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奈良交響楽団第42回定期演奏会

耽美的なマーラー、意欲的なシューマン戻る


奈良交響楽団第42回定期演奏会
2003年1月26日(日) 13:30 奈良県文化会館国際ホール

シューマン: 交響曲第4番 ニ短調 作品120
マーラー: 交響曲第4番 ト長調

アンコール: R.シュトラウス: 「あす」

独唱:津幡 泰子

指揮:藏野 雅彦


前回の定期演奏会に引き続き、指揮者に藏野雅彦さんを迎え、数字の「4」にこだわったプログラム(前回は「1」にこだわった選曲だった)。 しかも今回は、シューマンの4番の交響曲とマーラーの4番の交響曲というとてもヘヴィーな構成だったけれど、結果として、これまでに聴かせていただいた奈良交響楽団のどの演奏会よりも素晴らしい演奏内容に感激して帰ってきた。

前回、藏野さんの棒のもと、中低音を核にしたとてもしっかりとした音楽をきかせてもらったのだが(ただ個人的にはシューベルトはもっと軽妙にやってほしかったけれど)、今回もそのような管弦楽の核になる中低弦の充実した演奏に加え、すべてパートがきちっと自分の持ち場を守り、かつそれらのパートが緊密に連携をとって響きあっていたのがとても印象に残った。 これによって、独特なシューマンの世界や、耽美的なマーラーの世界が見事に表現されていたように思う。 藏野さんと奈良交響楽団による「1」「4」以外の数字による演奏会を今後も期待したい。

なお、アンコールとして演奏されたR.シュトラウスの歌曲「あす」も美感をたっぷりとたたえた素晴らしい演奏だったことも追記しておきたい。


簡単に演奏会を振り返ってみたい。

オケの配置は藏野さんが指揮されるときいつもの対向配置。 こちらもいつもの2階席中央からの鑑賞である。 藏野さんがさっそうと出てきて、客席に向かってさっと一礼されて顔をあげたとき、「ありがとう」と喋っていたように見えた。 もちろん声は聞こえないないが、口の動きがそう見えた。 そんな自信たっぷりな仕草どおりの演奏だった。 細部まで気を配った演奏だったが、じつに堂々とした演奏でもあった。 各パートがきちんと分離し、かつ共鳴しあっていたし、要所をティムパニが重めの音でバシバシっと決めてくれていたのもとてもよかった。

第1楽章は、重量感のある開始には鋼のような柔軟性があり、細部までよく描けた素晴らしい演奏で、ぐいぐい引き込まれていった。 主部は生き生きとした感じで、ここでも低弦と重い響きのティムパニが芯になった演奏が崩れることはなかった。 大きく抑揚をつけた展開部でも要所をバシバシと決めていって聴き応え十分。 最初からこんんなに頑張っていいのか、と余計な心配をしたほどの充実した演奏だった。 第2楽章では、そんな熱気をひきずった感じで始まり、前半はちょっと響きが薄く感じられる面もあったが、第3楽章はまたキレの良い音楽がとうとうと流れでてきた。 集中力を高めながら入った終楽章はぐいぐいと頂点に達した。 開放的な響きが心地良い。 各パートはよく揃っているし、有機的に絡むフーガなど本当に充実した音楽だった。 ホルンの斉奏もバシっと決まって、自信を感じさせる堂々とした和音によって曲を閉じた。 個人的にはとても好きな演奏だったのだが、ちょっと拍手が少なかったように思えたのが残念なほどだった。

休憩を挟んでいよいよメインのマーラーの交響曲第4番も、シューマンと同様な自信に加えて、この曲の持つ美しさがよく出された演奏だった。 藏野さんは全体的にテンポを揺らして、ゆったりうねるように歌わせたり、急激に盛り上げたりと、オケにとっては大変だったと思うけれど、一丸となった演奏でこれによく応えていた。 素晴らしい演奏だった。 ハイライトの第4楽章の津幡さんの歌は、最初声が遠いかなぁと感じたが、美しく響く声で、すっきりとした美感を漂わせ、天上世界を表現していた。 耽美的で素晴らしいマーラーだった。

第1楽章の冒頭のフルートと鈴の音、こちらも少々緊張感をもって聴いたが、すぐにマーラーの世界に引きずりこまれた。 中低弦がここでも芯になって曲を支えているため音楽の腰が据わって浮ついた感じがまるでない。 各パートがお馴染みの旋律をきちんとこなしつつ、曲が間断なく進められていく。 よく聴いた曲だけに、ともするとイメージが先行しがちで、違和感を持つことを懸念したいたが、全体的ちょっとゆったりしたテンポによる音楽は、そんな個人的なイメージにも合致していてすんなりとマーラーの音楽に身を委ねてゆたけた(ちなみにホーレンシュタインの演奏がこびりついている)。 音楽は展開部の盛り上がりへとゆったりと昇りつめ、ぎゅっと締まって充実したクライマックを形成したあと、トランペットのフレーズも見事に決った。 楽想がきちんと切り替えられ、どの箇所をとってもメリハリがあり、とても素晴らしい演奏だった。 エンディングはぐっとテンポを落としたあと急速に駆け抜けた。

第2楽章の冒頭、ホルンがみごとに決めたあと、ヴァイオリンのソロはちょっと線の細さを感じたがマーラーらしい怪しい雰囲気はよく醸し出していた。 とにかくこの楽章はこのあとも各楽器によるソロが現れては消えてゆくのだけれど、そのどれもがみな大健闘。 凝縮した音楽が間断なく流れ出てきてマーラーの不思議な雰囲気がよく現われていた。 さて、この楽章が終わって歌手の津幡さんが登場。 パンフレットのお写真よりも若い印象(ちょっと珍しい)。

さてオケのチューニングも終って始まった第3楽章はとても美しいアンサンブルだった。 冒頭のヴィオラとチェロによるゆったりとした主題の提示からヴァイオリンやオーボエがからんできて、ゆったりと静かに響きがまざり合わさって心に染み入る。 こんな美しいアンサンブルが延々と続いた。 数年前、このオケを始めて聴いたときのディーリアスではどうなることか… と心配したことがまるで嘘のように耽美的なマーラーだ。 そして主題がさまざまに変奏され、絡みあいながら進むが、藏野さんはメリハリをはっきりつけ、また時には大きくうねらせるが、オケは見事にそれに応えていた。 クライマックでは急速に盛り上がって、思い切りの良いティムパニの強打、ホルンやトランペットが要所をきちっと抑えて聴き応え充分。 そしてまたヴァイオリンとフルートによってひっそりと締めくくられた。

終楽章はゆったり・たっぷりといった感じで始まった。 津幡さんの歌は、最初こそ2階席ではちょっと遠く感じがしたものの、響きがとても綺麗で、耳あたりのよい声だった。 たしかに、天国は押しつけられるものではないから、この程度がちょうどよいのだろう… なんてことを感じたりもした。 オケはここでも急緩をはっきりとつけ、走る部分はぐんぐんと飛ばしていったが、やはり全体的には遅いテンポだったと思う。 穏やかな演奏から最後の独唱、そしてハープとコントラバスによる密やかなエンディングまで集中力はまったく途切れることはなかった。 とても耽美的なマーラーで素晴らしかった。

拍手が鳴り止まず演奏されたアンコールもまたとても美しい歌だった。 津幡さんの透き通るような美しい響きが活かされたとても魅力的な演奏で、さらに満場の拍手を受けていた。

どの演奏もとても意欲的であった。 各パートが緻密によく混ざり合い、独特なシューマンやマーラーの世界が表現されていて素晴らしいものだった。 たしかにミスもあるにはあったが、そんなことなどまるで気にならないほど充実した演奏に心を熱くして帰路についた。 藏野さんと奈良交響楽団による「1」「4」以外の数字による演奏会について今後を期待したい。