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大阪大学交響楽団 第84回定期演奏会

響きの軟らかさとキレの良さ戻る


大阪大学交響楽団 第84回定期演奏会
2005年1月22日(土) 14:00  京都コンサートホール・大ホール

ロッシーニ: 歌劇「どろぼうかささぎ」序曲
ベートーヴェン: 交響曲第8番 ヘ長調 op.93
ブラームス: 交響曲第1番 ハ短調 op.68

指揮:新田ユリ


いずれの曲も、しっかりした構成感を持ちながらも響きの軟らかさが特徴的な演奏でした。 また演奏のキレがとても良いのです。 オケの軟らかな響きと響きの間にはホールの残響もしっかり届いてきて、響きの良いホールだなとも改めて感じ入った演奏会でもありました。
指揮者の新田ユリさんはその名からも分かるとおり女性の指揮者です。 2001年秋から1年間、文化庁芸術家在外研修員としてフィンランドに派遣され、オスモ・ヴァンスカ氏のもとラハティ交響楽団で研鑚を積まれたとプログラムに記載されています。 そういったことが影響しているのでしょうね、明快な指揮なのですが、機動力や機能的な感じに陥ることなく、このオケから響きの軟らかさを実に巧みに引き出していたように思います。 もちろん女性の指揮者だから軟らかいと感じたのではないことは言っておきます。
蛇足になりますが、自分が聴いている限り、女性の指揮者が女性指揮者という理由で叙情的なムードを出して指揮していると感じたことは一度もなく、逆に強引とまでは言わないけれど(そのような人もいますけれど)、明確な意思でもって纏め上げている人ばかりであるとの印象を持っています。 指揮者はまだまだ男性がほとんどのポジションですし、また何十人にも人間を相手に指示を出して纏めてゆくには、一般に言われているような女性らしさだけを前面に出してはやってゆけないのでないかと思っていることもあります。 
で、話をもどして新田さんと阪大オケの演奏。 「どろぼうかささぎ」序曲は、しっかりとした構成感を持ち、すっきりと纏めあげた演奏でした。 堂々とした感じの曲の運びなのですけど、響きの耳当たりが良いこともああって陽気で明るい雰囲気もよく出ていました。 個人的にはもうちょっとウィットに飛んだ感じも欲しかったように思いましたけど、それは欲張りというものでしょう。
ベートーヴェンの交響曲第8番も丁寧に音を紡いだ感じのしっかりとした演奏でした。 響きの耳当たりは軟らかいのですけど、構成感があって芯がビシッと通っている感じ。 演奏のキレも素晴らしく良かったと思います。 充実した演奏だったと思います。 ただしこの曲、個人的にメンゲルベルクの演奏に馴染んでしまっているため、もうちょっとうねるような感じが欲しい気がしました。 これも個人的な嗜好なので許してください。
メインのブラームスの交響曲第1番も同様で、まさしくベートーヴェンの10番目の交響曲といった感じの演奏だったでしょう。 充分にコントロールされ、ケレン味のない演奏は主情を排除した充実した演奏でした。 ただし終楽章のフィナーレ、ここだけはスピードを上げて機動力を持って駆け抜けた感がありました。 この部分だけ主情的だったので、ちょっと異質に思えましたけど、会場はこれで熱くなったように思います。 ブラボーもあちこちからかかって盛大な拍手に包まれていました。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

ちょっと勘違いして余裕を持って歩いていたら、最寄駅前の陸橋の上から電車が出てゆくのが見えました。 げっ! 
演奏会に間に合う最終の電車パターンを乗り継ぎ、13時51分に北山駅到着。 早足でホールに到着すると5分前、ちょっとまだ余裕あると判断し、まず1Fのトイレで小用を足してから入場しました(ずっと我慢していたんです、これで落ち着きました)。 さて、いつもどおり2階席に駆け上がり、正面のC-5列-15の席に着いたときにステージを見ると、オケは対抗配置で整列入場中。 第1ヴァイオリン側はもう既に皆さん席についていて、第2ヴァイオリンの入場中でした。 12型といって良いのかな、12-14-10-10-8 といった第2ヴァイオリンが多い編成。 なお左右のヴァイオリンの後ろにスネアドラム奏者が配置され、パンフレットを読む間もなく照明が落ちました。

指揮者の新田ユリさん、その名からも分かるとおり女性の指揮者です。 2001年秋から1年間、文化庁芸術家在外研修員としてフィンランドに派遣され、オスモ・ヴァンスカ氏のもとでラハティ交響楽団で研鑚を積まれたとプログラムに記載されています。 黒いズボンに黒の燕尾服姿。 長いストレートの髪を後ろで一つに束ねていらっしゃいました。

ロッシーニの「どろぼうかささぎ」序曲。 しっかりした構成感を持ち、すっきりと纏めあげた演奏でした。 堂々とした感じの曲の運びなのですけれど、響きの耳当たりがとても良いこともあって陽気で明るい雰囲気もよく出ていました。

冒頭、左右に振り分けられたスネアが打ち鳴らされて残響がホールにこだましたあと、豊かな響きのアンアサンブルで行進曲調の序奏が始まります。 この後も金管と打楽器のリズムといい、弦楽器の旋律といい、響きの耳当たりの良さが特徴的。 曲自体はしっりとした足取りでシャキシャキと進んでいくのですけど、刺激的な響きは皆無で、こんな演奏は好きです。 そしてフィナーレでは、打楽器が入って徐々に音量をあげますけど、かえってオケ全体の響きが締まってきて音楽がまったく拡散しません。 最後までとても見通しの良い演奏で、最後は新田さんが大きく右手ですくい上げるようにして曲を閉じました。
この曲、詳細には憶えていませんけれど、随分前に井村さんの指揮で聞いたことがあります。 そんなこともあって井村さんだとどう演奏するのかな、なんてふっと思ってしまいました。 オペラ的な感興がもう少しあればなぁ・・・なんて感じに思えたのですけど、でもこれは律儀さが前面に出る学生オケでは欲張りなのかもしれませんね(すみません)。

いったん全員が退場して再入場。 この間にティムパニを組替えていました。 なおオケの弦楽器の編成は 11-10-10-10-6 に縮小されました。

ベートーヴェンの交響曲第8番。 こちらも丁寧に音を紡いだ感じのしっかりとした演奏でした。 響きの耳当たりの軟らかさは同じで、こちらの演奏もまた構成感がしっかりしていて芯がビシッと通っている感じ。 演奏のキレも素晴らしく良かったと思います。
ただしこの曲、個人的にメンゲルベルクの演奏に馴染んでしまっている(メンゲルベルクの亡霊に憑かれている?)ため、もうちょっとうねるような感じが欲しくもありました。 これも個人的な嗜好なので許してください。 でも充実した演奏には間違いありません。

第1楽章、透明感のある第1ヴァイオリンによる主題の呈示。 瑞々しく快活な感じのする開始ですが、中低弦がしっかりとした音型を響かせています。 個人的にはメンゲルベルクの演奏が耳についてしまっているので、もうちょっと粘り気のようなものが欲しい感じがするのですけど、各パートはよく揃っています。 新田さん、そんなオケを要所でスパッと切り、アクセントをつけてぐぃぐぃと曲を進めているようです。 でも展開部あたりまで、オケの各パーツの響きがよく聴こえてきますけど、それが調和した全体の響きにまではちょっと感じませんでした。 オケは巧いし、丁寧に音を紡いでいるみたいなんですけど・・・でも後半は堅さが取れてきたようで改善されたみたいで、力の入った演奏でこの楽章を閉じました。

第2楽章、瑞々しい木管楽器のリズムを背景に、第1ヴァイオリンが先ほどとは打って変わって粘り気を感じさせる旋律。 またチェロとコントラバスもしっかりとした響きで、これらが渾然一体に混ざり合っていて充実した演奏でした。 フィナーレでは熱気も孕んだキレの良い音楽で締めました。

第3楽章、恰幅の良い充実した音楽。 甘美さや優雅さも持ち合わせていました。 トリオでのホルンとクラリネットが活躍するアンサンブル、ちょっと荒さを感じましたけど、積極性を持った演奏でいい感じでした。 主題が戻り、また恰幅よく演奏したあと、ふわっと着地。

第4楽章、新田さんがちょっとかがんで集中力を高めて始まります。 堅さもなくよく整った開始のあとffの全奏での盛り上がりに弾力を感じさせて見事でした。 音楽は躍動感を持って進み、中低弦の腰が据わっているのが印象的です。 オケの響き、耳当たりがとても良いのに、演奏のキレがよいためでしょう、フレーズの間の響きの隙間にホールの残響がまわってきたのが聴こえました。 ただ、ここでもメンゲルベルクの亡霊が顔を覗いたのですけど、真摯な音楽には違いありません。 そしてフィナーレ、新田さんが勢い余ったのでしょう、執拗に繰返される主和音の部分で、指揮棒が大きく円弧を描いてチェロの後ろに飛んでゆきました。 幸いにも指揮棒は誰に当たらず演奏にはまったく支障なし。 何事もなかったかのように気合を入れたまま全曲を閉じました。

15分の休憩。 席についたままパンフレットを読みながら開演を待っていましたが、予鈴が鳴る前からコントラバス奏者8名とティムパニ奏者の方が出てこられて練習開始。 気合入っているようです。 定刻となり、上記以外のメンバーが登場すると 13-14-11-12-8 の編成になりました。 

ブラームスの交響曲第1番。 まさしくベートーヴェンの10番目の交響曲といった感じの演奏だったでしょう。 充分にコントロールされ、ケレン味のない演奏は主情を排除した充実した演奏でした。 ただし終楽章のフィナーレ、ここだけはスピードを上げて機動力を持って駆け抜けた感がありました。 この部分だけ主情的だったので、ちょっと異質に思えましたけど、会場はこれで熱くなったように思います。 ブラボーもあちこちからかかって盛大な拍手に包まれていました。

第1楽章、ちょっと響きの深い弾力を持ったティムパニの打音から、おおきくゆったりとした開始。 覇気も感じて上々の滑り出し。 新田さんも気合入っているのでしょうね、時折ハナ息が聞こえてきますけど、非常に端正な演奏だったと思います。 構成感をしっかりと持っているのはこれまでのどの曲とも同じですし、響きの軟らかさもまた同じ。 クライマックでも、よく揃ってケレン味なく盛り上がってゆきます。 またホルンの斉奏などもちょっとくぐもった感じがして媚びた感じは皆無。 ベートーヴェンの10番目の交響曲といった感じを憶えました。

第2楽章、響きを深くとってたっぷりとした感じの開始に続いてオーボエがちょっと明快な感じのする響きで主題を歌います(この楽章の木管楽器のソロはいずれも明快な感じがしました)。 弦楽器の響きはこれまでよりも厚みというよりも深みを感じさせていて、特にチェロとコントラバスの響きが心地よく印象的でした。 ゆったりと曲が進んでヴァイオリンのソロ、清楚な感じながら艶も感じさせてしとやかでした。 曲もまた優しい雰囲気を持ちしとやかに幕となりました。

第3楽章、明るいクラリネット、柔らかなホルンの響きによる牧歌的な開始でした。 力が漲ってくると、真摯に盛り上がってゆきます。 よく揃っていてとても巧いのですけれど、ちょっと型どおりかなと思えなくもなく(偉そうにすみません)、ちょっとのめり込めませんでした。 主題も型どおり戻ってきた感じかな。 そして楽章を閉じたあとも新田さんの腕は下りず、そのままちょっと間合いをとってからアタッカで終楽章に入ります。

第4楽章、じっくりとした序奏。 ピチカートがよく揃っていますけど、響きがとても深くて素晴らしかった。 まったく関係ないと思いますけど、コントラバス奏者8名のうち弓を立ててピチカートを爪弾くフランス式の人が4名もいたことに気付きました。 珍しいですね。 さて潔いティンパニが要所を締めて曲を進めます。 ホルンが遥かな感じでじっくりと主題を吹きますと、フルートもややゆったり目に透明感のある響きで応えます。 そしてトロンボーンはちょっと音圧を下げて控えめな感じ。 いずれもきちんとした構成感を持って曲を進めてゆきます。 そういえばこれまで主情的な感じをまったくと言って良いくらい受けなかったことに気付きました。 だからでしょうか、巧いと思うのですけど、イマイチ曲にのめり込めない感じなのです。 でもコーダでこれが一変、これまでにないスピード感を持って駆け出しました。 オケも機動力を発揮し、力強くぐぃぐぃと進めますと熱気を孕んだフィナーレ。 今までちょっとクールに外から曲を見ていたみたいのに、いきなり盛り上がって全曲を締めました。
個人的にはこの部分ちょっと違和感を覚えましたけど(燃える演奏は嫌いではありませんけど、これまでの流れと違うので)、会場はこの盛り上がりで燃えたみたいです。 あちこちからブラボーがかかって盛大な拍手に包まれていました。