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京都府立医科大学交響楽団 第80回定期演奏会

深い響きにキレの良さ戻る


京都府立医科大学交響楽団 第80回定期演奏会
2004年10月30日(土) 19:00  京都コンサートホール

ブラームス: 悲劇的序曲
ベートーヴェン:「コリオラン」序曲
チャイコフスキー: 交響曲第5番ホ短調

指揮:藏野雅彦


深い響きにキレの良さが加わった弦楽アンサンブルが素晴らしい演奏会でした。 とにかく各声部ともとてもよく纏まっていて、反応の速さも見事なのですけれど、コクやタメも充分に感じられました。 そして藏野さん、しっかりとオケの手綱を握り、ぐぃぐぃと引っ張ったかと思うと、大きく左右に振って歌わせるなど、緩急をうまくつけた指揮でリードしていました。 いつもながらのエネルギッシュな指揮で、学生オケらしいスピード感のある演奏を演出していたように思います。
いきなり充実感のある演奏で満足した「コリオラン」序曲。 弾力を持たせた和音をスパっ切り落としてホールの残響も音楽として見事に利用した悲劇的序曲。 エネルギッシュに熱く語りかけたチャイコフスキーの交響曲第5番。 いずれもよく考えられ演奏で、聴き応えがありました。 ただ1点、チャイコフスキーの交響曲第5番の終楽章ですけど、学生オケらしい律儀さでスィスィと進んでいったという印象でした。 個人的にはもっと力強く粘って歌って欲しかったことがありますけど、このあたりは好き好きの範疇だと思います。 とにかく充実感とスピード感をともに感じた巧い演奏であったことは間違いありません。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

雨が降っているのでどうしようか、と正直思いつつ家を出ました。 京都コンサートホール、うまくいくと乗り換え1回で行けるのですけど(通常なら2回乗り換えでこの日も2回乗り換えでしたけど)1時間半ほどかかります。 しかも地下鉄になると風景が変わらなくて単調になるのも辛いところです。 だからちょっと躊躇したのですけど、結果から言って充実した演奏を大いに楽しみました。 さから帰りはけっこう気分よく電車に揺られて帰ってきました。 まぁいい加減なものです。

さて、開演20分前にホールに到着。 けっこう人が多くて、1階席はほぼ8割は埋まっていたでしょうか。 いつもどおり3階席に直行。 やはり前の方は埋まっていたので、中央ブロックの後ろから3列目の通路側に陣取ることにしました。 ここはまだ1列まるごと空いてましたけど、いずれぎっしりと埋まりそうだったので通路側にしました。 これは正解で、開演時にはこのブロックも8割ほど埋まってしまいました。 ホール全体でもクワイア席に数名いる他は、8〜9割の入りだったと思います。 雨なのによく入っていました。

指揮者が藏野さんだからステージ上のオケの配置は対抗配置です。 オケメンバーが着席したのを数えたら12型のようです(これは後からどんどんと拡大してゆきました)。 12-12-8-8-6 名の編成でした。 なお、ティムパニを中央奥に配置し、その前に左からホルン2本、トランペット2本が並んでいます。 いよいよチューニングを終え、藏野さんが自信に満ちた足取りで登場。 一礼したとき、いつもどおり「ありがとう」か「よろしく」か分かりませんせんけど、これからやるぞっていう気合を込めるように何か一言声をかけていました。

1曲目はベートーヴェンのコリオラン序曲。 解説には通常使われるブライトコプフ版ではなくヘンレ版による演奏と書かれていましたけれど、僕には違いはまったく分かりません。 しかし、いずれにしても若々しさと堂々とした部分がきちんと出ていて、とても充実感を持った演奏であったことは確かです。

藏野さん、オケに向いてからかなり長い沈黙のあと、ようやく手を上げて振りました。 深い響き一気に噴出したかと思うとそれがスパッと切れて残響がホールにこだまします。 切れ味最高。 今回の演奏会では、他の曲でもこのように切れ味鋭く残響がこだまする場面が沢山ありました。 とにかく藏野さんは、大きく振り、堂々とした音楽を構築してゆきます。 堂々としているのですけど、先にも書いたように切れ味が良いためか全く重々しくはありません。 金管楽器も切れが良いのですけど、厚い弦楽器の響きの間から顔を覗かせるような感じ。 ティムパニも重い響きながらスピード感がありました。 クライマックスのあと、ゆったりと歌わせるなど、キレの良さだけではない充実感を持つような演奏となっていました。 フィナーレも残響をホールにこだまさせ、最後はうちひしがれたようなチェロの深い響きのあと、やや太めのピチカートで密やかに締めました。 いきなりこのような充実した演奏が聴けるとは(申し訳ありません)。 見事な演奏でした。

オケメンバー全員がいったん退場したあと再入場。 ちょっと編成が大きくなって14型でしょう(14-12-10-9-6)。 ホルンは4本になって、チェロの後ろに移動しました。

2曲目はブラームスの悲劇的序曲。 この曲も残響を見事に使った音楽で、緩急つけたダイナミックな演奏は聴き応えがありました。 こちらも充実した音楽でした。
冒頭、弾力を感じさせる2つの和音を強く響かせてそれをスパっと切って止め残響をこだまさせます。 その響きが消える頃を狙って次の音。 そして大きな流れを感じさせる第1主題へとなだれ込みます。 そして主題は奔流のように速めのテンポでぐぃぐぃと進みます。 とにかく素晴らしい開始から聞き惚れてしまいました。 音楽は打点を明確にしつつ、速めのテンポ設定で進む部分と、なだらかな部分では指揮棒を横にした8の字を大きく描くようにしてたっぷりと歌わせます。 緩急をはっきりとつけ、切れ味鋭く、残響も効果的に使って、曲をどんどんと展開させた演奏です。

こでも弦楽アンサンブルの充実が光っていました。 特に中音弦が粘りを感じさせた響きが素晴らしかったと思います。 木管楽器はくすんだ音色でこの曲を彩っていたようです。 金管楽器はちょっと不調だったのかもしれませんけど、落着いた深みを感じさせる響かせ方。 とにかくオケ全体が同じような響きに統一されていたことは確かです。 そして音楽の主導権は常に弦楽器が持っていますので、管楽器はそれにすっぽりと納まっているみたいな感じでしょうか。 とにかく音楽の足腰がしっかりしているので充実感を覚えました。 若いオケと藏野さんらしく、緻密で鋭く、しかもダイナミックに曲を進めてゆき、フィナーレでは急激に畳み掛けるように熱っぽく全曲を纏めあげました。

20分間の休憩のあと、ステージは人でいっぱいになりました。 オケは16型に拡大(16-14-12-10-10)、ホルンも6本。 あとトランペット4本、フルートも4本・・・とにかく大勢の人です。

メインのチャイコフスキーの交響曲第5番。 エネルギッシュな藏野さんと深く切れのよい弦楽器を持つオケの特質がよくマッチした素晴らしい演奏でした。 
ただ1点、チャイコフスキーの交響曲第5番の終楽章ですけど、学生オケらしい律儀さでスィスィと進んでいったという印象でした。 個人的にはもっと力強く粘って歌って欲しかったことがありますけど、このあたりは好き好きの範疇だと思います。 とにかく充実感とスピード感をともに感じた巧い演奏であったことは間違いありません。

第1楽章、深い艶を感じさせるクラリネットの旋律。 文句無く巧かった。 そして弦にも深みがあり、重々しくゆったりと進み、情感を感じさせた素晴らしい導入部でした。 主部はやや明るさを感じさせるクラリネットとファゴットですけど、弦の響きがやはりズンズンと響いてきます。 集中力を維持したまま音楽が拡大して最初のクライマックス。 要所をバシッと決めた盛り上がりにスピード感があります。 なだらかに演奏したあとまた急速に上りつめます。 緩急をわりとはっきりとつけつつ音楽を自在に伸び縮みさせているようです。 これもオケの反応の速さでしょう。 トランペットの明るい輝きのある響き、ちょっと金切り声っぽいんですけど、タイトで野太いホルンとともにロシア風の味付けにしたのではないでしょうか。 これまでの演奏と違って、この曲ではトランペットが輝いているような響きでした。 しかし弦楽器はここでも各パートがよく揃っていて力強さがあるため足腰はしっかりとしています。 若干粘り気が欲しいように感じた部分もありましたけど、それは若さを抑えきれないってことかもしれません。 やや速めに流したあと、すっとこの楽章を締めくくりました。

第2楽章、弦楽器の深い響きによる合奏が大きな河の流れのよう。 ホルンの哀愁漂うソロ、艶を感じさせた響きは落ち着き払っていて見事です。 そしてクラリネットが絡み、朴訥とした感じでゆったりと歌い上げてゆきます。 コントラバスの響きが時折ズシリと入ってきたのも印象に残りました。 切ない音楽なんですけど、若さからでしょう、変に深刻ぶったりしないんです。 とにかくここでも集中力の高いよく纏まった演奏で曲が進んでゆきました。 ピチカートのリズムに乗せてヴァイオリンが第1主題を再現する部分。 ここのピチカートは太く柔らかでどこかしらオルガンの響きにも似ていました。 そしてここのヴァイオリンによるメロディもしっとりと濡れているようで素晴らしかった。 さて、時にはフレーズの終わりをクレッシェンドさるようにしてからスパっと切ったりしながら情熱的に曲を盛り上げ、熱い音楽となってクライマックスへ。 ここでも残響を感じさせる鋭い切り落とし。 そしてエンディングは深くまろやかな響きのクラリネットと弦で静かに終わりました。

第3楽章、明るくたっぷりとしたワルツ。 よく揃ったピチカートに木管楽器がいずれもまろやかに応えています。 いずれの楽器の音色も全体にとてもよくマッチした響きの質だったのが素敵でした。 そして弦楽器も明るくまろやかに弾いていますけど、曖昧さは全く感じさせません。 律儀な感じはしますけど、巧さを感じさせる演奏です。 最後、ファゴットによる主想旋律は明るい雰囲気、弦楽器が力をこめて打ちつけるようにして終了。 ここでも残響がこだましました。

終楽章、アタッカで入りました。 明るく響く弦アンサンブルはややゆったりとしたテンポだったでしょうか。 低弦のうごめきもやや明るく感じました。 クライマックスでのトランペットは明るく輝き、ホルンはタイトで野太く第1楽章と同じみたい。 しだいに雰囲気が暗くなったあとティムパニがクレッシェンドしながら強打をして主部に突入。 実によく揃って統制された響きで、曲がズンズンと前に進んでゆきます。 このあたりもうちょっと粘りも欲しいところなのですけど勢いがあります。 藏野さん、一歩踏み出してオケに気合を入れるような場面もありました。 とにかく実に良く揃ったアンサンブルが見事。 大きなオケがひとつになって聞こえるような感じなんです。 でも学生さんだからでしょうか、どこか律儀さみたいなものを感じました。 そしてまた輝かしいトランペットが主導してクライマックスを築いて、ティムパニの強打をスパっ切り落とした偽終始。 ここは残響を聞かせずに、一気呵成に力強いコーダへと突入。 ここも巧いんです。 でもおじさんとしては、この偽終始のあとはもっと粘り気が欲しい感じがするようになりました。 もっと若い頃はクサイなんて思っていたんですけどね。 とにかく輝かしいトランペットも綺麗だし、弦アンサンブルも実によく揃っていてボリューム感はありました。 ただだけどどこかスィスィっと前に前にって進んでいくみたい。 好き好きなんでしょうけれど・・・ でもとにかく巧い演奏であることは確かです。 間違いない。 最後はスピードをあげ、更に切れにも磨きをかけます。 ホルンがベルアップして気合を入れたあと、力強く打ちつけるようなエンディングで全曲を締めあげると、会場からはブラボーの大きな声とともに盛大な拍手に包まれました。

とにかくどの演奏もよく考えられた曲の運びでしっかりとした演奏、しかもいずれも熱演だったことには間違いありません。 かなり練習を積まれたのでしょう。 盛大な拍手が鳴り止むことはありませんでしたけどアンコールはなし。 全員が客席に向かっておじぎをしてお開きになりました。 アンコールなしでもとても充実感のある演奏に満足して家路につきました。