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大阪シンフォニカー 第70回定期演奏会

張り詰めた緊張感・アイロニカルなショスタコービィチ戻る


大阪シンフォニカー 第70回定期演奏会
2000年10月9日(月) 14:00 ザ・シンフォニーホール

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 作品47

指揮:トーマス・ザンデルリンク 独奏:前橋汀子(Vn)

創立20周年記念の第70回定期はもう7年前となった1993年10月13日第34回定期からの再演となるショスタコーヴィチの交響曲第5番の再演。 過日は緊張感でピリピリと張り詰めた演奏であったが、この7年の歳月でオケの成長著しく、終始切れない緊張感の中にも余裕も感じる予想どおりの大熱演となった。 とりわけ弦楽器の分奏が素晴らしく、コントラバスの芯の通った響きに加え、内声部をしっかりと支えるヴィオラの奮闘ぶりが光っていた。

会場のシンフォニーホールは、生憎の雨模様でありながらもクワイア席まで観客を入れる満員御礼。 これは前橋さんの人気も影響しているのだろう。 案の定、左前のアベックは前プロのみで姿を消した。 さて、このもうひとつの期待であった前橋汀子さんによるベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、後半高い集中力からくる迫力で圧倒したが、前半は雨による湿気で楽器が鳴らないことも影響するのであろうがやや不調であったように思った。
小気味よいティムパニ、よく引き締まったコントラバスによる序奏、豊穣なオケの響きに合わせて前橋さんのソロが絡むか、と思った瞬間だった。 前橋さんはヴァイオリンの弓を絞ろうと急に思い立ったのだが間に合わないと断念、いきなりソロに入る。 これは見ていてドキドキしてしまった。 さぁ落ちつけない。 そのせいかもしれないがやや自信なさそうな響きにも聞こえる。 さして演奏には影響はしていないようにも思うのだが、終始弓やヴァイオリンを気にしている姿を見てしまった、第1楽章の前半はあまり感じの良いものではなかった。 確かに空気は湿って重く、速いパッセージも見事に決めてはいるのだが音切れは良くなかったようである。 カデンツァから調子が出てきたようだ。 力強いトリルで会場は静まりかえり、断続的に現れる第2主題がもの哀しく響き、ようやく安心して音楽に入れるようになった。 第2楽章、ホルン、木管楽器そしてソロ・ヴァイオリンと受け継がれる。 ヴァイオリンの響きにも艶が増して上質な音楽となってきたのだが、いかんせん前半は会場から咳払いが多数あって非常に耳障り。 この楽章は第3変奏あたりから艶やかなソロが堪能でき、やさしい時間の流れを感じることができた。 第3楽章、これまでを取り返すような熱の入った演奏となった。 ザンデルリンクさんに微笑みかけてソロに入ったり、オケの伴奏を口ずさんみ足でリズムをとってからソロに入るなど前橋さんものってきたようで、技巧にいっそうの磨き・艶・コクが増したようだ。 強靭で力強い演奏が展開されて、フィナーレまで尻上がりの演奏となった。 前半の不調はどこへ行ったのやら。 しかし曲全体としては、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はオーケストラと一体となった音楽であることがよく分かった。 終始的確な音楽で曲を支えていたザンデルリンクとオケを讃えたい。

7年ぶりの再演。 前回もピリピリと張り詰めた緊張感があったが、前回のは非力なオケが精一杯の力を振り絞りながらもザンデルリンクに「もっと頑張れ・もっと頑張れ」と強制され、ある種ヒステリックさがにじむ演奏であったと記憶している。 さて今回は管楽器の巧さ・力強さを置いても弦楽器群が見違えるような成長していることを特筆したい。 一本の筋が通って芯を感じるコントラバス、これにチェロが絡んむとオルガンのようにも響く低弦楽器群。 一糸乱れないヴァイオリンに、内声からしっかりとこれらを支えるヴィオラなど実に素晴らしい演奏であった。
第1楽章の冒頭は、そのようなピーンと張り詰めた空気の中、ザンデルリンクさんのふりおろした棒から弦楽器の和音を聴いた瞬間、今日も凄い演奏になるな、と直感した。 どこまでも不安な響きが付きまとう楽章である。 オルガンのようにも響く低弦、不気味なホルン、乾いたトランペットの響きなど、どれもこれも入念に音楽が組みたてられていることがよく分かる。 ピアノが入ってマーチになるあたり、コントラバスのピチカートが効果的。 このあとの盛りあがりも開放されることはなく、わずかに長調になって瞬時、末原さんのまろやかなフルートに細田さんのホルンと絡む場面も印象的であった。 さらにバブアゼさんのソロ・ヴァイオリンは控えめで神秘的である。 しかしバブアゼさんはショスタコーヴィチに顔が似ていると思うのだが... 第2楽章は十二分に締まったコントラバスの力強い響きが印象的な始まり。 ザンデルリンクさんは場面転換の切り返しが実に素早い。 バブアゼさんのソロはここでは明るく響くが、その後の末原さんのフルートは深い響きでありどことなくニヒリスティック。 常にどこかに不安を内蔵しているかのようなスケルツォである。 この楽章は急にテンポを上げてスパッと打ち切るのは、7年前と同じ。 ハッとするような終り方である。 第3楽章の前にチューニングを行い、指揮棒なしで振り始めた沈痛な弦楽合奏もすぐに指揮棒を取って振り始める。 美しさのなかに憂鬱と暗さを秘めている。 弦楽器の分奏が実に素晴らしい楽章で、内声部ことにチェロ、セカンドヴァイオリン、ヴィオラなどが持ち場をしっかり固めているのが印象的。 瞬時ヴィオラが乱れたように聞こえた場面もあったが(気のせい?)、大阪シンフォニカーの成長を実感した楽章であった。 若さとノリの良さで爆発するようなイメージが強いシンフォニカーだが、本当のオケの力はこのような楽章の表現力ではないだろうか。 さて怒涛の第4楽章、最近では遅いテンポが主流になりつつあるようだが、ザンデルリンクさんはこれまでどおりの速いテンポで始める。 花石さんのティムパニにより非常に引き締まった曲の運びとなっている。 これに管楽器が勢いに任せるように盛り上げるのは大阪シンフォニカーの真骨頂である。 しかし盛りあがったあと、細田さんのホルンが優しく響かせるのも余裕なら、これを弦楽器群が不安な響きで打ち消してしまうあたりも実に巧い運びである。 ここでのヴァイオリンはやや薄くヒステリックに響かせていたのも印象的。 スネアドラムが入って曲がクライマックスに近づくとテンポはぐっと落ち、地面を踏みしめるように歩み始める。 これにより緊張感はいやがうえでも高まり、不安と緊張のこの曲のエンディングに結びつけた。 素晴らしい演奏であった。 さすがに会場は割れんばかりの拍手とブラボーの連発。

しかしアンコールがあったのには少々びっくりした。 モーツァルトの交響曲第35番第3楽章のメヌエット。 例によって早くアンコールしようかな.. とじらすザンデルリンクさんに、早くやりなよ、とポーズするバブアゼさんの一幕もあって、これはこれで楽しめたのだが、贅沢な話しかもしれないけれど、このショスタコーヴィチの印象を深く留めておくべくアンコールなしでもよかったのではないか。 確かにアンコールの出来は悪くはなかったし、と言うよりもザンデルリンクのモーツァルトでは一番よかったようにも思ったのだが。