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丸谷純一 ギターリサイタル

練り上げられた音楽のみが放つことのできる真摯さ(戻る


丸谷純一 ギターリサイタル
2002年5月18日(土) 18:30 ならまちセンター市民ホール

H.ヴィラ=ロボス: 前奏曲第1番、マズルカ・ショーロ
日本古謡 横尾幸弘(編曲): サクラによる主題と変奏
作者不詳: リュートのための6つの小品
F.ソル: 幻想曲小川の岸辺による変奏曲」、グラン・ソロ
D.スカルラッティ: ソナタ K.11
F.メンデルスゾーン: 無言歌 第6番 op.19
J.K.メルツ: ハンガリー幻想曲
F.タレルガ: ラグリマ、アルハンブラの想い出
C.ドメニコーニ: コユンババ組曲

独奏:丸谷純一(g)

ならまちセンターの市民ホールで丸谷さんのギター演奏を聴くのはこれで3度目。 ならまちセンターでの丸谷さんのギター演奏会はもう知る人ぞ知るような存在になっているのだろう、多くのファンが詰めかけてきたため満員御礼、立ち見も出るほどの熱気あふれる会場だった。 多少緊張気味に登場された丸谷さんだったが、リュートのための6つの小品あたり調子が乗ってきたようで、現代曲ではギターに挑みかけるような闘志を垣間見せながら曲にぐいぐいと迫り、また古典曲ではギター自らが自然と語りかけているのかと見まがうような調べとなって会場中を魅了していた。 丸谷さんはどの曲に対しても、曲そのものやギターという楽器に対して常に挑戦的・意欲的であろうとする姿にあふれて真剣勝負そのもの。 アマチュアだから許されるだろうという甘えはどこにもない。 逆にアマチュアだからこそ限られた時間のなかでいかに凝縮し純化させるかについて、自問自答を幾度となく繰り返されたであろう練り上げられた音楽のみが放つことのできる真摯さによって会場中を魅了する。 だからまれにフレーズの流れがぎこちなく響いてしまうようなアクシデントがあっても、音楽が内在する力を充分に引き出していたからこそ逆に聴く側にとって集中力を増す作用として働くような演奏である。 そしてこれがまた会場に足を運びたくなるような静かで熱い感動に繋がっている。 今夜もまた素晴らしい一夜を頂いて帰ってきた。

日頃は交響曲や管弦楽曲のようなオーケストラ曲ばかりを聴いているのでギター曲についてはよく分からないことだらけだけれど、この日のリサイタルについて簡単に振り返ってみることにする。 まず第1曲目はロボスの前奏曲とマズルカ・ショーロを続けて演奏されたがともに哀愁漂う曲である。 ただ左手がフレットを移動させるたびにキュッと鳴くのが多少耳についた。 技巧的に難しい面もあるのだろうが、緊張が走っているのだろう、真摯さとともに少々窮屈にも感じる面もあった。 サクラによる変奏曲もまたギターが琴の音色にも聞こえる技巧的な曲。 丸谷さんは技巧的な曲に意欲的に取り組まれているときは、ギターに対して闘志をむけておられるように感じた。 リュートのための6つの小品は、これまでギターを緻密に鳴らそうと格闘されていたことから一転、素朴なメロディはギター自らが歌うがごとく弾く。 第3曲目の舞曲あたりから堅さもとれてきて伸びやかになったと思う。 サルタレロは興のった演奏で会場もぐっと和んできたように思う。 ソルの幻想曲小川の岸辺による変奏曲では、親しみ易いメロディに優しさ明るさをともなった熱演。 続けて演奏する予定が思わず終演後に立たれてしまって拍手を受け、「続けて演奏する予定が間違いました」でまた会場が和む。 しかしそれほど力の入った演奏だったと思う。 そしてそれは休憩前の最後の曲となったグラン・ソロに繋がってアレグロから軽やかで伸びやかな指使いが素晴らしかった。 単に速さだけはなく、指先に気持ちを乗せて弾き込むギターが暖かい音色なのである。 そして後半はまた語りかけるようにもなり魅力的。 素晴らしい演奏のあと休憩に入った会場のあちこちからため息が漏れていた。
休憩を挟んだあとは響きもよりまろやかになって一気に最後まで聴かせた。 最初のスカルラッティのソナタは古典らしく素朴でしみじみとした語り口が素適。 そしてこれに続くメンデルスゾーンはしっとりとした音色で淡々としていながらもいずれもギター自らが自然と語りかけるように聴こえてくる。 続いてのメルツのハンガリー幻想曲は民俗的な深い情を感じさせる響きで陶酔の世界を演出したあと後半は生き生きとしたリズム感が素晴らしくてロマン的な色彩がよく出た演奏で素晴らしかった。 タルレガのラグリマは、また優しい響きに戻って、語りかけるようなしっとりした感じとなった。 ラグリマとは涙という意味らしいが悲しみによる涙というよりも、泣き笑いの涙といった感じだったろうか。 そしてお馴染みのアルハンブラの想い出は、少しゆっくりめで響きを抑えた端麗な演奏で、しっとりとした哀しみに会場を包み込んでいた。 そして最後のドメニコーニのコユンババは入魂の演奏で、特殊な調弦から夢幻的な響きがため息をつくようでもあった。 そして会場を幽玄の世界にぐいぐいと惹き込んでいき充足感のある演奏で不思議な世界にトリップさせてくれた。 曲を閉じたあと大きな拍手に包まれた。
丸谷さんはどの曲に対しても、曲そのものやギターという楽器に対して常に挑戦的・意欲的であろうとする姿にあふれて真剣勝負そのものである。 まれにフレーズの流れがぎこちなく響いてしまうようなアクシデントもありはしたが、音楽が内在する力を充分に引き出していたからこそ逆に聴く側にとって集中力を増す作用として働く、そんな充実した演奏であった。 終演後またここに足を運びたくなる静かで熱い感動を胸に会場を後にした。

丸谷純一さんプロフィール: 14歳よりギターを独習。 その後谷本正夫氏、三谷健兒氏に師事。 ホセ・ルイス・ゴンザレスのマスタークラス受講。 臨床検査技師の仕事のかたわら、コンクールにも出場を重ね、第23回日本ギタリスト会議主催ギター音楽大賞一般部門で第2位、第22回読売新聞社主催ギターコンクールシニア部門では優勝する。 奈良市在住。 http://www1.kcn.ne.jp/~junichi2/

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