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大阪シンフォニカー交響楽団 第81回定期演奏会

素晴らしい弦楽アンサンブルに脱帽戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 第81回定期演奏会
2002年7月17日(水)19:00 ザ・シンフォニーホール

シルヴェストゥリ: トランシルヴァニアとビホール地方の5つの民俗舞曲
バルトーク: ルーマニア民俗舞曲 sz.68
尾高尚忠: フルート協奏曲 (*)
エネスコ: 組曲第1番 ハ長調 op.9
エネスコ: ルーマニア狂詩曲 第2番ニ長調op.11-2
エネスコ: ルーマニア狂詩曲 第1番イ長調op.11-1

独奏(*): 末原諭宜(fl)

指揮: セルジュ・コミッショナー

日本・ルーマニア修交100周年記念と題された定期演奏会。 当初、指揮者がクリスチャン・マンデアル氏の予定だったが、ルーマニア国内行事と重なったためにコミッショナーさんへと交代となった。 マンデアルさんって誰? と思っていただけに今回のこの指揮者交代はちょっと得した気分だった。 そのような期待を持った演奏会だったが、期待を裏切らないどころか期待を遥かに超えた素晴らしい演奏内容だった。 特に後半のエネスコの3曲が、これまでのシンフォニカーとは一味違った練り上げられた響きに大満足。 なかでも弦楽器群の密度の濃い素晴らしいアンサンブルを特筆しておきたい。 10数年前のシンフォニカーを知る者としてはまさに夢見心地のような気持ちの良い弦楽アンサンブルに感動が押し寄せてきた演奏会だった。

コミッショナーさんは夏らしく白のジャケットで登場した。 プログラムの写真よりもややお歳を召されているように思えたがしっかりとした足取りだった(1928年生まれだから74歳だろうか、先日亡くなったスヴェトラーノフと同年のようだ)。 指揮台に予め用意された眼鏡をかけてスコアを確認してからシルヴェストリの曲が始まった。 個性的な指揮者として有名なシルヴェストリの作曲による民俗舞曲は、親しみやすいメロディとリズム・パターンの繰り返しによる曲だった。 シルヴェストリの演奏をレコードで知る者としてはやや凡庸なイメージも持ってしまったことも事実。 曲はほぼ切れ目なく5つの舞曲が演奏された。 冒頭はトランペットとトロンボーンにファンファーレで威勢良く始まると、次ぎにクラリネットの憂いを帯びた響きとフルートを中心にした綺麗な木管アンサンブルがルーマニアの平原をゆったりと渡る風のようでもあり夕暮れのような景色にも思えた。 次ぎに祭りのようなうきうきした弦楽アンサンブルの曲となり、続いてやはり弦による憂いのあるモノフォニックな音楽になった。 このあたりアルメニア出身のアラン・ホヴァネスの曲のようにも感じらた。 最後は管楽器と打楽器も加わって曲が大きくなって終わったが、初めて聴く曲だけにどうなのかよく分からないけれど、演奏としては上々の滑りだしだと思った。
続いてバルトークの民俗舞曲も初めて聴く曲である。 もっと先鋭的な感じの曲・演奏かと思っていたが、意外とこの曲も親しみやすい曲だった。 どうもバルトークというと脳天を直撃されるような先入観があるのは困りものである。 とにかく演奏は弦の響きがびしっと統一されていたのが素晴らしかった。 ただ最後だけはもうちょっと潤いが欲しいような気もした(バルトークは先鋭的なイメージがあると言っておきながら、潤いが欲しいというのは矛盾しているかもしれないけれど)。 その第1曲目は中低弦のたっぷりとした響きに第1ヴァイオリンの清潔な響きが加わって弦全体の響きの多彩さを感じさせた。 プログラムには棒を突くようなリズムが印象的とあったが、特にそれを強調するでもなく民俗調の範囲でのリズムパターンといった扱いで進めていったように思えた。 第2曲はクラリネットの響きもあって快活というより、やや悲しさも秘めた踊りといった感じがした。 第3曲はピッコロによる静かで親しみやすい曲として始まった。 バルトークってもっと先鋭的なほうが面白いのかな? などと思いながら聴いていた。 第4曲はコンマスの森下さんの独壇場。 静かな眠りを誘うような子守唄のようでもあった。 第5曲は重厚なポルカといった面持ちで、そのまま終曲に入って早いテンポによる演奏となっても弦楽器の響きが乱れることなくきちんと統一されていたのが素晴らしかった。 全体的にどの曲も巧く、そつなく演奏していた、と思えなくもないけれど。
尾高忠明のフルート協奏曲は中学生の頃、同級生からレコードを借りて聴いて以来ではないだろうか(このレコードには外山雄三のラプソディも入っていたはず)。 結構好きな曲になって聴き込んだ記憶があるので今回の実演を聴いたら思い出すかな、と思ったけれど全く思い出せなかった(いい加減なものである)。 さて、そんなことはさておき、演奏は末原さんの端正で甘さを押さえたフルートの響きが時には尺八の響きにも聞こえるようで、煌びやな洋風とは違って日本的な端正さ、良い意味での几帳面さを感じさせたが、実によく歌い込まれた演奏に満足した。 オケもまたよく統率がとれた演奏で好サポートだった。 第1楽章はちょっと緊張感を孕んだ響きのオケから始まったあと端正な音色のフルートが軽快に入ってきた。 急と緩を交互に織り交ぜたような楽章で、統率がよく取れて突出しないオケと、甘くはないが伸びやかなフルートが語り合う。 日本の曲だからだろうか、フルートがどこか尺八っぽく聞こえるような気がした。 しかし終結部のフルートは歌うようでもあり、また囀るようでもあり、素晴らしいテクニックに耳を奪われた。 第2楽章は安定したテクニックからくるのであろう、どの部分においてもよく歌い込まれた旋律の扱いが見事な楽章だった。 この楽章はピアノの響きがから始まってちょっと吃驚。 フルートがほんの少し憂いも感じさせた響きで素早くソロを繰り広げた。 次ぎに低弦の響きをバックにアラビア調の旋律をフルートが吹くと、それが弦に引き継がれる。 今度はフルートが伸びやかなメロディを吹いたあと一瞬曲に緊張が走ったのが頂点となり、またフルートが伸びやかに上昇と下降音をころがしたあとアラビア風となってシンメトリックに曲の最初のほうに戻っていった。 そして冒頭ピアノの音とフルートに行きついて楽章をとじた。 アタッカで終楽章に入ると、憂いを帯びたフルートの短いフレーズを弦が引きとって音楽が高揚していった。 しかしあせることなく一転して伸びやかな旋律を吹くフルートに、オケもいつもなら暴走気味になりそうなところを管楽器・打楽器とも抑え気味で実によく締まった音でコンパクトに曲を支えていた。 力強いコーダでもこの抑制が効いた伴奏にソロがしっかり乗っている。 そして速度を急にましてパンっと曲を閉じた。 少し間があいてからブラボーの声がかかって会場からは盛大な拍手が舞い起こった。 またオケからも盛んに拍手が送られていた。 終始コミッショナーさんの背中に手を添えて舞台袖とステージの出入りをしていた末原さんだったが、最後に深々と礼をすると会場からはまた一段と大きな拍手が送られてようやく休憩に入った。 本当によく歌いこまれた素晴らしい演奏だと思ったのだが、プログラムを読むとこれまでにもルーマニアで演奏されているとのこと、これで合点がいった。

後半のエネスコのプログラムは、弦楽器群の素晴らしく密度の濃いアンサンブルを堪能させてもらった演奏だった。 コミッショナーさんは、もっと絢爛たる指揮をするのか、と思っていたのだが、動きは大きくなく、音楽の基本は何より弦楽器、という姿勢だろう。 管楽器の突出を抑え、管の響きを弦の響きの中に綺麗に合わせるような感じだった。 そして何よりも、このベースとなった大阪シンフォニカーの弦楽セクションの健闘を大いに称えたいと思う。
さてエネスコの組曲第1番は、そんな弦楽セクションのたっぷりとした響きの素晴らしさが延々と続くのに聴き惚れてしまった。 とにかく、力強くなる場面においても、単に音量を上げているのではなく、気迫のようなものを感じさせる。 文字どおり入魂の演奏といった感じがするほどだった。 冒頭から統率のよくとれた演奏だったが、これが延々と展開されていくのに耳を奪われっぱなし。 途中静かにドラム・ロールが入ったりもしたが、触る程度でまた弦楽器が力を増していった。 ルーマニアの広々とした風景を目の当たりにしているようでもある。 管楽器が入っても抑制されていて弦の響きにすっぽりと収まっているかのよう。 えも言われぬような森下さんの素晴らしいソロがはいったあとも弦楽器セクションによる演奏がまた延々と続くのだが、ちっともあきなんてこない。 コミッショナーさんは、指揮棒をあまり動かさず、瞬時左手に指揮棒を持って右手で表情を整えるような場面もあったほどオケに任してるよう。 コンマスの森下さんを中心に音楽がきちんと纏って流れているからだろうが、とにかく大阪シンフォニカーでこのような充実した弦楽合奏を初めて聴いたような気がした。 そんな長い長い第1曲目のあと、あたたかい音色の弦合奏にハープが入って懐かしさを感じさせる第2曲目になった。 ここではオーボエ、フルートのソロに、遠くで鳴ってるようなホルンのメロディもあったけれど、はやりいずれも抑えた表現で、ここでも弦楽器に溶け合わされていた。 第3曲目はヴィオラとチェロの響きを支えに緊張感のある音楽として始まった。 ヴァイオリンが加わり、金管ファンファーレも入って爆発したあとは明るいメロディとなって弦楽器をまた十分に歌わせている。 いつもなら力任せに盛り上ったら突っ走りそうなところがきちんと抑えられている。 あくまでも音楽は弦楽器主体と言外に言っているかのようだ。 そしてケレン味なく力強い音で纏めて曲を閉じた。 なお、カーテンコールでは、弦楽セクションのみを立たせようとしたのに間違って立った管楽器奏者を慌てて座らせる場面もあって会場から笑いが出た。 確かに弦楽器セクションの素晴らしさが光った演奏だった。
ルーマニア狂詩曲第2番は、弦楽器が主体の曲。 より一層期待を膨らませて聴いたが、冒頭の豊かな弦の響きによる開始からトロンボーンの持続音に乗せた弦がゆったりと、また懐かしさを持った響きで歌い上げていった。 期待以上の素晴らしい演奏にここでもう大満足。 コミッショナーさんも、自然な音楽の流れにまかすかのような指揮ぶりだった。 オーボエ、フルートの旋律も出てきたが、これもまた控えめで弦の響きのなかにすっぽりと収まっている。 曲が高揚してきて音量が大きくなっても、弦楽器のたっぷりとした響きはそのままで余裕を感じさせる。 コールアングレも弦によくあったたっぷりとした音で素敵。 音楽の緊張感が増してきて、確信を持ったティムパニも登場したが、音楽は高揚しても暴走せずによく歌っているのがいつもと違う。 このあとザザさんのヴィオラによる舞曲(?)も素敵な旋律の歌わせ方ではっとしているうちに曲が終わった。 とても自然によく歌う演奏だったのにまいりました。
さて、最後になったルーマニア狂詩曲第1番は、トランペット(コルネット?)2本、打楽器奏者2人が増強されて、いよいよ大阪シンフォニカーらしく管楽器全開で頑張るのか、と想像したのだけれど、またしても(良い意味で)それは裏切られた。 クラリネット、オーボエによる無難な開始はちょっとゆっくりめだったろうか。 この曲は、ハチャメチャに突っ走るのかなぁ、と思っていただけに、管楽器を抑え気味にして弦楽器群の響きが厚い。 しかもそれがとても瑞々しく息づいた響きの良さに驚いた。 分奏がきちんとしていることはもちろんのこと、厚い響きながら音切れがとても良く、シャキとした素晴らしい弦楽アンサンブルだった。 コミッショナーさんは、ここでは弦楽器にたっぷりと弾くように指示をしていて、またこれまでよりも stop / start の指示を多く出して曲をコントロールしていたようだ。 だんだんと速度を上げていっても、このよく締まった響きは崩れることはなく(いつもならハメを外すほど盛り上げていくようなところも)弦楽器が主体。 統率のよくとれた上質な音楽としての盛り上げ方をしていった。 音量による迫力ではなく、全体的な巧さ・合奏技術による聴かせ上手な演奏を目指しているのだろうが、オケもそれに見事に応えている。 聴いていると実に気持ちが良くなってきて、清々しさのある感動が広がってきた。 この曲に対すして持っていた印象が大きく変えられてしまった。 統率力は最後まで維持されて、スパッと止めたあと、最後だけ大きく強くフィニッシュを決めて終わった。 会場からは今までのよりも大きな拍手が巻き起こった。 あまりの客席からの反響の大きさに、コミッショナーさんが突然指示をしてフィニッシュの部分のみを再演。 それも指揮台に上がらずに、その短いアンコールで会場から笑いを誘ったあと、コンマスの森下さんを連れて引っ込んでお開きとなった。

大阪シンフォニカーを10年ちょっと聴いているけれど、これほどまでに余裕があって充実した素晴らしいアンサンブルを聴いたことはかつてなかったような気がする。 派手さはないが、本当に充実した素晴らしい感動がひたひたと押し寄せてきた演奏会だった。