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ならチェンバーオーケストラ 第62回定期演奏会

オケと指揮者の素晴らしい共同作業戻る


ならチェンバーオーケストラ 第62回定期演奏会
2002年7月14日(日) 15:00 なら100年会館中ホール

ストラヴィンスキー: 協奏曲 変ホ調「ダンバートン・オークス」
ハイドン: チェロ協奏曲 第1番 ハ長調 (*)
ベートーヴェン: 交響曲 第7番 イ長調 作品92

アンコール: モーツァルト: 歌劇「フィガロの結婚」序曲

独奏(*): 斎藤建寛(Vc)

指揮: 飯森範親

「古典への回帰」と題された、ならチェンバー創立15周年記念の演奏会。 指揮は、昨年の夏から1年ぶりの登場となる飯森さん。 今回も満員御礼で補助席まで出る盛況ぶり。 演奏内容もそんな満員の聴衆の期待に応えるべくとても熱い素晴らしい演奏が繰り広げられた。 まず、ダンバートン・オークスでのオケ全体の充実した演奏に、ハイドンの協奏曲での斎藤さんの力強いチェロ、そしてメリハリがよく効いたベートーヴェンの交響曲第7番。 それぞれにとても充実した素晴らしい演奏だった。 中でもベートーヴェンの交響曲はこれまでにも何度か実演を聴いているが、一番充実した演奏内容だったと思う。 昨年はちょっと弛緩する部分も感じた飯森/ならチェンバーのベートーヴェンの田園交響曲だったが、今年は息もぴったりと合って、メリハリのある指揮によく反応しながらもオケが絶対にハメを外さない抑制のとてもよく効いた真摯な演奏だった。 カーテンコールが続き、指揮者を称えてなかなか立たないオケをようやくよく立たせて観客の拍手を受けたあと、くるりとオケに振り返って一礼した飯森さんに対し、オケのメンバーもまた一斉に揃って飯森さんに一礼していたのがとても印象に残った。 オケと指揮者の素晴らしい共同作業に、会場からも一団と大きな拍手が惜しみなくふりそそがれていた。

舞台のヒナ段には、左からフルート(待永望さん)、クラリネット(鈴木豊人さん)、ファゴット(片寄伸也さん)、2ndホルン(小林晶子さん)、1stホルン(猶井正幸さん)が一列に並び、弦楽器は 6,5,4,3,2 の小さな編成。 元気よく出てきた飯森さんは、客席に礼をすると間髪を入れずに曲を始めた。 温かいがよく締まって弾むような開始。 指揮棒を持たずにぐいぐいと音楽を進めていった。 始めて聴く曲だが、新古典時代の簡潔な筆致により、浮き立つような感じのオーケストラのための協奏曲といった感じで聴き易い。 鈴木さんの表情豊かな音色と待永さんが古武士を思わせる風貌で真摯でストレートな音色がからみ合って進んでいった。 ノリの良いい曲のようだなのが、これをちょっと生真面目にきちんと演奏するあたりがならチェンバーらしさだろう。 そんなことを感じた第1楽章だった。 第2楽章はヴィオラとクラリネットの暖かい和音で始まった。 この楽章もクラリネットとフルートが活躍。 特に鈴木さんは、いつもながら、身体全体を使って色々な表情を音に乗せてゆく。 これを見ているだけでも面白い(といっては失礼だが、演じる側からのメッセージ・感動が聴く側にびんびんと伝わってくるようだ)。 アレグレットがアンダンテあたりに速度を落とし、丸く音をまとめて静かにふわりと終わった。 集中力を高めて始まった終楽章は行進曲のよう。 ずんずんと進めていくけれど、リズムが堅く機械的にならないのが素晴らしい。 要所でホルンがアクセントになり、コントラバスがリズムを支えている。 静かな熱気を孕みながら、しだいに音楽が高揚していってフィナーレに繋った。 いつもながらきちっとした演奏に加え管楽器がとても充実していて聴き応えのある演奏だった。 今日はいい演奏会になるなぁ、と思える始まりだった。
ハイドンのチェロ協奏曲は、斎藤さんが弓を弦に叩きつけるような少々荒っぽいとも思える奏法から繰り出してくる力強い響きによって、若きハイドンの情熱がこもったであろうこの曲を巧みに再現したのではないだろうか。 いつもの斎藤さんらしい洗練された響きとは異なり、ワイルドでかつ覇気あふれる演奏とオケの好サポートも合わさり、といても情熱的な演奏だった。
第1楽章、明るく伸びやかな序奏に続き、いつもの斎藤さんらしくない少々荒っぽいとも思える弾き方でチェロが登場して吃驚した。 甘い響きをおさえて腰の強い音色はガンバを意識したものだろうか。 時には弓を弦にぶつけるようにしながら力強く曲を進め、ケレン味のない響きによる熱い演奏だ。 またオケ全体もこの熱演に覇気をもって応えているような感だが、あくまでも管楽器(オーボエとホルン)は柔らかく弦の響きに合わせて突出することがない。 単に力強さだけのサポートではないところが嬉しい。 カデンツァは、かなりの技巧を要するものと思えるほどの速さと力強さで演じきったあと、オケも入ったクライマックスでは息詰るような気迫をもって楽章を閉じた。 第2楽章は一転してゆったりと大きく演奏するオケに、今度は伸びやかなチェロの響きとともに曲を進める。 チェロは豊かで深い響きとなったが過剰な甘さはなく、淡々とかつまろやかに歌い上げていくようでだった。 またオケとソロの演奏が絶妙にブレンドされた感じがした。 チェロが雄弁に語っても自然にオケがそっと寄り添い、そのあとオケだけの演奏になっても必要以上に声高にならならず、音量はあがっても音色が乱れないのが素晴らしい。 そしてカデンツァをゆったりと深く、そして真摯に歌いあげたあと、やはり自然とオケが寄り添ってきてこの楽章を閉じた。 第3楽章、軽快な曲の運びに熱を込めたフィナーレ。 ソロはここでも荒っぽく演奏しているように見えるが、その実、きちんと抑制を効かせて多彩に弾き分けていたようだ。 ここでもオケも一体となり、更にゴールに向かってラッシュする熱気を感じた。 技巧的なフレーズも難なくクリアするが、洗練された響きとはちょっと違ってワイルドに弾いて覇気がある。 若き情熱のあふれんばかりの演奏を最後までびしっと決め、会場から大きな拍手を受けていた。 ロマン派のチェロ協奏曲にはない響き(チェロの扱い?)による力強い演奏で、若きハイドンの情熱というものを垣間見させてくれた熱演に心から拍手を送った。
休憩をはさんでベートーヴェンの交響曲第7番。 実演では何度か聞いているが、どうもしっくりこない曲である、 しかし今回は飯森さんの若さと、腕利きのオケによる統制とれた響きががっぷり組んで、こぶりだけれどとても感動的な演奏だった。
コントラバス3本、チェロ4本に増強されたオケにはさっきまでソロをとっていた斎藤さんもリーダ席に座っている。 飯森さんが指揮棒を持って登場(これまでは指揮棒なし)、暗譜による指揮。 ぐっと集中しているが暖かい一撃によって第1楽章が開始された。 ティムパニの音は重く、よく締まったコントラバスの豊かな響きが全体を支えている。 好調な出だしだ。 待永さんのフルートがよく透る音で飛んでくるのが印象的。 飯森さんはこの曲にメリハリをつけて進めていく。 大きく演奏する部分はとことん大きな指示を出し、細かな部分は緻密に指示を出す。 しかしオケは決して乱暴には大きくせず、また神経質なほど細かくはしない。 弦・管のソロの全員が見事なまでに統制をとって演奏しているようで気持ちがいい楽章だった。 第2楽章にはほとんど休みなく入った。 重いが引きずることのない整理された響きで集中力が高い。 中音弦はたっぷりと響き、高音弦は清楚に響いて哀愁を感じさせる。 これらの響きが重なり合い、音楽が次第に高揚するとコラール風にも感じた。 途中、鈴木さんのクラリネットが救いのように音楽に明るさを射しこませる。 巡礼の行進のようにも感じさせながらしだいに緻密さを増すようにして音楽を進め、最後は大きな振幅をつけて、おおきく纏めて終わった。 ここで一息いれてから元気なスケルツォの第3楽章が始まった。 たたみかけるような演奏で、飯森さんは前半は指揮棒をほとんど縦にしか振らないように見えた。 管楽器奏者も体を前や上下に動かしながら、まさに縦ノリのリズムで前に前にと進んでいったが、演奏には性急さが感じられない。 下手するとこのあたりで前につんのめって、終楽章に怒涛のように突入するように思えるのだが、実に安心して聞いていられる。 トリオの部分は熱気を孕んだままぐっと減速。 ゆったりと演奏したあと、わずかにチェロのフレーズを聞かせてから元の主題に戻ってたたみかけていった。 このあたりの細工がちょっと心憎い感じ。 主題は前よりも少し盛り上げていたようで、またこの減速とチェロのフレーズを繰り返した。 実に振幅の大きな演奏で、運動量も相当なものではなかったか。 そして終楽章にはほぼアタッカで入り、コントラバスもゴウゴウと鳴る感じに力強く響かせているが、ここでも全体的に抑制がよく効いているので突進する感じはない。 飯森さんの指揮は大きく熱っぽいが、これは弦に対してであり、管楽器は逆にコンパクトに纏めている感じ。 それまで突き抜けるようだった待永さんのフルートもアンサンブルの中に綺麗に納まっている。 大オーケストラではないので音に拡がりはないが力強く粘ってコンパクトに纏めている感じだろうか。 飯森さんは、途中、カルロス・クライバーが演っていたように、指揮をやめてオケに演奏を委ねるといったこともしていた。 オケの各楽器の統制が見事にとれてノリの良がよく曲が進められているので、わざとらしさは微塵も感じなかった。 そしてより熱いフィナーレになったが、ここでも安定感はまったく崩れずに最後まできちんと纏められたフィニッシュに会場からの大きな拍手・ブラボーがかかった。 そして自ら素晴らしい演奏を終えた充実感もあってかオケのメンバーの笑顔も殊のほか素敵だった。 飯森さんの若い情熱によく反応しながらも、腕利きのオケが聴き合って絶対にハメを外さず、真摯で素晴らしいベートーヴェンの演奏に仕上げた、そんな感じだろうか。 とにかく素晴らしい演奏だった。
アンコール曲のあともカーテンコールが続き、指揮者を称えてなかなか立たないオケをようやくよく立たせてから観客の拍手を受けたあと、くるりとオケに振り返って一礼をした飯森さんだったが、オケのメンバーもまた一斉に揃って飯森さんに対して一礼していたのがとても印象に残った。 オケと指揮者の素晴らしい共同作業を象徴したような場面であると思った。