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ショルティのシューベルト・グレート

強靭で緻密かつウィーンの香りがする(戻る


ショルティというと、シカゴ交響楽団とのマーラーの演奏が真っ先に脳裏に浮かぶ。 超人的なテクニックを誇るオケと一糸乱れぬ演奏を繰り広げ、そしてここぞとばかりに重戦車が迫り来るような迫力で圧倒する。 音楽を聴きながら、蛸入道のような厳つい顔でオケを睨みつける表情や、右肘を上げるぎこちない指揮ぶりが目の前をちらちらする。 そんな優雅さとはほど遠いショルティがシューベルトのグレートを振ったレコードがなんと7割引きで180円。 これは捕獲するしかない。 1981年のデジタル録音の英国デッカ盤。 LPレコードとしてはコレクター的な価値はゼロであるが、そもそもそんなことは気にしていない。 音楽を聴くために音源を買っているのである。 それが180円の価値に見合うかどうか、それが基本的な問題なのであるが、このショルティのグレートはそんな観点も超越して、音盤からほとばしり出てくる音楽がとても素晴らしかった。 たしかに、ここでもショルティは、音楽を緻密に構築して振りわけ、力を漲らせているのだけれど、実に瑞々しい音楽をかなでている。 これはオケがウィーンフィルだということが全てのようなが気がする。 緻密に演じわけられてはいるが、この各部分の響きに艶があって、これが更に混ざり合うと響きが醸しあうようだ。 曖昧さは微塵もないけれど全体として聴くと角の取れた強い音楽になっている。 個人的に、最近かなり疲れ気味なのだが、この音楽を聴くと元気が湧いてくる。 そんな演奏である。
第1楽章の冒頭はじつにゆったりとしたウィンナホルンの響きで始まる。 低弦のピチカートも太く、ゆっくりと音楽が進んでいくが、導入部から各パートがくっきりと浮かびあがっていて実に緻密である。 しかしそこはショルティ、繊細というよりも強靭な感じである。 全体的に躍動感もあってグイグイとシューベルトの歌の音楽に没入させられる。 ウィーンフィルの魅力がぎゅっと凝縮されている。 そしてこれが全開なのが第2楽章。 冒頭のオーボエ、クラリネットのソロもすばらしいが、このあとスタッカートで奏でる弦楽器の旋律、そしてその裏つけている管楽器、これに続いて木管楽器が主題を吹いているときの裏の弦楽器、弦と管が交互に主従関係になって主題を演奏するが、この従あたる部分の響きがぐっと浮かびあがるようで素晴らしい響きあいになっている。 そしてこの楽章の後半、主題の裏に吹いているホルンの響きがなんともチャーミングである。 コーダの部分はショルティらしくかなり強引な感じで盛り上げるが、このあとはゆったりとし、この楽章を閉じるまで各パートがまたそれぞれに歌いあげて終わる。 第3楽章は冒頭からせわしなく曲が進む。 各パートとも力を漲らせて強引さがちょっと目立つのだが、やはりここでもオケ全体の響きの魅力が勝っている。 そして終楽章は更に力強い。 音をぎゅっと凝縮させたようにして曲をグイグイと進める。 弦楽器がとうとうと伴奏音形をひたすら弾いているのが印象的である。 管楽器が盛り上げては曲を静めて目まぐるしい。 各パートがくっきりと浮かび上るようで曖昧さが微塵もなく、壮麗にコーダを盛り上げるあたり、ショルティらしくかなり強引ではある。 が、しかしここでもオケの響きの豊かさに随分と救われているようだ。 有無を言わさぬような演奏を耳にして元気を貰えるようだ。 若くして逝ったシューベルト、その彼のグレートには老境をまったく感じさせないこんなショルティの演奏が結構合っているように思う。 同じウィーンフィルを鳴らしたムーティのグレートはちょっと大味であったが、ショルティは強引ではあるが実によく纏まって貫禄勝ち。 ちょっとやりすぎなか、とは思うけれど、なかなか素晴らしい演奏だと思う。