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ならチェンバーオーケストラ 第68回定期演奏会

誠実で集中力の高い演奏戻る


ならチェンバーオーケストラ 第68回定期演奏会
2004年11月27日(土) 15:00  なら100年会館 中ホール

オトマル・シェック: セレナーデ 作品1
モーツァルト: ホルン協奏曲第2番変ホ長調 K.417
ロッシーニ: 「ウィリアム・テル」より舞踏音楽
メンデルスゾーン: 交響曲第4番イ長調 作品90「イタリア」

(アンコール)モーツァルト: 「フィガロの結婚」序曲

独奏: 猶井 正幸

指揮: 今村 能


1年ぶりの、ならチェンバーオーケストラの演奏会を堪能しました。 
このところの奈良市の財政難から、ならチェンバーの演奏会は年に2回となっています。 しかもうち1回は室内楽編成ですので、久しぶりのオーケストラ編成。 関西ではソロ奏者や教鞭をとっておられる錚々たるメンバーが久しぶりに集まったオケの演奏は気力も漲っていたようです。
また久しぶりの指揮をとられた今村さんも、いつも以上に気合が入っていたように感じました。 いずれの曲も誠実で集中力の高い演奏となっていました。
まずオトマル・シェックのセレナーデ。 とても素敵な曲でした。 学生時代に試験のために書いた曲とは思えないほどの充実した作品。 それをまた充実した演奏で、軽やかでかつ豊かな演奏を堪能しました。 モーツァルトのホルン協奏曲は端正な演奏でしたけど、ちょっと誠実すぎたかな、といった印象。 安全運転志向だったかしら。 ロッシーニのウィリアム・テルの舞踏音楽は軽やかで明るく弾む演奏に心躍らされました。 バレエ好きのフランス人もご満悦だったことでしょう。 楽しい音楽、素適な演奏に満足しました。 そしてメインのイタリア交響曲、弦と管が絶妙に絡んだ緻密さがありました。 でもヴァイオリンの数が少ないせいでしょうか、そして皆さん久しぶりの合奏で気合が漲っていたこともあるのでしょう、後半になるほど豊かさがちょっと足りなく感じた面がありました。 これは数の少なさを補うために全奏になると全力で弾くヴァイオリンの響きが生硬になったからではないでしょうか。 しかし指揮者やオケの皆さんの技術が高いことには疑いありません。 誠実でしっかりした演奏です。 逆に巧いからこそこのようなことも気になったのだと思っています。 
いずれにしても、どの曲もとても響きが端正で美しく、ならチェンバーらしい誠実さの溢れた演奏でした。 そして何よりアルプスを中心に据えた選曲の素晴らしさ。 ならチェンバーらしいセンスの良さを感じさせた演奏会に満足して会場を後にしました。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

長女が期末試験の勉強真っ最中。 長男は行きたくないなんて言うので夫婦で家を出ました。 ちょっと時間が押しているかな、と思っていたのですけど、西大寺から先の電車がなかなかやってきません。 焦りつつ、近鉄奈良駅からせっせと歩いて100年会館へ。 一人なら絶対に走っているところなんですけど、夫婦なんでそういうわけにもいきません。 とにかく開演5分前を告げるアナウンスと同時にホールに入りました。 まずはトイレに行きます。 座席はバルコニーしか空いてないかな、と思って席を探したら後方の右隅に空席が。 カ-18/19。 ようやく腰を落ち着けたと思ったら開演です。

指揮者の今村さんが登場。 今回のタイトルになった「アルプスを越えて」についてのスピーチがありました。 アルプスはヨーロッパの人の心の故郷であること。 今回はそのアルプスを南から北に越えた人(ロッシーニ)、北から南に越えた人(モーツァルト、メンデルスゾーン)、そしてアルプスに住んでいた人(シェンク)を採りあげたとのことでした。

そしてまず最初のオトマル・シェンクのセレナーデについての解説。 スイスに住み、19〜20世紀にかけて活躍した作曲家シェンクはほとんど知られていません(僕は名前だけは知っていましたけど)。 でもこのセレナーデは学校の試験のために書かれた曲ですけど(確かに作品1番となっています)、セレナーデの伝統にのっとり、情景が浮かぶような聴き易い作品であるとのこと。 素適な作品なので聴いて欲しいので採りあげたとのことでした。 

そのシェンクのセレナーデ、とても素敵な曲でした。 確かに学生時代に試験のために書いた曲とは思えないほどの充実した作品。 この曲を採りあげた今村さんのセンスの良さと、オケの特質にもよくあった充実した演奏でした。 軽やかでかつ豊かな演奏を堪能しました。

後列左からホルン、クラリネット、ファゴット、前列にはフルートとオーボエが各1名づつ。 第1ヴァイオリンは4名、コントラバス3名といった小型の編成です。 
まずは弦楽器の柔らかなアンサンブルで開始。 艶やかな響きでした。 そこに持永さんのフルートが端正に入り、チェロ、オーボエ、ヴァイオリンのソロ、ホルンといずれも軽やかで豊かな響きで歌います。 そして極めつけは鈴木さんのクラリネット。 音色といい、響きは柔らかいけど、芯のしっかりした演奏に酔いました。 そして今村さんの後ろ姿を見ていると、ちょっと油が切れたロボットみたいです。 カクカクっと動きつつ集中力を高めてゆきます。 とにかくもう皆さん巧いのです。 ならチェンバーのクリティの高さを感じ、響きの豊かさを味わっていました。 ヴィオラのソロが甘く切なく、ホルンのやわらかい持続音にクラリネットが優しく語りかけたあと、オケ全体に力が満ちたかと思ったら、チャンチャンと締めて曲を終えました。 いい曲、いい演奏でした。

今村さんが出てきて、モーツァルトのホルン協奏曲第2番の解説。 ロイドケープというホルンの名手のために作った曲。 またコンスタンツェのお腹に赤ちゃんがいた頃で、第2楽章はそのお腹のなかの赤ちゃんを思って書いたのではないかと思われるのことなどが語られました。

そのホルン協奏曲。 ならチェンバーのメンバーでかつサイトウキネンのメンバーでもある猶井さんの独奏です。 端正な演奏でしたけど、ちょっと誠実すぎたかな、といった印象。 スコアを見ながらの演奏でもあって、安全運転志向だったのかしら。

第1楽章、明るい音楽はいかにもモーツァルトらしい響きによる開始。 快活だけどもシックな響きに聴こえたのはならチェンバーらしさでしょう。 猶井さんのホルンは柔らかい響きで登場。 このホルンもちょっとシックな感じ。 そして、オケが快活さを増して進みます。 ホルンは憂いを秘めたような端正な響きで応えます。 響きのあたりは柔らかいのですけど、伸びというか、自由度がちょっと少ない感じかな。 でも調子が出てきたのか、後半になるほど伸びも感じら、力強い響きも出てきました。 でも全体的には慎重に進めたという印象でした。

第2楽章、柔らかいアダージョ。 ホルンの響きにも伸びやかさや粘り、甘さを感じるようになりました。 オケもしっとりと寄り添って曲を進めてゆきます。 そして優しく柔らかな音楽がフェードアウトするようにこの楽章を閉じました。

第3楽章、タイトで輝かしいホルンの響き、でも響きの当たりは柔らかいまま。 オケも力を増し、明るい音楽で集中力を高めます。 短く区切ったホルンの響きには伸びやかさも。 ヴァイオリンがチャーミングに囁いたあと、力を増したアンサンブルは艶やかで輝くみたい。 タンタカタンってな感じで演奏をぎゅっと絞ったあと力を増し、最後はふわっとした着地。
全体として、ホルンはどこか安全運転志向かな、オケは誠実にサポートしたって感じに思えました。

休憩かな、と思っていたら今村さんが出てこられて、ロッシーニのお話。 ドイツでロッシーニ旋風が吹き荒れたので、ベートーヴェンも声楽付きの交響曲(第九)を作曲したのだとか。 あとウィリアム・テルはスイスのお話で、この舞踏曲はバレエ好きなフランス人嗜好に書かれたのだそうです。

そのウィリアムテルの舞踏曲、軽やかで明るく弾む演奏に心躍らされました。 バレエ好きのフランス人もきっとご満悦だったことでしょう。 楽しい音楽、素適な演奏に満足しました。
今村さんのハナ息のあと、パパーンとファンファーレ、これが3回綺麗にが鳴ったあと、軽やかなヴァイオリンが奏でます。 息づいた音楽です。 チェロとコントラバスのピチカートもわくわくする感じです。 オーボエが凛とした響きで可憐な感じなのもフランス好みでしょう。 明るい響きのクラリネット、サイトウキネンのメンバーでもある鈴木さんがこれまたよく動いて情感をつけています。 いつもこの動きに見入ってしまいますけど、この鈴木さんの動きも楽しい気分にさせてくれているのでしょう。 軽やかで、弾むような旋律が本当に楽しい音楽です。 これが繰り返され、ほんと、いい気持ち音楽を堪能。 スピードがあがり、竹森さんの明るいトランペットの響きも柔らかく軽やか。 最後はピッコロの響きが絡んで速度を上げ、パパーンと終わりました。 
あとで聞いたところによると、ブリテンのマチネ・ミュージカルの原曲になった曲とのこと。 その方も指揮者今村さんのセンスの良さを褒めておられたことを付け加えておきます。

素適な音楽を聴いてうきうきとした気分で休憩。 ホールから出て、ロビーに出ました。 
しかしこのホール、随分見慣れましたけど、やはり見れば見るほど前衛的な感じがします。 直方体のホールですけど、ホール上部がガラス張りっていうのは珍しいのではないでしょうか。 
またロビーの外壁は建物の丸みをそのまま出してやけに天井が高く、斜めに太いパイプの梁がX型に走ってます。 しかもロビー後方には何のためか分からない段差があって階段になっています(この段差の上はステージ利用なのかしら・・・勇気がないのでこの階段を登ったことがありません)。 とにかく不思議な空間です。

さて後半、いよいよメインのイタリア交響曲。 その前に今村さんのスピーチです。 パンフレットに曲目解説が書いていないため、演奏者の方が自ら解説して下さるのは嬉しいものです。
さてそのメンデルスゾーンは北ドイツのライプティヒに住み、その業績(ゲヴァントハウス・オーケストラの創設、音楽院の創立、バッハの蘇演)紹介のあと、絵画を趣味にして優れた水彩画を多く残し、スイスやイタリアにも長く旅行したことを言われました。 そしてイタリア交響曲はイタリアの陽光を感じさせるとの解説でした。

そのイタリア交響曲、弦と管が絶妙に絡んだ緻密さがありました。 でもヴァイオリンの数が少ないせいでしょう、そして皆さん久しぶりの合奏で気合が漲っていたのかもしれません。 後半になると豊かさがちょっと足りなく感じ、また全奏になると数の少なさを補うために全力で弾くヴァイオリンの響きに生硬さも感じたりもしました。 しかし指揮者やオケの皆さんの技術が高いことには疑いありません。 誠実でしっかりした演奏で、逆に巧いからこそ気になってしまった面のように感じました。

第1楽章、木管とホルンが弾けるように軽快に飛び出します。 快活で明るい出だしですけど、抑えるべきところはしっかりと抑え、抑揚をつけて曲を進めます。 軽やかで端正な感じにも思える巧い演奏です。 ティムパニは小粋に叩き、トランペットも響きを抑え短く切り上げていました。 相変わらずと行ってはナニですけど、鈴木さんは身体をいっぱい使った陽気で暖かなクラリネット。 いずれも緻密に鳴って音楽を組み立てています。 さすが名手揃いです。 舞曲風の旋律のあと、最初の旋律が戻って音楽が高揚します。 若干管楽器が勝っているのかな。 第1ヴァイオリン6名、第2ヴァイオリン5名の編成です。 だから高音弦にもうちょっと潤いが欲しい気がしたのですけど、ヴァイオリンが綺麗に揃って鳴っているからこそ余計にそう思えたように感じています。

第2楽章、中音弦の強靭さも感じた出だし。 コントラバスの響きが豊かで心地よく、そこに透明感のあるヴァイオリンがのっかります。 そしてオーボエ、ファゴットなど木管楽器が端正に吹き、ヴィオラの響きともあいまって哀愁に満ち満ちた雰囲気。 ねっとりしない、しゅっとした感じの哀しみの表情が素晴らしい。 ゆったりと哀しみを醸成するかのように曲を進め、途中に長調が現れますけどしっとりとし、また短調に。 端正な音楽。 絶妙なバランス感覚で木管楽器の響きが絡んで曲を渋く彩ります。 巧い。 そして最後はチェロとコントラバスの密やかなピチカートで静かに閉じました。

第3楽章、明るく爽やかですけど、しっとりとした感じもしたメヌエット。 中庸のテンポで流れるように曲が進みます。 中間部のホルンの柔らかなファンファーレ。 とても綺麗で、艶も感じました。 そしてトランペットの響きには煌きがあり、オケも力が篭ってきます。 ホルンも力強く吹きます。 全体の粘り気も増したみたいですけど、やはり高音弦の響きがちょっと足りない感じかな。 もう少しうねるような感じも欲しいところですけど、オケの皆さんも気合入っているでしょう。 もちろんヴァイオリンも五十嵐さん始め、皆さん気合を込めて懸命に弾いていらっしゃるのは見ていてもよく分かります。 でも皆さん揃ってきちんと弾いているからでしょう。 一所懸命なのに響きがちょっと痩せて聞こえてしまうみたい(かえってバラけていたほうがかえってよかったのかも)。

第4楽章、集中し、今村さんのハナ息で入ります。 力強く強靭な感じのする響きはこれまでのなかで最強のもの。 渦巻くような舞曲が走りはじめます。 タメを効かせる部分はしっかりとタメた集中力の高い演奏。 音量を上げてもタイトな音楽の型は微動たりともしません。 これは中低弦が安定していて、そこにオケ全体が乗って曲が進んでいるからでしょう。 名手揃いのメンバーによる響きが凝縮している感じ。 きちっと分奏されています。 中音弦の巻き込むようなサルタレッロの旋律、ぐいぐいと曲を進めてゆきます。 渦巻くように音楽で進んだあと冒頭のテーマに戻り、ふたたび集中力を高めて終結しました。

皆さん久しぶりに集まったオケ活動だからでしょう。 気合の篭った演奏でした。 ただし高音弦楽器については、数が少ないこともあって、響きを補うために全力で弾いていたようです。 そのためヴァイオリンの響きに生硬さを感じた面もありました。 しかしながら指揮者やオケの皆さんの技術が高いことには疑いありません。 誠実でしっかりした演奏でした。 逆に巧いからこそこのようなことも気になったのだと思っています。 
いずれにしても、どの曲もとても響きが端正で美しく、ならチェンバーらしい誠実さの溢れた演奏でした。 そして何よりアルプスを中心に据えた選曲の素晴らしさ。 ならチェンバーらしいセンスの良さを感じさせた演奏会に満足して会場を後にしました。

蛇足ですけど、アンケートにも書きましたとおり、これからもならチェンバーの演奏に期待しています。 室内楽編成が多くなってもかまいませんので、是非とももとの年4回ペースに戻してもらいたと思っています。