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ならチェンバーアンサンブル 第64回定期演奏会

カプリッチョ序奏・弦楽六重奏曲のしっとり感が素晴らしい(戻る


ならチェンバーアンサンブル 第64回定期演奏会
2003年1月12日(日) 15:00 なら100年会館中ホール

ヴィヴァルディ: 協奏曲集「四季」作品8 第1番 ホ長調「春」
ヴィレン: 弦楽セレナード 作品11
R.シュトラウス: 歌劇「カプリッチョ」作品85 序奏(弦楽六重奏曲)
チャイコフスキー: 弦楽セレナード ハ長調 作品48

(アンコール)ヨハン&ヨーゼフ・シュトラウス: ピチカート・ポルカ

指揮:今村 能


今年初めての演奏会は「新春のセレナード」と題されたならチェンバーアンサンブルの上質な演奏で幕を開けて幸せだった。 冒頭のヴィヴァルディの「四季」の「春」も凛とした演奏でとても素適だったけれど、何よりR.シュトラウスの歌劇「カプリッチョ」冒頭の弦楽六重奏による序奏が群を抜いていた。 R.シュトラウスらしいウェット感が醸し出されてくるアンサンブルにはしばし言葉を忘れて聴き入ってしまった。

演奏されている皆さんもそれぞれに想いを込めた演奏だったと想うけれど、僕の席からよく見えた第2ヴィオラの三木さんの泣きそうな表情を垣間見たとき、こちらもぐっとくるものが伝わってきた。 しっとりとしてうねるようなR.シュトラウスの世界。 このようなR.シュトラウスの世界にどっぷりとつかって幸せを感じさせてもらったのは初めてだと思う… 新年早々素晴らしい経験をさせてもらった。 ならチェンバーを今年も応援してゆきたい。


簡単に演奏会を振り返ってみる。

1階席がほぼ満席となり、定刻をほんの少し過ぎて始まったヴィヴァルディは、新年にふさわしいとても清々しい演奏だった。 ヴァイオリンは第1・2各4本、ヴィオラ3本、チェロ2本が時計回りに並び、チェロの後ろにはコントラバスが1本、その舞台奥には小型のチェンバロ。 中低弦のしっかりした豊かな響きと、凛とした五十嵐さんのソロが見事にはまっている。 しめっぽさや、おもねるところのない爽やかな春だった。

第1楽章のヴァイオリン3本による小鳥の囀りも素適だったし、フィナーレ前のチェロの斎藤さんと五十嵐さんのかけあいも自然で、そっと大切なものを置くようにして楽章を閉じた。 聴き慣れた曲だなのだが、本当にいい曲・いい演奏を聴いたという感じが涌きあがってきた。 第2楽章は、ヴィオラの植田さんの音がしっかりと響いてアクセントになっていた。 あとの解説にせよる犬の鳴き声であり、それをきちんと示してしたのは今村さんの指示によるものと思えた。第3楽章はちょっとゆったりとした演奏に五十嵐さんの清潔さを感じさせるソロが映えて充実したアンサンブルで締めくくられた。 しめっぽさなど無く、優雅で知的なな演奏は、今村さんとならチェンバーの特質が合わさったものではないだろうか。 新年早々素晴らしい演奏で満足させてもらった。

いつもどおり今村さんが出てこられての楽曲解説は丁寧で解り易い。 ヴィレン(今村さんはヴィレーンと発音されていた)は20世紀のスウェーデンの作曲家とのこと。 現代の不協和音の多い社会にこそ解りやすい音楽が必要と、新しい試みなども入れながら耳障りの良い音楽を作曲されているのだそうだ。 確かに聴きやすくてうきうきするような感じもして楽しませてもらった(20世紀の英国音楽風にヴァイタリティを持たせたような感じ・・・っていうとかえって解り難いみたいだが)。

第1楽章は、前奏曲で柔らかく繊細なアンサンブルが見事だった。 中低弦がしっかりしているので腰の弱さなど微塵も感じさせないふくよかさが素適。 第2楽章はきちっとそろって弾力のあるピチカートが魅力的。 ここにメロディを弾く楽器が、ヴィオラ、ヴァイオリン、チェロと順次入れ替わっていったが、密やかな気品を感じさせる演奏だった。第3楽章は快活だが、落着きを備えたスケルツォで、ぎゅっとエッセンスを詰めたような暖かい響きが素適だった。終楽章の行進曲は大きく開放的な鳴らせてぐっと盛り上ったが、今村さんは棒を縦に振ってアンサンブルを緻密にコントロールしていたのが印象的。 途中セレナード調になるが、またもとの行進曲に戻って曲をぐっと盛り上げて終わった。 親しみ易い音楽に会場からも大きな拍手がわきあがった。

暗転となってステージを次ぎの六重奏曲の配置にする間にまた今村さんのお話。 「カプリッチョ」は、R.シュトラウスの晩年のオペラで、歌劇にとって音楽が上が、言葉(歌詞・台詞)が上かを問うものとか。 そしてその演奏は入魂の演奏だった。 演奏されている皆さんもそれぞれに想いを込めた演奏だったと想うけれど、僕の席からよく見えた第2ヴィオラの三木さんの泣きそうな表情を垣間見たとき、こちらにもぐっとくるものが伝わってきた。 しっとりとしてうねるようなR.シュトラウスの世界。 このようなR.シュトラウスの世界にどっぷりとつかって幸せを感じさせてもらったのは初めてだ。 言葉にならずしばし聞き入ってしまった。 本当に素晴らしい演奏で言葉がない。

休憩を挟んでチャイコフスキーの弦楽セレナーデの前にも今村さんのお話では、チャイコフスキーの音楽が明治になって入ってきて、日本の民謡と結びついて「演歌」になった説は面白かった。 いぃち、に、さん(1、2、3)と1の部分がちょっと伸びるのが共通点とか… さて演奏は演歌的なものというより、形式感を強調し透明感を持たせた熱演だった。
そんな感じが凝縮された第1楽章、中弦の豊かさが魅力的で素朴さを感じさせた第2楽章のワルツ、しっとりとしたエレジーの第3楽章、アタッカで入った第4楽章は各パートがよくまとまって曲想を大きく感じさせての熱演となった幕を閉じた。 甘ったるくなくスッキリした感じの演奏で好感が持てた。

アンコールは、テンポを大きく落として間合いをとってうねりをもったせたピチカート・ポルカ。 こんなことをやっても全くアザとさを感じを受けさせないのは、今村さんとならチェンバーらしいところだろう。 素適なものを聴かせてもらい、新年早々のコンサートに満足して会場を後にした。 今年もならチェンバーを応援していきたい。