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大阪シンフォニカー交響楽団 第1回いずみホール定期演奏会

期待できる新シリーズのスタート戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 第1回いずみホール定期演奏会
2002年5月9日(木) 19:00 いずみホール

ハイドン: 交響曲第93番 ニ長調Hob.1-93 より 第1楽章
モーツァルト: ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216
モーツァルト: 弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K.516 より 第1楽章
ハイドン: 交響曲第93番 ニ長調Hob.1-93 より 第2〜4楽章

独奏: ヨハネス・レーアタワー (Vn)

弦楽五重奏合奏:ヨハネス・レーアタワー(Vn1),森下幸路(Vn2),ザザ・ゴクア(Va1),ウラディミール・スミコフスキー(Va2),野村朋亨(Vc)

指揮:曽我大介

大阪シンフォニカーの新シリーズいずみホール定期演奏会。 音楽監督になった曽我大介さんが、ハイドンのザロモン・セットを軸に同時代のモーツァルトを組み合わせて「古典派の現在(いま)」と題して現代の音楽のあり方も考えるという企画の新シリーズである。 ハイドンという一見単純そうで実は聴かせるにはとても難しい曲を演奏することで(当然小さな編成なのでエキストラも少なく)オケの地力を試す場になっている。 また初回こそ、ヨハネス・レーアタワーさんというトン・コープマン率いるアムステルダム・バロック・オーケストラの元コンサートマスターでまたインマゼールとアニマ・エテルナでモーツァルトのヴァイオリン協奏曲のソリストとしても来日した経験のある人をひっぱってきているが、第2回目以降はこのオケの首席奏者がソリストとなり、協奏曲のあとはまたオケに戻って演奏もするとのこと。 オケの台所事情と訓練をうまく組み合わせてのことだろう。 それはまたハイドンという派手ではない演目をいずみホールという室内楽用のキャパの小さなホールで行う定期演奏会ありながら通常のシンフォニーホールの定期演奏会やいずみホールの特別演奏会よりも1,000円安い入場料金を設定とするなどの工夫も見られる。 このように色々な意味で意欲的な構想が果たして受け入れられるのかどうかを見届けたくまた受け入れてみたいとの期待を込めて今回4回シリーズ券を購入した。

さて前置きが長くなった。 そんな期待を込めた演奏会は1階席が約7割という入りだったろうか、ちょっと空席が目立ったのが残念だった。 またパンフレットは3つ折りの1枚ペラで曲目解説を書かずにレーアタワーさんへのインタヴューや産経新聞編集委員の方による音楽リレー談義を掲載するなど、現在のオーケストラが置かれている厳しい現状範囲で頑張っているのがひしひしと伝わってくる。 そして肝心の演奏内容だが、ハイドンやモーツァルトを神様のようにではなくもっと身近に感じて欲しい… と曽我さんが言っておられたが、ちょっと響きが重くてウィットに富んだ感じがなかなか出てこず19世紀的でちょっと大時代の響きの小型版みたいな部分もあったけれど、尻上がりに調子が出てきた。 特に最後のハイドンの交響曲第93番の第3・4楽章で聴かせたシンフォニカーらしい若さは次回以降の演奏会を期待させるに充分な力の入った演奏だったと思う。 独奏のレーアタワーさんは、繊細で柔らかな響きを重視した演奏でヴァイオリン協奏曲の第2楽章での美感あふれる演奏が実に素晴らしかった。 全般的にオケ側に生真面目さが漂っている感じで、もうちょっと気軽に演っていただければ… という感じだったろうか。 とにかく第1回目、このシリーズを続けることでの更なる向上が期待できる新シリーズ開幕の演奏会だった。 あとこの演奏会の流れと気付いた点などを書いてゆきたい。

まず曽我さんが登場されてこの新シリーズのことについて語られた。 まずパンフレットの表紙に書かれたロンドンに旅立つ老ハイドンを心配したモーツァルトに対するハイドンの返答"Meine Sprache versteht man durch die ganze Welt"「私の言葉は全世界で理解される」から、音楽を取り巻く状況が大きく異なっている現在のクラシック音楽がショウケースに入った音楽になっていないか、本当に理解されるものなのかについて問いかけをしたいとのこと。 そして本日のプログラムも、ハイドンの時代にやっていたように交響曲を通しで演奏せず、第1楽章をやってから、ヴァイオリン協奏曲、そして室内楽もやったあとに残りの楽章をするようにしたとのこと。 また楽章間でも気に入ったのなら拍手して欲しいというようなトークのあとオケのメンバーがいささか緊張気味に入場してきた。
さて、このシリーズの冒頭を飾ったハイドンの交響曲第93番の第1楽章だが、入場したオケのメンバーの緊張感がそのまま音楽にも現れたかっこうで、ピンっと張り詰めたような開始、そして丁寧だがどこか手探りで音楽を進めているような感じもする始まりであった。 そんな序奏を抜けてから少々開放されたかにみえたがなかなか堅さが拭えない。 アレグロは充分に速く快活な演奏になりはしたものの、それでも全体的に音の分離がよくなくて、どこか音がダンゴ状態で押し寄せてくるように感じた。 とにかく一生懸命にやったという感じで終わった。
次ぎに背の高いレーアタワーさんが登場してのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲。 大柄なせいかヴァイオリンが小さく見えるの気のせい? あとのインタヴューによればガァルネリの忠実なコピー楽器とのことで響きの良さで選んだらしい。 確かにその効果は第2楽章によく出ていたと思う。 ゆったりとして柔らかく美しい響きに満たされたこの楽章は至福のひとときであった。 オケも第1楽章の冒頭が実に伸びやかで、先ほどの抜けの悪さはいったい何? といった感じで上々の滑り出し。 繊細でウィットの感じられるレーアタワーさんの独奏は譜面を見ながらの演奏だったが、冒頭こそチロチロと鳴っている感じもしたけれど展開部あたりから艶が感じられるようになり、カデンツァでは刺激的な音を抑えてチャーミングで暖かい演奏が展開されてようやく本領発揮。 オケもコーダでは奮闘して締めくくった感じで調子が良い。 そして第2楽章は冒頭から豊かなヴァイオリンの音色で魅了された。 ゆったりと美感をたたえたようなヴァイオリンの響きが、囁きかけ、問いかけ、歌うようでもあって素晴らしい。 特に後半は静かな時間とともに流れていくような音楽の響きが至福のひとときとして醸し出されていた。 オケもちょっと不満はあったが全般的に非常にうまくつけていたと思う。 しかし第3楽章になるとオケの音の抜けがまた悪くなったように感じた。 この響きの統一性のなさはどこからくるのだろうか。 コンサートマスターに森下さんを据えた万全の態勢だと思うのだが。 とにかくここでも独奏はこじんまりとした感じで、華やかさよりも柔らかい響きをたたえたような演奏で、ト短調のアンダンテやアレグレットの主題もさりげなく過ぎていったようだ。 オケも生真面目に伴奏をつけているといった感じで、オケのサイズは小さいけれど大きな編成のままの音の雰囲気が拭いきれなかった。 全体を通してみても、けっしてまずい演奏ではないと思うし、ここまでくると好みの問題のような気もしたけれど、オケにはもっと伸びやかさや自発性が欲しいと感じた。 まぁ第1回目だし、これからに大いに期待したい。
休憩を挟んで、曽我さんが赤ワインとパンを持って出てきて、ハイドンはロンドンで人気が出ても夕食は赤ワインと黒パンという質素な食事をしていたとのエピソードを語り、ハイドンもモーツァルトも神様のような存在ではなく、もっと身近に感じて欲しいと言われた。 そのあと、このシリーズではソリストが選んだ室内楽を1楽章だけだけれど演奏をし、そのあとに何故その曲を選んだのかなどを聞いてみるのだそうだ。 そんな話しのあと、レーアタワーさんとオケの首席奏者達が揃って登場し、モーツァルトの弦楽五重奏曲が始まった。 急造メンバーによるアンサンブルとは思えないほどの緊密なアンサンブルで、モーツァルトの短調らしい華燭を避けつつも気品を失わなず、ほの暗い雰囲気のよく出た演奏だった。 演奏後のインタヴューでは、この曲はもちろん好きな曲であるが、先の協奏曲が華やかなト長調にあるのに対してほの暗いモーツァルトのト短調を対比させたとのこと。 あとは使っている楽器の話しとなって、ヴァイオリンは友人が4年前に製作したもので古楽器でもなく現代楽器でもなく特に響きの良さを重視して選んだとのこと。 また弓はモーツァルトの時代に作られたものを利用されたとのことで、演奏に対して、いろいろと考えられておられることになるほどと感じいるような話しをうかがえた。
そしていよいよ最後はハイドンの交響曲の第2楽章からだが、ここにきてようやくオケも演奏会に馴染んできたのだろうか、これまでとは全く見違えるような素晴らしい演奏内容が展開された。 そして第1ヴァイオリンの最後尾にはレーアタワーさんが座り、きょろきょろしながら小さくなって演奏されていたのもまた微笑ましかった。 冒頭の第2楽章は明るく伸びやかで若々しい響きが素晴らしい美しい演奏だった。 ゆったりと音楽を慈しむように演奏し、かつメリハリもきちんとつけての美しい音作りに会場が魅了された。 この楽章が終わると拍手があったが、これには充分に納得できるので一緒になって拍手をした。 第3楽章からは力感のある演奏で、躍動感に粘りも加わり、かつ弦楽器の分奏がきちんと分かれて聞こえる。 よく締まった音を多少勢いに乗せて走っているのは爽快だし、時おりヴァイオリンがややささくれだったようにも聞こえたあたり、大阪シンフォニカーらしい若さが充分に演奏に出ていたように思う。 これがハイドンらしさの一端ではないのだろうか。 そんなことを思いながら聴いた。 瞬時止めてからアタッカで入った第4楽章も前の楽章と基本的に同じような感じだったが、一段と興にのってきたようで躍動感が更に増してホルンも高らかに鳴った。 しかしホルンに限らずどの木管楽器の響きも全体の響きのなかにナチュラルにおさまっていて突出しない。 ソロが音楽としての一体感を増す作用があってとても好感の持てる演奏が展開されていった。 そしてフィナーレに近づくにつれてまた一段とメリハリがついて、ヴァイオリンの響きには透明感が増した。 そんな綺麗な響きをたっぷりともたせたエンディングもふわりと着地してとても良かった。 うーんん、とても素晴らしかった。 とにかくこれまでいろいろと思いながら聴いてきたけれど、最後のハイドンで吹っ切れたみたい。 終わり良ければ全て良しかもしれないが、次回も大いに期待できると確信させてもらえた。
なお次回は、今回出番のなかったクラリネットが主役であるし、もっと多くの人に聴いてもらいたいシリーズが始まった。