏に加えて、気合の入ったところを聴かせてくれた。 ドヴォルジャークのチェロ協奏曲は上村さんの歌いこまれたチェロの演奏が素適だったがオケとしてはやや平板に感じた。 しかし、ブラームスでは一変し、奈良フィルらしさを保ったまま熱い演奏が展開されてブラボーもかかっていた。 今後の更なる発展を期待したい。

ドヴォルジャークのチェロ協奏曲は苦手な曲である。 とくに実演ではチェロという楽器の特性から、その響きがオケに負けてしまいがちになり、聴いていてもつかみどころがなくなってしまうからである。 しかし今回の演奏は日本音楽コンクールで第1位にもなった上村さんであり、この曲をどのように料理するのかを期待する反面、そんな苦手な曲だけに不安ももって聴いた。 結果は・・・うーん、 やはりよく分からない、ということだろうか。 技巧的な面では全く心配なく、暖徐部分での歌い込まれた演奏には素晴らしいものを感じた。 特に終結部でのすすり泣くようなビブラートをかけて歌い込んだエンディングは素晴らしいものだった。 しかし全般的にはそれほど強く魅了されるほどの印象をもたなかったことも確か。 これは伴奏するオケに堅さがあり、奈良フィルらしからぬ管楽器のソロもどことなくそっけなく、曲全体が平板になってしまったように感じた。 もっともこのような印象を持ったのは演奏会場に遅く到着しため、席が2階席のほぼ中央付近という遠い位置にあったことが大きいように思う。 もっと前の方で聞いていたら、より細かなニュアンスも手にとるように分かって印象が違っていたかもしれない。 とにかくそんな遠い位置から聴いた感想を以下にしるしておきたい。 第1楽章の冒頭は、やや明るめでしなやかな弦、奈良フィルらしい演奏で盛りあがっていった。 弾力のあるティムパニも印象的な開始だった。 第2主題のホルンソロからクラリネットを始めとする木管の旋律も朴訥とした感じだが、弦楽器も含めてそつなく纏めていたような印象を持った。 悪くはないが、とりたててどうってことないような感じで聴いた。 さてチェロのソロが即興的というよりもどちらかというと丁寧な感じで入ってきた。 テクニックの確実さから安心して聴ける演奏だったが響きがちょっと足りないような感じでどことなく堅いようなのは席のせいだろうか。 第2主題にソロが移ると美しく官能的な面が見えてきた。 暖徐部分を歌いこむようなのが得意なのかなと思ったが、ただオケが相変わらず平板につけていて今イチ気分がのってこないままフィナーレまで進んで曲が締めくくられた。 第2楽章はクラリネットやファゴットが明るい音色で主題を呈示するとチェロのソロもやさしい歌いくちで応えて美しかった。 オケが盛りあがってくるとまだちょっと堅さを感じたのが残念。 しかしヨセフィーナ寄せた思いを歌ったチェロの第2主題は実にやわらかで素晴らしかったし、オケも対位法的に綺麗にからんで聴き応えのある場面だった。 カデンツァ風の主題もよく歌いこまれた感じで深いチェロの音色が素晴らしい。 コーダもじつにしっとりと終わった。 上村さんはやはりじっくりと歌わせる部分に特質があるように感じた。 終楽章はオケがカチカチした規則正しい音楽で始まったが、これに比して艶ののってきたチェロのソロがとてもまろやかに主題を奏でていた。 オケは第3主題あたりから伸びやかになってきただろうか、オーボエやフルートのソロもまろやかに響いてきた。 独奏ヴァイオリンはほのかに甘いが情にながされない潔癖な音色。 終結部に向って高みをむかえたあとはチェロがじつによく泣くようになってきた。 ヨセフィーナへの死をいたむ表現だろうか、すすり泣くようなビブラートがとても印象的であった。 オケも響きに厚みがまして自信をもったエンディングで曲を終えた。 悪く言えばちぐはぐとも言えるが、何かそんな単純なことではないように思える。 聞き手の成熟度が一番の問題なのだろうが、いい面もあったけれど、聴いていて感動したかというとそうでもなく、とにかくよくわからなかった、というのが結論である(こんなに書いたのに)。
休憩を挟んでのブラームスは、一転して弾力のある演奏だった。 熱気を孕んだ演奏になったが、どこまでも奈良フィルらしい気品を感じさせて、第10回定期演奏会にふさわしい演奏だったと思う。 ときに事故というほどではないのだろうが、気合の乗りすぎからくると思われる響きも耳にはしたが、それにも増して素晴らしいブラームスの演奏だった。 その第1楽章は、深みと弾力のあるティムパニと、先ほどまでとは違って気合のこもった弦楽器による決然とした音楽となっていた。 これらがじっくりと歩を進めていった。 これはいい演奏になるなぁ、と直感するような始まり。 そして第1主題も熱く演奏されたが、可憐なオーボエのソロに続いてなだらかな第2主題につながっていった。 ホルンのソロはちょっと地味な音色だが端正さがかえって迫力をもたせていたようだ。 とにかく弦楽器が充実しており、のびやかさと力強さがあり、この楽章を歌っていた。 第2楽章も、ゆったりとしタメのある弦楽器、そしてどこか懐かしさも感じさせるオーボエ・ソロが印象的であった。 弦楽器をたっぷりと歌わせてのブラームスは聴いていて気持ちがよくなってくる。 そして可憐なオーボエのソロの裏で弾く弦楽器のオブリガートもまた素適。 後半に入って独奏ヴァイオリンが前曲よりもより甘くせつない清潔な響き、ホルンのソロもまた端正であり、これみよがしな部分はまるでない。 第3楽章は、クラリネットの温かい音色が魅力的だった。 弦楽器の響きがあいかわらず熱く中間部からクラリネットを始めとした木管アンサンブルと弦合奏による動機のやりとりが自然で素晴らしい。 芳醇で素晴らしいアンサンブルだった。 終楽章はちょっと抑えた感じでの序奏部から弦楽器のトレモロにのったらホルン・ソロが端正な響きながらも朗々として巧い。 これをフルートが柔らかい響きで受け継いでいた。 主部も弦楽合奏も相変わらずしなやかであるとともに熱っぽくなってきた。 後ろのプルトまでしっかりと弾いていて気持ちがよい。 この楽章での圧巻は、影になり日向になるホルンと、ティムパニ。 それぞれが的確に音楽に気合を入れ、曲をリードして音楽にケジメをつけていたのがとても印象に残った。 そんなドライブ感をもったまま金管ファンファーレをともなってフィナーレになだれこんでいったが、音楽は全く崩れることなくぎゅっとしまって高揚感を持続させたままの堂々と曲をとじた。 非常に感動的なエンディングだった。 やはり惜しむらくはいつもよりも、ところどころで事故っぽい響きも耳にしたことだが、全体を通じての奈良フィルらしさを保ったままの見事なドライブ感であり、更なる発展を期待したい。