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喜歌劇楽友協会 第44回定期公演

喜歌劇の魅力を改めて感じた一夜戻る


喜歌劇楽友協会 第44回定期公演
2003年5月10日(土) 17:30 森之宮ピロティホール

J.シュトラウス2世: 喜歌劇「ジプシー男爵」全3幕(日本語上演)

演出:向井楫爾

バリンカイ(ジプシー男爵):松本 晃
ザッフィ(ジプシー娘):鹿賀 千鶴子
ツィプラ(ジプシー占師):古山 淑子
ジュパン(豚飼い):山本 博之
アルゼーナ(その娘):石田 恭子
ミラベラ(家庭教師):藤原 眞知子
オットカール(その息子):二塚 直樹
ホモナイ(県知事):篠原 良三
カルネロ(政府特使):和田垣 究
パリ(ジプシー首領):東 義久

祝い娘:三谷和子、山本真由、村岡裕子、秦野香織
スペイン娘:三谷和子
スペイン兵:加藤幸男
踊り子:安藤美枝、坂口裕紀、西田真由子、山本真由、岩永幸子、米田華奈子

合唱:喜歌劇楽友協会合唱団
管弦楽:エウフォニカ管弦楽団

指揮:井村誠貴


昨年末の「メリー・ウィドウ」に続いて2度目の喜歌劇楽友協会の公演。 今回の演目は「ジプシー男爵」。 序曲を耳にしたことがある程度の作品で(というか例外的に「メリー・ウィドウ」「こうもり」を見たことがあるだけで声楽関係には本当に疎い)、事前にストーリーを調べる程度のことはやったが、あとは気軽に楽しませていただこうと森之宮ピロティホールに向った。 もっとも喜歌劇の良いところは、小難しいことは置いといても楽しめればそれでよい良しであるところだろう。 そしてまたこの喜歌劇楽友協会の公演は、そんなことはちゃんとクリアしているのは公演回数を見るだけでもよく分かるだろう。

さて今回の公演、やはりちょっと素人っぽいところが見え隠れし、第1幕などではやり取りの間がちょっと延びたようなシーンもあったりもしたけれど、公演全体としては実によく考えられた内容で楽しむことができた。 特に第3幕の前、シュトラウスのポルカを2曲「ポルカ狩」と「ピチカートポルカ」にのせたパントマイムのシーン。 ジュパンがスペイン兵といかに戦いまたスペイン娘にうつつを抜かしていたかのシーンや、続く「皇帝円舞曲」にのせたバレエではウィーンフィルのニューイヤーコンサートをも彷彿とさせてウィーンへの凱旋に繋げる仕掛けなどは本当によく考えられている。

また今回の公演を歌の面からみると、松本さんによるバリンカイ、鹿賀さんによるザッフィはいずれも存在感があって他の方よりもちょっと抜きん出ていたようだ。 山本さんによるジュパンは狂言回しとなってきちんとストーリーを引っ張っていったことも印象に残る。 さらに加えるなら合唱が充実していたことだろう。 ちょっと間延びしがちだった場面でも合唱が加わることでぐっと場面が引き締められて高揚し、次ぎのシーンにうまく繋がっていたようだ。 この団体のチームワークの良さを示しているのかもしれない。

とにかく今回も観終わったあとでつい笑みをこぼし、充足感を味わいつつ家路をたどることができた。 このような楽しさこそが喜歌劇の魅力なのだということを改めて感じた一夜でもあった。


それでは簡単に公演を振り返ってみたい。 ピン・スポットを浴びて井村さんが登場し一礼するやいなやメリハリの効いた序曲が始まった。 音楽に十分な抑揚をつけるために実によく踊る指揮だこと。 幕が開き、オットカールが宝を探している、ツィプラが出てきて追い払う場面などちょっと手探りな感じでぎこちなさを感じたのは初日だからだろう。 しかしシャンドール・バリンカイが出てきて「小さい時からさすらいの旅」を歌ってからぐっと引き締まった感じ。 ジュパンは最初つくった演技がちょっと気になっていたが、これが狂言廻しであると気付くにつれて面白くなってきた。 じつは最初、前回のメリー・ウィドウでニエグシェを演じた和田垣さんのカルネロを注目していたけれど。 さてこの幕での圧巻は、オットカールとアルゼーナの二重唱から続くバリンカイ、ザッフィ、ツィプラも加わった五重唱、ここからしだいに盛り上がってジプシー男爵と名乗ってザッフィを妻にすると宣言するフィナーレは最高潮で幕となった。

休憩をはさんだ第2幕、ここではバリンカイとザッフィの存在感が特に抜きん出ていたように思う。 冒頭の二重唱も素晴らしかったが、カルネロから問われて歌うザッフィのナイチンゲールの歌の美しかったこと。 しいて言うならツィプラがヴィブラートのかかった歌唱でちょっと歌詞が聴きとりにくかったのが惜しい気がしたのだけれど、全体的によく纏った舞台だった。 面白かったのは、ジュパンが宝を見つけられなかった悔しさ述べる場面。 台詞を歌舞伎の口調で大仰に喋ったあと指揮者の井村さんが客席を向きスポット・ライトを浴びて拍子木をカーンと打つサービスもバッチリ決まっていた。

第2幕が終わって暗転となりしばらくしてから幕が開くと豚と人(兵隊?)の描かれた小さな幕が下がっている。 「ポルカ狩」が流れだしてジュパンとスペイン兵のパントマイムによる戦闘シーン。 ジュパンのヒゲが取れるアクシデントもあったがものともせずにパントマイム続行。 結局は打ちのめされたジュパンだが「ピチカート・ポルカ」にのってスペイン娘が登場すると一緒に踊って戯れる。 クスクス笑いを引き出す滑稽な演技に会場の空気も大いに和んでいた。 「皇帝円舞曲」では同じ青い衣裳をまとった6名によるバレエが披露。 ウィーンフィルのニューイヤーコンサートの放送で入るバレエシーンのよう。 第3幕でのウィーンへの凱旋に繋げる仕掛けだろうがよく考えられている。

第3幕では、通常は第2幕フィナーレに歌われるアルゼーナとミラベラの二重唱に始まり、客席の扉から凱旋兵士が登場する。 ここでは客席中央を左右に抜けて舞台に上がるのところをここでもジュパンだけオケピットに向って笑いを誘う役回りを演じ楽しませてくれた。 このあとザッフィも登場して歌い上げる大団円となったフィナーレまであっという間。 もう終わるのかとちょっと残念な気持ちにもなったエンディングだった。 カーテンコールに続いて次回の予告をしたあと「働くなら何でもできる」を歌ってフィナーレを飾ったのは、見事な幕切れだと思う。 

会場が明るくなって周りを見渡すと観客の皆さんの満足そうな顔で埋め尽くされていた。 このような楽しさこそが喜歌劇の魅力なのだということを改めて感じた一夜でもあった。