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セルのマーラー/交響曲第4番

透徹した美感を漂わせた演奏(戻る

セルのマーラーと言うと、実況録音の第6番がとても素晴らしかった記憶はあるのですが、第4番のレコードが出ていたなんて意識にありませんでした。 もともとセルは好きな指揮者ではなかったので、興味の範疇外だったから仕方ない面があります。 で、先日、御茶ノ水のディスク・ユニオンでこのレコードを見つけた時、ちょっと驚いて手にとって眺めていました。 購入の理由は 200円で投げ売られていたことが大きいのですが、セルの透徹した厳しさに美感を漂わせた演奏は実に素晴らしいものですね。 セル恐るべし、と唸ってしまいました。

このレコードは「セル/クリーヴランドの芸術1300」と題された1300円の廉価盤シリーズの1枚です。 1977年に発売されたようですね。 確かにそんなシリーズがあった記憶はあるんですが、「オーマンディ音の饗演」ほどの強い印象は残っていません。 CBSソニーは廉価盤進出が遅れ、しかも大看板のバーンスタインはレギュラー盤に温存、ようやく廉価盤に登場したのがワルターのモノラル録音に続いてオーマンディとセルで、同社の廉価盤には期待していなかったこともあります。 しかし、一昨年にはオーマンディの再評価をしましたしね、この調子なら今年はセルの再評価年といっても良いくらいの年の初めです。 以前も書きましたが、年齢を重ねることで変なこだわりが無くなり、素直に音楽を楽して幅が広くなるならこれは良いことだと思います。

さて、このセルのマーラーの第4番に話題を戻しましょう。 この演奏で気に入ったのはゆったりとしたテンポ設定ですね。 ゆったりと言ってもセルらしく音楽を実に緻密に鳴らしていますので、決して遅くは感じません。 たっぷりと音楽が流れていくのですが、甘ったるくなることはなく、ふやけたような感じにならない。 磨き抜かれたアンサンブルによる美しさが随所に感じられて、心が洗われるような感じがするのですね。 巧いもんです。 参考までに、この曲について、僕がリファレンスとしているホーレンシュタイン盤と比較してみたら以下のようになりました(カッコ内がホーレンシュタイン盤)。

  第1楽章: 17分23秒 (17分54秒)
  第2楽章:  9分13秒 (11分23秒)
  第3楽章: 20分50秒 (19分55秒)
  第4楽章: 10分16秒 ( 9分40秒)

演奏時間がかかっていているから好きなわけではなく、演奏上の解釈も似ているようです。 特に気に入った部分として、第1楽章の展開部(?)のクライマックスのところ。 ぐっと溜めてから大きく盛り上げたあと第5番の交響曲冒頭のトランペットによる葬送行進曲のメロディが流れるあたりですね。 この部分、多くの指揮者はここをインテンポですっと流してしまうことが多いようです。 これだと何だか興冷めしてしまうんですよ。 でもセルは(もちろんホレンシュタインも)この部分にこの楽章の頂点を置いているようです。 実にダイナミックに起伏を付け、しかも美しい音楽として磨きぬいています。 個人的には、この部分を聞いて「決まり」な〜んて思ってしまったわけですが、もちろんその他の部分も充分に美感を漂わせた音楽ですね。 セルが冷たい指揮者だ、という思い込みがどうしても頭の片隅には残っているんですが、厳しいけど美しさの中に暖かさも感じさせる演奏に参りました。

もし難を言うなら(っていう書き方は好きではないのですが)ラスキンのソプラノでしょうか。 柔らかい響きですね。 これがもうちょっと透明感のある声だったら・・・なんて思いましたが・・・ とにかくこの演奏、不思議にもほとんど話題になっているのを聞いたことがありません(知らないだけ?)。 もっと話題になっていたんじゃないかな、と思える素晴らしい演奏でした。