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奈良フィルハーモニー管弦楽団 第19回定期演奏会

スマートで精悍さを感じたモーツァルト戻る


奈良フィルハーモニー管弦楽団 第19回定期演奏会
2006年9月10日(日) 13:30  奈良県文化会館・国際ホール

モーツァルト: 交響曲第39番変ホ長調K.543
モーツァルト: 交響曲第40番ト短調K.550
モーツァルト: 交響曲第41番ハ長調「ジュピター」K.551

(アンコール)モーツァルト: 交響曲第41番「ジュピター」第4楽章終結部

指揮: 北原幸男


北原幸男さんの風貌そのものと言っても良く、スマートで精悍さを感じた演奏でした。
余計な感情を入れず、純度の高い音楽。 でも、けっして冷たくはありません。 熱く美しく磨きあげたような感じでしょうか。
第39番、堂々として美しく、しかもよく引き締まった演奏は即物的な感じさえする純度の高いもの。 曖昧さなど微塵もありませんでした。
第40番、しなやかさの中に鋼のような芯を持ち、美しく磨き上げたような感じ。 媚びない演奏なのでともすると冷たくも感じそうな感じなのですが、熱さがありました。
第41番、シャープかつストイック、そして緻密に構成された演奏でした。 重心を低くして打点を明確にした熱い響きなのですが、その響きには濁りがなく清潔感を感じました。
いずれも、さすがプロオケ、と思わせる演奏で、北原さんの指示にも集中力高くかつ的確に反応していたオーケストラの技量の高さにも賛辞を贈りたいと思います。
しかしながら、モーツァルトの後期交響曲3曲を連続し、しかも(たぶん)繰り返しをすべて敢行した熱意は買いますが、同じアプローチで3曲立て続けに聴いていると、聴き手として疲れてきました。 金管楽器を派手に鳴らしていた部分が散見されたのも、ちょっと個人的な趣向とズレていたからかもしれませんけれど・・・途中から、ご馳走さま、といった感じもしたことを打ち明けておきます。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

モーツァルトの後期交響曲3曲を採り上げた奈良フィル定期。 モーツァルト・イヤーだといってもこんな大胆なプログラムを組んだオケは無いのではないでしょうか(あまりにベタすぎる?)
指揮は奈良フィル初登場の北原幸男さん。 関西ではあまり活動されていないようですが、プレトークでも奈良での演奏会は初めてだとおっしゃってました。 個人的には、2001年6月の京都大学交響楽団の第169回定期演奏会で聴かせてもらっているので2回目となります。
プログラムとしても、指揮者としても、ちょっと珍しい経験なのでわくわくして会場に向かいました。

開場5分後位に到着。 ロビーでは山本浩資さんのクラリネットによるモーツァルトの五重奏曲が演奏されたばかりで、その柔らかな響きを耳にしながら、多くの人をかき分けながら2階への階段へ。 中央付近の最前列は人がいたので、右側の最前列のAA-43を確保しました。 今回も奈良テレビのカメラが入っていて、この列の壁際にもカメラがありました。 いつもお行儀悪く聴いているので、こんな至近距離にカメラがあると少々緊張しますけどね。

1階席は、最終的には9割近く入っていたのではないでしょうか。 オール・モーツァルト・プログラムなので集客も良いのでしょうね、しかも人類の遺産といっても良い3つの交響曲の連続演奏はそうあるものではないでしょうし。

定刻、フルートの原祐子さんがマイクを持って登場してモーツァルト・イヤーにちなんだプログラミングのことを簡単に触れたあと、指揮者の北原幸男さんをステージに呼びました。 これは珍しい。 北原さん、なんでもご両親は大阪出身でうどんは薄味がお好みだとか、なるほどね。 その北原さん、モーツァルトの作品は天からの贈り物、一つ一つが小宇宙のようであると述べられていました。 そんなプレトークも終わり、オケのメンバーが出てきて着席。 通常配置で 10-9-7-6-3 ですね。 チューニングを終えると、背筋をピンと伸ばした北原さんが出てきて始まりました。

交響曲第39番、堂々として美しく、しかもよく引き締まった演奏は即物的な感じさえする純度の高いもの。 曖昧さなど微塵もありませんでした。

第1楽章、弾けるような開始。 艶やかさを感じさせるトランペット、硬く締まったティムパニは軽やかで丁寧な感し。 これが納まってフルートの響きが、ふわりと浮き上がるように聴こえてきてとても綺麗。 そんな華やかな序奏のあと、広々とした感じの主題、北原さんが手を小刻みに震わせて集中力を高めて力強く曲を進めてゆきます。 木管楽器が美しいのが奈良フィルの特長、それも如何なく発揮させていますが、全体的にストイックな感じがしますね。 トランペットの響きを派手に突き抜けさせているので華やかなんですけど、どこか即物的な印象。 軽やかなマレットさばきの田中さんによるティムパニが心地良く、そのリズムに身を任せてました。 すっと止めて、残響がホールに響いた終結もカッコよかったですね。

第2楽章、弦の響きによる美しい開始。 でもここでも引き締まった感じがして、緻密さを感じますね。 丁寧に丁寧に旋律を繋いでゆく感じで、余計なことは一切しない、ひたすらに音楽に向き合っているような感じでしょうか。 木管はここでも美しく絡みます。 純度の高いモーツァルト、そんな感じだったでしょうか。

第3楽章、堂々とした開始ですが、重くはありません。 チェロ、コントランバスの締まった響きが土台になっているからでしょうか。 ここでもストイックなモーツァルトですね。 北原さん、腕を小刻みに震わせるように振っていて、打点の分かり難い振り方だと思うのですけど、だからこそオケの集中力も高まっているのかな、などと思いながら聴いてきました。 でも決して冷たい音楽ではありません。 クラリネットのソロも暖かくてとても素敵でした。

第4楽章、直前に2階席の後ろかな携帯の着メロのような響きがかすかに流れたようです。 アレ?と思っていたら、北原さんも気付かれたのでしょうね、構えた動作をそのまま止めて音が止むのまってから始めました。 北原さんの凄い耳の良さの一端を見た思いです。

純度の高い弦楽器の旋律による第4楽章の開始。 柔らかで熱のこもった管楽器の響きを絡ませながら、軽快に弦楽器が駆けてゆきます。 ここの弦楽器の分奏の確からしさと美しさは実に魅力的でした。 そして艶のある木管もまた素適。 ただし金管楽器が派手に突き抜けた響きになるところは少々好みではありませんでしたけどね。 でも熱気と落着き、それを交互に表しつつ、コントロールを効かせた音楽はキレもよく、見事に統率されて最後はスマートに軽くすくい上げるように浮かせて全曲を閉じました。

トランペットとティムパニが退場し、オーボエが登場、クラリネットは後ろの席に移動しました。 第2版による演奏ですね。 準備が整い、北原さんが登場して始まります。

交響曲第40番、お馴染みの名曲ですが、しなやかさの中に鋼のような芯を持ち、美しく磨き上げたような感じ。 媚びない演奏なのでともすると冷たくも感じそうな感じなのですが、熱さがありました。

第1楽章、低弦のほうを向き、身体をすっと前に乗り出すようにして振ると、柔らかくてしなやかな響きが出てきてちょっと吃驚しました。 もっと厳しい感じで進めるのかな、と思っていたのですね。 曖昧さのない音楽つくりは同様なのですが、タイトでも響きの当たりの柔らかさが特徴的。 これは奈良フィルの特質が出ているのかもしれませんね。 そして3本のコントラバスがよく締まって聴こえるのがとてもいい感じです。 この上にすべての楽器が乗っていて、純度の高いアンサンブルを聴かせるヴァイオリンが生きています。 艶やかな演奏を楽しみました。

第2楽章、ヴィオラから豊かな響きが届けられ、それが他の弦楽器を巡り、ホルンの引き締まっていても柔らかな響きと相俟って、曲を緻密に進行させます。 集中力の高い美しいハーモニーが素適。 精度高いオケが、更に集中力を高めてストイックに。 しなやかさも併せ持って主題を再現して、統率をしっかりととったまま最後の一音まで進めてすっと止めました。

第3楽章、北原さんが小さく振って弾力ある響きを導き出します。 ここでもオケの各楽器の響きが溶け合っていて見事。 ヴァイオリンがよく揃っていて見た目も綺麗ですし響きにも艶やコクが感じられます。 もちろん中低弦がしっかりと土台を支えている。 木管の絡みもきちっとしていて、とにかく美しい楽章です。 少々型どおりな感じはしましたけど、美しいので許せてしまうような感じ。 主題を戻して鋭角的な感じで真摯に纏めました。 ホルンの響きがナチュラル・ホルンのように響かせていたのも印象に残りました。 

第4楽章、集中力を高めて一気に堰を切ったように始まって、ここでも精度の高いアンサンブルはとても見事。 何度も書きますが、中低弦が落着いてますしね、ヴァイオリンの艶やかさも際立ってます。 緻密なアンサンブルは、熱いけれど、落着いています。 ストイックなんですが冷たさを感じさせない。 ステージを見ていると、これらはコンミスの林泉さんのリードによるところ大のような感じですね。 また指揮者の北原さんも余計なことは一切せず、ひたすら純度の高さを求めているような感じ。 だからクラリネットの柔らかな響きも生きてくるのでしょう。 巧みな演奏で展開部を通り抜け、そしてフィナーレをきりっと締めて、最後は念を押すような感じで纏めました。

20分間の休憩時間。 2階のロビーに出て少々息抜きをしました。 さすがに2曲立て続けに聴いたら疲れますね。 プロオケだから巧いのは当然なんでしょうけど、なんか楽しんでいるのかな〜 どうかな〜・・・って感じもしてきましたしね。 3曲続くのですから、聴き手としても苦行っぽく思えるたりもするんですけど、演奏者の方はどう思っているのかな、なんてちょっと思ってみたりもしました。 とにかく席にもどり、開演を待ちました。 今度も 10-9-7-6-3 の編成。

交響曲第41番、この演奏もまた、シャープかつストイック、そして緻密に構成された演奏でした。 重心を低くして打点を明確にした熱い響きなのですが、その響きには濁りがなくて清潔感を感じました。

第1楽章、北原さん、さっと振ってタイトでちょっと軽い響きを導き出しました。 スマートな開始ですね。 ここでも金管が目立っているのが印象的。 アクセントに使っているのでしょうか、輝かしい響きでテンポよく進めます。 それを翻して軽やかでしなやかに旋律を流すのと対比。 しだいに盛り上げて中低弦に力を入れます。 これを繰り返し。 ティムパニはリズム感良く軽やかに打ち、中低弦がしっかりとして重心の低さと軽やかさが同居しているのが心地良いですね。 かっちりとした音楽を進め、また冒頭の旋律を繰り返し、最後は小さく振って進めた最後を伸ばしてちょっとしゃくりあげるようにして終わり。

第2楽章、深いヴァイオリンの響き、締まっているのに柔らかさがありますね。 ゆったりと進めてゆきますと、美しく響く木管楽器が絡みあいます。 弦と管の響きが溶け合ってますね。 しっとりとした美観漂う演奏ですなんですが、清潔な感じ。 端正なんですね。 媚びるようなところは皆無です。 そっと楽章を閉じました。

第3楽章、ちょっと宙に浮くような透明感のあるヴァイオリンの響きで始めて打点を明確した音楽に。 そして、オーボエとフルート、そして木管楽器がいずれも綺麗な響きで彩りを添え、丁寧に旋律を廻しながら曲進めます。 落着いてますね。 トランペットとティムパニが打点を明快に決めて曲を締めますが、端正な感じ。 とても丁寧に演奏を進めて、最後は軽くふわっと浮かせるようにして止めました。

第4楽章、ヴァイオリンの緻密なアンサンブルで開始。 これに北原さん力をこめてタイトに仕上げてゆきます。 フルートが美しい響きでした。 ファゴットも落着いた響きを聴かせていますが、次第に熱気を孕んだ演奏に。 北原さん、ここでも小刻みに震えるような棒から集中力の高い響きをオケから引き出してきます。 金管楽器は抑えているのでしょうけど、それでも少々目だっていて華麗さを演出しているのでしょうか。 個人的にはもっともっと抑えて欲しいのですけどね。 でも、熱くなっても艶を失わない弦楽器、落着いた音色の管楽器が緻密に絡みあいながら更に力を増しますが、安定したオーケストラサウンドは見事です。 ホルンが高らかに吹き、活気のある弦楽器とともにここでもちょっと念を押すようにおろした右手を前に伸ばすようにして全曲を閉じました。 熱い演奏でした。

オケの皆さんも終演後には笑みがこぼれて、隣の席の人とにこやかな会話をしていたのは、思わず力の入った熱い演奏に仕上がったからでしょう。 ブラボーもかかっていましたものね。
なおアンコールはそのフィナーレを再演。 スマートながらも更に力を増した演奏としてお開きとなりました。 恒例の「故郷」の演奏や、花束贈呈もなく終わってしまったのはちょっと唐突だったかもしれませんね。

とにかく北原さんの風貌そのものと言っても良く、スマートで精悍さを感じた演奏の数々でした。 余計な感情を入れず、純度の高い音楽。 ただし金管楽器を割と派手目に鳴らしていた部分が散見、これは個人的な趣向からちょっとズレていたせいもありますけど、同じような解釈で3曲も立て続けに聴いていたら、途中から、ご馳走さま、といった感じもしたことを打ち明けておきます。