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奈良フィルハーモニー管弦楽団 第13回定期演奏会

重厚なシューマンと力強いドヴォルザーク戻る


奈良フィルハーモニー管弦楽団 第13回定期演奏会
2003年9月15日(祝・月) 13:30 奈良県文化会館国際ホール

モーツァルト: 歌劇「ドン・ジョバンニ」 序曲K.527
モーツァルト: ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467
ベートーヴェン: 交響曲第5番ハ短調「運命」作品67

(アンコール:エルガー:愛の挨拶)
(アンコール:岡野貞一作曲、北川文雄編曲:故郷)

独奏: パトリシア・パニー(p)

指揮: 関谷弘志


オーケストラの持てる力を巧く引き出された運命でした。 解釈は現代的でややすっきりした感じの運命でしたが重量感もあり、とりたてて変わったことはしていないようなのですが、聴き手をぐいぐいと音楽に惹き込んでいく素晴らしい演奏に感動しました。
オーケストラは分奏がきちんとしているので全奏になってもまったく音が濁ることなく綺麗なアンサンブルが終始崩れることがありません。 これは指揮者の関谷さんによるところが大きいと思われます。 関谷さんは、的確なテンポ設定でオケを見事にリードしていました。 クライマックスになってもオケを煽ることなく、メンバー全員を見事にノセていましたし、抑える場面においても振りを小さくする程度でオケに余計な指示を与えることなく見事にコントロールしていたようです。 そんな関谷さんとの共同作業はこのオーケストラにとっても大きな収穫になったのではないか、と感じました。
またモーツァルトのピアノ協奏曲第21番は、パトリシア・パニーさんによるピアノの音色に魅入ってしまいました。 力まないし、テンポも妙に揺らしたりせず、綺麗な響きと音色の変化で奏でられたモーツァルトでした。 同じ音でも色々な色で表現されるのに驚きました。 日本ではちょっといないタイプなのではないでしょうか。 こちらも素晴らしい演奏でした。 パニーさんのアンコール曲は何なんでしょうか、パニーさんの特長の良く出された曲でした(後述:スカルラッティのソナタの中の曲のようです)。
次回の定期演奏会は新進気鋭の阪哲郎さんによる指揮が予定されています。 京都大学交響楽団との熱気溢れた素晴らしい演奏を思い出します。 奈良フィルのますますの飛躍を期待させる演奏会でした。


簡単に演奏会を振り返って見たいと思います。

いつもは慌てて駆け込むことが多く、落ち着いて聴くことの少ないプレ・コンサート。 今回はちょっと余裕で到着したので2階フロアから鑑賞させてもらいました。 柔らかなトロンボーン三重奏でした。 本番を控えてセーブされていたようですが、間近で楽器の音色に触れることのできるチャンスとして(オケマンにはかなり負担かもしれませんが)続けていって欲しいものです。
そんなプレ・コンサートやロビーの様子をカメラマンがしきりに撮影しているので「何かな」と思っていたら奈良テレビの収録があったようですね。 正直ちょっとうざったいなぁ〜と思いましたが、結果的に今回の素晴らしい演奏会の様子が映像記録に残ったのは良かったですね。 とにかくとても充実した演奏会でした。

定刻になり舞台が暗転、ホルンの東谷さんの登場。 そう、前回からプレ・トークもあったのでした。 単なる曲目解説をせず演奏を前にして奏者としての考え(原点に戻ること、スローライフを意識で音楽を楽しむこと)を述べられた東谷さんには共鳴するものがありました。 これも続けていって欲しいと思います。

さて第1曲目の「ドン・ジョバンニ」序曲、打点を明確にした覇気のある音楽でした。 
モーツァルトというからにはもっと洒脱さが欲しくなるんですが、ここでは構成感をしっかりと持たせた演奏で、ベートーヴェンに繋がる古典派の音楽として表現された印象を持ちました。 それでも奈良フィルの特徴である木管楽器の美しさがよく出ていましたし、弦の分奏もしっかりしていて始まった演奏会の期待を膨らませるには十分な音楽でした。

舞台が暗転、ピアノを運び、オケのメンバーも絞り込まれました(Vn1:8,Vn2:8?,Va:6?,Vc:5,Cb:2)。 長身のパトリシア・パニーさんは黒のパンタロン・スーツで登場。 なかなかの美貌の持ち主と思いますが、2階席からはちょっと見えにくかったのが残念でした。 東谷さんのプレトークでは大変に美しい音を奏でる方とのことでしたが、確かに音色の変化を大切にする日本ではちょっといないタイプのピアニストだったように思いました。 力まないし、テンポも妙に揺らしたりはしませんが、綺麗な響きと音色の変化で聴き手をぐっと惹きつけます。 同じ音でも音色を色々にに変化させた曲の表現に驚きました。 見事なモーツァルトを聴かせてもらいました。
第1楽章は、コントラバスが2本になったのに重心の低い序奏から始まりました。 ここに透明感のあるヴァイオリン、柔らかな木管楽器の響きも加わって上々の滑り出し。 個人的に20番や21番の協奏曲はベートーヴェンのようなしっかりした構成感を持った演奏が好きなので嬉しくなっていると、パニーさんのピアノが煌びやかに入ってきました。 ちょっと重厚なオケと見事な対比といった感じでしょうか。 このあともしばらく粒立ちの良い美しいピアノの響きに耳を傾けていたのですが、ふっと憂いを含んだ沈んだ響きになって吃驚しました。 音色が見事に変化し、はっとしましたね。 もうここから最後までピアノの響きに釘付け。 ずっとピアノの音ばかり聞いていたようです。 カデンツァは響きの多彩さを十分に演出したもので、力強さ、可憐さ、いずれも透明感を持ち心にすっと入り込んくるものでした。
第2楽章は全体的にゆったりとしたテンポでした。 パニーさんは粒立ちのはっきりした響きながら繊細にこの曲を弾き込んでいました。 オケはここでも内声部に重きを置いたちょっと厚めの響きによるサポートで、ここはもうちょっと響きを刈り込んでもよかったのではないか、と思いました。 しかしピアノの響きは十分に2階席まで届いてきてひ弱さを感じさせません。 確実なテクニックを持っている方ですね。
ほとんど休まずにスコアをさっとめくって終楽章に突入。 快活な音楽が一気に流れ出てきました。 ピアノは玉を転がすような透明な響き。 ここでもまったく力むことのないオーソドックスな曲の運びなんですが、常に響きに気を配ったピアノ演奏に身をまかせました。 カデンツァでは歯切れの良さと優しさをさっと披露したあと、オケと一体になって力強くこの曲を閉めました。
モーツァルトのピアノ協奏曲は実演で何度も聴いているのですが、満足する演奏に出会うことは稀です。 本当のことを言うならば、今回もちょっと危惧していたのですけれど、そんなことは杞憂に終わりました。 オケも構成感を持った響きによる好サポートで、とても満足しました。

休憩を挟んで、名曲であり大曲しかも難曲でもある「運命」。 これだけの超有名曲ですから、演奏する方も大変だと思いましたがこちらも杞憂でした。 終わってみると大成功で、オーケストラの持てる力が実に巧く引き出された演奏だったと思います。 現代的ですっきりとした感じの運命でしたが、迫力もありました。 解釈としてはとりたてて変わったことはしていないようなのですが、推進力があって聴き手をぐいぐいと音楽の中に惹き込んでいくすばらしい演奏でした。  オケとしては、とにかく分奏がきちんとしていました。 全奏になってもまったく音が濁ったりしません。 綺麗なアンサンブルは終始崩れることがなく、全奏でわっーと大音量になっても耳を澄ますと色々な楽器の響きが聞こえてきます。 けっして熱気に任せてダンゴになってたたみかけてくるようなものではありませんでした。 これは指揮者である関谷さんによるところが非常に大きいと思われます。 関谷さんは、的確なテンポ設定でオケを見事にリードしていました。 クライマックスでもオケを煽ることなくメンバーをノセていましたし、抑える場面では振りを小さくするだけです。 オケに余計な指示を与えることなく見事なコントロールでした。 良い意味でオケの自主性に任せた指揮のようですが、オケのメンバーもそんな関谷さんに見事にのせられていたようですね。 各自の持てる力が存分に発揮された演奏は、このオケにとっても大きな収穫になったのではないかと思いました(ちょっと偉そうですみません)。 とにかく聴き応えのある素晴らしい運命でした。
第1楽章、緊張の運命の主題。 フレーズの最後を少し早めに切り捨てるような感じでしたが、重厚感も充分にあってオーソドックスな開始だと思いました。 この後、たたみ掛けるあたり、フレーズをスパスパと切り、要所のホルンがタイトな響きで実にカッコよい音楽となっていました。 今風の解釈によるベートーヴェンなのですが、妙に軽々しくもなく聴き応えのある演奏ですね。 良い意味での中庸(オーソドックス)といった感じに思えました。 ティムパニのロールも的確に決めて、シャープなんですが重厚さも併せ持った充実した音楽が展開されていました。
第2楽章は、チェロ、ヴィオラ、コントラバスが豊かに歌う開始から透明感のあるヴァイオリン、暖かな木管楽器、輝かしい金管楽器、的確なティムパニのロール・・・このオケの魅力をあますところなく披露していました。 関谷さんと奈良フィルの良好な関係を垣間見た気がした部分でした。 関谷さんはけっしてオケを煽ったり、個々に細かな要求を出すことなく、また抑えるような仕草も見せません。 オケを信頼しオケ自らから語り掛けさせようとしているようでした。
第3楽章は、ホルンのタイトな響きがまずカッコよかったですね。 コントラバスの響きはちょっと控えめでしたので、ここにスポットライトを当てていたのかしら。 弦楽器のアンサンブルはここでも各パートが一体化していて、それがきちんと合わさった響きとなって届けられます。 力強く弾力を感じさせる響きなのですが、けっして無理をして出しているっていう感じじゃないですね。 余裕があります。 オケの皆さんが音楽をしようというやる気も感じたように思えました。
緊張感が徐々に高まってきて、迫力満点で輝かしい終楽章になだれ込みました。 ここでもヴァイオリンの透明感は失せませんし、全奏では普通は聞こえ難くなる木管楽器の音もピ〜ンと響いて通ってきます。 力を漲らせても余裕をも感じさせる力強い音楽に感動しました。 あえて原点に戻って古典に挑戦した、とプレトークで東谷さんが言われていましたが、その結果が見事に音楽に結実していました。 勢いだけではない素晴らしい運命ですね。 フィナーレの前の場面転換ですっと気分を落ち着かせたあと、また次第に高潮させてのエンディング。 最後は関谷さんが小さくすくうようにして曲を締めました。 最後を大仰にせず小さく纏めたところにも品の良さが伺えた演奏でした。

終演後、オケの皆さんからも笑顔がのぞいていました。 演奏を聴かせてもらった我々だけでなく演奏された皆さんにとっても満足した運命だったのではないでしょうか。 このような運命を聴くことができて幸せでした。 心の中まで音楽でどっぷりと浸し、心の動きを感じて帰っていただければ・・・というのは東谷さんの言葉でしたが、まさにそんな素晴らしい時間を頂くことができた演奏会でした。
次回は新進気鋭の阪哲郎さんによる指揮が予定されています。 京都大学交響楽団との熱気溢れた素晴らしい演奏を思い出します。 奈良フィルのますますの飛躍を期待させる素晴らしい演奏会でした。