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リヒテルの「展覧会の絵」1958年ライヴ

自在な表現による奔放なピアニスト(戻る


フォンタナ・レーベルによる見開きジャケットの1,000円盤、グロリア・パイロット・ファイブの1枚。 いわゆる1,000円盤ブームの頂点ともいえる時代(1973年頃)にリリースされた話題盤だった。 しかし当時まだ中学生だった僕の少ない小遣いは、ピアノ曲よりも高揚するオーケストラ曲に使いたかったし、モノラル録音よりもステレオ録音でないと嫌だった(曲を覚える時代だったので、どうせ聴くのならステレオで聞きたかった)。 そんな理由から店頭で見ても見送っていたレコードだったのだけれど、30年を経て、ようやく我が家にお越しいただいたリヒテルのレコードである(200円)。
さて、「展覧会の絵」というと、僕の世代では、プログレッシヴ・ロックのEL&Pによる演奏がイチバン!という人が多いと思う。 僕もずっーとそう思っていたので色々な録音を聴いてもしっくりこないことが多かった。 しかし不惑の年代ともなると、さすがにEL&Pは懐かしく思う面はあっても技術的にちょっと辛い・・・ と思えなくもない。 ましてこのような空白期間ともいえるものが自分の中にあるので、この曲はちょっと苦手な曲になってしまった。 だからこのレコードを見つけても即座に捕獲には至らず、一度は見送って翌日に捕獲したほどである。
というような前置きはこのくらいにして、この1958年のブルガリア・ソフィアにおけるリサイタルの実況録音盤は、いきなり拍手から始まってプロムナードが演奏される。 しかしちょっと録音が遠めであることを差し引いても、ぶっきらぼうに演奏が始まり、おまけにこれがせこせことした感じで足早に進んでいくのに吃驚した。 なんじゃこりゃ・・・ というのが第1印象。 もっと巨匠然としたものを想像していただけにショックだった。 そして続くグノムスも、なんとも無表情でそっけく始まるので、こりゃアカン・・・ と第2印象。 しかし「古い城」の後半から俄然演奏に力を感じてきた。 なんかコレちょっと凄いのとちゃうか・・・ と不思議な気分を感じたらもうリヒテルの世界に引きずりこまれてしまっていた。 「チュルイリー」「ビドロ」「雛どりのバレエ」と進むに至って、リヒテルの冴えわたったピアノにもう抜き差し成らないような状況に置かれてしまった。 もう離れなくなって最後まで聴くしかない、そんな感じ。 単なる技巧的な巧さや、響きの豊かさとは全く違った独特の世界がびんびんと伝わってくる。 多彩な音で埋め尽され、エモーショナルに曲を進めていくEL&Pの演奏の影がいつもチラついてしまって困る曲なのだが、このリヒテルの演奏にはそのような隙を感じさせない大きさと強さ、そして繊細な感受性がひしめきあっている。 いろいろな要素が曲の奥深いところから噴出してきて、時にはそれを奔放に、また時には極端に抑制して演奏している。 自在な表現・・・ 確かにそうなのだけれど、それだけでは到底言い尽くせないような演奏である。 レコードなので、A面からB面にひっくり返さねばならない。 一瞬この不思議な世界から解放されるタイミングがあるのだが、やはり吸い寄せられるようにしてB面にひっくり返してしまう雰囲気がある。 するとここで堂々と響きわたるプロムナードが始まり、胸倉を捕まれたようにまた聴き進んでしまう。 そして圧巻はラストの「キエフの大門」。 ここで最高潮に盛りあげるのかと思いきや、ここでもまた突き放されてしまい、淡々と弾いて、その抑えた響きの中から幻想性を持たせてこの曲を閉じた。 う〜んんん、やはりリヒテルはどこまでも不思議で凄いピアニストだった、という結論しかないようだ。