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千里フィルハーモニア・大阪 第32回定期演奏会

常に音楽を語りかけるような熱い姿勢戻る


千里フィルハーモニア・大阪 第32回定期演奏会
2004年10月11日(祝・月) 14:00  いずみホール

チャイコフスキー: 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
ダヴィッド: トロンボーンと管弦楽のためのコンチェルティーノ 変ホ長調 作品4

 (アンコール)ロンドンデリーの歌

ベートーヴェン: 交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」

 (アンコール)エルガー: 行進曲「威風堂々」第1番

独奏:イアン・バウスフィールド(tb)

指揮:澤 和樹


ウィーンフィル首席のバウスフィールドさんのトロンボーン。 トロンボーンという楽器が天使が持つ楽器と称されることの証明のようでした。 とにかく表情がとても豊かなのです。 そして語りかけるような弱音部分から、踏み込んで吹く力強い響きの末端にまで独特な艶がのっています。 技巧的な巧さはもとより響きの豊かさに参っていました。
そんなバウスフィールドさんの妙技もさることながら、千里フィルハーモニア・大阪の演奏もまた柔らかい響きですけれど芯のしっかりした演奏で、とても充実した内容に感嘆しました。
常に余力を感じさせるアンサンブルで、最強音になっても騒々しさを全く感じません。 非常にポテンシャルの高いオーケストラという印象なのですけれど、巧いアマオケで時として感じる合わせフェッチ的な部分はなく、常に音楽を語りかけるような熱い姿勢を感じました。 これはヴァイオリニストでもある指揮者の澤さんの指導によるものなのでしょうか。
その澤さんの指揮。 巨躯ながら基本的に小さな振りで要所をバシバシッと決め、音楽を進めます。 これ見よがしな部分は一切ないのに、常に覇気を感じさせた「ロメオとジュリエット」の熱い音楽。 古典的な枠組みをきちっと維持しつつも躍動的に進めた田園交響曲。 どの曲もとてもよく纏まった演奏でしたけれど、真摯で全く弛緩することのない演奏はとても素晴らしいものでした。
なお今回は最前列での鑑賞となりました。 そのため、オーケストラのバランス的な面からの言及はできませんけれど、各パートがとてもよく纏まっていたこと、そのパート間の受け渡しや響き合いなど、質の高い音楽を演奏しているのを間近で経験することができた演奏会でした。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

行きたくない(家でゴロゴロしていたい)とぐずる長男を無理やり連れて家を出たので、余裕でホールに着くはずが15分前に到着。 それでもいつもと同じくらいなんですけどね、座席引き換えで出てきたのはA列でした。 最前列です。
いつもならば、後ろの席に交換してもらうところなのですけど、長男を連れていたし、後ろで待っている人も気になったのでそのまま頂くことにしました。 ホールに入ってから、スキを見て最後尾の席に替わればいいかな、という不埒な気持ちもあったんですけど、実際にホールに入るとすぐに最後尾まで満席に。 最後までここに腰を落ち着けて聴くことにしました。
でも結果的に、間近でないと分からなかったことも発見できたし、これはこれでいい経験になっと思います。
もっとも長男にしてみれば、最後尾の席でふてくされて寝ようと思っていたのが実行できなくて災難だったけもしれませんけども・・・それでもアンコールの威風堂々はとても気に入ったようです。 首を小さく左右に動かし、嬉しそうに聴いていました。 ホールを出たあとも、威風堂々が聴けてよかった、なんて言ってたので来た甲斐はあったというものでしょう。

この千里フィルハーモニア・大阪。 千里市民管弦楽団の旧称のほうが通りが良いでしょうか。 2003年の第30回記念定期演奏会を機に改称されたそうです。 そしてその起源は1982年秋。 千里ニュータウン開発20周年を記念して結成されたとのこと。 豊中、吹田、箕面など広く千里を含む文化圏全域のコミュニティーオーケストラとして活動されており、1997年には大阪府よリ地域文化活動の振興に寄与したことで表彰もされたそうです。 ちょっと変な言葉かもしれませんけど、新しい老舗オケ、そんな感じですかね。 とにかくホール1階席は満席。 2階席でも最もステージに近いブロックに空席がある程度でほとんど埋まっているような状態で定刻を告げる音楽が流れました。

オケのメンバーが一斉に登場。 メンバーの皆さんが席に着くと、いやぁ演奏者がこんなに近くにいらっしゃるなんて、改めて驚きました。 いつも最後尾あたりで聴いていますので、こんなに前で聴いたのは久しぶりです(某オケで熊本マリさんが独奏された協奏曲の時には前の席を指定しましたけれども)。 なおチェロの2プルト目には天理のオケを指揮されている安野さんが客演で参加されているのを発見しました。 個人的な面識は全くないのですけど、知っている人をこんなに近いと何だか気恥ずかしさを感じます。 ちょっと落ち着かない気分で開演を待ちました。

チューニングを終え、指揮者の澤さんが団員の中から登場(するように見えました)。
1曲目はチャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」。 覇気を感じさせる熱い音楽で大いに盛り上がったのですけど、常に余力を感じさせたアンサンブルが見事でした。 とにかく、こんなも間近で聴いているのですけど、最強音になっても全く騒々しさを感じません。 これは巧いオケやなぁと感嘆したしだいです。

クラリネット、ファゴットによる厳かな感じのする開始。 ヴィオラとチェロの響きには底鳴りのするような芯を感じるのは近くで聞いているからでしょう。 ヴァイオリンは柔らかくしかも透明感の高い響き。 いずれも、ゆったりと、音楽を慈しむように進んでゆきます。 なおその響きの合間から、コールアングレが裏で吹いているのがはっきりと聴こえてきたのは、聴いていた場所のせいでしょうね、ちょっと興味を惹きました。
管と弦が呼応し合いながら、最初のクライマックスへと登ってゆきますが、各パートがとてもよく纏まっています。 楽器の響きが一つの塊となって飛んでくるような感じです。 しかもどの楽器にも艶やかな響きを感じ、全奏になっても余力があるみたい。
コールアングレのソロはエキゾチックな深い響きが特徴的。 柔らかい弦楽器、フルートやホルンも美音なんですけど、それをひけらかすような感じではなく、全体の響きにしっとりと収まっていています。 とてもよく訓練されたって感じです。
音楽はまたクライマックスへと向います。 ちょっと遠い感じがするのは席の位置でしょうけどヴァイオリンはよく揃って艶やか、トランペットもちょっと遠いけど朗々とした響き。 澤さんは基本的に小さな振りで要所をバシバシッと決めつつ曲を前へ前へと進めてゆく感じです。 オケはそんな指揮に見事反応、常に落ち着いてこなしてゆくような印象です(実際は必死なのかもしれませんけど、そんなそぶりは微塵も感じませんでした)。
大太鼓の音が足もとに響いてきたのにちょっと吃驚。 それほどオケの音量は上がっているの騒々しさを全く感じません。 熱っぽく語りかけるような音楽。
そんな流れをスパッと切り、弾力のあるコントラバスのピチカートに乗せて郷愁を感じさせる音楽になります。 ゆったりと進めたあと、またティムパニの強打、底力を感じさせるブラス、その後は粘り気とキレの良さを併せ持った音楽となって全曲を締めくくりました。
勢いだけでは決してない洗練された熱い音楽といった感じでした。

演奏終了後にメンバーが一部入れ替わり(抜けて)チューニングを実施したあとウィーンフィル首席奏者のバウスフィールドさんがにこやかに登場。 ブレザーにスラックスというラフな出で立ちでしたけど、それがよく似合っていたのはイギリス人だからでしょうか。 とにかくかなり大柄な人でした。
曲はフェルディナンド・ダヴィッドのトロンボーンと管弦楽のためのコンチェルティーノ変ホ長調作品4番。 プログラムによるとベルリンフィルのオーディションにも採用されているスタンダードな曲だそうですけど、初めて聴く曲です。 なおまたプログラムによると、作曲者のダヴィッドは、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の初演者にして教育者とことでした。

とにかくバウスフィールドさんのトロンボーン。 技巧的な巧さはもとより響きの豊かさ、表現力に参りました。 トロンボーンという楽器は天使が持っている楽器だと称されることの証明のよう。 語りかけるような弱音部分から、踏み込んで吹く力強い響きの末端にまで独特な艶がのっていて聞き惚れてしまいました。 ということで曲についてはあまりよく覚えていません(失礼)。 ただただ至福の時を過ごしたという感じでしょう。 

第1楽章、やわらかい木管アンサンブルに裏からホルンも優しく寄り添うような開始。 弦楽器が加わって活気に満ちた序奏でぐっと盛り上がったあと、トロンボーンの登場。 とても柔らかな響きが印象的でした。 特に弱音で語りかけるようなまろやかな響き、強い響きでも角がきれいに取れ、刺激的な部分が全くありません。 オケの伴奏もかなり気合が入っていたのではないでしょうか。 活き活きとした演奏でサポートしていました。

聞き惚れているうち曲調が変わってアンダンテになったので第2楽章でしょう。 この曲、第3楽章もまた切れ目なく続けて演奏されていました。 オケがゆったりと歩むような演奏に続き、伸びのあるトロンボーンで力強さ、優しさを自在に表現してゆきます。 バウスフィールドさんは、大きな身体を屈んで縮めたり、半歩から1歩ほど動き、身体全体でトロンボーンを語らせているようでした。 ゆったりとした高い音では赤ら顔になる場面もありましたけど、響きはまろやかそのもの。 なおオケもフルートやクラリネットが健闘、まったく弛緩することないサポートぶりでした。

第3楽章のアレグレットでオケが活気つくと、トロンボーンも張りのある音で応えます。 輝きのあるパァ〜ンという響きが印象的。 やはりここでもバウスフィールドさんは大きな身体を屈んで縮めたり、半歩踏み込んで力強きます。 速いパッセージのあとだったかしら、さすがにふぅ〜と一息つき、オケが負けじと力を増して音楽を引き取っていました。 トロンボーンのソロとオケの会話が繰り返されたあと、音楽が一段と大きくなり、双方の熱気がグンと増したあと大きく音楽を纏めて全曲を締めました。 
ただ最後のソロの部分、ちょっと音が高いように感じたんですけど、あれはああいう音楽なのでしょうかね。 初めて聴く曲なので分かりませんけど、あの音だけはハッとしました。

なお会場からの割れんばかりの拍手に応えたアンコール。 どこかで聴いた懐かしい感じのする曲だなと聴き入りました。 フォスターの民謡かな、何かな、と思って聴いていましたけど、ロンドンデリーの歌だったのですね。 伸びやかで語りかけるような演奏を堪能しました。
トロンボーンという楽器の表情の豊かさに聞き惚れた至福の時間でした。

20分間の休憩のあと、メインの田園交響曲。 クラシック音楽の王道中の王道なんですけど、かえって実演では聴くことの少ない曲かも。 自分の記憶でもベーレンライター新版を使った本名徹次さんと大阪シンフォニカーによるガラス細工か精密機械のような演奏(これはこれで面白かったけど)と、井村誠貴さんと奈良フィルによる演奏くらいでしょうか。 耳慣れていることもあって、かえって難しい曲なのかもしれません。

でも今回の千里フィルハーモニア・大阪の演奏は、古典的な枠組みをきちっと維持しつつも躍動的に進めた演奏でした。 とてもよく纏まっており、真摯で弛緩することはなく、また巧いアマオケで時として感じてしまう合わせフェッチ的なもの、つまり、音楽自体は綺麗に揃っているけどどこかしら生気に欠けてしまうようなところなど皆無でした。 常に音楽を語りかけるような熱い姿勢を感じたのは、ヴァイオリニストでもある指揮者の澤さんの指導によるものなのでしょうか。 とにかく、これ見よがしな部分は一切ないのにとても充実した素晴らしい演奏でした。

第1楽章、ふわっとした導入がとても自然でした。 充実した音楽が展開してゆきました。 とにかく弦のパートがとてもしっかりしていて各パートが揃って聴こえます。 位置関係もあるのでしょうけど、中弦が豊かに聴こえるのは好みです。 またオーボエを始めとする木管楽器もまろやかで全体の響きに収まっていて、オーソドックスなんですけど、上質な音楽といった感じ。 また近くで聞いているからでしょうね、指揮に合わせてオケの音量が暫増・暫減するのもよく分かります。 本当に各パートがよく纏まっていて巧いなぁって感じました。

第2楽章、ちょっとゆったりとしたテンポ設定で始まったかしら。 ここでも中弦の響きが中心に聴こえてきます。 クラリネットがまろやかな響きなんですけど芯の強さも感じました。 でもやはり古典音楽の基本は弦楽器かしら、チェロもよく歌っていましたけど、コントラバスのピチカートもよく揃って弾力があります。 
それで気付いたのですけど、チェロの後ろのプルトのメンバー3名はコントラバスのパートのピチカートを弾いていて、前のプルト4名とは違う旋律を奏でていることに気付きました。 長年聴いていても、スコア読めないから、いつまでたっても素人なのが丸分かり。 でもいくつになってもクラシック音楽は発見があって楽しめるから好きです(と纏めておこう)。
・・・と書いたら、スコアには1プルト(2名)がチェロ、残りはコントラバスのパートを演奏すると書かれてあるのだと教えてもらいました。 ベートーヴェンの時代とはオケの規模が違いますから、このようにしてバランスをとっていたのでしょう。 
とにかく、目の前にこんなに息づいたピチカートを聞かされると、自然と頭でリズムをとりながら音楽を聴き進んでしまいます。 さて、カッコウの部分も素適でした。 皆さんそれぞれに腕自慢だとは思うですけど、アンサンブルとして合わせることを常に優先させていらっしゃる。 しかも弛緩することなく熱いアンサンブルとなている(特に後半)ので聴き応えありました。

第3楽章、軽やかでリズミカルな開始が徐々に力強くなり、ホルンの斉奏はタイトなんですけど柔らかくて爽やかな印象。 あとオーボエが軽やかな心地よい響きも印象的でした。 音楽はストレートに走って盛り上がって、すっと止まる。 強奏になっても響きの角が取れているのでまったく騒く感じません。 コントロールがよく効いています。 そして力をこめて・・・

第4楽章に突入、ここでも嵐なんですけど暴走などしません。 コントラバスの響きが近くで聴こえて、ティムパニの響きは遠雷のようです。 目の前のチェロの響きには粘り強さのようなものを感じました。 遠いせいでしょうね、ヴァイオリンは常に冷静といった感じだったかしら。

第5楽章、オーボエの響きで薄日が射します。 フルートは柔らかく、クラリネットは甘い響き。 位置関係かなホルンが若干出遅れたみたいに聴こえましたけど毎回そうだったので位置関係でしょう。 第1ヴァイオリンは端正、でも第2ヴァイオリンは雄弁に歌っています。 音量がゆったりと増して充実したアンサンブル。 ここではヴィオラが雄弁でとてもよかったな。 そして音楽が繰り返される度に充実度が増してゆく感じで、熱気を帯びてきました。 一瞬止まったあとチェロが艶やかなメロディで歌い、更に音楽が大きく熱くなりましたけど、形はきちっとしたまま崩れません。 きちんとした枠組みを絶対に踏み越えないし、枠組みの中に音楽を充填している感じです。 フィナーレは柔らかく音楽を舞い上がらせたあと、木管の歌うと低弦が入って優しく着地しました。

とてもオーソドックスな演奏だったと思うのですけど、常に躍動的で満足感の高い田園交響曲でした。 最前列での鑑賞のため、オーケストラのバランス的な面からの言及はできませんけれど、このような演奏を間近で経験することができたのはとても良い経験になりました。

なおアンコールには、バウスフィールドさんも加わって、バウスフィールドさんのお国ものでもあるエルガーの威風堂々。 とても活気のある演奏で迫力もありました。 
長男もこれは喜んで聴いていて、無理やり連れて来られてちょっとスネた気分も晴れたみたい。 気分も明るくなって親子共々会場を後にできました。