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大阪シンフォニカー 第13回ひまわりコンサート

牧村さんの懐の深さを感じた戻る


大阪シンフォニカー 第13回ひまわりコンサート
2001年3月28日(水) 19:00 いずみホール

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 作品73 「皇帝」
モーツァルト:歌劇「イドメネオ」K.366 −ハイライト演奏会形式−

P:松本昌敏
イドメネオ(T):神田裕史(友情出演)、イリア(S):堀川明日香、イダマンテ(MS):味岡真紀子、エレットラ(S):納谷知佐、大司祭(T):西尾幸紘、天の声(B):花月真(友情出演)

指揮:牧村邦彦

久しぶりの牧村さん指揮による演奏会。 昨年末の牧村さん指揮による定期演奏会は仕事でやむなくキャンセルしたが、これが大阪文化祭賞となり、後から口惜しい思いをした。 今回は、滅多に上演されることのないモーツァルトのイドメネオとのこと。 お恥ずかしい話ではあるがこの曲についてはCDなどの録音を持っておらず、演奏会形式の抜粋とはいえ、どのような音楽・演奏を聴かせてくれるか興味のあるところであった。 結果として、熱演であり、ソリストの皆さんの歌は巧かったし、オケも充実した響きであったのだが、少々長くて疲れてしまった。 しかし牧村さんの音楽は、ここ数年聴かせてもらっているが、なんだか急に懐が深くなったように感じた。 これは受賞による自信からきているのだろうか。
さて、この演奏会の露払いとなったのはベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」。 いきなりの大曲での幕開けである。 演奏はひとくちで言うならば、とても力強い演奏、であった。 ソリストのテクニックは安定しており、とても丁寧に弾き込んでいるのだが、これよりも単純に音が大きいほうが印象に残ってしまった。 音が大きいのは、これはこれでとても大事なことだと思うのだが、気合が入り過ぎているせいもあるのだろうけれど、なんだか聴き疲れしてしまった。 これはとても残念だった。 左手の打鍵が明快であり、はっと聴きこませる場面も多かっただけに、皇帝イコール雄大イコール力強いと言うのとは違う面も演出できたのではないだろうか。 まぁ演奏に若干余裕が乏しいのは若い演奏者だから差し引かねばねらないと思うのだが、先日購入したケンプの演奏にはまってしまっただけにこの曲は少々辛く聴いてしまった。 またこれに対するオケは弦が8型で通常配置(ヴィオラ6本、チェロ5本、コントラバスは3本)だったが、内声部に配慮された演奏で、こちらも雄弁であった。 花石さんのティムパニも重い音をスタッカート気味に短く切った演奏で、伴奏全体がとても腰の据わったものになっていたように思う。 しかしソロに対抗してか、オケだけの部分になると音楽の押し出しが強くなりすぎるきらいがあった。 このためソロ・オケともにグイグイと押してくる聞き疲れする演奏になってしまったのではないだろうか。 イドメネオを聴いてから思ったのだが、最初にこのような大曲をもってきたことが正解だったのか、今はちょっと疑問に思っている。
そのイドメネオは、始めて聴く曲であり、会場に着くまではストーリーも知らないというお粗末さであった。 よってたいしたことは書けないのだが、こちらも熱演であったが、結果としてとても疲れてしまったので、後半かなり集中力が落ちてしまってよく聴けていないのが正直なところである。 これはひとえに体力のなさに起因するため、演奏者の方々には申し訳ないことなのだが、あえて言わせてもらえば、3幕のオペラの演奏会形式の抜粋上演とはいえ、幕が転換する部分ではちょっとした息継ぎの時間があってもよかったように思った。 演奏そのものは充実していただけに、前半にピアノ協奏曲の大曲をもってきて、駆け足でオペラの抜粋というのはいかがなものか。 9時20分ころまでかかってしまっただけに、こちらももっと余裕をもって聴きたかった、というのが正直なところである。 また歌手を舞台後方に立たせての独唱形式だったのだが、多少の身振り手振りなども加えた演技らしいものがあってもよかったのではないだろうか。 体力の無さを棚にあげて我侭言ってしまったが、そんなことを思ったのが正直なところである。
さて前置きが長くなったが、演奏そのものは大変充実していた(それだけにそれを充分に楽しめなかった体力のなさがうらめしい)。 序曲からよく締まった響きであり、花石さんのティムパニもマレットをより先の細いものにして軽い音で要所を締め、弦・管ともにオケが充分にコントロールされている。 牧村さんは、音楽に深さとチャーミングさを交錯させ、その切り返しも素早く、天才モーツァルトの音楽を繰り出してくる。 期待がどんどん膨らむ、そんな序曲の演奏を始めとして、決して軽く流さないモーツァルトであった。 歌手ではイダマンテを歌った味岡さんによる「私には罪はないのに( Non ho colpa )」の歌唱がよく伸びる声で会場を圧倒していたのが印象的だった。 あとイリアを唄った堀川さんによる「もし私が父上を失い ( Se il padre perdei )」がオケの木管楽器やホルンの響きによくあわせた歌唱で、とても美しいものであった。 声とオケの楽器の響きが一体になって聞こえる、そのような感じで素晴らしかった。 エレットラを歌った納谷さんは「いとしい方、もしそうでなくても ( Idol mio,se ritroso )」がしみじみと唄う愛の歌で、オケともども醸し出すチャーミングなモーツァルトらしい息遣い・呼吸を感じさせるものであった。 このようにSe il padre perdei や Idol mio,se ritroso のように、オケの楽器と声を見事に絡みあわせるのは牧村さんの真骨頂だろう。 この他のメンバーも見せ場は少なかったが、みな巧い歌唱で、全体的によく揃えられきっちりと纏め上げられた、という印象である。 そして最後は力強く自信をもったオケの響きによるフィナーレであった。
全体を通じて強く感じたことは、牧村さんの演出する音楽の懐が深くなったなぁ、ということである。 大阪芸術祭賞の受賞が自信となっているのだろうか。 そしてこの牧村さんの要求に立派に応えたオケ・歌手の皆さんともに意欲的であり熱演であった。 しっかし体力の無さはいかんともしがたいのか...