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コミッショーナのストラヴィンスキー/ミューズの司者アポロ

密度の濃い素晴らしい弦楽アンサンブル(戻る

久しぶりに覗いた大阪シンフォニカーのサイトにてセルジュ・コミッショーナ氏の訃報を見て驚いた。 大阪シンフォニカーのサイトでは3月6日に亡くなったとのことのみで詳細が書かれていない。 そこでネットで調べてみたら、享年76歳、客演のために訪れたオクラホマのホテルにて心臓発作(heart attack)で亡くなったとのことである。 ルーマニア出身で、活躍の場がアメリカだったこともあり、比較的地味な指揮者だったけれど、大阪シンフォニカー第81回定期演奏会(日本・ルーマニア修交100周年記念)で聴かせてもらったエネスコの名演が忘れられない。 それまでの大阪シンフォニカーでは感じられなかった密度の濃い弦楽アンサンブル中心の音楽。 実に素晴らしい経験をさせてもらった。 謹んでご冥福をお祈りするとともに、追悼の意をこめてストラヴィンスキーの舞踏音楽「ミューズの司者アポロ」のレコードを聴いてみたい。

まずこの「ミューズの司者アポロ」。 1928年、ワシントンの国会図書館から現代音楽祭に上演するバレエ音楽として作曲されたもの。 ギリシャ神話を素材とし、ミューズの神々に芸術を付与する司者アポロが主題となった2場のバレエのための音楽。 この時代、ストラヴィンスキーは新古典主義へ方向転換した時代であり、「春の祭典」などのこれまでのバレエ音楽が管楽器を中心にしたカラフルな音楽だったのが、この「ミューズの司者アポロ」では弦楽合奏用となっている。 古典への回帰が強く打ち出された作品である。 なおストラヴィンスキーは、チェロを2つのパートに分け、第1・2ヴァイオリン各8名、ヴィオラ6名、第1・2チェロ各4名、コントラバス4名の合計34名で演奏するように指定しているそうだ。

ところで今回採り上げたレコードは、日本コンサートホール・ソサエティのコレクターズ・シリーズのもの。 コレクターズ・シリーズは500枚のみの限定頒布、シリアル番号がゴム・スタンプで打たれているのだが、何故かこのレコードはNo.868となっている。 定価 675円。 予想よりも多く売れたのだろうか。 それはともかく、10曲の組曲で構成された「ミューズの司者アポロ」に、ルーセルの「シンフォニエッタ」がカプリングされている。 録音年は不明だが、ラマ・ガン室内管弦楽団がイスラエルのオケなので、イスラエルで活動していた1960年代の録音だろうか。 とすると、コミッショーナさんは30歳代、気力が充実してくる頃の録音であろうか。

そんな若いコミッショーナ氏による「ミューズの司者アポロ」、以前大阪シンフォニカーで聴いた時と同様に弦楽器の響きを丁寧に重ねてゆく職人技が既に耳にできる。 変に気負うところがなく、自然な音楽の流を大事にした上質な音楽。 もちろん若さからくる熱気も随所に感じられる。
第1曲「アポロの誕生」、ラルゴからアレグロになり、チェロの旋律が美しい2分21秒の曲。 ここで第1場が終わり、第2曲「アポロのヴァリエーション」より第2場、ここからA面最後の第7曲「アポロのヴァリエーション」まで、各弦楽器にスポットライトを当てつつ格調高い音楽を紡いでゆく。
B面、第8曲「パ・ドゥ・ドゥ」のしとやかな音楽、第9曲「コーダ」での切迫音による所謂ストラヴィンスキーらしい音楽を弾力を感じさせる上質なアンサンブルで熱っぽく演奏したあと終曲・第10曲「アポセオシス」の典雅なエピローグへと変貌させる。

技巧的でかつ叙情的、職人指揮者コミッショーナ氏のまさに面目躍如と思われる演奏であった。 謹んでご冥福をお祈り申し上げます。