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大阪シンフォニカー 第69回定期演奏会

狂おしいほどの若さと情熱で演じきられた幻想交響曲戻る


大阪シンフォニカー 第69回定期演奏会
2000年 7月 6日(木) 19:00 ザ・シンフォニーホール

エネスコ:ルーマニア狂詩曲 第2番 op.11-2
イベール:フルート協奏曲
ベルリオーズ:幻想交響曲 op.14a

指揮:曽我大介 独奏:末原諭宜(fl)

狂おしいほどの若さと情熱で彩られ、各パートともすさまじい集中力でもって演じきられた幻想交響曲だった。 初顔合わせでもあり、期待半分と不安半分だったのだが、それは杞憂に終わったようだ。 第72回の定期演奏会では、ザンデルリンクの十八番であるブラ4を振るとのこと。 今からこの曲をどのように料理するのかが非常に気になるところである。

さて堂々と登場した曽我さん。 いかにも自信たっぷりで気合十分。 このオケとの初めての演目に、得意とするルーマニアの曲。 しかも派手で見栄を切れるような1番ではなく、渋い2番をぶつけてくるあたりにも並々ならぬ自信を感じる。
冒頭から、おおっ、と思える豊かな弦の響きで聞き手の心をぐっと掴んだ。 そしてまだ見たこともないルーマニアの広大な草原に引き込み、こちらの心の視界がパァーと広がるようだった(個人的には6年も生活した帯広郊外の草原の光景が重なったのだが、そのようなものなのだろうか?)。 曲の前半は花石さんの叩く優しく的確なティムパニのリズムでこの曲が支えられ、次いで小谷さんのコールアングレのほのかに甘く切ない音により彩りが増し、最後のザザさんの素朴なヴィオラの音で締めくくられていた。 それぞれに素晴らしい演奏であったと思う。 が、その反面どこか表層的だったようにも思ってしまった。 コントラバスが6本あったが、これがあまり響いてこない。 座った場所のせいかとも思ったが(R列26番で2階席がかぶる直前のところ)、以降の曲では十分に響いてきていたので、描写音楽として(解釈として)抑えていたのだろう。 前回のザンデルリンクの演奏がまだ耳の奥に残っているので、深みに欠ける、と言ってしまうのはちょっと酷な気もするのだが。

次に、首席の末原さんをソリストに迎えたイベールのフルート協奏曲。 団員から暖かく迎えられた末原さんは黒シャツに黒ズボンという黒装束。 胸の赤いチーフがワンポイントというお洒落な出立ち。 曲は軽やかな第1楽章、もの哀しい第2楽章、おどけたような第3楽章と、冒頭こそ硬さが目立ったように思ったが、テクニカルな難しさをまったく感じさせずに演じきったのはさすがだと思った。 末原さんのフルートは、抑制された響きで、誠実な音だったように思う。 特に第2楽章のノスタジックな演奏が印象に残った。 伴奏するオケも、やはり仲間を盛り立てるためか、ソロと対峙するような感じはなく、誠実な伴奏だったのではないだろうか。 ソロ・オケと一体となった演奏に、終演後は会場から、またオケからも暖かい拍手に包まれていた。 しかし反面イベールらしい色彩感には乏しいように感じたし、どことなく一本調子であったようにも思う。 やはり席の関係かもしれないが(ホールの後ろの席では微妙なニュアンスは感じられないし)、いずみホールあたりで、コントラバス2本程度の小編成で聴けたらよかったのかもしれない。

幻想交響曲。 ベートーヴェンの第9からわずか6年後の作品とは思えない斬新な曲である。 そのため数々の録音もあり、いわば手垢にまみれたような曲を、曽我さんがどのように料理するか、それが今回の演奏会の狙いであった。 そして結論として、各パートとも熱演を展開し、狂おしいほどの若さと情熱によって演じきられた素晴らしい幻想交響曲だった。 単に若々しい... というのは予想がついていたが、それを遥かに上回る大熱演であった。
第1楽章の冒頭こそオーソドックスに始まったが、次第に緊張感が高まり、ダイナミックな音楽に変貌していった。 中でも非常に印象に残ったのが、序奏部が終わりヴァイオリンとフルートが固定観念を示す後ろのコントラバスの動き。 ここでは不安をかきたてるように断続音を奏でる部分なのだが、コントラバスが一体となって(まるで1本のコントラバスのように)ザンザンザンと引き締まったリズミカルな音に仕上げられていた。 第3楽章でも思ったのだが、曽我さんの元では弦楽器の各群がそれぞれに雄弁に語る場面が多いようである。 これは曽我さんがコントラバス科出身であることにもよるのだろうか。
第2楽章。 残念ながらこの楽章は個人的には早すぎたように感じた。 ここはワルツなのであって、もう少し洒落っ気ももたせ、途中のテンポを大きく落とすなどして欲しかった(これはバルビローリの演奏による影響が非常に強いのだが)。 すると楽章末の狂乱ももっと引き立ったのではと(少々偉そうなのだがそう)思った。 ともかく足早に過ぎ去ったような印象だった。
逆に第3楽章は対比されたようにゆったりとし、小谷さんのコールアングレとバンダの左古さんのオーボエの絡みが見事だった。 テレビカメラで合わせていたようだ。 (話は横道にそれるが、オーボエの前首席の前川さんと小谷さんのコンビは絶品だった。 以来ご両名のファンとなり、小谷さんが活躍されると嬉しい)。 ところでこの楽章の終結部では、男性打楽器奏者が4人が寄り添うようにして横一列に並び、2個のティムパニを叩くのは見ていて壮観。 しかしちょっとユーモラスな感じもした。
さて第4楽章の開始前、ファゴットの藤崎さんが笑っているのがやけに印象的。 しかしこれは緊張を隠す微笑み、と思っていたが見事に的中。 ここからオケのメンバーの集中力が一段と増し、大団円のまま終楽章のクライマックスまで突き進んで行った。
ところで第4楽章では珍しくスコア通りに主題の繰り返しを行っていた。 通常は冗長とも感じるリピートなのだが、逆に緊張感を一層高めていたように思った。 この楽章、曽我さんはこれまでの踊るような指揮ではなく、終始徒手体操のように手を上へ横へと突き出していたのも印象的であった。 そしてこの楽章の終結部でも打楽器奏者4人の熱演があり、思わず客席から拍手が湧き起ってしまったが、これも頷けるものであった。
そして終楽章。 不気味な導入部、そしてバンダの鐘が不吉に響いてからオケがどんどんと開放されていくようだった。 強弱緩急自在、ノリにノリまくっていたようだ。 オケ全体が十二分に鳴り響いているのだが各パートが崩れない、すさまじいほどの集中力である。 もうここまできたらこちらも小さいことを考えながら聴くのはヤボというもの。 最後の一音まで一緒になって奏でられた音楽に身をまかせることにした。 そしてラストの一音が終わった直後のブラボーも見事にハマっていたように思う(静かに余韻を楽しみたい場合が多いのだが今回はそうではない)。 よかった。 感動した。
結果的にはいろいろなことをゴチャゴチャ言うよりも聴いて楽しければそれでいいじゃない、ということなのだが、確かにザワついた場面もあったけれど、こう書いてしまうと稚拙な演奏でも勢いで押し切ればいいじゃない、楽しければ... ということでは決してない。 大阪シンフォニカーの誰にもマネの出来ないここ一発の集中力・熱いハートが十二分に出し切られた大のつく熱演であった。