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西畑賀世・安永紀子 メゾ・ソプラノ・リサイタル

声を響かして聴かせる西畑さんに、声を飛ばしてドラマティックな安永さん戻る


西畑賀世・安永紀子 メゾ・ソプラノ・リサイタル
2003年1月19日(日) 18:30 学園前ホール

西畑賀世(MS)

J.S.バッハ: ヨハネ受難曲 より「我が身にからみつく」
J.S.バッハ: クリスマス・オラトリオ より「備えよ、シオン」
ドヴォルザーク: ジプシーの歌 op.55 より
「我が歌は響き」「きけよトライアングル」「わが母の教えたまいし歌」「弦を整えて」「鷹は自由に」
木下牧子
(八木重吉:作詞):
「秋の瞳」より
「おおぞらの」「植木屋」「うつくしいもの」「一群のぶよ」「秋のかなしみ」「竜舌蘭」「空が凝視している」
シェーンベルグ: 4つの歌曲 op.2
「期待」「おまえの黄金の櫛をおくれ」「高揚」「森の太陽」

安永紀子(MS)

山田耕筰
(北原白秋:作詞):
「かやの木山の」「城ヶ島の雨」「六騎」「曼珠沙華」「松島音頭」
團伊玖磨
(北原白秋:作詞):
三つの小唄
「春の鳥」「石竹」「彼岸花」
ヘンデル: 歌劇「リナルド」より「愛しい妻よ、愛しい恋人よ」
モーツァルト: ミサ曲ハ短調 より「あなたを賛美します」
メンデルスゾーン: エリア より「汝、主のみ前に口つぐみ」
デュルフレ: レクイエム より「慈悲深いイエスよ」
ベッリーニ: 歌劇「ノルマ」より「神よ!どうかお護りください」
ドニゼッティ: 歌劇「ファヴォリータ」より「〜それでは本当なの〜私の愛しいフェルナンド」

伴奏: 石黒千照(p)


近所に住んでいても初めて入る学園前ホールにて一家で鑑賞。 お二人とも大阪芸大の三原剛さんの門下生で、このリサイタルは卒業公演のリハーサルも兼ねているのだとか。 ホールの受付に行くと、なんと三原さんご本人がプログラムを配ってらして吃驚。 なんと弟子思いの先生なのだと感心しつつ、なんだかこっちも恐縮してホールの中に入った。

座席数305という小規模の公民館のホールながら、新築ということもあって音楽専用ホールの趣のあるとても素晴らしいホールだった。 こんなところにこんなホールがあったとは2度吃驚。 小編成のアンサンブルやリサイタルには足の便もよくて(駅から雨に濡れずに来れる)、機会があるごとに来てみたいホールだな。

そんなホールのことはさておき、二人のリサイタルに話を戻そう。 さすがに大学院の卒業公演にまで出られるという方の歌は聴いていて安定感があって危なっかしいところはまるでなし。 安心して聴かせてもらった。 特徴的だったのは、同じ三原さんの門下であり、同じメゾ・ソプラノという声域でありながら、全く異なる歌のタイプの持ち主だったということ。 簡単に言うと、声を響かせて歌の世界を聴かせる西畑さんに、声を飛ばして聞き手をぐいぐい引き寄せる安永さんと言ったところだろうか。


簡単に演奏会を振り返ってみたい。

二人を同時に聞くと、ぐいぐいと引っ張っていくような安永さんの力(Power)が勝っているような感じを受けた。 左を見て、次に右を見て、最後は正面を向いて押して押しまくった感じがした「松島音頭」や、ラストのドニゼッティの歌など、そういった歌の力でぐんぐんと会場を盛り上げて、歌い終わったあとには盛んな拍手を受けていた。 オペラなど、また大オーケストラをバックにして、他の歌手やオケと張り合って歌うタイプとしての充分な力量を感じさせるに十二分だと思った。 これは非常な強みだし、ある種、師匠である三原さんの歌いっぷりによく似たものを感じたことを付け加えておきたい。 しかし反面(個人的に好きな曲ということでハードルは高くなってしまうけれど)、モーツァルのミサ曲など、コロラトゥーラの難しい部分があったにせよ、若干一本調子な感じにも聞こえたこともあったし、な〜となく押しの強さが逆に目立って、ちょっと聴き疲れてしまうこともあった。

これに比して西畑さんの歌は外見の可愛らしさからするととても地味な感じがしたが、バッハからシェーンベルクまで、広いレパートリーを力(Technic)で聞かせてくれた。 特に大向こうを唸らせるようなものではないが、ドヴォルザークやシェーンベルクでは、伴奏の石黒さんの好演奏ともマッチして内面世界がよく表現されていたように思った。 聴き疲れしないし、かといって眠くなるようなものでもけっしてない。 単に歌が綺麗というにもあたらなくて、整った声の響きが特徴的とでも言おうか。 個人的にはシェーンベルクがとてもよかったと思った。 オペラや大オーケストラのバックではなく、リートや小編成のアンサンブルで真価が発揮されるように感じた。 ただ、ホールの響きのせいもあったかもしれないが、マイナーな曲になると響きの深さによって声の明瞭さが犠牲になっていたようにも感じた面があった。 あと緊張しているせいなのか、歌う前に構えた顔の表情になり、目の瞬きが多かったのも気になった点である(コレ損していますね)。

声を響かして聴かせる西畑さんに、声を飛ばしてドラマティックな安永さん。 これまで意識して声楽を敬遠してきたけれど、今回このようなリサイタルに恵まれ、同じ門下で同じメゾ・ソプラノといえどもタイプの全く違う二人の歌を聴かせていただいてとても勉強になりました。 歌ものって敬遠していちゃダメですね。 反省。

最後に、伴奏の石黒さんもとても素適な伴奏で歌を支えていたことも書き添えておきたい。 まず冒頭のバッハの端正さにも惹かれたが、シェーンベルクでは西畑さんと息のあったところを聴かせて、歌詞は原語でわからないものの歌とピアノがマッチして、歌の題名を見ながらそれらの情景が浮かぶようだった。 また安永さんとはとてもドラマティックに歌を盛り上げて、それぞれの歌をきちっとささえていた。