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ならチェンバーオーケストラ 20周年記念特別演奏会(第73回定期演奏会)

室内楽的な纏まりの良さ・自主性戻る


ならチェンバーオーケストラ 20周年記念特別演奏会(第73回定期演奏会)
2008年1月19日(土) 15:00 なら100年会館・中ホール

小六禮次郎: Fantasia NARA“ファンタジアなら”『幻想曲 奈良』
モーツァルト: ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488
ベートーヴェン: 交響曲第7番イ長調 op.92

(アンコール)ベートーヴェン: 交響曲第7番第4楽章フィナーレ

独奏: 若井亜妃子(p)

指揮:今村 能


今年初めての演奏会は、ならチェンバー
室内楽的な纏まりの良さと見晴らしの良さ、それに息遣いまで聞こえてくるような想いも載せた演奏を楽しみました。

まずは奈良市の市制100周年を記念して小六禮次郎さんに委嘱された「Fantasia NARA“ファンタジア なら”『幻想曲 奈良』」。 小六さんは大河ドラマのテーマ曲の作曲も手がけられているとおり、懐かしい風景を一大スクリーンで見るような錯覚にもとらわれるような作品でしたが、今村さんとならチェンバーは、旋律や響きの中に、想いの深さまでも感じさせる演奏として、感動を呼び起こしました。 今回が3回目の演奏とのことですが、分かりやすくて、もっと演奏されても良い曲でしょう。

そして2曲目、オーディションで選ばれた若井亜妃子さんをソリストに据えたモーツァルトのピアノ協奏曲第23番。 こちらも想いのよく載った演奏に目を見張りました。 岩井さん、京都市立芸術大学4年在学中とのことですが、しなやかなタッチはモーツァルトにぴったりで、また演奏している姿は内田光子さんを思い出させるような入魂の表情。 ただし内田さんのような鬼気迫るような怖さではなく、若い女性らしい真摯な想いを込め、きちっとした演奏で会場を魅了していました。 演奏終了後の初々しさと演奏中の想いの深さ、そのギャップもまた魅力的。 素晴らしい才能にも酔わされた演奏でもありました。

メインは友の会メンバーのアンケートによって選曲されたベートーヴェンの交響曲第7番。 のだめブームを受けての選曲となってしまいましたが、演奏はそんなこととは全く無関係で、室内楽的にキリッと引き締まったストイックな演奏。 奏者の方々は、関西を中心にした腕達者なフリーランスの方々なので巧いのは当たり前ですが、ソリストとしての自主性を保ちながら、きちんと全体を纏めあげた指揮者の今村さんの力量も相当のもの。 熱い演奏を堪能しました。 特に終楽章のフィナーレ。 熱く響きあった音楽が展開、ぐっと溜め込んで、弾けるような終結も感動的でした。
演奏終了後、奏者の方々の笑顔も垣間見えるほどの充実した演奏、惜しみない拍手を贈りました。

以前は年に4回も開催されていた演奏会も、前回はなんと1年前。 年に1回のペースにまで落ちてしまいました。 20周年記念特別演奏会とのことで舞台挨拶もし、このような感動的な演奏を目の当りに聴いていらした市長さん、もっと演奏会の回数を増やしてください・・・そんな奏者の方々の想いも伝わったのではないでしょうか。 今後に期待したいと思います。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

ならチェンバーは、奈良市が市制90周年を記念して結成した団体。 アンサンブル編成を主とした室内楽コンサート(ならチェンバーアンサンブルの呼称)。 そしてアンサンブルを拡大した室内オーケストラ編成でのコンサート(ならチェンバーオーケストラの呼称)と、2通りの形態で演奏会活動を続けています。

この団体を始めて聴いたのが、2000年6月17日の第54回定期演奏会。 今村能さん指揮による演奏会で、パーセル、ディーリアス、ウォーロック、エルガー、そしてブリテンという、英国音楽フリークには垂涎のプログラムでした。 しかも低価格(1,000円)が魅力的。 以来、友の会にも入会し、出来る限り聴くようにしていて、今回が第73回の定期演奏会、そして20周年記念特別演奏とのこと。 これは聴き逃すわけにはいきません。 オーケストラ編成でのコンサートの拠点となっている、なら100年会館中ホールへと足を運びました。

電車に乗り遅れたこともあって、ホールには開演5分前に到着。 既に満席に近い状態でしたが、ホール後方の壁際にはまだ少し余裕があって、ヲ-19をなんとか確保。 ジャケットを脱ぎ、首からぶら下げていたメモリプレーヤを外していたら予鈴が鳴ります。 あわててパンフレットを確認・・・おっ、いつもはA3用紙を二つ折りにした簡素なものなのに、今回はB4用紙2枚を二つ折りにした構成。 しかも曲目解説が載っているじゃないですか。 いつも曲目解説が書かれていないので・・と、今村さんや、五十嵐さんがお話してくれるのも楽しみなのですけれど、解説は欲しいと思っていました。 やはり20周年、少し予算がついたのでしょうか。

定刻、ステージが明るくなります。 アナウンスがあり、20周年とのことで奈良市長の挨拶が始まります。 正直このオケのことはよく知らないが・・と言われたとおり、確かに自分が聞き始めてからでも3人目の市長さん。 市長が変わる度に演奏会が減っている現実がありますが、何でも今日の2曲目はご自分で選曲されたのだとか。 これからはもっと気にかけて欲しいところです。

さて市長さんが客席に降りると、オケの弦楽奏者の方が整列入場し、6-5-4-4-3 の通常配置となりました。 最後にコンミスの五十嵐さんが登場され、チューニングを実施して準備完了です。 にこやかな笑みを湛えて指揮者の今村能さんが出てこられました。 さぁ始まります。

まずは奈良市の市制100周年を記念して小六禮次郎さんに委嘱された「Fantasia NARA“ファンタジア なら”『幻想曲 奈良』」。 小六さんは大河ドラマのテーマ曲の作曲も手がけられているとおり、懐かしい風景を一大スクリーンで見るような錯覚にもとらわれるような作品でしたが、今村さんとならチェンバーは、旋律や響きの中に、想いの深さまでも感じさせる演奏として、感動を呼び起こしました。 今回が3回目の演奏とのことですが、分かりやすくて、もっと演奏されても良い曲でしょう。

今村さん、中低弦のほうを向き、両手ですくい上げるようにして厚い響きを引き出しました。 しばらくすると高音弦も加わり、ゆったりとして、ゆらめくような響きが重なりあいます。 悠久の大地を思わせるような感じ。 低弦が芯になって響きます。 中音弦の暖かな響きにもピンと筋が通っていて、さらに高音弦がちょっと粘りつくような響きで旋律を奏で、これらが織り重なって進みます。
チェロの旋律が浮かび上がるように懐かしさを醸し出すと、続いて五十嵐さんのソロも絡む高音弦。 ソロはしっとりと濡れたような響きで、オケに清楚に溶けて流れます。 チェロの旋律がまた戻ってきて、五十嵐さんのソロが繰り返されます。 なんとコクのあるアンサンブルなのでしょう。 綺麗、爽やか・・とはちょっと違う中音の魅力をたっぷりと含んだアンサンブルに心が和んでゆきます。
今村さん、大きく背伸びをし、身体を痙攣させたように震えながら力を込めます。 集中力の高い弾力をもった響きとなり、五十嵐さんのソロはしとやかで、アンサンブル全体も大きくうねるよう。 オケの皆さん、身体を大きく揺らして弾いてらして、想いをたっぷりとこめていらっしゃる。
フィナーレもまた背伸びをした今村さん、震えるように力をこめて振り下ろしたあと、すっとすくいあげて響きを放すと、熱い感動が心に残りました。

いったん全員が退場。 ステージは暗転されるもスポットライトがあたって指揮者の今村さんが登場します。 待ってました。 そう、これがなくては・・ね。 今村さん、第24回の演奏会より指揮されていて既に14年とのこと。 そして第1回の演奏会を知っているとのことで、コンサートミストレスの五十嵐由紀子さんもステージに呼ばれます。 なんでも五十嵐さん、第1回の演奏会は客席から聴いていらしたそうですが、第2回よりメンバーとなられて以降は皆勤賞なのだとか。 ならチェンバーの顔といっても間違いないところでしょう。 なおこのオケのメンバーは、良い音楽を演ろうと集まってきていて、とても仲が良いとのこと。 確かにそれが演奏にもよく現れていると感じます。 ただし、演奏会の回数が少なくっていることについて、これを心配されている友の会の声もある・・と言ったうえで、市長さんよろしくお願いします、とご両人からもお願いする場面もありました。 まったくそのとおります。

そのようなスピーチが続く間にピアノがステージ中央に運ばれて、準備が整いました。 お二人が下がられるとまもなく団員の方が登場して席につきます。 五十嵐さんも最後に出てこられてチューニング。 そして、オーディションで選ばれた若井亜妃子さん、鮮やかなブルーのドレスに身を包み、ちょっと緊張気味な面持ちで今村さんを従えて登場しました。 2曲目が始まります。

モーツァルトのピアノ協奏曲第23番。 こちらも想いのよく載った演奏に目を見張りました。 若井さん、京都市立芸術大学4年在学中とのことですが、しなやかなタッチはモーツァルトにぴったりで、また演奏している姿は内田光子さんを思い出させるような入魂の表情。 ただし内田さんのような鬼気迫るような怖さではなく、若い女性らしい真摯な想いを込め、きちっとした演奏で会場を魅了していました。 演奏終了後の初々しさと演奏中の想いの深さ、そのギャップもまた魅力的。 素晴らしい才能にも酔わされた演奏でもありました。

第1楽章、暖かなオケの響きが流れ出てきました。 柔らかな演奏ながらもちゃんと芯の通っている極上のアンサンブル。 序奏から惹きこまれましたが、若井さんのピアノもまた素敵でした。 しなやかなタッチながらも、やはり芯がピンと通っていて、ムードで弾いているような曖昧さを感じません。 身体をくねらせて弾く姿は、ちょっと内田光子さんの演奏のような感じ。 でも内田さんのような鬼気迫るような怖さはありません。 暖かな響きはオケにもよくマッチしています。 そしてオケもまた強弱をつけつつしっかりとしたサポート。 若井さんを盛り立て、曲を進めてゆきます。 カデンツァ、勢いよく立ち上がって、あとは想いをしっかりと載せて素晴らしい。 引き締まったオケの演奏が引き継ぎ、最後はやわらかな響きになっての着地でした。

第2楽章、深く落着いたピアノの響きが流れます。 深い響きの底に、キラリっと光るものも感じました。 ここでも入魂の若井さん、若さ=稚拙さ、そんなものを全く感じさせない堂々とした演奏。 オケも落ちついた音色、何より木管楽器が素晴らしい演奏で曲を盛り立てています。 弦楽器もまた単に合わせているだけでない推進力。 そしてこれらに負けない若井さんのピアノがまた素晴らしいですね。 しばし息をするのを忘れるような感じで聞き入っていました。

第3楽章、軽快に走るピアノ、そしてこれを追いかけるアンサンブル。 熱気も孕んでいて素敵に響きます。 始まったばかりなのに、ああもう終わってしまうのか、そんな思いもふっと浮かぶほど。 伸びやかで、制御もきちんとされた若井さんの演奏は、足元がドレスでよく見えませんが、ペダルに頼らず指先のコントロールが充分に効いているのではないでしょうか。 オケとも堂々と渡り合い、曲が進みます。 強力な自己主張は感じないけれど、想いをうまく載せ、時に指揮者を覗き込み、オケと一体となった自然な盛り上がりがとても素晴らしい。 ああ本当にもう終わってしまう、もっと聴いていたい、そんな思いもむなしく、熱い響きを集めたフィナーレを決めて全曲を終了しました。

演奏終了後、カーテンコールで見せた初々しい表情はまだ幼さも感じさせて、想いを載せた演奏中の表情とのギャプもまた魅力的。 更なる飛躍が期待できる素晴らしい才能の持ち主に違いありません。 期待したいと思います。

15分間の休憩、席でじっとして開演を待ちます。 アンケートを書き、パンフレットに書かれた過去の演奏会「ならチェンバーの歩み」を眺めて時間を過ごしていると、定刻。 団員の方の入場となります。 先頭は、先ほどもそうだったクラリネットの鈴木豊人さん、サイトウキネンでも吹いてらっしゃいますね。 フルートは持永さん、ファゴットは佐々木さん、ホルンは猶井さん、トランペットは竹森さん、この方たちはフリーランスでしょう。 オーボエの浅川さん、ティムパニの中谷さんは大阪フィルの奏者でもありますね。 とにかく錚々たるメンバー全員が集まりました。 五十嵐さんが出てこれらてチューニングを行い、準備完了。 今村さんが登場して始まります。

ベートーヴェンの交響曲第7番。 のだめブームを受けての選曲となってしまいましたが、演奏はそんなこととは全く無関係で、室内楽的にキリッと引き締まったストイックな演奏。 奏者の方々は、関西を中心にした腕達者なフリーランスの方々なので巧いのは当たり前ですが、ソリストとしての自主性を保ちながら、きちんと全体を纏めあげた指揮者の今村さんの力量も相当のもの。 熱い演奏を堪能しました。 特に終楽章のフィナーレ。 熱く響きあった音楽が展開、ぐっと溜め込んで、弾けるような終結も感動的でした。

第1楽章、今村さん、ぐっと溜め込み、弾けるようにした集中力の高い演奏で始まりました。 旋律がこんこんと湧きあがってくるような感じ。 編成が小さいので、怒涛のような響きになりませんが、気持ちがよくこもっているのが判ります。 持永さんのフルート、一直線に指揮者を見据え、枯れた味わいのある響きは古武士の印象。 その後ろではクラリネットの鈴木さん、大きく身体を左右に揺すったり伸び上がり、左肩をいからせたり、と忙しく動くのと対象的。 皆さん凄く気合を入れているのが分かります。 しかしながら演奏はオーソドックスによく纏まっていて、これほどの腕達者な方々の響きがオケとしてきちんと統一されているに驚かされます。 今村さんの力量でしょう。 燃焼度の非常に高い演奏となり、最後までよく溶けあった響きで堂々とさせた着地を決めました。

第2楽章、アタッカで突入、艶をも感じさせる葬送行進曲。 中低弦の響きがよく分離して見晴らしの良さが素敵。 今回、コントラバス首席はフリーランスの滝本恵利さん(美人で色っぽい方です)、チェロはお馴染みの斉藤さんで相愛大学の先生、ヴィオラもお馴染みの植田さんでいずみシンフォニエッタでも弾いてらっしゃいます。 これに第2、そして第1ヴァイオリンが絡んで高まってゆき、ホルンが加わって熱い演奏に。 でもまた落ち着いた音楽となっても踏み込みの良さは全く失われず、真摯な演奏に最後まで圧倒されっぱなしでした。

第3楽章、軽やかな打音ながらもインパクトを与える中谷さんのティムパニ、キレよく弾んで深みも感じさせて実に素晴らしい。 オケがちょっと粘り気を持った感じで進みますが、竹森さんのトランペットが煌きをもって彩ります。 前後して座っているこの二人にすぐに目がいってしまいます。 ここでもクラリネットの鈴木さん、よく動いてますしね。 今村さん、足を広げて立ち位置を変えず不動の姿勢でオケをコントロール。 ぐっと溜めて、ティムパニの強打。 オケの響きをしっかりとまとめて走り、集中力を高く保ってこの楽章も終了。

第4楽章、落ち着きも感じられる引き締まった響きによる開始。 要所をバシっと決めて進めますが、前半はやや慎重な感じ。 ここでも竹森さんのトランペットが光ってましたね。 今村さん、中盤ではオケに任せるように身を屈めて動かない場面も2度ほどあったでしょうか。 しかしフィナーレに近づくと、また大きく伸び上がり、ゼンマイ人形のようにガタガタと震えるように力を込めます。 見晴らしの良さはそのままに、引き締まった音楽は強靭になります。 低弦が唸るように響き、さらに伸び上がって力をこめる今村さん。 あの細い身体が壊れそうな感じの力の入れようでフィナーレを演出、弾けるようにして全曲を閉じました。 熱い演奏は感動的でもありました。

錚々たる奏者の方々がまるでアマオケ団員のような笑顔も垣間見せたりもしていました。 充実した演奏に惜しみない拍手を贈りました。 当初は年4回あった演奏会も数が減り、前回は1年前、年1回のペースにまで落ちてしまっています。 財政難とはいえ淋しい限りですが、いずれの演奏もそんな逆境を跳ね返す素晴らしい内容でした。 ならチェンバー、いつまでも続けていって欲しいものです。