BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
ならチェンバーアンサンブル 第67回定期演奏会

若いアーティストとの競演による充実した演奏会戻る


ならチェンバーアンサンブル 第67回定期演奏会
2004年5月8日(土) 14:00 学園前ホール

ドヴォルザーク: 弦楽四重奏曲第12番 ヘ長調 op96「アメリカ」より第1楽章
ドヴォルザーク: 森の静けさ <Vc,p>
ドヴォルザーク: ユーモレスク <Vc,p>
ドヴォルザーク: ソナチネ ト長調 op100 より第2・4楽章 <Vn,p>
スメタナ: ピアノ三重奏曲 ト短調 op15 より第2・3楽章 <Vn,Vc,p>
ドヴォルザーク: ピアノ五重奏曲 イ長調 op81

(アンコール) ドヴォルザーク: スラブ舞曲第2集より第10番 <ピアノ連弾>

五十嵐由紀子(ヴァイオリン-1)Vn
海田仁美(ヴァイオリン-2)
植田延江(ヴィオラ)
斎藤建寛(チェロ)Vc
萬谷衣里(ピアノ)p
山田剛史(ピアノ)


いつもながら、ならチェンバーの素晴らしいアンサンブルを堪能しました。 今回の演奏会は「ボヘミアの風」と題し、ドヴォルザーク没後100年を記念したもの。 ドヴォルザークのメロディやハーモニーの素晴らしさを改めて感じた演奏会にもなりました。 いずれの曲も、各楽器が有機的に絡みあい、響きあっています。 対抗することはあっても対立することのない響きの調和を堪能させてもらいました。
前半はオムニバス形式。 小品や弦楽四重奏曲、ピアノ三重奏曲の楽章を抜粋という構成でしたが、集中力の高い演奏で散漫な印象などまるでなく、逆に、総ての楽章を聴きたいと思えるほどの充実感を覚えました。 特にスメタナのピアノ三重奏曲が素晴らしかった。 ピンと張った空気感、深い感情表現による熱演でした。 じんとくるものを感じました。 また後半のピアノ五重奏曲、よく歌うソロとリズム感による清々しいアンサンブルでした。
ならチェンバーのアンサンブル、いつもにも増して緊密で熱演でした。 それは今回、若いピアニストとの競演があったからではないでしょうか。 萬谷さんのピアノは、深い響きの中にキラっキラって輝くものが感じられるのが特徴的で華を感じさせます。 また山田さんのピアノは肌合いのとても柔らかい響きが特徴的でした。 斎藤さんの最後のスピーチの中で「私達も歳をとりました」と言っておられましたが、若いアーティストと競演したことが全体のアンサブルにとっても良い刺激になっていたのではないでしょうか。 とにかくどの曲もとても充実した演奏内容で、ボヘミヤの風を満喫して帰ってきました。


さて、簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

今回も満席、補助席も出ていました。 とくに学園前ホール(305席)での演奏会は、座席数が少ないこともあり、今回はなんと3日間で完売したそうです。 それだけ人気の高い演奏会なのですが、ふっと気付いたら、年4回だったと思った演奏会が、年2回ペースになっていますね。 これも奈良市の税収不足の影響でしょう。 いつまでも途切れず続けていって欲しいものです。

ところで今回は珍しく開場時間に到着したつもりが、ちょっと遅かったのでしょう、既にホールは開いていました。 満員になることは予想していましたし、自由席ですので、できるだけいい席を選びたかったんです。 慌てて中に入ると、すでに中央付近は埋まっていましたけれど、できるだけ前の方を・・・と思って歩いていったら、前から2列目が空いてました。 今回はここに決めました。 オーケストラ演奏だと響きが調和する後ろを選ぶのですけれど、室内楽は演奏者の方のオーラを感じるほどの前の方に座りたいと思っています。 これでひとまず安心です。 この後も続々とお客さんがつめかけて、ホールは満員となって定刻を迎えました。

薄いブルーのドレスを着た五十嵐さんが登場。 今回の演奏会はドヴォルザーク没後100年にちなんで「ボヘミヤの風」と題し、ドヴォルザークの人生や人柄、彼の愛したボヘミヤの風景に想いを馳せたいとの趣旨説明をされました。 そして弦楽四重奏曲「アメリカ」についての解説。 5音音階の話やドヴォルザーク自身がヴィオラ奏者だったことからヴィオラがソリスティックに扱われていることについてのお話しでした。 このような演奏者に方による解説、聴く側からすると本当に有難いものです。 このようなこともこの演奏会の人気になっていると思います。

さてその弦楽四重奏曲「アメリカ」。 第1楽章のみの演奏でしたけれど、よく歌う渾身の演奏でした。 まずは小手調べかな・・・と、勝手に思っていたのですけれど、まったく違っていました。 失礼しました。 ヴィオラのほの甘い響き、チェロの明快な響きも素晴らしかったのですけれど、ヴァイオリンによる第2主題がとても素敵でした。 五十嵐さんのヴァイオリン、ちょっとまだ固いかな、なんて思っていましたけれ、ここのメロディにはほろっとくるものを感じました。 そして気合の入ったアンサブルで纏めていました。

斎藤さんが出てこられて「森の静けさ」と「ユーモレスク」の解説に続いて演奏に入ります。 ピアノ伴奏は萬谷さん。
「森の静けさ」は、元曲では「平穏」という名であったとの斎藤さんのお話がありましたけれど、けっこう熱い情熱を秘めたような演奏でした。 間近で聴いているせいもあるでしょうが、斎藤さんの気合が伝わってくるようです。 それでも音楽はゆったりと呼吸をしています。 そしてそんなゆったりとした時間の流れとともに音楽をじっくりと味あわせてもらいました。
「ユーモレスク」は、冒頭部分、旋律のリズムを強調したあと、ちょっと粘りつくような感じで曲を進めていたようです。 中間部はぐいぐいと弾いていましたね。 おなじみの曲ではあるのですけれど、弛緩することなどなく、巧みにこの曲を聞かせて頂きました。

五十嵐さんが登場されて「ソナチネ」についての解説。 子煩悩であったドヴォルザークが子供のために書いた曲とのことでした。 この曲の伴奏も萬谷さんが受け持っていました。
第2楽章、五十嵐さんのヴァイオリンの響きが凛としています。 その響きの中に優しさを感じました。
第4楽章、ヴァイオリンとピアノの会話が素敵でした。 そして後半、リズムに乗ってぐんぐんと走っていく部分、こちらまで音楽に乗せられてしまったようです。 五十嵐さんも萬谷さんも潔さがあって、よかったですね。 演奏後の拍手も一段と大きかったようです。

前半最後はスメタナのピアノ三重奏曲。 斎藤さんの解説でした。 解説の内容(最愛の娘の死)はもちろんのこと、その話ぶりからも真摯にこの曲に向っている気持ちが伝わってたのですけれど、今回の演奏会では白眉ともいえる演奏内容だったと思います。 ピンと張った空気感、深い感情表現による熱演でした。 聴いたあとにじんとくるものを感じました。
第2楽章、冒頭からぐっとくるものを感じ、これは凄い演奏になるな、と直感しました。 3者が有機的に絡み合い、響きあい、対抗することはあっても対立することのない調和のとれたアンサンブルが何より素晴らしかったですね。 この楽章を終えたあとで、思わず拍手が飛び出したのも納得できます。
第3楽章、とにかく熱演でした。 心のこもった音楽は本当に素晴らしいと感じました。 五十嵐さん、清潔感のあるヴァイリンが潔く、頬に汗がつたって落ちるほど気合が入っていました。 斎藤さん、強い意志を感じさせるようなピンと張ったような演奏でした。 そして萬谷さんのピアノもベテランに臆することなく雄弁でした。 単に綺麗で粒立ちの良いだけじゃなくって、響きの中に芯というか意志を感じます。 そして深い響きの底にキラっキラって輝くところ、本当に素晴らしかった。 これまでの伴奏の中でも、このような輝きを随所に感じていて、出谷さんが絶賛されたのも分かるような気がしました。

さて15分間の休憩のあと、五十嵐さんに紹介されて大川奈良市長が登場。 萬谷さんと山田さんの激励ということでしたが、半分は史跡文化センター取り壊しに対して理解を得るためのスピーチになっていたような・・・あと、ならチェンバーを続けていく意志を持たれていることも分かったのは収穫でした。

斎藤さんの解説のあと、いよいよメインのドヴォルザークのピアノ五重奏曲。 解説では、先に弦楽四重奏の部分を作ってからピアノと合わせるとか。 演奏は、その話を聞いたこともあってか、弦楽四重奏がやや勝っているように感じましたが、香り豊かなドヴォルザークを堪能しました。
なお山田さんのピアノ、響きが柔らかくとても肌触りの良いのが特長的でした。 伸びやかで清々しい第3楽章が一番マッチしていたでしょうか。 そして終楽章、ピアノにも気合が入りましたけど、煌いていても響きのまろやかさをまったく失わず、素晴らしかったです。
第1楽章、その柔らかいピアノの響きからチェロの旋律が素敵でした。 各ソロとも薫り高く、よく歌っていました。
第2楽章は、深々としたヴィオラが印象的。 ほんとドヴォルザークにはヴィオラのソロが多いですね。 当たり前なのでしょうが、互いが互いを見合わせながらの息のあったアンサンブルが素敵でした。
第3楽章の前にチューニングをしたからでしょうか、アンサンブルに伸びやかさが増したようです。 ピアノの柔らかい響き、肌触りのよさが魅力的で、風薫る5月にピッタリの音楽だな、と感じました。
終楽章はリズムの切れが冴えていました。 五十嵐さんの伸びやかなソロがよく歌っていて、またそれにぴったりと寄り添うような海田さんのヴァイオリンもまた素晴らしかった。 海田さん、常に五十嵐さんを見ながら合わせていました。 緊密という言葉が本当にぴったりの全員のアンサンブルでこの曲を閉じました。 素敵なピアノ五重奏曲で、ドヴォルザークの旋律を堪能しました。

この時点で16時15分。 斎藤さんのスピーチのあと、萬谷さん、山田さんが解説されたアンコールは、このお二人の連弾によるスラブ舞曲集より第10番。 
高音部を萬谷さん、低音部を山田さんが担当。 息もピッタリと合い、またお二人の個性もよく出ていた演奏ではなかったでしょうか。 とても素敵でした。
そしてあっという間に終演。 16時30分、ちょっと長かったけれど、そんな時間の長さをちっとも感じさせない充実した演奏会でした。