BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
鎮魂と未来に向けてのコンサート・復活

一音たりとも疎かにしない真摯で熱い演奏戻る


阪神・淡路大震災10年
鎮魂と未来に向けてのコンサート・復活
2005年3月20日(日) 15:00 神戸文化ホール・大ホール

J.C.バッハ: ヴィオラ協奏曲ハ短調より第2楽章
マーラー: 交響曲第2番ハ短調「復活」

独奏: 李 善銘(va)

独唱: 井岡潤子(S)、竹本節子(MS)

管弦楽: 神戸市民交響楽団
合唱: コープこうべ復活合唱団

指揮: 田中一嘉


一音たりとも疎かにしない真摯さを感じた熱い演奏に、体調が悪かったのもすっかり忘れて聴き入りました。 素晴らしい演奏会でした。
阪神・淡路大震災から10年。 コープこうべと神戸市民交響楽団は、年末の第九コンサートを長年ともに演奏されているとのこと。 その合唱団が母体となって一般公募や広島から「平和を祈る復活コンサート」に出演しておられる合唱団も加わり、今回のマーラーの交響曲第2番「復活」の演奏会となったそうです。
指揮者は神戸市民交響楽団を何度も指揮されている田中一嘉さん。 さすがにこのオケのことを知り尽くしていた丹念な音楽造りで真摯で熱い演奏を造りあげました。 特に第1楽章では、ほとんど立ち位置を動かさず、右手で小さく振って緊張感を絶やしません。 ゆっくりしたテンポ設定は長丁場となるオケの体力も考えてのことでしょうが、一音一音にメンバーの気持ち・想いをうまく乗せることに成功した充実した音楽として、これを終楽章まで見事に引き継いだ素晴らしい演奏としていました。
そしてその終楽章、ぎゅっと引き締まっていながら奥行きを感じさせた合唱の声の層がとても素晴らしいものでした。 ソリストでは竹本さんの深々としたおごそかな声、井岡さんの甘い声の響きもまた印象的。 バンダへと急いで目まぐるしく動くオケの金管や打楽器メンバーなど、ステージの全員が一致協力した感動的な音楽、熱い演奏ながら、田中さんの指揮はここでも必要以上に煽ることなく、真摯そのもの。 気持ちが引き締まった演奏に感動しました。
なお、前半のプログラムとして演奏されたJ.C.バッハのヴィオラ協奏曲。 震災のスライドを映しながらの演奏でしたが、神戸生まれで名フィルの奏者でもある李 善銘さんの深みのあるヴィオラの響きが心に染み入るようでした。 演奏終了後、静かな感動を伝えた客席からの拍手の響きに滋味があり、深々と頭を下げた李さんと田中さんの姿もまた印象深く心に残りました。
関係者の皆さん、ホールに集まった皆さんの気持ちがよく伝わってきた演奏会でした。


簡単に演奏会をふり返ってみたいと思います。

先週は出張に明け暮れ、しかも週末の新幹線に乗り遅れたために品川から名古屋まで立って帰って来るというハードな一週間でした。 このため消耗した体力に風邪のウィルスが攻撃しているのでしょう、咳は出ないものの、咽喉が焼け付くような感じ。 また身体の節々も痛んでいます。 通常の演奏会ならば早々にパスするところなのですけど、この演奏会はそんな簡単に諦めることはできません。 長女を連れて神戸まで遠征しました。

今回は15時開演とあって余裕をもって家を出られます。 また途中の電車の中で睡眠をとって体調を整えました。 ゆっくりと坂を登り、神戸文化ホールには開場ちょっと前の14時10分頃に到着するといつもどおりの長蛇の列。 でも並ぶとしばらくして列が動き始めます。 寝た効果は絶大でした。 体調は大丈夫です。

ホールに入ると、いつもどおり2階席に直行。 最前列も座れそうでしたけど、中央通路後ろの足元の広い席に陣取ります。 4列33番。 一息ついて、パンフレットを読みながら開演を待ちますが、基本的な体力が消耗しているのに加え、老眼が進んだこともあって、字は見えるものの文字情報としてなかなか頭に入ってきません。 それでも今回は対抗配置で音楽をするらしいことを読み取りました。

定刻、2階席でも隅の方に空席があるもののほぼ満員。 オケのメンバーが入場します。 弦楽器メンバーのみ、8-8-6-4-2 の編成。 対抗配置で座ります。 その後、女性の方が登場してスピーチをします。 コープこうべの理事の柳瀬啓子さんでしょうか。 今回の演奏会の主旨などを説明されたあと、第1部は10年の歩みをスライドで上映、第2部は復活の演奏であることを伝えて下がられました。

会場の照明が落ち、手元も見えないほど暗くなります。 ステージ上もスライド上映のために薄暗くなっています。 チューニングを実施したあと、李さんと田中さんが登場。 李さんがコンマスに何やら声をかけると、コンマスが後ろのプルトの男性に話かけます。 何やらやりとりのあと、その男性がいったん袖に入って何か確認したのでしょうか、すぐ出てきました。 準備はOKみたい。 いよいよ始まります。

J.C.バッハのヴィオラ協奏曲ハ短調より第2楽章。 神戸生まれで名古屋フィルの奏者である李 善銘さんの艶やかながら深みを感じせるヴィオラの独特な音色がホールに響きます。 ステージ後方で上映されてた震災のスライド、そこに映し出された横倒しになった高速道路や復興のために協力しあっている姿の一つ一つのシーンを心に染み入らせてきます。 また演奏終了後、静かな感動を伝えた客席からの拍手もまた素晴らしいものでした。 決して派手にならず、各自の想いを静かに伝えた滋味のある拍手。 この拍手に対して深々と頭を下げた李さんと田中さんの姿も印象深く心に残るものでした。

15分間の休憩。 団員の方が出てこられて大規模なオケへと配置を変更します。 独唱者席は指揮者の左隣に設けられていました。 ステージ作りを見ていたら、震災で亡くなられた永久団員の方の遺影がチェロパートの後ろに置かれていることにも気付きました。

定刻、いつもの団員の方が出てこられてスピーチ。 今日は色々な想いで聴いて欲しいために曲目の解説はしませんが・・・と前置きされたのち、マーラーのこの曲の若干の注意点を説明されました。 第2楽章の前に楽譜の指示どおり5分の休憩を挟むこと、バンダでの演奏のために団員が出入りすること、そして最初の楽章から合唱団員にも入場してもらうことを伝えたのち、合唱団員、オケ団員が入場を始めます。 オケは弦楽器が 16-16-14-12-10 の対抗配置。 全員が揃うと、合奏団員が着席、コンマスが登場してチューニングを行って準備万端整いました。 舞台花道より田中さんが登場していよいよ始まります。

マーラーの交響曲第2番「復活」。 一音たりとも疎かにしない真摯さを感じた熱い演奏でした。 指揮者の田中さんは、このオケを何度も指揮されていることもあってオケのことを知り尽くしているようです。 とても丹念な音楽造りが印象的でした。 特に第1楽章では、ほとんど立ち位置を動かさず、右手で小さく振って緊張感を絶やしません。 ゆっくりしたテンポ設定は長丁場となるオケの体力も考えてのことでしょうが、一音一音にメンバーの気持ち・想いをうまく乗せることに成功した充実した音楽として、これを終楽章まで見事に引き継いだ素晴らしい演奏としていました。
そしてその終楽章、ぎゅっと引き締まっていながら奥行きを感じさせた合唱の声の層がとても素晴らしいものでした。 ソリストでは竹本さんの深々としたおごそかな声、井岡さんの甘い声の響きもまた印象的。 バンダへと急いで目まぐるしく動くオケの金管や打楽器メンバーなど、ステージの全員が一致協力した感動的な音楽、熱い演奏ながら、田中さんの指揮はここでも必要以上に煽ることなく、真摯そのもの。 気持ちが引き締まった演奏に感動しました。

第1楽章、左右に手を広げて弦楽器のトレモロ、そしてチェロとコントラバスの芯があってよく締まった響きによる集中力の高い開始。 素晴らしい開始でした。 ここにオーボエや木管がゆったりと絡んできます。 ぐっと盛り上げてからすっと退く、田中さんの丁寧な音楽造りが耳を惹き付けます。 テンポをゆっくり目にとり、無理をさせない感じですが、オケもそれによく応えて、緻密でかつキレの良い音楽を繰り出してきます。 
フルートソロが柔らかく、ソロヴァイオリンも透明感高く歌います。 明るいトランペットの響き、のどかな音楽としたあと一変、打楽器を打ち据えるようにした激しい音楽。 ここでも田中さんはほとんど下半身を動かさず、右手を小さく振り、時に左手を添える程度の安定したリードを保ちます。 コールアングレが深い響きで印象的。 ゆったりと曲を進めませて、一音一音に気持ちを乗せているような感じです。 無駄な音は一音たりとも無い、そんな丁寧な指揮ぶりでした。
それでも展開部の終わり頃かしら、徐々に熱気がこもってきたようです。 ティムパニのロールが力強く、よく締まった気迫の篭った音楽になりました。 しかしピークを過ぎるとまた元の音楽、丁寧でじっくりと腰の据わった音楽にして、大きな起伏をもたせたエンディングでは最後優しく静かにそっと響きを置くようにしてこの楽章を終えました。

田中さんが指揮台から降り、そこで立ったまま静かに5分間の休憩。 会場もオケも少々手持ち無沙汰だったかしら。 右隣の中年の女性たちはトイレへと急いでいました。 時間が経過し、田中さんが指揮台に上ります。

第2楽章、ふわっと弦楽アンサンブルでの開始。 柔らかくコントラバスが絡んできます。 ここのチェロの旋律がちょっと揃わなかったみたいですけど、この旋律の繰返しの部分ではとても柔らかく気持ち良いアンサンブルで挽回していました。 田中さん、ここでも丁寧に曲を進めていて、すっと振っていながらもごく自然にオケを活気付けます。 トランペットやホルンなども柔らかく吹いて一体感があります。 そんな音楽をまた自然に減衰させたあと、ふわっと止めて、ピチカートに移ります。 ヴァイオリンをマンドリンのように持つピチカート。 息づいた音楽は本当に綺麗で幸せな気分になります。 アルコに戻って第1ヴァイオリンの透明感高い音楽、ヴィオラの暖かい旋律、最後は柔らかなフルート、ハープと続け、間をおいて、ここでもそっと置くようにして楽章を閉じました。

チューニングを実施したあとソリストが登場。 メゾ・ソプラノの竹本さんが藤色のドレス、ソプラノの井岡さんが黒のドレスで、指揮者の隣の席につきました。

第3楽章、ティムパニの弾力ある打音、響きに深さがありました。 エキゾティックな音楽が展開します。 木管楽器がぞくぞくっとくるいい感じ。 大太鼓の胴の部分をスティックで叩く音にハッとし、ここでも音楽がとても息づいている感じで進みます。 ファンファーレ、大きくゆったりと盛り上がりますが、集中力を徐々に高めていった感じ。 田中さんはここでも煽ったりしません。 コントラバスに指示し、主題を戻してから音楽に熱気を篭めたようです。 それでも丁寧な音楽造りはそのままで右手を上下に動かすのみでクライマックスへ。 音楽は熱しても常に冷静にオケをコントロール。 ピークを鋭く決めたあと、中低弦に力を篭めて要所をしっかりと抑え、最後はじっくりと曲を進めて、しめやかに銅鑼を鳴らせました。

第4楽章、休みなくメゾ・ソプラノの方を向き、厳かな歌が始まります。 竹本さんの深みのある声が素適です。 明るい木管、トランペットが柔らかな輝きのある響き、ヴァイオリンのソロもしとやかな感じ、全体的にオケの音量は絞り気味。 田中さんはソリストを見ながら上半身を斜めにし、じっくりと音楽を醸成させてゆくような感じでした。 ここでは、柔らかく深々とした竹本さんの声、ハリも感じられた素晴らしい歌唱に聞き惚れました。

第5楽章、すっと止めたあと「せーの」という感じで、コントラバスの激しい響きに打撃音、緊張感のある鋭い響きで盛り上がりました。 ぐぃぐぃと進んだあと、またじっくりとした音楽に戻ります。 バンダのホルンなど、距離感が感じられてとても良かったですね。 オケ本体もまた柔らかな響きで、ゆっくりと進みます。 バンダとオケの共演が続きますが、さすがにここまで来るとちょっと疲れもあるのでしょうか、微妙にフレーズの最後を事故ってしまった部分も耳にしましたけれど、田中さんの指揮に合わせて崩れたりしません。 しだいに雄大な音楽へとなってゆきます。
ティムパニと大太鼓の凄い迫力あるロール、金管ファンファーレも雄大でかつよく纏まった音楽です。 トランペットが突き抜けてきて曲を彩っていて、ホルンのベルアップも迫力ありました。 ここも田中さんはコンパクトに振り、迫力を凝縮させた感じでじっくりと進めているのが印象的でした。
合唱とソプラノが厳かに入ってきます。 しみじみと聞かせる柔らかな合唱。 田中さんは背伸びをするようにしながらゆったりと振っています。 合唱団はこの日のために1年かけて練習されたとのこと、さすがにビロードのような肌触りのよい声が層になって届いてきます。 ソプラノは甘い響きが特徴的に絡んできます。 ゆっくりとした温かみのある音楽となって進みます。 トランペットや、木管楽器がしとやかかに吹いたあとのメゾ・ソプラノとコールアングレが絡みも見事でした。 音楽がしだいに緊張感を増してゆきます。 そして男声合唱が徐々に、そして力強くタイトに歌います。 そして、女声合唱が柔らかく絡み、独唱も加わって、オケと渾然一体。 ゆったりと、しかし集中力を持って高らかに歌い上げてゆくと、そこにオルガンも加わって、感動的なエンディングを形成しました。 田中さん、より大きく背伸びをし、大きく振っています。 大太鼓の最後の一撃、奏者の片足が上がるほど全力を込めて叩き、ピークを作ったのち、オルガンが荘厳な響きでホールに木魂。 ゆっくりと丁寧に音楽を進め、最後は大きく呼吸するようにして全曲を締めくくりました。

会場からは割れんばかりの拍手の渦。 一音たりとも疎かにしない真摯さを感じた熱い演奏に感動しました。
素晴らしく集中力の高い演奏には、関係者の皆さんの気持ちがよく乗っていて、それがホールに満たされて、よく伝わってきました。 風邪で体調が悪かったのもすっかり忘れて聴き入った素晴らしい演奏会でした。