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アーロン・ロザンドのスペイン交響曲・サン=サーンス

美しい音色と滑らかによく歌う演奏(戻る

1970年代初頭に出ていた廉価盤LPです。 1,000円盤でピンとくる人は同年代、同朋です。 そんな人達にとって思い出深いのが、この演奏も収められているコロムビア・ダイヤモンド1000シリーズ。 先日ふっと思い立ち、サイト用にこのシリーズのアルバムジャケットを整理することにしました。 そしてその作業中に何気なく取り出して聴いたのがこのアルバムなのですけれど、アーロン・ロザンドのヴァイオリンの類い稀なる美音と芳醇さに圧倒されました。 サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番第2楽章のなんと艶やかなこと・・・今まで何を聴いていたんだろう、そんな恥ずかしさでいっぱいになりました。 しかし、それにつけてもこのような名演奏が1,000円盤としてリリースされていたことの驚きも大く感じました。 今さらながら1,000円盤が与えてくれたものの大きさを改めて感じた1枚です。

最近はCD価格が暴落。 有名無名の演奏家の録音、しかもかつてはリリースされることのなかった極一部マニアが喜びそうな歴史的録音まで驚くほどの低価格で入手できるようになりました。 しかしこれが出ていた1970年頃。 輸入盤はほとんど流通しておらず、国内レギュラー盤は各社共通で2,000円の均一価格。 調べてみたら1970年の大卒初任給は約4万円だそうで、タクシーの基本料金は130円、かけそば100円となっていました。 1,000円盤LPの登場は、学生を中心とした金の無い音楽愛好家にとっては大きな福音であるとともに、クラシック音楽の裾野を広げる大きな要因になったのも頷けます。

また当時のクラシック音楽界にはスターが目白押し。 カラヤン、バーンスタイン、ベーム、ストコフスキー、マルティノン、マルケヴィッチ、クレンペラー、ムラヴィンスキーが健在、クーベリックなんて地味な中堅指揮者だったことが思いおこされます。 だから1,000円盤に登場する指揮者やソリストは、中堅以下か無名か物故者であることがほとんどで、野球で言えばマイナーリーグ。 商品としてはメジャーの2,000円では出しにくいものだったのですけど、層の厚さが幸いしていたのでしょう。 はっとするような素晴らしい演奏が出ていて、それらの演奏もまたクラシック音楽の裾野を広げる大きな要因となったのではないでしょうか。 安いだけじゃなく、そして今みたいに重箱の隅をつついて、有名演奏家の隠れた演奏を探し出して名演奏だと宣伝して売るようなことなどなく、静かに出て静かに消えていった1,000円盤ですけれど、宣伝などしていなくても心に残る演奏が多かったように思います。

話をアーロン・ロザンドに戻しましょう。 インターネットで検索して吃驚したのですけど現在でも健在で、なんと今年来日されていました。 そして「往年のヴァイオリンの巨匠達のスタイルを現代に伝える希有なヴィルトゥオーゾ、アーロン・ロザンド。 虚飾を排した真摯な演奏、静謐な詩情と、滋味豊かな風格。真に名匠と呼ぶにふさわしいヴァイオリニストの一人である」との記事に大きく頷きました。

とにかくこのレコードでも美しい音色と滑らかによく歌う演奏に魅了されます。

ラロのスペイン交響曲、全篇を情熱的に曲を進めますけど、まったく泥臭く感じさせない演奏。 冒頭の艶やかなソロから快調、素晴らしい音色です。 そして第5楽章冒頭のソロなども軽妙かつ自由闊達な表現。 ティボール・ショーケ指揮のバーデン・バーデン南西ドイツ放送交響楽団はドイツのオケなのですけど暖色系の響きによるサポートです。 パワフルに切れの良さも光ってます。 第2楽章での色彩感もなかなかのもので、全体的にソロとのバランスをうまく取った演奏だと思います。

サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番、こちらも基本的に同じ傾向の演奏で、情熱的な第1楽章、官能的な第2楽章、ドラマティックな第3楽章と、いずれもヴァイオリンの響きってこんなにも艶やかだったのかと、改めて思い知らされる感じです。 芳醇な演奏で、この曲のほうがよりロザンドさんに合っている曲であるように思います。 特に第2楽章は独壇場。 オケも柔らかくサポートし、ちょっとオフ気味に録音された感じのする木管楽器とかけあいながらソロとオケで歌いあげてゆきます。 そして終盤のフラジオレットの濡れた響きで囁きかけられると溜め息がでるほど。 そして終楽章の中間部のカンタービレ、コーダも同様に濡れたような響きが麗しくて魅了されっぱなし。 この曲の魅力を最大限に発揮した演奏のひとつではないでしょうか。