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コシュラーのマーラー「巨人」

ボヘミアを感じさせる巨人(戻る


NAXOSは、以前は出しているCDを廃盤にしない(いつまでも売りつづける)ことをウリ文句にしていた時期があったのですが、名匠コシュラーによるマーラーの交響曲第1番「巨人」は残念にも廃盤となってしまったCDです。 スロヴァキア・フィルを振って1988年に録音されたNAXOS初期の録音で、後年ハラシュ指揮の演奏に「巨人」はとって代われらてしまいましたが、決して聴き劣りする演奏なんかではありません。 逆にスロヴァキア・フィルのどことなくひたむきで素朴さを感じさせる弦楽器や管楽器を駆使した素晴らしい演奏だと思います。 マーラーがインターナショナルな音楽となってしまった現代において、その実はボヘミア出身の作曲家の音楽であることも如実に伝えてくれるような演奏です。 リマスターしての復活を望みます。

全編に渡って弦楽器が秀逸です。 とくにヴィオラやチェロなどの中弦がきちんと音楽を支えていて、マーラー特有の各楽器によってそれぞれの旋律が独立して奏でながら、全体としてひとつの音楽の響きとして纏めてあげているあたり、コシュラーの職人的な手腕の確かさを大いに感じます。 本当に惜しい指揮者を亡くしたと思います。 またきちんと演奏していても、ちっとも機械的な冷たさを感じをさせないんですね。 このあたりはスロヴァキア・フィルの特質のような気がします。
第1楽章はなんとなく朴訥とした味わいを感じさせる明るい演奏ですが、決してユルい演奏でありません。 よく聴くと(ヘッドホンを利用すると)緻密に音楽が重なり合ってあっているのが手にとるように分かると思います。 そしてそれぞれの楽器ひとつひとつに、素朴な味わいが漂っていて、ほのぼのとした気分になってきます。 カッコーが鳴き、「朝の野辺を歩けば」の旋律が出てくるあたりは「自然の音のように」と指定されているようですが、まさにそのような雰囲気を漂わせていますね。 コントラバスや金管楽器もごり押ししてくるようなことはなく節度を保ったままクライマックスに登りつめてゆきタイトに締まった爆発が繰り返されて幕になります。
第2楽章も明るく伸びやかなスケルツォで、コントラバスがよく締まって聞こえています。 スパスパと旋律や場面を切り換えてゆくのにまったく冷たさを感じさせません。
第3楽章はカロ風の葬送行進曲は軽量級で、この楽章はアイロニーよりも侘びしさを強く感じさせるものです。 オーボエの音色が味わいの良さを聴かせてくれたりもします。
怒涛の終楽章の始まりですが、ここもタイトに響きを凝縮させているのはスロヴァキア・フィルの体質かもしれませんが、朴訥とした感じの金管など全体的にちょっと力不足な感じは否めません。 しかし、効果的な仕掛けや、背伸びをした強引さはなく、ローカルな味わいの深さを感じさせながら、場面転換をきちんと決め、誠実に音楽を進めていきます。 フィナーレもいまいちスケールの大きさが捕らえられていませんが、これは録音のせいかもしれませんね。 しかし音楽そのものは十分に練られていて、ティムパニが高揚感をぐっと高めてスパっと切り落とします。

全体的に職人的に巧く纏めた演奏といえなくもありませんが、随所に聴かせるコシュラーとスロヴァキアフィルによる素朴さ懐かしさといったものが心をとらえて離さないお気に入りの演奏です。 NAXOSには、このコンビによるモーツァルトのレクイエムやR.シュトラウスの管弦楽曲のCDが現役で残っていますが、いずれも素晴らしい演奏です。 ただこれらのCDをヘッドホンで聴くと、音楽が始まる前に、わずかにサッーというノイズが聞こえます。 デジタル録音なのでマイクのノイズと思われます。 NAXOS初期のオーケストラ曲にはなんとなく安易に録音・編集されたようなものが多いのですが、これらもその例にもれないようですね。 特にこの「巨人」のCDについては、きちんとしたリマスター処理をしての復活を望みます。

800円程度で捕獲。 これを買った時はコシュラーさんは健在だった。