BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
芦屋交響楽団 第62回定期演奏会

圧倒されっぱなし戻る


芦屋交響楽団 第62回定期演奏会
2004年10月16日(土) 18:00  ザ・シンフォニーホール

バーンスタイン: 「キャンディード」序曲
コダーイ: 「ハーリ・ヤーノシュ」組曲

 (アンコール)ハンガリー民謡: 馬を柳につないで

ドヴォルザーク: 交響曲第9番ホ短調「新世界より」

 (アンコール)グリーグ:「2つの悲しき旋律」より第2曲「過ぎた春」

独奏: 斉藤 浩(ツィンバロン)

指揮:黒岩英臣


巧いオーケストラに圧倒されました。 この感想だけで充分、そんな感じです。
とにかくこのオケは音程がとてもしっかりしています。 だから曖昧さを微塵も感じません。 上から見ているとよく分かるのですけど、各パートが本当に綺麗に揃っています。 しかもアンサンブルでも各パート間の響きに調和や統一感がきちんと保たれていて、それが一致団結してたたみ掛けてくるから圧倒されてしまいます。 その集中力ときたら、向かう所に敵はいない、そんな風にも感じるほどです。 それに今回の演奏会。 団長の松島さんがお亡くなりになられた直後の演奏会でもあり、メンバーの気持がいつもよりも乗っていたこともあるでしょう。 リズム感の良さに響きの深さをきちんとマッチさせたキャンディード序曲。 郷愁と機動力を見事に両立させたハーリ・ヤーノシュ。 バランス感覚に優れてツヤ・コク・タメを効かせた新世界交響曲。 いずれも技術的な巧さを聞かせるのではなく、音楽を聴かせる、そんな魅力が満載された素晴らしい演奏でした。 もう言うことがありません。


それでも頑張って演奏会をふりかえってみたいと思います。

黒岩さんが指揮された芦響というと、マーラーの交響曲第9番やブラームスのドイツ・レクイエムといった重厚ななかにもヒューマニティを感じさせた名演奏を思い出します。 しかし今回は新世界交響曲という超ポピュラー曲。 意外にも芦響はこういったポピュラー曲は苦手だと耳にしたりもします。 さてどんな演奏になるのかな、ちょっと予想もつかずに家を出ました。

ところでホールに向かう途中、ヨドバシカメラでプリンターの補充インクを調達することにしました。 しかし、古い機種のなので、なかなか見つからず予定時間をオーバー。 薄暗くなりかかった道をちょっと焦りつつヨドバシからホールまで歩きました。 演奏会前には余裕を持たないいけないんですけどね、いつもドタバタとホールに到着しているみたいです。 さて、ホールに到着し座席を出してもらって席についたら開演10分前。 メンバーの幾人かは既にステージに出て練習をしていました。 ちなみに座席はBB−45。 2階席正面の前から2列目、ちょっとコントラバス寄りですけどとても良い席です。

汗を拭きながらステージを見たら、なんとコントラバスが10本。 乱視もかかった老眼を凝らして確認したらオケは16型でしょうか。 16-15-13-12-10 といった弦楽器の編成となっていたようです(数え間違いがあるかも)。 久しぶりじゃないかな、このような大型のオケを聞くのは・・・と思いつつ、なかなか収まらない汗を拭って客席を見渡すと、3階席までほぼ9割入っています。 よく入っています。 クワイア席にはおじさんが一人だけだったのがちょっと目立ってましたけれど、休憩時間の後にはここにも更に10名の方が加わっていました。 まだクワイア席に入ったことないので、ちょっと興味があります。

そしてようやく落ち着いた頃、演奏開始のアナウンス。 腕時計を見たらちょっと遅れ気味のようです。 約5分遅れでコンサートマスターが登場し、とても入念なチューニング。 けっこう時間をかけたチューニングで、弦楽器では高音弦と中低弦を別々にやっていたようです。 そして、穏やかな表情を浮かべた黒岩さんが登場。 いよいよ始まります。

バーンスタインのキャンディード序曲。 タイトでリズミカルでしたけど、オケの響きに艶やかさと深さが感じられ、懐の深さを感じました。 この曲、とても威勢のいい曲なんですけど、このような深さを感じたのは初めての経験です。
とにかく弦楽器が綺麗によく揃い、とてもまろやかなのが印象的でした。 上から見ているので、どのパートも前から後ろまでビシッと揃っていて、見ているだけでも気持ちが良くなります。 それに音程がしっかりと合っているのでしょう。 曖昧な感じは微塵も感じません。 速いパッセージも余裕を感じさせるアンサンブルで、ぐいぐいと進んでゆきます。 そして威勢のよさの原因となるパーカッションですけど、全体としてはこじんまりと纏めていて、要所のパンチを効かせたタイトな仕上げでとても上品。 トランペットのファンファーレもまろやかな響きで刺激的な部分は皆無。 最後もホルンの響きに深さがあって、オケ全体が弾力を持って盛り上ったあとスパッと切り落とした着地も見事でした。 のっけから巧い演奏に圧倒されっぱなしでした。

ツィンバロンをステージ中央に持ってくるため、ヴァイオリン奏者が一時退場。 TVでは見たことありますけど、ツィンバロンの実物を見たのは初めてです。 繊細そうな楽器ですね。 録音用でしょう、マイク・セッティングを行っていました。
ヴァイオリン奏者が登場し、今度は軽めのチューニングを実施。 オケをよく見たらトランペット奏者が6人に増えていましたけど、それ以外は通常の2管編成みたいです。 ハンガリーの民族衣装のようなベストを着用し、演奏用のスティック(?)を持った斉藤さんと黒岩さんがにこやかに登場しました。

コダーイの組曲「ハーリ・ヤーノシュ」。 郷愁と機動力を見事に両立させた演奏に参りました。 ただ肝心のツィンバロン、繊細な響きがオケに埋もれてしまう部分が若干ありました。 CDやレコードで聴くのとは違いますからこれは仕方ないことでしょう。 ただしその分アンコールではツィンバロンの重奏する響きの綾に触れることが出来ました。

第1曲目「前奏曲:おとぎはなしは始まる」。 くしゃみから音楽はスタート。 音がクレッシェンドして弾けたあと低弦の豊かな響きが流れ、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンと次々に加わてたっぷりとした音楽運びです。 ここでもいずれのパートもよく揃い、きちっとしているのが印象的ですけど、さらに全体が見事に調和しています。 ふくよかなアンサンブルにしばし聞き惚れていると、ヴィオラとチェロに導かれるようにして凄い集中力で盛り上がってゆきます。 これをスパッと切り落とし、しばしの静寂のあと、オーボエとフルートとその裏で吹くホルンがまろやに曲を閉めました。

第2曲目「ウィーンの音楽時計」。 からくり時計の音楽はリズム感良く、楽しい気分になります。 トランペットが柔らかく、木管楽器も含め、いずれも控えめな演奏でオケ全体の響きに統一感があってよく纏まっています。 最後、チューブラベルの響きをちょっと残して曲を終えました。

第3曲目「歌」。 いよいよツィンバロンが登場しますが、まずヴィオラのソロが慈しみを感じさせる響き。 説得力のある演奏で会場を魅了したあとツィンバロンの登場。 どこか懐かしさを感じさせる響きが密やかに入ってきます。 オーボエも柔らかで艶を感じさせる響きで入ってきました。 オケの音量が上がるとツィンバロンの響きがポン・パンと強く叩いた音のみ聴こえてくるみたいです。 ん? ホルンの角の取れた響きでのソロから行進曲調になります。 ここまできたら耳も慣れたのでしょうか、ツィンバロンの響きもすいぶん耳に入ってくるようになりました。 チェロのソロは響きを抑えて端正な感じだったかしら、オケが一体となって音楽が波打つように寄せては帰すように何度か感じられたあと、静かに着地しました。

第4曲目「戦争とナポレオンの敗北」。 トロンボーンがとてもまろやか。 トランペットがタイトに割り込みますけど、こちらも角の取れた響きです。 よく締まった音楽となって進みます。 パーカッションは地味な感じですけど、要所を的確に締めていて巧いなぁ。 サキソフォンはエキゾチックだし(この裏で吹いているトロンボーンとチューバも見事なサポートぶり)、そしてバス・トロンボーンとチューバには底力があります。 とても豊かな表情を感じた音楽でした。

第5曲目「間奏曲」。 セル/クリーヴランドの演奏が頭にこびリ付いている間奏曲なのですけど、芦響の機動力がフルに発揮された演奏に、黒岩さんは粘りと抑揚を持たせていました。 ツィンバロンはここでもエキゾチックな響きで奮闘していましたけど、やや埋もれかげん(致し方ないところでしょう)。 ホルンのソロで曲調変え、弦楽器が明るい音楽へ転換するあたりもごく自然で余裕を感じます。 そして厳格な元の音楽に戻りますけど、やや粘りをつけた音楽は最後のフレーズをぐっと伸ばして歌わせるのが黒岩流でしょう。 充実した音楽。 最後はタイトに力強く3発決め、度肝を抜くような終結となっていました。

第6曲目「皇帝と延臣達の入場」。 ここでも機動力が更に発揮された行進曲。 木琴と鉄琴がピッタリと揃い、ティムパニは小気味良く叩いて、ブラス(金管)とウィンド(木管)が一心同体で進みます。 更に艶ののった弦楽器が加わって大きな音楽。 全く弛緩することなく、ぐぃぐぃっと曲を進めてトランペット6本(うち3本はちょっと小さく見えたからコルネットかしら)が気持ちよく揃っていました。 巧い。 言葉はもうそれしか出てきません。 最後は畳掛けるようにして全曲を閉じました。
客席は圧倒されたみたいでしばしの静寂・・・やっと盛大な拍手に包まれました。

アンコールは斉藤さんのツィンバロンのソロ。 エキゾチックな響きと響きが重なって独特な音色です。 響きが自然に減衰するまで残っているためでしょう。 この繊細で微妙な響きとオケの響きを共演させるのはかなり難しいだろうなぁと感じました。 とにかくいい経験をさせてもらいました。

20分の休憩のあと、いよいよメインの新世界交響曲。 パーカッション群が撤去されたのでステージ後方は広々としましたけど、前方はコントラバス10本の大きな弦楽器編成のまま。 ティムパニを頂点に大きな扇型といった感じに見えました。

その新世界交響曲、バランス感覚に優れてツヤ・コク・タメの効いた技術的な巧さはもちろんのこと、オケメンバーの気持ちが一つに纏まった演奏に圧倒されっぱなし。 更に黒岩さんのお人柄でしょう、熱演なんですけどヒューマニティという言葉が自然と浮かんでくる暖かさを随所に感じました。 非常にポピュラーで耳に馴染んだ曲なのですけれど、音楽が自ら語りかけてくるようなんですけど、芦響全体から有無を言わせず音楽を聴かせるパワーが漲っていたようにも感じた演奏でした。

第1楽章、柔らかな中低弦による開始。 ホルンがちょっと控えめながらタイトに響かせます。 少し間をとって、フルート、オーボエ、ファゴットのアンサンブルも響きが溶け合って綺麗です。 黒岩さんのハナ息が漏れ、弾力のある弦楽器が旋律を奏でて音楽が活気つきます。 ティムパニの強打がドキッとしました。 曲がパワーを持ってぐいぐいと進みますけど、ここでも弦楽器の各パートがよく揃っています。 大編成の弦楽器なのですけど、音程もきちんと揃っているからでしょう、響きに曖昧さが微塵もありません。 しかも響きにコクやタメが感じられて本当に素晴らしい。 クライマックスにタイトに登りつめたあとすっと退いて郷愁を感じさせるあたりも余裕を感じます。 そしてフルートのソロ、とても綺麗な響きなので印象に残りました。 ところでこの旋律、最初は第1奏者が吹いていましたけど、楽章の終わりの部分では第2奏者が同じ旋律をまったく全く同じ響きで吹いていたのに驚きました。 全体の響きの調和について皆さんとても意識されているのでしょう。 凄いなぁ。 そして最後はスパっと切って落とし、ホールに響きが残っていました。

第2楽章、おごそかな金管からぐっと盛り上げてからコールアングレにバトンタット。 変な色をつけず、ごくあっさりと進めてゆきました。 ちょっとテンポも速めだったかしら。 底力のある弦楽器がビロードを敷きつめたように曲が進みます。 パァーンと鳴って小さな頂点を築いたあと、ちょっと熱気が増しました。 再度コールアングレが登場しますけど、ここも同様。 淡々とした感じで媚びがありません。 コントラバスのピチカートに乗せた木管アンサンブル、ここにヴァイオリンが入ってきますけど、よく歌っているのですけどしっとりしてごく自然。 これみよがしな感じは微塵もなく、全体のバランスがとても良いのでしょう。 変な例えですが、CDやLPで聴いているみたいな絶妙なバランス感を覚えます。 そんな余裕を持って曲を進めてゆきます。 弦楽器の首席奏者たちによるアンサンブルもなんと柔らかいこと。 特にヴァイオリンとチェロがよく歌っていました。 そしてトロンボーン、ホルン、チューバが柔らかな響きで盛り上げたあと、コントラバスのしっとりした響きで閉めました。

第3楽章、黒岩さんが軽くジャンプして開始。 しだいに力強くタイトになってティムパニの強打で締め上げます。 反応のいい音楽で余裕すら感じさせます。 トライアングルはとても控えめで、この響きにも柔らかさを感じました。 しかし次の時にはちょっと輝くようだったので叩き分けていたのでしょう。 オケが一丸となって底力を感じさせる音楽でクライマックスを築き、緩急つけた音楽にただただ乗せられて聴き進むのみ・・・最後は大きく歌わせて切り落としました。

第4楽章、さらに底力を感じさせる響き、しかも艶があるんです、これで迫りよってきます。 力強いホルンの斉奏、トランペットも輝いていますけど、きちっとした音楽の枠からけっして外れません。 オケの皆さん、自分達の中で演るべき音楽の全体像がしっかりと共有され熟知されているように感じました。 そして技巧的にも卓越しているからでしょう、走っても力強くなってもまったく危なげなく進んでゆきます。 黒岩さんは、そのようなオケを時には笑みをうかべながらリードされています。 その表情といい、出てくる音楽には、パワーだけでない慈しみの感情も込められているように感じました。 これはお人柄なのかもしれません。 とにかく熱い音楽に粘りを入れたエンディングまで圧倒されっぱなしで聴き進み、最後のフェルマータの部分は短めで端正に纏めあげました。
ここでもあまりに素晴らしい演奏だったからでしょう、しばし静寂が流れたあと、パラパラと拍手が起ったあと盛大な拍手に包まれました。 とにかく有無を言わさぬ演奏に参りました。