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近畿フィルハーモニー管弦楽団 第17回定期演奏会

自在なピアノ協奏曲の熱演、ストレートなロマンティックの熱演(戻る


近畿フィルハーモニー管弦楽団第17回定期演奏会
2002年6月16日(日) 13:30 いずみホール

ベートーヴェン: 歌劇「フィデリオ」序曲 作品72 (*)
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第3番ハ短調 作品37
ブルックナー: 交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」

独奏: シュネーガス・実菜子 (P)

指揮: 津川 誠(*)、岡田良樹

「常に進化し続けるオーケストラ」となるようにと、今回はベートーヴェンとブルックナーを取り上げた近畿フィルの演奏会。 ベートーヴェンのピアノ協奏曲では、シュネーガス・実菜子さんの自在なピアノが素晴らしかった。 またこれによく合わせていたオケも好演だった。 そしてブルックナーのロマンティックでは、オケの持てる力を凝縮し、出しつくしたかのような熱演となって、ほぼ満員の会場から拍手喝さいをあびていた。 ただ個人的にはシュネーガスさんのピアノ協奏曲をとても面白くきかせていただいた。 日本人的にはちょっとお行儀の悪いピアノ奏法だと思うが(猫背になって弾く、身体を斜めにして鍵盤を覆うようにして弾く、足音も聞こえるなど・・・)、しかし自在に鍵盤をあやつって理想する音をつむぎ出す姿はパッションがあってわくわくしてきた。 聴き慣れたこの曲が一皮向けたようにも聞こえ、じつに楽しかった。 ブルックナーのロマンティックも、ホルンとトランペットを軸に、弦楽器の分奏も見事で、とてもよく盛りあがっていたのだが、岡田さんはあくまでもインテンポで進めようとしていたのではないだろうか。 ちょっとストレートかな、という印象を持った。 こちらは日本人らしく行儀よくきっちりと纏めて盛大にやりました、という感じだろうか。 このあたりは個人的な嗜好の範囲なので(もっと歌ってほしかったので)許していただきたい。 とにかくこちらは大熱演だったことには間違いありません。 なんとかフィナーレにたどりついたような勢いだけの演奏であったなら歌って欲しいというようなことは書かないので、この点はこのオーケストラの進化として(アマオケとしてはとても難しい注文であることは分かっているが)、これから大いに期待したいところである。

いずみホールのステージには所狭しと楽器が並んでいる。 近畿フィルの団員が総勢60名に達したとのことで、コントラバスが6本。 そんな編成で始まったフィデリオ序曲は、ちょっと手探りな開始だったが次第に調子を上げていった。 各楽器は全体に抑制を効かせようと響きを貯めこむような感じで曲が進められたが、エンディングは一気に押しきるようにも感じられ、元気な演奏といったところだろうか。 編成を絞り込んで演奏すればまた印象が異なったのではないかな、そんな風にも感じられた。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番は、シュネーガス・実菜子の独壇場だったようだ。 失礼ながら初めてお名前を聴く方で、勝手にハーフの方かな、と思っていたが、れっきとした日本の方のようであえる(終演後ロビーで大阪弁でお話されていたようだ)。 ドイツ留学からドイツの方と結婚されたのだろうか、そして今は主にドイツで活動されているとのこと。 外見はたいへん小柄な方で、一見可愛らしいお嬢さんのような感じにも見えたが、16年前にこのオケの第1回定期演奏会でも競演されているとのことであり、キャリアは十分に積まれている。 そして今回は自作のカデンツァでこの曲に臨まれていた。 さて第1楽章、少し人数を減らしたオケから、先ほどとはうってかわって透明感の高い響きでゆったりと曲が始まった。 弦の分奏もきちんとしているし、何より弦楽器が綺麗にそろっていて艶を感じさせる。 終始猫背になって鍵盤を覆うようにうつむき、うなだれるようなシュネーガスさん、手をにぎったり開いたりして準備運動をしてから、ピアノの独奏が力強くちょっと硬質なタッチで登場。 小さな身体からエネルギーが弾けて出てきたよう。 しかし荒っぽく単に力強いのではなく、全身を使ってうねるようでもある。 シュネーガスさんは猫背になったり身体を斜めにしたり、一種独特な奏法から自在な色合いをつけて曲を進めていく。 オケも集中力を高くしてこれに綺麗につけて、とても充実した音楽である。 わくわくしてくる。 しばしシュネーガスさんばかり見ていた。 カデンツァの冒頭は力強く入ったのでベートーヴェンのかと思ったが自作なのだろう(実は違いをよく分かっていない)。 とにかくパッションを感じさせる演奏で会場を魅了していた。 力が入った後半には足音も1階席ほぼ最後尾でも聴きとれたほど。 このあと管弦楽がちょっと重いティムパニの響きをともなって加わり、気合の入った第1楽章を閉じた。 ふっと溜息が出るほどインパクトが強かった。 第2楽章は、ピアノにかぶさるような姿勢から、ゆったりと響きを保たせるように始まった。 ゆったりとしているが自在に伸び縮みするピアノの旋律が面白い。 オケも気合が乗り移ったかのようにしっとりとした響きでこたえる。 美しいフルートの響きも素適だったがチェロとコントラバスがそっと曲を支えている。 ピアノの響きにはメリハリも加わって聴き慣れた曲が一皮向けたようにも聞こえて実に楽しい。 期待した終楽章は、ややあっさりと軽く弾けるようなピアノによる主題呈示(もっとガンとくるのか、期待したが裏切られるのもまた楽しい)から快調に飛ばす管弦楽との会話もあって徐々に盛りあがっていった。 ここでもテンポを微妙に変えたりアクセントをつけて弾くピアノに、オケも熱く応えていた。 クラリネットの第2副主題はほのぼのとした雰囲気を持って、このあとピアノと木管楽器との掛け合い、トランペットとピアノの掛け合いもきちんと決まっていた。 弦楽器も最後まで分奏が乱れず、次第に音量を増し、オケの力とピアノの力が拮抗しあいながら更に盛りあがっていった。 そしてフィナーレはヴィルトージョ的な壮大な盛りあがりをみせて全体を閉じた。 聴いていてもまた見ていてもじつに楽しい演奏だった。 この曲に対して、本当に一皮も二皮も剥けたような感じで聴かせてもらった。 クラシック音楽でもライヴの楽しみを感じさせてくれた、そんな素適な演奏だった(決してキワモノ的な演奏ではありません、念のため)。
休憩を挟んでメインのブルックナーのロマンティックは、特に後半、ホルンとトランペットが左右から呼応し、これらを軸に、弦楽器の分奏もきっちりしていてじつに見事で、とてもよく盛りあがった大熱演であった。 ただ指揮者の岡田さんがインテンポで曲を進め、ちょっとストレートに盛りあげていたようでもあり、ちょっと単調にも感じたことも事実。 それだけきちんと演奏をしていたことの裏返しだと思うし、ここまでくると嗜好の問題だと思う。 とにかく大きく熱い演奏しきって会場から盛んな拍手を受けていた。 そんな第1楽章は、速いテンポから、はっきりとした力強い弦のトレモロからホルン(1曲目を指揮した津川さん)の渋い響きが見事に決まっていた。 同じような音色のフルートとホルンが見事に絡みあい、速いテンポのまま、芯のある音楽でぐいぐいと盛りあがっていった。 充実した曲の始まりだった。 ホルンを筆頭に金管楽器全体がよく締まっているし、またティムパニもコンパクトな振りからよく締まっていて安定感がある。 弦楽器ではコントラバスが弾力のある響きで弦楽器の下支えをしていて、これらが重なり合い響きあって音楽を充実したものにしていたと思う。 ただこの楽章の後半まで、このような終始力の入った演奏が速いテンポのままぐいぐいと進んでゆくため、少々聴き疲れがしたのも事実。 それだけ気合の入った演奏だったということだろう。 第2楽章は、チェロによる深い響きによる第1主題、哀切のこもったヴィオラによる第2主題がそれぞれ巡礼の歌となっていたのが印象的。 弦楽器に響きがとても充実していた。 展開部で明るくなって主題が複雑に展開されるあたり、欲をいえばもっと歌ってほしかったところなのだが、岡田さんはあくまでもインテンポで曲を進めていたようだ。 端正な音楽になっていた。 第3楽章は、ホルンが右、トランペットが中央やや左から掛け合う力強い開始。 よく締まった両者の響きがストレートにぐいぃっと盛りあがっていった。 このあと木管楽器によるアンサンブルでほっとさせられてから、スパッと場面転換も見事に決まる。 トランペット、ホルンによる掛け合いから、また盛り上がって… と続くが、ここでもあくまでも基本はインテンポ。 細かな細工よりも、きちんと全体を纏めて曲を進めて行こう、そんな感じにも思えたほど、ストレートな音楽だった。 そして終楽章もやや速めのテンポから、よりいっそう熱く重くなった音楽が出てきた。 第2主題はややあっさりとした感じで淡々と始まったが次第に熱がこもってきた。 このあたりも音の強弱による味付け程度で、もうちょっと歌わせるとか、表情をつけるとかのことも出来るとは思ったけれど、岡田さんは端正に振るのみなのが(個人的に)ちょっと惜しい。 ぐっと盛りあがってからの展開部では、抒情的な部分と劇的な部分を交互に展開しつつ演奏が更に白熱してきた。 コントラバスがずんずんと心臓の早鐘のように響いてきてぞくぞくっとする。 フィナーレにむけて弦合奏に厚みが増してきたなかを金管ファンファーレのトランペットが突き抜けるように響く力強さ。 最後はオケ全体を力いっぱいに響かせたあと、ふっと溜息をつくようにして曲を着地させた。 ちょっとして会場から大きな拍手が舞い起こった。 オケの皆さんの満足そうな笑顔とともに、カーテンコールで呼び出され、客席とオケから拍手された岡田さんのちょっとはにかんだような笑顔も心に残った。 ここまでいろいろと書いてきたけれど、終始力と熱の入った演奏で、金管・木管・弦楽器・打楽器がそれぞれに力を出し合い、それらが見事に一体となって繰り広げられた充実した演奏だった。 これからの大いなる進化にも期待したい。