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ニューオペラシアター神戸 第24回オペラ公演

とにかく面白い公演、歌も音楽も芝居も堪能戻る


ニューオペラシアター神戸 第24回オペラ公演
2005年2月5日(土) 18:00  尼崎アルカイックホール

J.シュトラウス2世: 喜歌劇「こうもり」全3幕(日本語上演)

配役: アイゼンシュタイン   金丸七郎
  ロザリンデ   垣花洋子
  アデーレ   門上恵利
  アルフレード   清原邦仁
  フランク   澤井宏仁
  ファルケ   萬田一樹
  オルロフスキー   柏原保典
  ブリント   服部英生
  イーダ   苅田夏子
  イヴァン   近藤修平
  フロッシュ   池乃めだか(特別出演)

管弦楽: エウフォニカ管弦楽団

演出: 井原広樹

指揮: 井村誠貴


とにかく面白い公演でした。 吉本新喜劇の池乃めだかさんの快演もさることながら、出演者の皆さん、のびのびと演じておられたのも印象的。 とにかく歌も音楽も芝居も堪能させていただきました。
なお今回の演出は新機軸では。 ステージ後方の雛壇にオーケストラを配置した舞台設計ですがコンサート形式の上演ではありません。 オケを追いやったオケピットをせり上げ、芝居を文字通り前面に押し出した感じにしています。 懸念していた舞台と音楽とのシンクロも見事に合わせていました。 パンフレットには、指揮者はモニター画面を見ながら、歌手の動きよりもさらに半拍早めて指揮をして合わせることが書かれていて、素人が考えてもかなり難しい作業と思われましたが、違和感なく見事でした。 驚きました。
さてそのようにして芝居にウェイトを置いた「こうもり」。 冒頭にも書いたとおり、皆さんのびのびと演じておられたお芝居がとても面白い。 特にアイゼンシュタインの金丸七郎さん、顔の表情なども実に達者で、コミカルに演じた第2幕など愛らしくもありました。 そして今回特別出演の池乃めだかさん、吉本新喜劇でのギャグの数々を上手く織り込みながらも、そのギャグだけが浮き上がることなく本編の芝居に繋げて違和感まるでなし。 さすがに年季の入った舞台さばきはに巧さを感じました。 この他にもアデーレの門上恵利さん、フランクの澤井宏仁さんの演技が舞台を華やかなものにしていました。 また華やかといえばダンター。 8名が各幕の要所に登場、もちろん第2幕での鮮やかな回転なども見事でしたが、第3幕では酔いつぶれたフランクを舞台に引き上げて監獄に華を添えていました。 
もちろん歌にも触れないといけませんが、これは皆さん実力を見事に発揮されていて見事の一言。 当たり前のことかもしれないのでここでは割愛しましょう。
最後に5日の公演ではオルロフスキーとして男性の柏原保典が配役されていました。 通常ここは男装した女性の配役だと思うのですが(6日の配役もそうなっています)、柏原さんが安岡力也ばりの服装と演技でいかがわしさ(笑)も充分。 見ごたえありました。
面白い仕掛けがいっぱいあって、あっという間の3時間半でした。


簡単に公演を振り返ってみたいと思います。

いつものように5分前に飛び込むなんてことは慎まねばならないと(殊勝にも)早めに家を出たので5時15分にホール到着。 まだ開場前でした。
取り置きしていただいたチケットを受け取って吃驚、なんとSS席。 これはしっかり聴かねばなりません。 もっともいつでもしっかり聴こうとしているつもりなんですけどね、決意も新たにしたわけです。

ホール手前のレストランや受付のある建物で時間をつぶして5時35分頃に入場。 ロビーでは譜面台を立ててコンサートの準備をしていました。 さっそく座席にてパンフレットを読んでいたのでいて気付かなかったのですけど、6日の公演に行かれた方のお話では、弦楽四重奏で「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を演奏し、その前ではダンサーの方が踊ってらっしゃるところに池乃めだかさんが乱入していたそうです。 見逃してしまいました。 残念。

なおパンフレットで井村さんが執筆されたところを読んでいたら、今回の「こうもり」が凄い仕掛けになっていることに気付きました。 なんでもステージ後方にオーケストラを配置して芝居を見やすくし、音楽はモニター画面を見ながら、しかも歌手の動きよりもさらに半拍早めて指揮をして合わせるのだそうです。 素人が考えてもかなり難しい作業だと直感しますが、どう料理しているのか聴きたくもなります。 またパンフレットには舞台配置の写真や、衣装の絵コンテも書かれていて、期待を膨らませるのに充分な内容でした。

さて18時。 定刻を告げるチャイムが鳴らないのにいきなり幕が上がりますと、多くの男女が仮面舞踏会に行くのでしょうか、舞台上手(右側)から下手に歩いています。
座席を探していたお客さんも慌ててロビーから自席に向います。 ここでファルケが登場し、まだ始まりませんよ、と説明。 1階席で見渡した範囲はほぼ満員の客席が落ち着いたところで照明が落ちますと、オーケストラのチューニンングの音が聞こえます。 が、オケの姿は見えません。 どうなるのかな・・・と思っていたら、幕が上がって舞台下手の花道にファルケが登場。 仮面舞踏会を開催する旨の挨拶をしたあと、友人であるマエストロ・イムラスキー(井村誠貴さん)を紹介。 握手をしたあと、井村さんがステージ後方のオーケストラ席に登壇して序曲が始まりました。

オーケストラは弦楽器を下手、管楽器と打楽器に上手配置。 オケピットと同じ配置でみたいですけど、コントラバスが中央後ろに2本並んでいます。 なお女性奏者の衣装は色とりどりのドレスで、華やかな仮面舞踏会の専属オケの雰囲気を醸し出していました。
快活でお馴染みの序曲の演奏。 オケの人数が少ないのとステージ後方だからでしょうか、響きの反射がちょっと少なくてややストレートな音楽に聴こえます。 オケピットからの篭った響きを想像してそう思ったのかもしれません。 ちょっとゆっくりめだったかしら、丁寧な感じのする演奏。 弦と管が左右に分かれて聴こえるのを楽しみました。

序曲が終わるとオケピットがせり上ってきます。 このピット内と左右の花道に置いてあった衝立3枚を舞台中央に並べ、壁と扉という設定。 せり上がったオケピット部分がアイゼンシュタイン邸の居間、ちょっと新劇っぽい舞台設定がいい感じです。 なお衝立の後ろにいるオケの前には紗幕も降りたのでほとんどオケの様子は見えません(井村さんは衝立の陰なのでまったく見えない位置になってしまいました)。

アルフレードが上手花道に登場し、ロザリンデへの愛の歌を歌います。 実に朗々とした声と迫力、圧倒されました。 このあとはバンダからも朗々と歌ってとても聴き応えありました。
アデーレが登場。 この幕では眼鏡をかけ、チョコマカ動く動作やアドリブっぽい台詞回しも自然な感じで板についていて「こうもり」の世界にぐいっと引き込みます。 芝居を見やすくした設定の効果が早くも出ていると感じました。
ロザリンデも登場。 上品で凛とした感じの美人として充分に役柄をこなしていました。 この役柄は芝居よりも歌が主体ですね。 たっぷりと響く声がとても素適でした。
さてアイゼンシュタインが弁護士のブリントと共に登場。 アイゼンシュタインは貫禄はあるけれど、どことなく人の良さそうな感じが滲み出てきたのは第2幕かな。
ところでここでの3重唱、もともとブリントは頼りない役柄なんだけれど(しかもここでは吃音にしていたようです)、ちょっとバラけてしまったみたでした。 立ち位置の違う3人が声を合わせることそのものが難しいのに、指揮者が後ろにいるので誰に合わせるのにちょっと戸惑っているようにも見えましたが、これは致し方ないところでしょう。
ファルケが登場すると、どことなく陰険な感じも漂わせていかにも「こうもり」って感じ。 これも計算値でしょう。 ただちょっとファルケさん、この幕では節回しで若干音楽に乗れないところもあったように感じました。 全体的なまだちょっと堅いって感じかな。 でもこれも次第にほぐれてゆきました。
さて3重唱のことを書きましたけれど、この後のロザリンデとアデーレとアイゼンシュタインの3重唱。 これは素晴らしいものでした。 ピッタリ合ってるだけではなく、それぞれの思惑を滲ませた歌と演技、見て聴いて、わくわくしてきますね。 この幕のハイライトだったではないでしょうか。
なおこの幕も終わりに近づき、アルフレッドがアイゼンシュタインのガウンを着て歌う「酒の歌」。 張りのあるいい声ですね。 ここでも朗々とした歌声もまた素晴らしいものでした。 
そしてフィナーレ。 アルフレッドが刑務所長フランクに連行される場面のワルツですが、ここでダンサーが登場。 上手4名、下手4名に分かれて華やかさを演出します。 最後はフランクとアルフレッドの立っているオケピットの中央部分が沈んでゆき、二人の姿を見えなくして第1幕を終了。 凝った演出ですね。
初日ということもあって、ほんの少し堅さを感じた部分もありましたけど、上々の滑り出しでした。

20分の休憩ののち第2幕。 幕が上がると舞台全面を使った仮面舞踏会場。 先ほど下がったオケピット内に階段が設けられて、舞踏会場への入口となっています。 また天井には大きなミラーが設置されて舞台を上から見ることも出来るようにもなっています。

華やかな間奏曲の演奏。 仮面舞踏会に出席するカップルがオケピットの階段を上って登場します。 立体的な演出で、奥行きを感じさせます。  井村さんも仮装舞踏会の参加者としてマスクを被り、衣装も身にまとっています。 
この幕での主役はオルロフスキー公爵。 よくあるのは男装した女性の配役だと思うのですが(6日の配役もそうなっていますが)、ここでは安岡力也ばりの服装(白のパンタロンスーツはエルヴィス・オン・ステージのよう)、アクの強い演技、しかも赤いドレスのダンサーを周りに常にはべらせるいかがわしさ(笑)。 見ごたえありました。
さてアイゼンシュタインがルナールとして登場。 オルガとして潜り込んでいるアデーレとの絡みも楽しい。 アデーレは眼鏡も外し赤いドレスでコケティッシュな感じもよく出ていました。
フランクがシャグランとして登場。 ここでのルナール(アイゼンシュタイン)との絡みもまた面白いものでした。 このお二人、とても芝居が巧い。 表情や仕草などとても自然で、クスクス笑いで会場内を沸かせます。 上品なオペレッタの楽しさに満ちていました。
さてロザリンデが謎のハンガリーの貴族婦人として登場すると、華やかさも一段と増します。 マスクをつけても美しさが際立っている感じ。 そしてチャールダッシュも堂々とした品格のある歌いっぷりでした。
このあともルナール(アイゼンシュタイン)のとぼけた味わいのある芝居がとても面白くて、どんどんと物語に惹き込まれてゆくともう終曲。 ダンスの時間となり、赤い服のダンサーが情熱的に踊ります。 そんなダンサー4人をはべらせた安岡力也風のオルロフスキーが唄い、残ったダンサー4人がはべらっている下に敷かれた真紅の布を上げ下げして隠す(それを上のミラーから見る)なんていう凝った趣向のあと、最後は目が回るほどのスピンの連続技。 いつもよりも多く回っています・・・てな感じで会場の注目を集めたあとワルツの音楽に引き渡されました。
この幕ではオーケストラが出演者の一部となっているため、井村さんのしなやかな指揮姿も堪能することができました。 オケピットよりも動ける範囲が広いこともあるのでしょう。 いつもよりも大きく動いています・・・てな感じの指揮姿でした。

20分の休憩ののち第3幕。 幕が上がると第1幕と同じ衝立の配置、衝立には池乃さん扮するフロッシュが寝ています。 セットを間違えたという設定で、池乃さんを寝たまた引きずり降ろし、慌てて衝立を回転させて第3幕用の監獄の壁と扉とします。 オケピット部分は全面上がっていて監獄所長室です。

寝ていた池乃さんが起き、扉を押してステージに現れると大きな拍手。 ここから池乃さんの一人舞台が延々と続きましたが、さすがですね、見事に観客を掴んで放しません。 TVでよく見るお馴染みのギャグはもちろんのこと、吉本の名前を出してウケたり、歌まで披露。 発声のしかっりした歌は聴き応えがあって観客の注目を集めますが、最後の部分で疲れたので息をあえがせて笑いを取るのを忘れません。 グチャグチャと喋ったあと、いきなり唄いだすとカラオケ。 やっぱりいきなりでは合わんか、と喋って再度唄い直すとオケがそれに合わせて見事なフィナーレ。 ヤンヤの拍手喝采。 芸達者ぶりを堪能しました。
さてフランクが客席の右側の扉より酔っ払って登場。 客席にいきなり「ちっちゃいオッサン見ませんでしたか?」と問い掛けてウケてました。 舞台下手まで歩くと花道の階段のところで酔いつぶれます。 ここで赤いドレスのダンサーが登場。 終始ケラケラと笑っていながらフランクを抱えて所長のイスに座らせます。 天使とか妖精みたいな感じの演出でしょう。 第3幕、前幕で盛り上がった後ですし監獄という場所柄ちょっと地味な感じのする冒頭ですが、華やかさが振りまかれたこの演出とてもよかったと思いました。
さてここにまたフロッシュ登場。 フランクがタバコを吹かしながら新聞を被って寝ている前でまた一人舞台を演じます。 これが「吉本新歌劇」の話となり新喜劇のテーマ曲の演奏などもあり少々長く、タバコの火でフランクの口が火傷しないかとちょっとハラハラしていました。 そしてここからの二人の掛け合いもまた面白かった。 延々とお芝居が続いてゆくといった感じ。
ようやくといった感じでアデーレとイーダが登場。 池乃さん、ここでもイーダに対して木曽山中に篭って編み出した必殺カニ挟みのギャグ(最近コレ使ってませんので懐かしかった)。 随所に笑いを振り撒いてゆくのですけど、ギャグがギャグとして浮き上がることなく本編の芝居に繋げて違和感がまるでありません。 さすがに年季の入った舞台さばきはに巧さを感じました。
アイゼンシュタインが登場したあとフリントが登場してカツラを取られるとやっぱりハゲ頭(いつものパターンですね)。 このあとロザリンデとアルフレッドが登場、善後策を練っているところにフリントに扮したアイゼンシュタインが現れての3重唱。 ここも見事でした。 押して引いて、最後はロザリンデが時計を出して形勢逆転。 
ここで衝立が取り払われて舞台はまた仮装舞踏会場。 登場者全員による大団円のなか「すべてはシャンパンのせい」とアイゼンシュタインが言いますとフィナーレ。 井村さんが指揮しながらステージ最前列まで出てきます。 オケのメンバーもチェロとコントラバス、打楽器のメンバーを除いて舞台に降り、陽気な合唱と華やかな演奏となって全体を締めます。
舞台の最前列まで出てきて、後ろのメンバーにも見えるように背伸びして指揮する井村さん、デッカイ身体に存在感も増してまさに主役の位置付けで幕となりました。 
なおカーテンコールでも井村さんが中央に立っています。 ここに来て完全に主役の位置付けとなっていたようです。
ざっと振り返ってみましたけれど、随所に書ききれない面白い仕掛けがまだまだいっぱいあって、あっという間の3時間半でした。