BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
芦屋交響楽団 第65回定期演奏会

芦響にしかできない音楽戻る


芦屋交響楽団 第65回定期演奏会
2006年4月23日(日) 16:00  ザ・シンフォニーホール

ベルリオーズ: 序曲「ローマの謝肉祭」作品9
ド・ホン・クァン: ベトナム狂詩曲
ファリャ: バレエ音楽「恋は魔術師」(*)
伊福部昭: シンフォニア・タプカーラ(1979年改訂版)

(アンコール):伊福部昭: SF交響ファンタジー第1番

独唱: 腰越満美(S)

指揮: 本名徹次


芦響のいずれも巧い演奏の中でも、伊福部昭の演奏は一段とレベルが違っていました。
気迫というか、意気込み、共感といったものがびんびんと伝わってきた演奏でした。
その「シンフォニア・タプカーラ」の冒頭、1979年の改訂で付け加えられたノスタジックな序奏に北海道(蝦夷)の大地を感じました。 そして主題の民族的なリズム・パターンの繰返し。
どこかゴジラのテーマにも似たリズムに、ぞくぞくっと。 そしてこのまま最後まで、ぐぃと胸ぐらを掴まれたまま、一気に最後まで聴き通した、そんな感じでした。 オケから湧き上がってくる気迫のようなものが、これまでに演奏された曲とは段違いでした。
なおアンコールも、同じく伊福部昭の「SF交響ファンタジー第1番」、しかも全曲。 この演奏には、今年亡くなった伊福部さんへの追悼の気持ちが滲み出ていました。 それが聴き手のこちらにも伝わってきたのでしょうね、冒頭のゴジラの動機から間奏曲と聴き進むうち、何故か涙があふれてきそうになって困りました。
大げさになるかもしれませんが、これらは本名さん指揮による芦響にしかできない音楽じゃないか、そんな風にも思えた演奏でした。 芦響の演奏は、いつもながら技量のみならず、伝わってくるもののレベルが違うように感じざるを得ません。
こんなにも素晴らしい伊福部さんの演奏、しかも2曲も聴けたとても幸せな演奏会でした。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

長女の通っている塾での進学説明会のために、奥さんと長女と一緒にいったん上本町に出たのですが、家を出るのが遅れたため、長女と分かれたのが開演30分前。 とうていシンフォニーホールには間に合いそうもないので(一人なら走り、電車に飛び乗って乗換えることも出来るんですが、奥さん連れなんで)、上六の交差点よりタクシーを拾い、シンフォニーホール前に横付けという贅沢をやってしまいました。 何度も通っていますけど、こんなこと初めてです。

受付で座席引換えをし、ホールに入ると開演20分前(10分で移動とは、さすがに休日の大阪市内は空いています)。 いつもの2階席正面、BB-26,27に収まって落着きました。 オケメンバーの方は自由入場で既に練習を始めていて、オケは対抗配置、16-15-12-10-10 の編成を確認。 コントラバス、なんと10本なんですよね。 前列4本、後列6本。 間違いないかと、何度も確認しました。

そうこうするうちに定刻。 コンミスが登場し、チューニングを始めると暫くして照明が落ちますが、入念なチューニングは続き、荘重な響きがホールに充満してようやく終了。 そして指揮者の本名さんが登場。 指揮棒をぶら下げた手を前に伸ばし、オケの中を掻き分けるようにして指揮台にたどり着きました。 この時、確かに指揮棒を持っていたはずなんですが、この演奏会中一度も指揮棒を使わなかったように記憶しています・・・ とにかく、一礼して始まりました。

ベルリオーズの「ローマの謝肉祭」序曲。 両手を広げて構えた本名さん、さっと動くとタイトな響きが飛び出し、それが豊かな響きとなってゆったりと進みます。 コントラバスのピチカートにのったコールアングレが素適に響きました。 ヴィオラのトレモロもよかったですね。 ゆったりとしたふくよかな響き。 本名さん、踊るように指揮台の上を行ったり来たり。 パーカッションが加わっても柔らかで爽やかさを感じさせます。 いつもながら巧いオケやな、と感心。 ただ、抑制のよく効かせた音楽で、もうちょっとツメの部分にリキ入れてもいいんじゃないかと思ったのですけど、贅沢やな。
そう思っていたら、今度は金管がタイトに入って派手に決めてくれました。 しかし、そうなってみると、今度は音楽のふくよかさが少し失われたかな、などと贅沢にはキリがありません。 すみません。 ほんと、巧いオケなんですけどね、ヴァイオリンの数が相対的に少なく感じてしまうからかな。 フィナーレもちょっと騒々しく感じつつ押し切った感じかな。
普通のアマオケなら(プロオケを加えても)、ここまでの演奏はたやすくできるとは思わないのですけど、ついつい欲が出てくるような演奏でした。

ベトナム演奏旅行を控え、ド・ホン・クァンのベトナム狂詩曲。 この演奏のため管楽器メンバーがシフトして準備完了。 この曲、1985年にモスクワのボリショイ劇場にて初演され、ロシアのほかベトナム、ウズベキスタン、日本でも演奏されているようです。 4つの楽章が連続して演奏されるメドレーシンフォニー形式で構成されているとパンフレットに書いています。 バーバリスティックなリズムが支配した感じの曲、またそのような演奏でした。

アレグロ・マエストーゾ、ティムパニそしてトロンボーンによるファンファーレで開始。 引締まったリズムが展開してゆきます。 ドラが鳴り、ウッドブロック、ホルンの斉奏に続いて、大太鼓の強打で迫ってきて、これが繰返されます。 このリズム、どこか伊福部さんの曲にも似ているのでは、そんな印象も持ちました。

アレグロ・マルカート・モルト・エネルジコ、トランペットの斉奏に続き、左右に振り分けた弦のアンサンブルが掛け合います。 木管やトランペットのソロも出てきて、早いテンポで進み、音圧を感じる演奏は、少々喧騒感も感じさせつつ次に結びます。

アンダンテ、オーボエのソロでしんみりとさせられます。 フルートのソロ、弦のアンサンブルがゆったりとした響き。 ベトナム北部の美しい山々の風景だそうです。 なるほどね。 ちょっと聴くと中国の音楽にも似たメロディライン、これはモン族伝統の旋律とのこと。 だんだんと音量が上がってゆき、金管が入って美しい旋律が奏でられたのがすっと消えました。

ヴィヴァーチェ、爽やかなヴァイオリンの調べ、ミュート・トランペットも加わって軽快に始まりました。 タイトな大太鼓が入り、金管ファンファーレとなって、本名さん交通整理のような身振りの指揮でテキパキと曲を進めてゆきます。 トランペットの速いパッセージ、巧いですね。 弾力を持ったオケの響きが威勢よく響いてきます。 活気あるリズム、親しみやすいメロディで満たされた音楽。 これが繰返し、最後は本名さんが両手を広げてオケを止め、終わりました。

聴き応えのある演奏でした。 狂詩曲に深い内容を求めるのは間違いとは思いますけど、心に迫ってくるような気持ちにまではちょっと至りませんでした。 しかしオケはほんと巧かったですね。

いったん第1ヴァオリンが退場。 独唱者のスペースを作るためですが、管楽器や打楽器メンバーの多くも下がりました。 配置が出来、第1ヴァイオリンのメンバーが再登場。 2管編成ですけど、弦楽器は変わらずコントラバスが10名の編成のままなんで、ステージ後方がやけに広く感じます。 準備整って、真っ赤なドレスに身を包んだ腰越さんと本名さんが登場。 腰越さんモデルさんみたいで美人でスタイル抜群ですね。 そうそう腰越さんと本名さん、3月4日にいずみホールでのオーケストラ・ニッポニカ大澤壽人交響作品個展でも共演されていました。

ファリャの バレエ音楽「恋は魔術師」、組曲ではなく全曲版ですね。 解説によるとベトナムでの演奏会では採り上げられないので、今日だけのプログラムとのこと。 端正に整えられた演奏でした。 腰越さんの歌唱がまさしく端正、まったくドロ臭さがなかったからかもしれません。

「序奏と情景」金管ファンファーレが綺麗な響きで威勢良く開始。 しばし聞き惚れました。 「洞窟の中〜夜」になって、コントラバスのトレモロが不気味に響きます。 ファゴットのソロなど、さすが巧いオケですね、空気が一変しています。 オーボエのソロも甘く素適に響きました。

「愛の悩みの歌」で腰越さんの独唱、2階席だからでしょうか、ちょっと線が細くて端正な感じ。 もともとこの曲はメゾソプラノが歌うのではないのかな。 オケの響きは弾力を感じさせるフラメンコのリズム、自信を感じさせる演奏です。

「幽霊」ミュート付きトランペットが軽やかに響き渡ります。 オケには弾力があって、中でもヴィオラがよく揃っているのが印象的。 気持ち良かったですよ。 「恐怖の踊り」となり、音楽をケレン味なく曲を進めていったあと「魔法の輪〜漁夫の物語」では一転して美しい音楽。 柔らかく静かに、そして密やかに祈りを捧げます。

「真夜中〜占い」午前0時を示す鐘を模した柔らかな和音が6回流れるとお馴染み「火祭りの踊り」で盛り上がります。 よく伸び縮みする演奏ですね。 オーボエの旋律も見事でした。 綺麗に揃ったままオケが自在に動く、ホルンなんて2本なんですけど、ほんと自在って感じの機動力。 そしてファリャらしいエキゾティックな音楽が波打ってます。 

「情景」オーボエの旋律が静かに、しかしこれまたエキゾティックに奏でます。 回想シーンのあと、本名さんのハナ息で「きつね火の歌」に突入、清楚な声で「恋は鬼火といっしょ」と歌いはじめ、本名さんはオケに指示を出し、盛り上げてゆきます。

「無言劇」のファンファーレ、気合の入った指揮でオケを纏め、そして漂よわせる本名さん。 こえに応えたオケ、そしてチェロのソロも甘く響き、これはシャンソンにも似た感じを憶えました。 美しい音楽がゆっくりと流れてゆきます。 

ピアノの反復フレーズで「愛の戯れの踊り」、マラゲーニャのリズムに乗せ情熱的な歌なんですけど、ここももうちょっと声に粘りが欲しい感じかな。 オケに力が入って全奏で盛り上げたのをすっと退き、「終曲(暁の鐘)」の鐘が鳴ります。 オケが大きくゆったりと進み「鐘よ歌っておくれ、私の幸せが戻ってきた」と歌うと、オケに明るさと清清しさが現れます。 そして本名さんが手を右下から左上に挙げ、オケをふわっと止めて全曲を纏めました。 端正に整えられた演奏といった感じでした。

20分間の休憩。 いつも席でじっとしていることが多いけれど、奥さん連れなんでロビーに出て休憩します。 奥さんもベトナム狂詩曲はちょっとしんどかったとのこと。 喧騒なんて言う言葉が僕にもよぎりましたものね。 でも巧いオケだと感心しきり。 奥さんは「恋は魔術師」が綺麗な声で気に入ったようでした。 確かにイメージ的にもっと情熱的に、なんて思って聴いてましたけど、変な先入観無くさないとダメだったかもしれませんね。

席に戻ります。 ステージ上はやはり自由入場で練習されていますが、ホルンが8人もいらっしゃいますね。 でもパンフレットにはホルン4と書いてて、倍管なのかな。 とにかくホルンの多さが目につきました。 そして定刻、やはり入念なチューニングを終え、本名さんがオケの中を掻き分けるよう出てきて始まります。

伊福部昭の「シンフォニア・タプカーラ」、この冒頭は1979年の改訂で付け加えられたとパンフレットに書かれていますが、このノスタジックな序奏に、北海道というよりも蝦夷の大地を感じました。 そして民族的なリズム・パターンが繰返されるのには、どこかゴジラのテーマにも似た感じを憶え、ぞくぞくっと。 そしてぐぃと胸ぐらを掴まれたまま最後まで一気に聴き通した、そんな感じでした。 この演奏、オケの中から湧き上がってくる気迫というか、意気込み、共感といったものがびんびんと伝わってきて、これまでに演奏された曲とは段違い、そんな印象を持ちました。 感動しっぱなしでした。

第1楽章、チェロの合奏による序奏の開始。 荘重な響きにはノスタルジーを感じます。 他の弦も加わってきて、雄大な北海道の大自然の夕暮れ時でしょうか、早朝でしょうか(夕暮れのように感じましたが)。 自分の6年の間の北海道生活を思い出し、そのように感じながら聴いていました。
主題の舞踏音楽、民族的なリズムパターンが繰返されます。 金管が入ると、どこかゴジラのテーマにも似ているような感じ。 トランペットが朗々と吹いて、ホルンの斉奏もまたカッコイイですね。 ぞくぞくっときます。 ベトナム狂詩曲のリズムの繰り返しとは、響きの重厚さ・多層性が違う感じがします。 そして何より洗練されて充実した響きは、先よりも大音量なのに全然騒々しさを感じません。
葬送風のリズムとなりると、コントラバスの低い響きが綺麗に揃って聴こえてきます。 そしてオケ全体が纏まっていて、それがゆっくりと歩みをすすめます。 そしてホルン、トロンボーンの斉奏。 まさに豊穣の響きでした。
ファゴットが最初のリズムパターンを呼び起こし、オケが力強くリズムを繰返します。 オケによる演奏が走り出しましたが、本名さん、要所を抑えるだけですね。 更に音量増したあと、本名さんの大きな動きでオケをピタリと止めると、ホールに残響が残りました。

第2楽章、ハープとコントラバスの響きをベースにフルートのソロ。 綺麗な音色ですね。 ヴィオラやチェロも加わりますが、静けさを保った音楽で、コールアングレのソロとなって密やかな気分。 高音弦が加わるとしみじみとさせられました。
ミュート・トランペットが入り、雄大さを感じさせた音楽が静かに力を増してピークを形成。 これを下ると、今度はヴィオラによる懐かしい旋律。 これが弦楽アンサンブルで繰返されます。 ほんと良く揃っているだけでなく、オケ全体が大きく呼吸しながら曲を進めていて、もう感動ですね。 じーんときます。 ティムパニを手で叩いているのが目につきました。

第3楽章にはアタッカで入り、威勢良くリズムを刻んで始まりました。 キレ味の良い演奏に、オケそのものがのっかってぐいぐいと進んでゆく感じ。 使っている楽器は西洋のものなのに、日本的な響きを強く感じます。 ティムパニの強打で場面転換。 オーボエの旋律は、ヴァイオリンのソロ、トランペット、フルートなどに引き継がれて緩やかに進行します。 懐かしい旋律が、しだいに懐かしいリズムになってきて、それが徐々に拡大。 ここでもティムパニを手で叩いていましたね。 速度を上げ、金管が入って盛り上がりますが、これまたよく締まった響きで、よく揃っています。 更にリズムが速くなり、ピッコロが祭り囃子でしょうか、トロンボーンのグリッサンドには度肝を抜かれました。 これ足踏みの擬音なのでしょうね。 とにかくオケ全体がノリノリなんですけどね、一体感を全く損ねません。 そしてエンディングは、本名さんが両手拳を高々と挙げ、オケをビタっと止めました。 
乱れなど全く感じさせないどころか、余裕さえ感じさせるなんて、これいったい何なんでしょうね。 とにかく凄いオケの凄い演奏に感動しました。

そして熱狂的な拍手に応えてのアンコール。 本名さんが我々音楽家にとって父親のような存在だった伊福部さんへの追悼の気持ちを込めて演奏すると、同じく伊福部昭の「SF交響ファンタジー第1番」。 しかも全曲が演奏されました。
この曲、2002年の吹響サマーコンサート以来、2回目なのですが、どちらの演奏が良いとかいう問題ではなく、この日の芦響の演奏には、冒頭述べられたような追悼の気持ちが滲み出ていました。
そして聴き手のこちらにも本名さんや団員の方の気持ちが伝わってきたのでしょうね。 冒頭の「ゴジラの動機」「間奏曲」と聴き進むうち、何故か涙があふれてきそうになって困りました。 いつもながら、芦響の演奏は、技量のみならず、伝わってくるもののレベルが違うように感じざるを得ません。 こんなにも素晴らしい伊福部さんの演奏、しかも2曲も聴けたなんて、タクシー飛ばして来た甲斐ありました。 とても幸せな演奏会でした。