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奈良フィルハーモニー管弦楽団 第15回定期演奏会

素晴らしいシャルリエ氏の演奏に感嘆戻る


奈良フィルハーモニー管弦楽団 第15回定期演奏会
2004年9月12日(日) 13:30  奈良県文化会館・国際ホール

ラヴェル: マ・メール・ロワ
サン=サーンス: ヴァイオリン協奏曲第3番

 (アンコール)ジャン・マルティノン: ソナチネ
 (アンコール)岡野貞一作曲/文部省唱歌:「紅葉(もみじ)」

ビゼー: 交響曲第1番

 (アンコール)ビゼー: 「アルルの女」第2組曲より「ファランドール」

独奏:オリビエ・シャルリエ(vn)

指揮:秋山和慶


期待どおり、いやそれ以上の演奏でした。 特にオリヴィエ・シャルリエさんのヴァイオリンに魅了されました。 また奈良フィルの特質がよく出た上質な音楽の数々に満足して帰ってきました。
マ・メール・ロワは、バレエ版ではない管弦楽版による5曲。 いずれの曲でも管楽器奏者が大健闘していました。 もちろん弦楽アンサンブルもすっきりした響きに低弦が絡まって柔らかいアンサンブル。 オケが一体となって突出することなく、それぞれの物語を一つの音楽とし、素適なお伽の世界を演出。 上々の滑り出しでした。
サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番はメロディの宝庫。 シャルリエさんはこの曲をさらに優雅で華のある演奏に仕上げ、会場を魅了していました。 シャルリエさんのヴァイオリンの響きは暖かく、まるで鼻にかかるフランス語の発音みたい。 しかも美しく柔らかいだけでなく、きちんとした主張があるのが素晴らしいところです。 けっして声高にはならないのですけど、一歩前に踏み込んで歌い上げるときの自信と余裕。 また秋山さんの元に歩みよってオケと協調する場面も散見され、実に素晴らしい演奏に感嘆しました。 なお奈良テレビのカメラも入ってましたけど、この美しい音楽の襞は到底収録することは出来ないだろうな・・・そんなことを思いつつカメラを横目で見、この幸せな音楽に酔っていました。
いよいよメインのビゼーの交響曲。 よく言われるように快活さはハイドン、メロディはシューベルトといったところでしょうか。 秋山さんと奈良フィルはここでもしっかりした構成と、終始抑制された表現で決して突出することない誠実な演奏でした。 この明るい曲を緻密なアンサンブルで演奏した弦楽器の美しさは特筆しておくべきと思います。 
ただ、もうちょっとオケに自主性があっても良かったような気はしました。 そう思えたのはアンコール曲「アルルの女」の「ファランドール」を聴いてから。 こちらはよく言えば気合の入った演奏ですけど、直裁的な表現で押し切った感じ。 練習量の差がストレートに出たように思います。 これを聴いてビゼーの交響曲を思い返してみると、交響曲ではオケとしてはかなり精神的なプレッシャーがあったのではないかと感じました。 これはまったくの想像ですけれど、より美しく、きちんと整った演奏にしよう・・・そんな抑圧が必要以上にあったのではないでしょうか。 もし、そのようなものが解き放たれ、各自の主張する歌のようなものが感じられたなら、もっとチャーミングで素晴らしい演奏になったのかもしれません(偉そうにすみません)。 これまでの奈良フィルを聴いてきた耳からして、これは決して高望みであるとは思っていないことを付け加えておきます。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

天気は良いけどちょっと強い風を受けながら家を出ました。 もう5年前になります。 1999年の台風一過の日。 猛烈な風で団地の立ち木が倒れていたのを横目で見つつ、始めて奈良フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に伺いました。 その時が第5回の定期演奏会。 それから数えてもう10回目になります。
オーケストラは生き物である、とよく言われますけど、成長するオーケストラを継続して聞くのは嬉しいものです。 しかもこれまで、井村さん、関谷さん、阪さんと若手指揮者との組合せでしたけれど、今回は秋山和義さんが指揮されます。 このベテラン指揮者のもと、どのような音楽を聴かせてもらえるのか楽しみにして出かけました。

開演30分前にホール到着。 すでに開場されていました。 長蛇の列が出来たので早めに入場させたのでしょうね。
ホールに入ると、ロビーに打楽器が。 今回のロビーコンサートは打楽器でした。 演奏会本番前のロビーコンサート、聴く我々は間近で音楽を聴けて嬉しいのですけど、演奏者の方に過重な負担になるんじゃないかな、と常々思っています。 しかも今回はオール・フランス音楽プログラム。 管楽器奏者の方にとってはかなり負担が大きいのでは、と思っていたので、打楽器の選択には、なるほどって思ったしだいです(あ、別に打楽器奏者の方が本番で楽しているとは思っていませんよ、念のため)。

いつもどおり2階席に駆け上り、ぐるっと見渡したら中央右側の最前列が空いてました。 ここに決まり。 腰を降ろして、ふっとステージを見たらフルートの原さんが練習してらっしゃいました。 かなり念入りに吹いてらして、こちらでもプレ・コンサートのような雰囲気。 楽しませていただきました。 なんだか得した気分です。
随分と客席が埋まり、1階席はほぼ満席に近い状態でしょうか。 2階席は3〜4割ってところかな。 いよいよ客席の照明が落ちて開演です。

恒例になった東谷さんのトーク。 今回は「絵文字」について(このTV番組、偶然見ていました)。 細かく説明しすぎるとかえって意味が通じなくなってしまうことがある。 あるがままで今回の音楽を聴いてほしいとのこと。 
確かに、自分にとってもフランス音楽はちょっと苦手な分野。 ドイツ音楽のようは構成感のしっかりした音楽は馴染み易い体質であるし、逆に現代音楽のように調性や旋律など全く無い音楽のほうがかえって心を解き放ち易い(というか放たないと聴いていられない)ので観念してしまうのですれど。 今回のフランス音楽も東谷さんの言われるように聴いてみよう・・・と期待が膨らみました。

チューニングが終わると、背筋がピンと伸び、にこやかな秋山さんが登場。 初めて自分から聴いた演奏会の指揮者が秋山さんだったのはもう30年以上昔です。 懐かしくもあって期待がますます膨らみます。

「マ・メール・ロワ」はバレエ版ではない管弦楽組曲版。 いずれの曲も素適な音楽によるお伽の世界でした。 オケは常に一体となっていて、突出することなく、柔らかい音楽が続きました。 管楽器は大健闘ではないでしょうか。 もちろん弦楽アンサンブルもすっきりした響きが基調ですけど、柔らかく芯のある低弦が絡まって聴き応えありました。 上々の滑り出しでした。
1曲目は「眠りの森の美女のパヴァーヌ」。 優しい響きのヴィオラとチェロに乗せてフルートのソロが端正な始まり。 とにかく柔らかいふわっとした音楽でした。
2曲目は「おやゆび小僧」。 ここでもふわっとした弦のアンサンブルが素適でした。 オーボエやコールアングレが静かに溶け合わさっている感じ。 瑞々しいピッコロによる鳥の囀りには会場がパッと明るくなったようでした。
3曲目は「パゴタの女王レドロネット」。 パーカッション、フルートとピッコロが煌くよう。 ホルンが柔らかいけれど芯もあります。 銅鑼が鳴ってエキゾチックな音楽にますます磨きがかかったみたい。 上質な音楽でした。
4曲目は「美女と野獣の対話」。 漂うような弦楽器にのせたクラリネットが柔らかくて素適。 美女ですね。 コントラファゴットの野獣の登場では空気も変わったみたい。 でも優しさは不変です。 八軒さんのソロ、チェロのソロも清楚でした。
5曲目は「妖精の国」。 インターヴァルをほとんど置かずに続きます。 柔らかな弦のアンサンブルは羽毛に包まれたみたい。 ここでも八軒さんのソロがとても清々しい。 フィナーレは柔らかさを保ったまま大きくし、煌びやかさを感じさせて纏めました。 凄い。
これまで聴いてきた奈良フィルとは響きの質が随分と洗練された感じです。 いつも感想文では「上質な音楽」と書いているのですけれど、いつも以上に一体感を持った素晴らしいアンサンブル。 さすが秋山さん、と思ったしだいです。

ヴァイオリンの席が後ろにずらされてトランペットとトロンボーンが登場、ホルンが入れ替わって準備完了。 長身のオリヴィエ・シャルリエさんと秋山さんが供ににこやかに登場しました。

サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番。 メロディの宝庫のような曲です。 シャルリエさんはこの曲をさらに優雅で華のある演奏に仕上げて会場を魅了していました。 
シャルリエさんのヴァイオリンの響きは暖かく、まるで鼻にかかるフランス語の発音みたい。 しかも美しく柔らかいだけでなく、きちんとした主張があるのがまた素晴らしいところです。 決して声高にはならないのですけど、ステージ上で一歩前に踏み込んで歌い上げるときの自信と余裕。 そしてまた秋山さんの元に歩みより、オケと協調する場面も散見され、押して引いて歌って、いずれも実に素晴らしい演奏に感嘆しました。 
なお奈良テレビのカメラも入ってましたけれど、このシャルリエさんの美しい音楽の襞は到底収録することは出来ないよな、この場に居合わせたものの幸せだな・・・そんなことを思いつつカメラを横目で見、音楽に酔っていました。

第1楽章、弦のトレモロをバックにシャルリエさんのソロが登場。 実に柔らかいのに驚きました。 尖ったところのない高音が伸びてゆきます。 普通なら柔らかいと音キレが曖昧になりそうなんですけど、もたれることなどなくスッ〜と消えてゆく。 しかもよく歌っています。 オケは柔らかさを基調にしていますけど、元気のある伴奏。 ソロと対比しているのでしょうか。 なおシャルリエさんは秋山さんをよく意識し、息を合わせて曲全体を盛り立てているような感じ。 決してこの曲を自分だけの独壇場としているようではないところもまた素晴らしいところです。

第2楽章、とにかく濡れたような艶やかな響きに魅了されました。 漂うようでありながら、客席へ一歩前に踏み込んで歌いあげる自信と余裕。 また指揮台ににじり寄ってオケと協調する優しい表情。 フラジオレットの連続技もまったくブレることなく囁きかけて見事でもう溜息が出るほどでした。 またオケの管楽器もやわらかく応えて素適でしたけれど、シャルリエさんに魅了されっぱなしでした。

第3楽章、力が入っても全く押し付けがましさのない響きによる開始。 ガツンとはこないけど、クラクラっときてここでも圧倒されっぱなし。 オケも透明感のある弦楽アンサンブルで応えます。 力強く主題が戻ってきて音楽が快活になると、シャルリエさんはオケを見て合わせて、柔らかいソロで歌いあげ、曲を締めるまでもう感嘆しっぱなしでした。 
美しい響きの空気感って言うのでしょうか、そんなものに酔っていたようです。 これは絶対にTVでは収録できないでしょう。 実演を魅力をたっぷりと味合わせていただきました。

会場から割れんばかりの拍手に応えたアンコールはジャン・マルティノンのソナチネ。 有名な指揮者マルティノンが作曲したものでしょうか。 曲はテクニックを駆使したものでしたけれど、いくらパッセージが速くなっても常に鼻にかかるようなフランス語みたいな響きが素敵です。 深い響きはどこかヴィオラ風でもあり、とにかく響きの柔らかさに驚きっぱなしでした。
更に拍手は鳴り止まず、今度は秋山さんを連れてのアンコール。 弦楽アンサンブルとともに「紅葉」。 歌詞が自然と浮かんでくる「うた」のある演奏にシビれました。 しかも暗譜。 日本人でもこれほどまでにクセを感じさせない綺麗な日本の歌として演奏するのは難しいのではないでしょうか。 う〜んんん、感嘆。 素適に音楽に酔った実に幸せな時間でした。

15分の休憩のあとは、いよいよメインのビゼーの交響曲第1番。 よく言われるように快活さはハイドン、メロディはシューベルトといったところでしょうか。 秋山さんと奈良フィルはここでもしっかりした構成と、終始抑制された表現で決して突出することない誠実な演奏でした。 この明るい曲を緻密なアンサンブルで演奏した弦楽器の美しさは特筆しておくべきと思います。 
ただ、もうちょっとオケに自主性があっても良かったような気はしました。 そう思えたのはアンコール曲「アルルの女」の「ファランドール」を聴いてから。 こちらはよく言えば気合の入った演奏ですけど、直裁的な表現で押し切った感じ。 練習量の差がストレートに出たように思います。 これを聴いてビゼーの交響曲を思い返してみると、交響曲ではオケとしてはかなり精神的なプレッシャーがあったのではないかと感じました。 これはまったくの想像ですけれど、より美しく、きちんと整った演奏にしよう・・・そんな抑圧が必要以上にあったのではないでしょうか。 もし、そのようなものが解き放たれ、各自の主張する歌のようなものが感じられたなら、もっとチャーミングで素晴らしい演奏になったのかもしれません(偉そうにすみません)。 これまでの奈良フィルを聴いてきた耳からして、これは決して高望みであるとは思っていないことを付け加えておきます。

第1楽章、シャキッとした開始から響きが豊かなのに驚きました。 小気味良く透明感の高いヴァイオリン、土台となっているコントラバスの柔らかい響きにも芯があります。 トロンボーンの旋律には抑制がかかって突出しません。 ティムパニもトランペットも要所を的確に押さえた演奏で華やかさよりも全体をきちんと纏めている感じ。 オーボエの旋律はゆったりとして全体に溶け込んでいました。 主題が戻ってくるたびに弦楽器に力強さ、煌き感が徐々に増したようです。 ホルンのソロがコケてしまったのは惜しかったけれど、ヴァイオリンを中心にした弦楽器に熱気が更に増し、明るく楽しい音楽を倍増させていました。

第2楽章、柔らかな序奏につづいてオーボエの物憂いメロディが素適でした。 このあとも木管アンサンブルと清楚なヴァイオリンがからんで奈良フィルの精緻なアンサンブルが光っていました。 中低弦のピチカートが瑞々しく、ヴァイオリンのなだらかな響きから一転してコントラバスの響き。 やや律儀な感じもしましたけれど、冒頭の旋律に戻って木管楽器のアンサンブルがまたしっとりと歌います。 音楽が瞑想的な雰囲気になったあとややクレッシェンドしてからふわっとこの楽章を終えました。

第3楽章、元気の良い音楽には集中力があります。 ティムパニが先の細いマレットに交換したことに代表されるようにオケの響きにキレの良さと快活さが増しました。 更に秋山さんはヴィオラとチェロの方向を向いて大きな音を要求。 オケは強い音で応えますけど、その響きには柔らかさが消えていません。 総てに渡ってこのように角の取れた響きの美しさがあって、それを存分に楽しみました。

第4楽章、速いパッセージでもコントラバスの響きの当たりが柔らかい。 うきうきとしてくる楽しい楽想は17才のビゼーの作品だからこそでしょう。 弦と管の受け渡しもスムーズで、音楽に無理を感じさせずに息づいています。 緻密なアンサンブルを堪能。 奈良フィルの良い面がよく出ているようでした。 柔らかい響きに熱気が孕んできます。 トランペットの響きが抑制されていて、やはり全体の中から出ることがありません。 艶の増したヴァイオリンの響きが更に熱くなったあと、木管楽器が強引に割り込んでスパッと切ったエンディングも見事でした。
会場は大きな拍手で包まれ、秋山さんは何度も登場。 さすがにオケからも拍手喝采で迎えられても、さあ立ちましょうの合図に立ち上がります(若手の指揮者ならここでオケにお辞儀するまで拍手するのでしょうけどオケは潔く立っていたところにも秋山さんの大御所的な雰囲気が感じられます)。

そしてアンコールはビゼーの代表作「アルルの女」の「ファンランドール」。 タイトで気合の入った演奏で、やや強引とも思える曲の運びでした。 各楽器も思いっきり演奏しているみたいで、会場はウケていましたけど、ちょっとなぁ、と思ったことは事実です。
そこでふっと、思った先のビゼーの交響曲。 とてもしっかりした誠実な演奏だったとは思ったうのですけど、同じ旋律が繰返し出てくるでしょう。 そのような場面では退屈にも感じられることが何度か・・・ 一生懸命に演奏しているのは手にとるように分かるですけれど何故かな・・・ このところ疲れ気味だからかな、と思っていたのです。 でもこの演奏を聴いて、ビゼーの交響曲は確かに素晴らしかったけど、もっと自由に演奏できたのではないかな・・・と。 各自の主張する歌のようなものが感じられたなら、 もっともっとチャーミングで素適な演奏にもできたのではないかなぁ・・・と(偉そうにすみません)
そんなことを思いつつ会場を後にしました。 
これまでの奈良フィルを聴いてきた耳からしても、これは決して高望みであるとは思っていません。更なる発展・成長を望みます。