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オーケストラMFI演奏会

オペラ的なマーラー戻る


オーケストラMFI演奏会
2002年8月31日(日) 19:00 ザ・シンフォニーホール

ワーグナー: 楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
マーラー: 交響曲第9番ニ長調

指揮:井村 誠貴

オーケストラMFI(Music Factory Imura)の演奏会。 井村さんとマーラーの第9番の交響曲を演奏するために、プロ、音大生、アマチュアが約120名集まった。 今月初めには500枚前後しかチケットが出ていないとのことで心配しましたが、最終的には定員(1700名)を超えるチケットが出たとのこと。 今度は超満員を心配するほどの盛りあがりとなりました。 座席引換えも定刻より早く始まったらしく、定刻に到着したときには既に長蛇の列になっていましたが、それでも2階席のDD列を確保できてラッキー。 とにかく会場には若者がものすごく多かったのも特徴的な演奏会でした。

さて演奏は、井村さんの特徴のよく出た熱演だったと思います。 第1楽章の冒頭や、第4楽章の冒頭など、この曲のキモになる部分ではぞくぞくっとするほどのよく練られた響きになっていました。 本当に素晴らしかった。 響きの調和を大切にし、大きなうねりの中でオーケストラを集中させてぐいっとノセてしまう巧さ、これは井村さんの真骨頂とも言える部分でしょうが、随所にこれがみられました。 しかし、一点一画を決して疎かにしているわけではないのでしょうが、緻密な構成感でもって鳴らす部分ではいささか雰囲気に流れているように感じた面もありました。 特に前半の2つの楽章で楽器の数が減る場面では、音と音の間にちょっとした隙間があったようにも思えました。 もっとも今回は若い団員が多いこともあるでしょうし、また井村さんご自身もこの日で32歳になられたとのことで表現の難しい部分だったのかもしれません(逆にそのようにしていたのかもしれませんが)。 また第4楽章をはじめとして、全体的に、死への諦観というものよりも生きていることへの希望や憧れ、執着みたいなものを演奏に感じたせいでそう感じたのかもしれません。 2年前に聴いた金聖響さんとGYOも若い指揮者と団員によるマラ9でしたが、こちらはもっと構成感が強くあって、その上で音楽が大きく起伏する体育会系の強いノリがあり、感動するとともに疲れも感じましたが、しかし今回の井村さんの演奏はもっとロマン的であって、どことなく温かいものが心に残るような感じのするマラ9でした。 このオケができたころからwatchしていたから余計にそう思えたるのかもしれませんが、井村さんの音楽はこれまでに聴いた井村さんのどの演奏会よりも一回りも二回りも大きくかったように思うし、どことなくオペラ的な演奏にも感じたことは事実です。 とにかく、このオケに参加された団員の皆さんにとっても更なる飛躍につながる熱い演奏会でありました。 皆さんお疲れさまでした。

簡単に演奏会を振りかえってみたいと思います。 まず冒頭の「ニュルンベルグのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲、井村さん丁寧に会場の四方に会釈をされたあと、ぐいっとおおきく振りかぶって覇気のある音が出てきました。 上々の滑りだしですが、全体的にはちょっと堅めの演奏だったようです。 井村さんの振りはいつもよりもちょっと大きいのですが、オケは全体的によく締まってて暴走せずにかちっと纏めたような感じでした。
休憩を挟んでいよいよマーラーの交響曲第9番。 第1楽章、集中力を高めて出てきた響きは静寂と諦観を併せ持ったかような十分に練られたもので、ぞくぞくっときました。 素晴らしかったです。 しかしこのあと曲が展開されてゆくにしたがって一生懸命さはびんびんと伝わってくるし各パートやソロの巧さも感じるのですが、若さや情熱といったものを無理に抑え込んで淡々と演奏しているような感じがしてきました。 かといって冒頭の諦観や厭世観に満たされているかというとそうでもなく、特に楽器の数が少なくなってくるにしたがって脆さのようなものを感じたりもしました。 しかしまた楽器が多くなる場面では力を盛り返し、いつも以上のダイナミズムをもった指揮ぶりで、ほとばしるような演奏になったりしてちょっとバランスも悪いようにも感じました(元来バランスの崩れたソナタ形式なのですけれど)。 しかしオケは本当に巧かったと思います。 ホルンの斉奏もビタッと決めていたし、後半のフルートソロも奥深い艶があって素晴らしかったです。 第2楽章は軽く弾むように始まり、井村さんのお得意(?)のダンスもよく出ていました。 ただこの楽章も、低弦はきちっと鳴っているものの響きがどことなく薄く感じる面がありました。 実質上のスケルツォ楽章として軽めに演奏していたからかもしれませんが、しかしよく井村さんはよく踊っていましたね。 この楽章を見聴きしながら、これまでに聴いた井村さんの演奏会も思い出すと、本当にロマン派音楽に向いた指揮者だなと感じてしまいました。 第3楽章はとにかく速かったし、これまでの楽章とは違って力強さを持っていました。 これまでちょっと響きが薄いと思っていた中低弦の奏者が凄まじく速いパッセージを力強く弾いているのが印象に残りました。 ホルンの斉奏も力強く決まっていました。 トランペットのフレーズはちょっと独特な感じがしました。 そして圧巻はバカ騒ぎのクライマックス。 とにかく凄まじい迫力でここを駆け抜けていきました。 さて、第4楽章の始まる前に井村さんはちょっと長くうつむいて集中力を高めていたようです。 そして思い切って振り絞るように棒をおろすと、豊かでちょっと暖かみをも感じさせる弦の和音が流れてきたので、これまたぞくぞくっときました。 本当に素晴らしい響きでした。 このあとの遥かな感じのするホルンのソロも素晴らしかったし、充実した音楽に圧倒されました。 思い入れを込めた弦楽器の各パートが入れ替わりたち代わり現れてきましたが、どのパートも死にゆくための音楽ではなく生をひたすら見つめているような音楽であるように感じました。 その中でもチェロとビオラのパートが奮闘していたのが心に残りました。 木管楽器の素晴らしいアンサンブルのあと、いよいよクライマックスに向けての死に向う音楽なのですが、まだまだ燃えたぎるような生を感じさせる盛りあがりを経てようやく静寂へと向いました。 棒を置いて手で指揮する井村さんからの音楽は、ゆっくりと、そして切れ切れで、かすれたような陰影をつけて曲を静かに閉じました。 最後まで死での安らぎよりも生きることへの執着のようなものを感じさせたエンディングだったように僕は思いました。
ちょっとした静寂のあと、顔を上げた井村さんはまずオケに一礼して会場とオケからの拍手に包まれました。 そして四方の客席に礼を繰り返したあと最後に正面の客席に向って嬉しそうにニヤリと笑われてから深々と礼をされたのがとても印象に残りました。 色々と書きましたが、これまで聴いた井村さんのどの演奏会よりも一回りも二回りも大きく感じました。 そして素晴らしい井村流のマーラーでしたし、そして今回ほど井村さんのことをオペラ的な指揮だと感じたことはなかったように思います。 井村さんもまたオケの団員の皆さんもこの演奏会が更なる飛躍につながる熱い演奏会であったと確信します。 皆さん本当にお疲れさまでした。