BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
新日本交響楽団 第85回定期演奏会

素晴らしい集中力による演奏と熱気戻る


新日本交響楽団 第85回定期演奏会
2010年10月31日(日) 13:30 すみだトリフォニーホール・大ホール

マーラー: さすらう若人の歌 (*)
(アンコール)マーラー: 不思議な子供の角笛〜「高き知性への讃歌」(*)
マーラー: 交響曲形式による音詩「巨人」(1893年ハンブルグ稿)

独唱:小松英典(Br) (*)

指揮:山田和樹


マーラーの交響曲第1番の原型といえる「交響曲形式による音詩「巨人」(1893年ハンブルグ稿)」の演奏会。 東京に単身赴任して初めての本格的な演奏会への参戦でしたが、素晴らしい集中力による演奏と熱気。 特に音詩「巨人」のフィナーレに熱く感動しました。

交響曲形式による音詩「巨人」(1893年ハンブルグ稿)。 パンフレットによると、日本で4回目の演奏になるとのこと。 そうならば、当方は3回目になる京都フィロムジカ(指揮:金子健志)による演奏も聴いているので、2回目、日本での演奏会の半分を聴く機会に恵まれたことになります。 前回の京都フィロムジカもアマチュア・オーケストラ。 いまだスコアがまともなものではなく、強い志しを持ったアマオケでないと演奏できない、そのような類の曲でもあります。 京都フィロムジカのパンフレットでも書かれていましたが、このオケのパンフレットでも、やはり送付されてきたレンタル楽譜の間違いを訂正し、余計な書き込みを排除するなど、かなり困難を極めていたようです。

それだけに演奏にかける情熱は強いものがあったのだと想像しますが、演奏はクールかつ着実なものでした。 冒頭こそ、やや緊張気味に思える場面もありましたけれども、基本的な技術力は十二分。 しかも各パートの団結力の強いことが印象に残りました。 そして指揮の山田和樹さんのリードに忠実にそって、見せ場を見事に構築しつつも、決して前のめりになったり、熱気を引きずることのない、素晴らしい演奏を展開していたことは、高い技量の現れに他なりませんね。

稿の違いによる聴き所・聴かせ所もありました。 例えば、第1楽章冒頭の狩のテーマがクラリネットではなくホルンが吹き、バンダのトランペットがステージ上で吹き。 また、終楽章エンディングのティムパニと太鼓の連打が4小節長いことなど、強く印象に残る場面ですが、それらを置いておいても、いずれの場面でもオーケストラの健闘ぶりが何より強く印象に残った演奏会でした。

なお、これに先立って演奏された「さすらう若人の歌」。 独唱の小松英典さんの余裕を感じさせる歌唱で、感情を込める声のコントロールが素晴らしかったですね。 個人的には、力が入ると少々声質が硬くなるのが気になりましたけれども。 ここでのオーケストラもまた、やわらかな管楽器、中低音弦が芯になった演奏で伴奏を付けていて、充実した響きを堪能しました。

新日本交響楽団、素晴らしい技量を持ったアマチュアオーケストラですね。 管楽器も素晴らしかったけれど、中低音弦の充実ぶりに目を見張るものを感じました。 素晴らしい集中力による演奏と熱気。 満足感で胸がいっぱいになりました。 音楽はやはり実演ですね。 改めて思いました。 ありがとうございました。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

かつて関西に在住していたころ、年間40公演を超えるアマチュア・オーケストラの演奏会に通っていましたが、単身赴任によって東京に在住するようになり、これがこちらでの初めての本格的な演奏会となりました。 そして、すみだトリフォニーホール、その名前は知っていましたが、ここも伺うのは初めて。 案の定、錦糸町の駅を出てから場所が判らず、しばらく探してみたものの諦めて、駅前に戻って、ガードマンのおじさんに尋ねて、ようやく到着できました。

開場の10分程前、すでに長蛇の列が出来ていました。 行列を整理している団の方に聞き、チケットを受付で受け取って列に並びます。 慌てなくとも入れるのですが、何せ貧乏性というか・・・落ち着きがありません。 そして開場となると、すぐさま階段を駆け上って最上階の3階席へ。 初めてのホールですが、最上階の最前列がお気に入り、ここならばゆっくりと聴けるだろうと。 案の定、ガラガラ。 最前列の中央に陣取って、ようやく落ち着きました。 パンフレットを読み、静かに開演を待ちます。

定刻を告げる鐘の音、アナウンスが流れますが、残響もいいですね。 2階席は真下なので見えませんが、1階席は8割以上埋まっているでしょうか。 3階席は2割には満たない感じかな。 両脇が空席でリラックスできますし、何より3階席はオーケストラの中がよく見えるのがいいですね。 場内が暗転すると、左右より整列入場にてメンバーの方々が登場します。 通常配置で 12-12-10-7-5 の編成のようです。 コンマスが立ち上がってチューニングを開始。 入念に合わせて、準備が整いました。 ソリストの小松英典さんと指揮者の山田和樹さんが登場して、いよいよ開演です。

マーラーの「さすらう若人の歌」、第1曲目「恋人の婚礼の時」、柔らかなクラリネットの響き、ふくよかさが感じられる上々の滑り出し。 小松さんの歌も張りがあって、力強く深い響きですね。 声を張ると少々硬いかな、とも感じましたが、オケの纏まりの良さと反応の良さもあいまって、とてもしっかりとしているという印象。 緩急をうまくつけているのは山田さんの腕前でしょうね。 あっという間に終わった感じでした。

第2曲目「朝の野を歩けば」、冒頭の木管楽器のしみじみとした音色も良かったですが、ぐいぐいと進めるかと思いきや、じわっと溜め込むような感じが素晴らしかったなぁ。 驚いたのはトランペットがピストン式ので、ちょっと突き抜ける感じで爽やかに吹いていたことかしら。 音詩「巨人」でもこれを使っていたようで、ドイツ音楽にはつきもののロータリー式のトラペットを使っていませんでした。 だからどうってこと無いのですが。 とにかく巧いオケだなぁ〜と思って聴いていたら、終わってしまいました。

第3曲目「僕の胸の中には燃える剣が」、金管が控えめながらも良く締まった響き、小松さんの歌唱は熱唱でしょう。 指揮者の山田さん、小松さんを見ながら、タイトに響く音楽としています。 先の楽章でも思ったのですが、ややヴァイオリンの響きが薄いかな、でもそのぶん中音弦が充実している感じです。 瞬発力があっても決して暴れない、どこか禁欲的でもあり都会的で洗練されたマーラーといった感じですね。 大太鼓、銅鑼がズシンと響いた余韻を残し、この楽章を締めました。

終曲「恋人の青い目」、しっとりとした開始、小松さんが感情を込めて歌い込みますと、甘い声となっていました。 コールアングレでしょうか、素晴らしい音色、オケの中より抜けてきました。 そしてホルン、クラリネットもまた柔らかな響きですよ。 巧いなぁ。 ハープが入って、明るくなります。 小松さん、相変わらず身体をよじらせて感情を込めて歌い込み、洗練されたオケとの響きとのバランスもうっとりとするほど。 フルート3本がしみじみと奏でてフィナーレへ。 そっと静かに山田さんの手がゆっくりと下がります・・ でも、完全に下りる直前に拍手が・・・・
もうちょっと余韻を楽しみたかった、というのが本音ですが、これはオケの責任ではありません。 大きな拍手を贈らせてもらいました。

アンコールは、同じくマーラーの「不思議な子供の角笛」から「高き知性への讃歌」、明るく軽快そしてコミカルな感じもさせて歌って小松さんの本領発揮でしょうか。 オーケストラ、ここでもまたふくよかな響き、機動力を垣間見せながらもしっかりと抑制を効かせた演奏でした。

休憩時間は 20分。 席を立つことなく大人しくパンフレットを読んだり、団員の方が座席の配置を変更しているのを眺めていました。 今度はコントラバス8本、チェロとの空間を変更しているようでした。

定刻、先ほどと同じく整列入場で揃った編成は 16-16-11-10-8 の通常配置。 コンマスが立ち上がってチューニングを行うと、先ほどよりも大きな音がしているような気がします。 気迫の表れでしょうか。 こちらの期待も高まります。 さっそうと指揮者の山田さんが登場。 オケを立たせて一礼して登壇。 さぁ始まります。

第1楽章、フラジオレットを使わないAの音、おごそかな開始です。 さすがにやや緊張気味であるのでしょうね、木管の響きがやや硬い感じ。 ホルンによる狩のテーマ、トランペットはステージで吹きますが、ちょっとひっかかった感じがしましたが、すぐに挽回。 朴訥な雰囲気も弦楽器のメロディが支配し始めると活気づいてきました。 ティムパニの張りのある打音が印象的。 クライマックスをゆっくりと築いてシンバル、溜めを十分にとっての炸裂といった感じかな。 いいですね。 このあと熱気に尾をひかずさっと翻します。 ヴァイオリンに若さが溢れています。 山田さん、力をこめて、ティムパニの強打、ホルンの強吹もありますけれど、これらをきちんと締め、フィナーレを駆け抜けてハナ息で止めました。

第2楽章、さざめくようなヴァイオリンの響きにふくよかなチェロのピチカート、トランペットの甘い調べでホールは包まれて浪漫たっぷり。 甘酸っぱい感じが、ほんと良く出ていますよ。 木管のアンサンブル、そしてホルン、この甘酸っぱさが引き継がれて、そして弦へと。 各パート、よく纏まっていています。 ぐっと音量を増しても浪漫の香りが消えません。 巧いなぁ。 トランペットに戻ってきて、また甘い音色を堪能。 このあとのクラリネット、そしてチェロもまた絶品でしたね。 最後は、ハープの音が途切れるように終了。 会場からため息が漏れました。 この楽章、ロマンティックに歌えば歌うほど、後に削除されたのも頷けるような気もしました。

第3楽章、明るく弾力のある開始、中低弦の響きが締まっていて素晴らしい。 高音弦やや薄いようにも聴こえるのは3階席のせいかもしれませんが、弦楽アンサンブルは分離がよく、管楽器との受渡しや対比も見事です。 ぐっと盛り上がったのを、山田さんが斜めに振って切り落とすと、ホルンそしてオーボエ、フルートがゆったりと歌ってゆきます。 山田さん、ここではオケを信頼しているのでしょうね、自然に流している様子。 各パートに指示は出すものの、ほとんど拍もとっていないように見えました。 主題を戻し、今度はリズミカルに。 オケが一丸となって盛り上がったのを、やはり斜めに切って捨てるように終了。 最後はちょっと音を抜くような感じだったかしら。

山田さん、指揮台を下りて休憩でしょうか。 コンマスがおっとり刀で立ち上がり、オーボエにチューニングの合図を要求。 響きを整えて、準備完了です。

第4楽章、ティムパニの静かな打音に続いてコントラバスのソロ。 女性奏者による、しみじみとした、でもどこか妖艶な感じもする響きでしたね。 ファゴット、チューバそしてオーボエと続けて、不安げな感じがよく出ています。 オーボエの響きがいいですよ。 音量が上がってきて、ヴァイオリンにも熱気が乗ってきたよう。 中低弦のピチカート、柔らかいのによく揃っていて良いですね。 ハープが入ってきて、お馴染みの曲なのに、どこか雰囲気が違って聴こえます。 とにかくオケは理路整然と、かつ気持ちを込めた演奏を展開しています。 葬送行進曲に戻ってきて、ゆったりと曲を進めながら終楽章へと向かってゆきます。

終楽章、山田さんが右手を上げると、シンバルをスティックで叩いて嵐の始まり。 向かって左にホルン、右にトロンボーンとチューバ、中央にはトランペット、これら金管のソリッドな響きに、ティムパニのドロドロとした打音も相まってストレートな盛り上がりでした。 嵐が去ると今度はちょっと遅めのテンポでしょうか、ゆっくりと音楽の襞をなぞるよう。 そしてまた嵐の前触れがやってきます。 持続音でじわじわっと盛り上がって、また爆発。 ここもソリッドに響かせて、若さが迸るような感じかしら。 ティムパニ奏者が千手観音のように見えました。 でもね、オケはしっかりとしていますよ。 チェロとコントラバスもごりごりと鳴っていますが、決して前のめりになどならない巧さを感じます。 そしてフィナーレ、全員が一丸となったクライマックスを形成。 ホルンの起立はありませんが、リズミカルに盛り上げていて、最後はティムパニと大太鼓が通常よりも長く打っての豪快な幕切れ。 ベタな感じかもしれませんが、感動しました。

初めての山田和樹さん指揮による新日本交響楽団による演奏、そして初めてのすみだトリフォニーホールでの鑑賞でしたが、素晴らしい集中力による演奏と熱気によって満足感で胸がいっぱい。 音楽はやはり実演ですね。 改めて思いました。 素晴らしい演奏をありがとうございました。