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ならチェンバーアンサンブル 第71回定期演奏会

モーツァルト生誕250年記念〜神童をとりまく名手たち〜戻る


ならチェンバーアンサンブル 第71回定期演奏会
2006年7月2日(日) 15:00  なら100年会館・中ホール

モーツァルト: フルート四重奏曲ニ長調 K.285 -**
モーツァルト: 弦楽四重奏曲第21番ニ長調 K.575
(オマケ)モーツァルト: 逆カノン
モーツァルト: クラリネット五重奏曲イ長調 K.581 -*

(アンコール):シューマン: 夕べの歌

奏者:鈴木豊人(cl)-*、柴田華奈(fl)-**
   五十嵐由紀子(Vn1)、海田仁美(vn2)、植田延江(va)、斎藤建寛(vc)


鈴木豊人さんのクラリネットによる五重奏曲に酔いました。
モーツァルト生誕250年記念〜神童をとりまく名手たち〜と題された、ならチェンバーの演奏会。 鈴木さんはサイトウキネンや紀尾井シンフォニエッタで活躍されている名手ですが、ならチェンバーにも機会あるごとに出演されるのをいつも楽しみにしています。 そして今回も、鈴木さんらしく暖かくて陽性の音楽を心ゆくまで堪能しました。
大きな動きから流れ出るクラリネットの旋律、いや逆にクラリネットの旋律に合わせて身体が動いているいるのでしょうが、気持のよく乗った演奏を聴くのはほんと気持いいですね。
アンサンブルのメンバーも、弦楽四重奏曲第21番(プロシア王セット第1番)では緊密なアンサンブルがかえって生真面目にも思える場面もありましたけど、クラリネット五重奏曲では誠実さと軽やかさがうまく同居し、角の取れた演奏を楽しみました。
また冒頭には、2005年度の奈良市の新人オーディションに合格された柴田華奈さんのフルートによる四重奏曲第1番。 柔らかくて伸びやかに響かせる大型新人ですね。 さらに表現に自由度が備わったら素晴らしい奏者になるのではないでしょうか。 誠実なアンサンブルで清新な演奏でした。
そしてまた嬉しかったのは、アンコールとして鈴木さんがシューマンの没後150年の話題を出してくださり、「夕べの歌」を演奏されたことですね。 モーツァルトのあとにシューマンを楽しめた素適な演奏会でした。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

今回も会社で一仕事してからホールに駆けつけました。 電車で最寄り駅を通り越して奈良市内に出るのは、なんとなく無駄な気もするのですけど、仕方ありません。 開場5分前に到着。 長蛇の列が動き始めていましたんで、そのまま入場。 左側ですが通路沿いの前から2列目に落ち着きました。 オーケストラなら後ろの方に座るのですけど、室内楽は前に座ることに決めています。 演奏者の方から発するオーラも重要な要素ですものね。

会場はほぼ満員。 2階のギャラリーまで人が入ってます。 遅れてやっていた家族は、トイレに行くついでにコーヒーなど飲みに出て行きました。 誘われましたけど、なぜか背中が痛くなって動くのが億劫なんで、そのまま席に埋もれるようにして開演を待ちました。

定刻、司会のお姉さんが出てこられ、今年はモーツァルト・イヤー。 この演奏会は、なら100年会館の企画第2弾であることなど述べられて退場(なんだかシステムがちょっとづつ変わっているみたいです)、その後はいつもどおり五十嵐さんが登場されて楽曲の解説となりました。 お喋りの間にメンバーが登場、モーツァルトがフルートが嫌いだったとの話について、なんと柴田華奈さんがフラウトトラベルソを紹介。 フルート四重奏曲ニ長調の冒頭を全員で演奏するオマケまでつきました。 フレーズの最後など音が十分に出てなかったりもしましたけど、これはこれでいい感じじゃない、なんて思えた演奏でした。

五十嵐さんが下がられ、柴田さんがモダンのフルートに持ち替えてフルート四重奏曲ニ長調の本番。 柔らかくて伸びやかに響かせる大型新人の演奏を楽しみました。 2005年度の奈良市の新人オーディションに合格されただけあって、テクニックにはまったく問題ありません。 若手なので、煌びやかな響きでぐいぐいと進めるのかな、と勝手に想像したのですが、おおらかな感じもさせたのは見事でした。 演奏経験をもっと詰まれてさらに表現に自由度が備わったなら、もっと素晴らしい奏者になるのではないでしょうか。 アンサンブルも誠実で清新な演奏を楽しみました。

第1楽章、入念なチューニングのあと、柔らかなフルートの響きが駆け上りました。 伴奏は伸びやかなチェロを主体として誠実に付けているという感じかな。 マイナー調の部分では、斎藤さん、上を向いて響きの広がりを確認しているような場面もありました。 ちょっとロマンティックな感じでしたね。 でも柴田さんほかのメンバーは、皆さん端正に演奏している感じかな。 ここでは響きの当たりが柔らかなフルート演奏を楽しみました。

第2楽章、ピチカートが雨だれのよう。 そこに凛と響くフルートが哀愁の滲ませてのってきて素敵です。 いい感じでした。 海田さん、いつもながら真剣な眼差しが印象的です。 知的な演奏って感じ。 でも全体的にちょっと硬くなってきたようにも思いましたけれど。

第3楽章、フルートが軽やかに歌い始めます。 清潔なヴァイオリンの響きに艶があり、ヴィオラもしっかりと弾いてますが、柔らかさを基調にしたアンサンブルですが、全体的にはどこか杓子定規な感じも。 もうちょっと遊びが欲しいというか、歌わせて欲しい気がするのですが、新人ですものね、しかも弦楽アンサンブルの皆さんは先生方でもあるから仕方ありません。 きちんと息を併せて演奏するのが使命、そんな感じも頷けます。 でも誠実に歌い上げて全曲を終了。 清新な演奏だったと思いました。

拍手が早めになくなったけれど、花束贈呈のためのカーテンコール。 笑いながら登場した柴田さんは、緊張感が解けて現代の女の子になってましたね。 明るく笑いころげる感じ、これからも期待です。

斎藤さんが出て来られて、今度はモーツァルトがチェロが嫌いだったとのお話。 どうなっているんや今回の選曲は・・と思わなくもありませんけど、プロシア王セットの成り立ちについて説明されて下がられました。 お話の間に楽譜を交換していたのでステージは準備完了。 お馴染みの4名が登場されて始まります。

弦楽四重奏曲第21番(プロシア王セット第1番)、着席するやいなや皆さん席を前にズラして近づかせて譜面台がくっつくほどの緊密なアンサンブルを展開。 でもその真面目さが、かえって生真面目にも感じさせて、もうちょっと遊んで欲しいなぁ、と思ってしまいました。

第1楽章、五十嵐さんの真剣な表情、息を合わせて真摯な音楽が流れ出ました。 チェロの響きが加わってややまろやかになり、徐々にリラックスしてきたようです。 でも緊張感は途切れず、みなさん結構気合入ってますね。 五十嵐さん、凛とした響きはいつもどおりですが、いつもよりも硬い感じにも思えます。 斎藤さんもちょっとソロ気分なのか、力が入りすぎているような感じかな。 ぐいぐい進めて潔くこの楽章を終えました。

第2楽章、チューニングを実施。 清潔な五十嵐さんの響き、艶やかに寄り添う海田さん、伸びやかな植田さん、そして大きく歌わせた斎藤さん。 伸びやかな響きですなんが、やはり真摯に曲に立ち向かっている感じがしました。

第3楽章、チャーミングな演奏として、旋律を歌いまわしながら曲を進めて行きます。 楽しいけれど、やはり真摯に曲に立ち向かっていますね。 斎藤さんのソロ、やわらかくて柔軟な感じですが、しっかりと演奏している感じ。 植田さんは、場所的に斎藤さんの後ろになってよく見えませんが、弓を大きく使って歌わせているようです。 艶やかな響きが一丸になって楽章を終えたものだから、思わず会場から拍手が沸き起こりました。

第4楽章、チェロのソロ、あまく伸びやかに響きかせて始まりました。 五十嵐さんが加わっても落ちついた表情で、華やかさよりも憂愁な響きという感じかな。 気高く響きます。 五十嵐さん、海田さん、とても真摯な表情を目の当たりしているからでしょうか、もうちょっと自由度が欲しい・・って気もします。 緊密なアンサンブルで進み、最後をふわっとすくいあげるようにして全曲を閉じました。

15分間の休憩。 なんだか背が痛いせいもあってか、いつもように楽しめた・・って感じが少ないのが残念な感じ。 でも席に座り続けるのもナニなんで、ロビーに出て椅子に腰掛けて気分転換。 次は鈴木さんですものね、期待を膨らませて席に戻りました。

後半プログラムの前、五十嵐さんと海田さんが登場されて、手品を披露。
といってもモーツァルトの逆カノンという1枚のスコアを上と下からそれぞれ演奏するというモーツァルトの手品(?)。 これを両名で演奏されました。 ファミリーコンサートではないけれど、こういった企画もまた嬉しいものです。

さていよいよクラリネット五重奏曲。 期待通り、いやそれ以上の鈴木さんらしく暖かくて陽性のモーツァルトを堪能しました。 鈴木さんの大きな動きから流れ出るクラリネットの旋律、いや逆にクラリネットの旋律に合わせて身体が大きく動いているいるのでしょうが、気持のよく乗った演奏は、ほんと気持いいですね。 またアンサンブルのメンバーもここでは誠実さと軽やかさがうまく同居し、角の取れた演奏として楽しませていただきました。 午前中出勤して大阪から奈良まで駆けつけた甲斐がありました。

第1楽章、柔らかな弦のアンサンブル、さっきと違うなぁ、と思っていたら、豊かに響くクラリネットが歌いだし、一気に魅了されました。 艶やかで暖かな響きが最高です。 清楚な五十嵐さんのヴァイオリンが絡み、斎藤さんの豊かな響きも伸びやかで、聞き惚れてしまいました。 音楽が伸びやかに歌って進み、最後ふわっと着地するまで耳を離せませんでした。

第2楽章、鈴木さんがチューニングを要求、これを実施してから開始。 まろやかで甘く響く暖かな音楽に時の経つのも忘れるほど。 ゆったりと暖かな音楽に聞き惚れました。 鈴木さん、力をこめて歌い込みます。 アンサンブルの皆さんはしっとりと歌わせて鈴木さんを支えている感じ。 最後はそっと静かに消え入るように終わりましたが、しばらく無音のまま静止。 余韻も楽しみました。 素敵ですね。

第3楽章、ここでもチューニングを実施してから開始したのですが、息が合わず、やりなおし。 でも、破顔一笑、和気藹々とした雰囲気で再開できたのも鈴木さんの人柄によるところ大ですね。 今度は明るく落ち着いた響きが流れ出しました。 大きく歌わせているようです。 マイナー調になり、凛としたアンサンブルが続きますが、この間に鈴木さんはクラリネットを分解掃除。 布を通してリードを調整していたようです。 音楽は柔らかく響く中音弦が魅力的ですし、五十嵐さんも清楚な響きで寄り添います。 主題もどって明るくなり、今度は端正な感じで歌ってゆきます。 ゆったりとして柔らかく歌って至福の時間。 そして最後は熱く演奏し、目で送った合図に合わせて大きく歌って止めました。

第4楽章、チューニングなしでスタート。 ヴァイオリンの柔らかな響きに、クラリネットが絡みます。 艶やかでチャーミングな音楽。 鈴木さん、おどけたみたいな感じですけど端正に吹いて進めます。 弦楽器は伸びやかに歌って快調。 哀愁を帯びた旋律、ヴィオラの響きが素敵でしたね。 明るくなって歌い出しても、密やかな感じ。 しっとりとした音楽で歌い、すっと止めてまた歌う。 余韻がいい感じですね。 主題をもどしてやや活気を見せますけど、清楚に歌わせて端正な感じで全曲を纏めました。

鈴木さん始め皆さんとても気持のよく乗った演奏に魅了されました。 ほんと気持のいい演奏でした。
そして熱い拍手に応え、鈴木さんがスピーチ。 シューマンの没後150年の話題を出してくださり(会場から、へぇ〜、の声も漏れたほど注目されてないんですね)、シューマンの「夕べの歌」を演奏。 こちらは熱気を感じた演奏で、モーツァルトのあとにシューマンも楽しめたなんて、実に素適な演奏会でした。 いい気分で会場を後にできました。 背中の痛いのも忘れてしまいました。