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京都フィロムジカ管弦楽団 第14回定期演奏会

英国音楽らしいウェット感で充実戻る


京都フィロムジカ管弦楽団 第14回定期演奏会
2003年12月7日(日) 14:00 京都府長岡京記念文化会館

パリー: 交響的変奏曲(日本初演)
モーツァルト: 交響曲第31番ニ長調「パリ」K.297(300a)
ヴォーン・ウィリアムズ: 田園交響曲(交響曲第3番)(*)

アンコール: ヴォーン・ウィリアムズ: イギリス民謡組曲 第3曲:マーチ

独唱(*):好本由希子(S)

指揮:長野 力哉


なんとレイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(以下、RVWと省略します)の田園交響曲が聴けるという演奏会のチラシを見つけたので、長岡京まで足を運びました。 京都フィロムジカ管弦楽団、これまでもチラシを見て名前は知っていたのですが、都合が合わず、ようやく聴くことが出来たオケです。 学生と社会人が一緒になったこのオケのメンバーは皆さん若いですね。 やる気満々といった感じがびんびんと伝わってきます。 そして何よりテクニックが充分に備わっているオケですので、演奏は一糸乱れず、充分すぎるほどの熱気を感じた演奏でした。 そしてパリーもRVWも、英国音楽らしいウェット感を見事に感じさせたじつに素晴らしい演奏でした。 とにかくソロはもちろんのこと、裏で鳴らすホルンやオーボエ、コールアングレなどが安定しています。 またオケ全体も徐々に盛り上げていったかと思うと瞑想的になるなど変幻自在。 とても素晴らしい演奏に満足して帰ってきました。
惜しむらくは、モーツァルトの交響曲ではその熱気が僕の個人的な感覚からズレてしまったことでしょうか。 しかしこれとて若いエネルギーのよく出てたきちっとした演奏でした(感覚が合わなかったのは指揮者のせいかもしれません)。 
とにかく今回の演奏会は、1年後に予定されている次々回の定期演奏会で予定しているエルガーの大作・交響曲第1番にむけ、英国音楽への理解を深めることが目的だったそうです。 プログラムに書かれていました。 1年後が楽しみですね。 また蛇足ですが、次回の定期演奏会は、ハーティ「雁の群れとともに」、ヒンデミット「至高の幻想」、伊福部昭「タプカーラ交響曲」という、これまた凝った選曲ですね。 こんな意欲的なプログラミング、こちらも楽しみです。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

このところ毎週末に宿泊出張が続いてしまい、身体は疲れがたまっていましたけど、天気もよくなってきたので、えいやっ!と思い切って長岡京まで出かけました。 家でゴロゴロしてても良いことありませんものね。 生でRVWの田園交響曲を聴ける機会なんてそうザラにありません。 移動中の地下鉄でしっかりと睡眠をとって英気を養い、梅田から30分、阪急の特急電車でポカポカ陽気を味わながら長岡天神に到着しました。 思い切った時間が遅かったのですが(それだけ疲れもたまっていたんですね)、なんとか開演20分前にホールに入ることができました。
ホールに入るとロビーコンサートとして廣瀬量平の「朝のセレナーデ」が始まろうとしているところでした。 このオケの演奏会、ロビーコンサートのプログラムも凝っているのに吃驚しました。 ミヨー、ガーシュウィン、廣瀬量平、ハンス・リヒターの作品が1時15分から開演前まで、メンバーが入れ替わり立ち代わって演奏しているんですね、すごい。 ただ難点を挙げさせてもらうなら、男子トイレの前に人だかりが出来てしまうので、小用を足すためにも人をかきわけないといけませんでした。 でもまぁ小用を足しながら、またホール内の席についてもロビーコンサートの音楽が聞こえてくるのは良いものなんですけどね。
さてホールの座席は、中央列の真ん中、後ろから数列目に陣取ることができました。 プログラムが凝っているせいでしょうかね、お客さんはそんなに多くもなく、学生さんが多いみたいですね。 なおステージを見るとオケは対抗配置となっていました。 しだいにお客さんが増えてきましたが、最終的にはだいたい5割ちょっとは入ったでしょうか。 さっきも書いたとおり、ロビーコンサートの音を聴きながらプログラムを読んで開演を待つことにしたんですが、なんとこのプログラムが詳しいのにもため息が出ました。 マニアックといってもいいほどの記載内容ですね。 読み応え充分です。 じっくりと読んでいるとあっというまに開演時間になってしまいました。

メンバーが整列入場し、チューニングが終わって長野さんがにこやかに登場しました。 第1曲目は、サー・チャールズ・ヒューバート・ヘイスティングズ・パリーの交響的変奏曲。 エルガーのエニグマ変奏曲にインスピレーションを与えたと曲とのことで、基本テーマと27(細かく分けると29)の変奏で構成されているそうです。 かつテンポと調整によって6つに分けてソナタ形式を構成するために交響的と称するということがプログラムに書かれていました。 なお日本初演とのことです。 始めて聴くために、感想文には要領を得ない部分もあるかもしれませんが、とにかくメリハリの効いた充実した音楽造りに満足しました。 ホルンや木管がしっかりしているので聴いていても不安になることなど全くありません。 とにかく巧いオケだなぁ、という実感を持って聴かせてもらいました。 
曲の冒頭は木管アンサンブルによる気持ちの良い響きで始まりました。 続いて芯のあるコントラバスの響きが加わったあと、チェロとヴィオラのしっかりとした響き、そしてまた木管が入ってからヴァイオリンとティムパニが加わるあたりまで、一気に聴かせてくれました。 ティムパニはちょっと轟音といってもいいかもしれない響きを刈り込んだ力強い音だったのが終始印象的でした。 変奏曲なのでフレーズが持ちまわされてゆくのですが、長野さんは指揮台の上を終始動き回るというより歩き回るといった感じすね。 各パートのほうに歩いて移動しては大きな身振りで表情をつけていました。 ホルンがタイトなんですが響きに艶がのっているが素適でしたね。 あとフルートも柔らかくほの甘い感じでした。 しかもベースになる弦楽器がとにかくびしっと揃っているので音楽にゆるぎがない、って感じだったでしょうか。 オケ全体に気合が入っていたように感じました。 そして終結部は一段と強い響きになったファンファーレで盛り上げたあと、打点を明確にしたエンディングでした。 たしかにエニグマに似た感じも受けた曲でした。

オケのメンバーが一部ひっこんで、モーツァルトのパリ交響曲。 なぜここにモーツァルトが入ってくるのか、ちょっと理解しづらいのですが(前曲の作曲者パリーの後だからパリ交響曲・・・そんなことはないでしょうけどね)、演奏自体も申しわけありませんが僕にはちょっと理解しずらいものでした。 いえ、演奏自体は破綻どころか、前曲同様に終始しっかりした演奏でとても巧かったし、熱気もあるきちんとした演奏だったのですが、まったくもって個人的な気持ちとしてついてゆけない感じで聴いてしまいました(すみません)。 
第1楽章、冒頭からぎゅっと凝縮した音楽による開始でした。 ティムパニはさっきとは違って重い響きでしたがタイトさは同じです。 音楽がとてもきちんとした感じでずんずんと進んで行くのですが、それに反して僕の気持ちがどんどんと取り残されてゆきました。 プログラムに書かれたようなアイロニカルな演奏を目指していたんでしょうか(そのように思えました)、もしそうだとしたら(個人的には)もっと弦楽器の数を減らして欲しかったなぁ(確かこの演奏では 13,10,8,6,5 の編成だったでしょうか)。 ストイックに響く現代音楽っぽいモーツァルト(以前に本名徹次さんが大阪シンフォニカーで聴かせてくれたフレーズを短く刈り込んで現代音楽みたいなストイックなモーツァルト)、そんな風に響くのが好みなんだけどなぁ、なんて思ってしまったわけです。 しかし弦のメンバーは多くてもよく揃っていて巧いんですよね(巧いと思いますけどね)、なんか分厚い響きがどんどんと繰り出されてくるみたいに感じました。 そこで全く違う方向性として、もしこのように厚い響きを演出するならクリップスのようなエレガントさでもって響かせて欲しい、なんて思ってしまいます。 ただどうもこの演奏が標榜しているところは前にも書いたように違うところにあるように感じたしだいです(勘違いだったらすみません)。 とにかくそんなことばかり考えながら音楽を聴いてしまいました。 
第2楽章はゆったりとしたアンダンテ。 通常演奏される第2稿ではなくモーツァルトが気に入っていたという初稿による演奏でした(これもプログラムによる)。 冒頭から弦楽器の各パートが響きあっていて、これによって音楽の熱気が増幅していったようです。 長野さんは、音楽の流れというものをとても大切にしているのかもしれませんね。 時折指揮棒を左手に持って右手で表情をつけながら、音を繋いでゆく。 音と音の隙間を無くしているような感じでした(しかし個人的には前にも書いたようにフレーズをもっと短く切って欲しかったのですけどね)。 この楽章では珍しく管楽器が入る場面でちょっと事故らしきものを感じた面もありましたが、非常にきちったしたメヌエットで、オケも終始長野さんによくついていました。
第3楽章は快活で熱い音楽で始まりました。 なんかずっと熱いと書いているみたいなんですけどね、とにかくこの楽章もまた気合が入っていたようです。 プログラムには第1ヴァイオリンが弱奏が・・・と書かれているんですが、あまり音楽的な変化は感じられませんでした。 そこで気付いたんのですが、このモーツァルトの演奏、音の強弱の変化があまり感じられませんでした。 スコアを見たことがありませんが(もっというと読むこともできませんが)、ふつう音の変化がp(ピアノ)からf(フォルテ)までの変化があるとして、この演奏ではmfからffで推移しているみたいな感じなんですね。 これってオケの皆さんが若いからでしょうか(ぼくが年寄りなだけでしょうけどね、きっと)。 もうちょっと弱音による魅力が感じられる演奏がいいなぁ、ということが結論だったかもしれません。 だからフィナーレになってティムパニがドカドカと叩いたあたりなどちょっと煩くも感じてしまったしだいです。 とにかく演奏が下手ならこのようなことは絶対に書きませんけど、メンバーの技量が高く、合奏能力に秀でたこのオケですから、ちょっと個人的な感想としてこんな書いてしまいました。 間違いもいっぱいあると思いますが、気に障ったらごめんなさい。

さて休憩をはさんでお待ちかねのレイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(RVW)の田園交響曲。 モーツァルトには特別な感情を持ってしまったのですが、このRVWも今から30年ほど前、バルビローリの指揮するレコードでロンドン交響曲や交響曲第8番を聴いてからのお付き合いです。 まだクラシック音楽を聴き始めて1〜2年、ブラームスよりも先にRVWを聴いていました。 ただし貧乏なのであまりレコードは買えませんでしたけどね、僕の心のなかでは、故三浦淳史さんの心のこもった解説とともに英国音楽はちょっとした憧れをもった存在として存在しています。 そんなRVWの田園交響曲を生で、しかも見事な演奏で聴かせてくださったことに心から感謝したいと思います。 とにかく素晴らしい演奏でした。 ソロはもちろんのこと、裏で鳴らすホルンやオーボエ、コールアングレなどが常に安定していましたし、オケ全体も徐々に盛り上げていったかと思うと一転して瞑想的になるなど変幻自在。 ウェット感を感じさせた素晴らしい演奏に大いに満足しました。 なお蛇足ですが、この演奏ではp(ピアノ)による描写も見事にされていましたので先のモーツァルトの演奏については指揮者の解釈上のことだと思っています。 とにかく、長岡京まで足を運んだのは大正解でした。 満足して帰ってきました。
第1楽章、フルートとクラリネットによる柔らかい合奏にハープ、コントラバスがちょっと重い響きで加わってきました。 ヴァイオリンのソロがしとやかに入り、じわじわっと感じがまさにRVWの世界ですね。 嬉しかった。 このあともホルン、コールアングレ、ヴィオラ、クラリネット、ヴァイオリン、オーボエのソロが続くのですが、いずれも巧い、見事でした。 それに何より裏で吹いているホルンが安定しています。 オケ全体による音をつないだ暫増・暫減をじつに素晴らしく表現してて聴き応え十分でした。 しばしRVWの音の世界に聞き惚れてしまいました。 ティムパニがタイトに叩いてクライマックを築いてからすぅっと退いてコールアングレの響きによるエンディングも素敵でした。
第2楽章、弦のトレモロに続いてナチュラル・ホルによるソロが入ってきます。 朴訥とした響きがとても素晴らしくて、思わず唾を飲み込んだのがいけなかった。 ちょっと気管に入ってしまったようです。 激しく咳き込みそうになり、これを抑えるのに必死で、酸欠状態になってしまいました(くそっ)。 しかしナチュラル・トランペットのソロの前にはこれもおさまって哀愁を持ったラッパの響きは堪能できました。 とにかく瞑想的なアダージョ、ぐっと盛り上がったかと思うと、すぅっと退いて漂うような感じ、じんわりとしたこの楽章を楽しませてもらいました。 ちょっと大げさかもしれませんが、こんな素晴らしい音楽をナマで聴ける幸せを噛み締めていました。
第3楽章、この楽章はダンス・ミュージックとのことですが、一癖も二癖もあるって感じですね。 オケは重い響きなんですが、けっして引きずることがなく、いくつかのクライマックスを築いては潮を退かせるような演奏が素晴らしいかったですね。 中低弦の重い響きにホルンが入ってくる奥深い感じによる開始のあと、一服の清涼剤のようなフルートの響きが入ってきたんですが、また重く強い響きに戻っていきます。 見事な統率ですが、このあとのトランペットのソロがまた素晴らしかった。 華やかさに満ちたとは言い切れない切迫感というか真摯な響きを感じました。 この響きは後半一段と大きくなっていました。 このあとまた寄せては退く意味深さを感じさせる音楽を繰り返していました。
終楽章、ティムパニのトレモロが厳かに響いてから、バンダでソプラノによる歌詞のない歌が響いてきました。 ホールの後方にいた僕は、ホールの客席、ステージのオケ・メンバーを見渡しながら、このちょっと異様ともいえる雰囲気に面食らうとともに、その反面ホールにいるすべての人間がこの歌詞のない歌に耳をすましているんだという共有感、とても不思議な感覚にとらわれてしまいました。 これは絶対にナマでしか味わえないものですね。 素晴らしい歌唱でした。 ほんと身震いしそうな感じもしました。 さて、そんな時間が流れたあと、弦、木管がしっとりと響き、今度は明るい民謡調の音楽にしばし身を委ねました。 やはりじわじわっと音楽が大きくなったかと思うと、すっと退いて遥か彼方から聞こえるようなホルンの響きが素敵です。 このあとはチェロ、ヴァイオリン、ヴィオラなどのソロ・パートが織り込まれた多彩な響きを堪能しました。 これらもまたCDで聴いているだけではよく分からないと思いました。 弦楽アンサンブルよる悲しみがこめられた音楽からクライマックスが徐々に築かれたあと、これを頂点にまた感嘆としたソプラノ独唱が彼方から響き、そしてそっと静かに曲を閉じました。 見事な演奏でした。 とにかくこれほどまでにしっかりとしたRVWの音楽を耳にできたのが本当に夢のようでした。
全体を通じて、実に安定感のある演奏を堪能させてもらいました。 もちろん表現力も見事の一言です。 とても素晴らしい演奏に満足して帰ってきました。 1年後の次次回定期演奏会でのエルガーの大作・交響曲第1番。 そして次回定期演奏会でのハーティの「雁の群れとともに」、ヒンデミット「至高の幻想」、伊福部昭「タプカーラ交響曲」といった凝った選曲もまた楽しみです。