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「みんなで第九を」演奏会

ベーレンライター原典版による真摯な演奏戻る


三郷「みんなで第九を」演奏会
2002年12月8日(日) 14:00 三郷町コミュニティセンター・文化ホール

ベートーヴェン: 交響曲第9番ニ短調「合唱付き」op.125

ソプラノ:三原美文、アルト:西畑賀世
テノール:河田早紀、バリトン:佐藤彰宏

合唱:”みんなで第九を”合唱団
(合唱指導:河田早紀、安永紀子、坂口真規子)

管弦楽:”みんなで第九を”交響楽団

指揮:福永吉宏

朝から断続的に小雨が降りそぼるなか、今年で12回目を数えるという三郷町の第九演奏会に行ってきた。 いわゆる街の合唱団の第九演奏会なのだが、指揮者には京都バッハ・ゾリステンの主催者でもある福永さんがベーレンライター原典版を使い、ヴァイオリン各5本を両翼配置に配置し、コントラバスは2本という小編成で常にインテンポで凝縮された真摯な演奏が繰り広げられたのには正直驚いた。 オケも特別編成ながら各ソロも見事に全体に調和した響きで巧かった。 また合唱団にはソプラノ・パートには男の子も交えた子どもが8人加わっていたのは微笑ましかったが、全体としてしっかりとコントロールされた合唱は聴いていて気持ちの良いものだった。 惜しむらくはホールの音響がデッドに響いていたことと、ちょっと強めの暖房だったろうか。 特にインテンポでずんずんと進んでいった前半の楽章では睡魔に襲われた方も多かったようだ(僕はとても面白かったので寝ることなど出来ませんでしたけど)。 失礼な言い方になってしまうが、このような街の第九演奏会でこれほどまでの演奏が聴けるとは思っていなかっただけにとても儲けた気分になって帰ってきた。

第九のみの1曲プログラムである。 15分ほど前に到着したときには約7割、最終的にはほぼ満員の観客がつめかけた。 会場は暖房が効いていることもあるが熱気がむんむんとしていて、渡されたパンフレットを読むと今年で12回目との記載もあって第九演奏に対する期待の大きさを垣間見ることが出来た。 そんなステージにはヴァイオリンが5本づつ両翼に配置されていてまず吃驚したが、パンフレットには「本日の演奏はベーレンライター原典版によります」と書いてあったで2度吃驚。 ヴィオラ4本、チェロ3本、コントバス2本という小編成でベーレンライター原典版を使うのは納得のできる選択だが、(失礼な言い方だが)このような街の第九演奏にもこのような新しい版の演奏がされるとは想像だにしなかった。 指揮者の並々ならぬ意気込みをも感じとった。
さて演奏だが、数を絞り込んだオケから真摯な演奏が展開されていった。 福永さんはバッハを演奏される団体を主宰していることもあってか、インテンポで余計なテンポの揺れやタメといったものを排した即物的ともいえる演奏に終始しておられた。 第1楽章はそんな早めのテンポで淡々と始まってズンズンと進んで行った。 オケは特別編成なのだが、指揮者の指示が隅々まで行き渡っているような感じ。 ことさらにノンヴィブラートを強調するでもなく、ホルンも安定していたので安心して聴けた。 ただデッドな音響のホールなので各楽器の音がよく聞こえるのは面白かったのだけれど、ちょっと聴き疲れしてしまう感じになってしまったのがとても惜しい。 第2楽章も早めのインテンポであった。 ティムパニがタイトな音で締めを入れるが音楽は滞ることなく次ぎへ次ぎへと進んでいく。 各ソロもとても甘さを排して全体によくマッチしていて素晴らしい。 どことなく荘厳な雰囲気もあってバロック調にも感じた。 第1楽章もそうだったが、この楽章のフィナーレもズンと音を締めて終わった(本名さんが指揮されたベーレンライター原典版の演奏ではすっと消え入るように終わるのだけれど、このあたりの解釈は人それぞれだろう。 ズンと終わるほうが違和感がない)。 第3楽章は一転してゆったりと始まったがここでもインテンポは変わらない。 身の丈に応じた真摯な音楽が展開されていったが、ここまでくると暖房のせいもあって客席では眠っている人がずいぶんと多い。 確かにちょっと生真面目な感じもするが、3番ホルンのソロもきちんと決めていてなかなか巧い演奏だった。 第4楽章の前に合唱団、ピッコロ+打楽器奏者、ソリストが入ってきて、それまで気を失っていた人も目覚めた。 合唱団のソプラノ・パートにはなんと男の子も含めた子供が8人最前列に立ったのが微笑ましい。 演奏は3本のチェロ、2本のコントラバスなので重量感は乏しいもののよく引き締まったとても真摯な音楽で遜色はない。 ファゴットによる主題も柔らかい音、このあとのヴィオラのしなやかな響きにヴァイオリンの優しい音色が加わってとても充実した音楽であった。 特にこの楽章では中低弦がしっかりと音楽を支えていたのを特筆しておきたい。 ティムパニが強打してバリトンのソロはよく透る声だった。 合唱はきちんと揃っていて気持ちがよかった。 行進曲となってからテノールがちょっと艶のある声で朗々と歌う。 バスのソロの時にも思ったが、響きのたっぷりしたホールであればもっと違った感じになったのではないかな、ソプラノ、アルトについてもしっかりと歌っているが直接音だけではちょっとキツく感じてしまったようなのがちょっと勿体ない。 クライマックスに近づいてオケの演奏は次第に熱を帯びてきた。 合唱団は終始よくコントロールされたしっかりした歌で、勢い込んで飛び出したりすることもなかったのが素晴らしい。 またこれに加えて子供の声が時折混じって聞こえてきたのがなんだかバロック音楽を聴いているような気にもなり得難い体験でよかった。 コーダでは更に力強さを増し、舞台一丸の演奏となったのだが暴走する感じでは全くなく、きちんと曲を盛り上げて締めくくったのは見事だった。
とても素晴らしい演奏だったと思う。 街の第九といえどもこのようなレベルの高い演奏がされるとは予想だにしなかっただけに儲けた気分になって帰ってきた。