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大阪シンフォニカー交響楽団 第82回定期演奏会

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大阪シンフォニカー交響楽団 第82回定期演奏会
2002年10月18日(金) 19:00 ザ・シンフォニーホール

チャイコフスキー: ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第10番 ホ短調 作品93

独奏: 上野 真(p)

指揮: トーマス・ザンデルリンク

「ショスタコーヴィチとの想い出」と題された演奏会だったが、ここでの一音たりとも疎かにしない素晴らしいショスタコーヴィチの演奏に強く胸を打たれた。 そして今回もエンディングでは左手の拳を高々と挙げる得意のポーズから最後はすくうようにして曲を締めくくった凛々しい指揮姿を来シーズンは見られないと思うといやがうえにも「ザンデルリンクのとの想い出」に浸ってしまう自分がいた。 芸術監督になる前の定期演奏会でのブラームスの交響曲第4番から始まって、外国人プレーヤを招聘する前の非力で弦が鳴らないオケを叱咤激励して煽っていた時代もあった(チャイコフスキーの交響曲第4番など)。 そして今やよく反応し、かえって鳴り過ぎるオケをセーブする場面がよく見受けられるこのコンビによる素晴らしい演奏の数々によって、多くの感動を与えてもらったし、また音楽を味わって聴くということについて教えてもらったと思う。 そして今回も、この難解なショスタコーヴィチの交響曲第10番における深い精神性を維持しながら、でも表面上はすっきりと整理して全く飽きさせない演奏だった。 当たり前なのだろうが全ての音に意味があって、その一音たりとも疎かにせずに紡いでいるような感じを強く受けた。 それでいて必要以上に重く暗くせずにきちっと纏めあげる巧さは個人的な強い思い入れがあるせいだろうか。 またこれに的確に、そして真摯に応えていたオーケストラも素晴らしかった。 ヒステリックになりそうな場面もきちんとコントロールされており、タイトでかつズシリと重い。 エンディングが近づくにつれて、ザンデリンクさんを見ることにばかり集中していたように思う。 最後は左手の拳を高々と挙げる得意のポーズからすくうようにして曲を締めくくったあと、ブラボーとすさまじい拍手が涌きあがってホールが感動の渦にのみこまれていった。 一生のうちに何回も味わえないような圧巻ともいえる演奏に熱い感動がこみあげてきた。 心から素晴らしい演奏をありがとう、これまでの沢山の感動をありがとうと拍手を贈らせてもらった。 いつの日にかまた再会を期待したい。

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番は、ロシア的なまったりした感じとお得意のスパスパと切ってゆくオケと、技巧的で情感豊かな上野さんのピアノがマッチしたどちらかというと端正な演奏だった。 ザンデルリンクさんの演奏にピアノが併せていたように感じる場面もあったけど、これはいつもどおりといえばいつもどおり。 しかしクライマックスはタイトで重く、ぐわぁんと盛り上げて幕にするあたり、これもいつもどおりなんだか、ぞくぞくっとくる巧さがあって、聴いたぞ、という満足感を与えてくれた演奏だった。 上野さんもこの直前のカデンツァの部分は力強く熱っぽく弾いていたけど、個人的に秀逸だと思ったのは第2楽章。 静かで含みをもったフルートから爽やかな弦楽器、ファゴット、またフルートと受け渡されていく開始からもう夢見心地。 唯一惜しかったのはここのピアノの第1音がやや強く入った点だったが、あとは非常に丁寧で端正な演奏だったが豊かで甘く切なさも漂わせた素晴らしい演奏だった。
アンコールはラフマニノフのプレリュード23−4。 こちらはより上野さんらしさが出ていた演奏だったろう。 しみじみとした感じの出だしからぐっと惹きつけて情感の豊かさを多彩なテクニックで表現していたように思う。 豪快に力で鳴らすタイプではないと思われるだけにチャイコフスキーのピアノ協奏曲はちょっと端正にならざるを得なかったのかもしれない。 しかし満足すべき演奏だった。

ショスタコーヴィチの交響曲第10番は、いくら書いても感動を書ききることは出来ないと思われるほどの素晴らしい演奏だった。 まず第1楽章冒頭、重い出だしも引きずることなく厳しくも洗練された響きで、ザンデリンクさんが指揮するとき特有の響きの充実感に満ちている。 主題の盛りあがりの部分も軋むまずにぐわぁんと力が出てくるのは、深い思い入れがあるからだろうか。 じっくりと丁寧な演奏である。 この楽章のハイライトは、ファゴット、コントラファゴット、クラリネットの緻密なアンサンブルで会場を惹き付けたところから始まった。 管楽器の数が増し、さらに弦も加わり、金管そして銅鑼も含めた打楽器も含めてのクライマックスの到来にいたるまで、緻密で丁寧なのだがとても熱い演奏であった。 弦楽器は終始ヒステリックにならず、合奏の底辺をきちんと支えていたのも見事だった。 音楽が静けさを取り戻しても、心が合わさってひとつになった演奏が続き、この楽章を閉じたあとには、会場のあちらこちらから大きく息を吐く音があちこちから聞えた。 まさに息をのむほどの集中力の高い演奏だった。
第2楽章の冒頭の張りと弾力のある弦の響きにはっとさせられた。 こんな響きは聴いたことがないと思えたが、考える間もなく凄まじいスピードで走っていった。 ホルンの斉奏も凝縮した軽さ、畳み掛けるスネアが力強い。 ものすごく速いのだが、息咳きって走っているのではなくて、響きが十分に保たれているために充足感がある。 またどこかに悲哀も感じさせる演奏だった。 エンディングはスパっと切って落としたが、あまりの切れ味の良さに会場は呆気にとられたのか、ここでは咳払いも出なかった。
第3楽章の前にチューニングをし、ヴィオラ、チェロ、第1ヴァイオリンの合奏に第2ヴァイオリンが見事に絡む充実した弦楽合奏による開始から、木管アンサンブル、弦合奏とほの暗いロシア的な情感を漂わせていった。 場面転換を見事に決めて雰囲気をがらりと変える。 難解な音楽なのだが、随所に聴きどころがあって飽きさせない。 全く弛緩することのない真摯な演奏で、エンディングもすっーと終わり、ザンデルリンクさんの下ろした棒が止まっても会場には静寂がしばし流れていた。
終楽章、ザンデルリンクさんは低弦のほうを向いて、はっと息を飲んでから棒を振り気合を入れたが、オケは丁寧に反応する細心の注意が払われたような開始だった。 みなザンデルリンクさんの指揮によく反応して、メンバーも一音一音を味わうように音楽を組み立てている。 ザンデルリンさんが作り上げたといって過言ではない今の大阪シンフォニカーとの素晴らしい関係による音楽を存分に味あわせてもらいながら、最後はザンデリンクさんの指揮姿ばかり見ていた。 決して綺麗な振りではない、かえって分かり難いとも思える棒を使ってオケを自在コントロールしている。 時には身体を前後にゆすって情感をつけたり、手のひらを出して抑えるように指示を出している。 最初のころは鳴らないオケを叱咤激励していたので、この手のひらで抑えるような指示は滅多に出なかったなぁ・・・と思いかえしていた。 とにかく今のオケは指示にその都度的確に反応していて気持ちがいい。 そしてエンディングは、お得意の左手の拳を高々と挙げる得意のポーズで鳴らしたあと、棒ですくうようにして曲を締めくくった。
ブラボーとすさまじい拍手が涌きあがり、ホール全体がが感動の渦にのみこまれていった。 素晴らしいとしか言いようのない演奏会だった。 なおカーテンコールの際には、団員から花とプレゼント(指揮棒か?)が手渡され、団員からも盛んにザンデルリンクさんに拍手が送られていた。 本当に一生のうちで何回も味わえないような圧巻ともいえる演奏で、熱い感動とともにホールを後にしたが、これで当分このような演奏に出会えないのかと思うと虚脱感もまた涌きあがってくるのだった。 いつの日にか再会を期待したい。