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奈良交響楽団 第39回定期演奏会

意欲的なプログラムの真摯な演奏戻る


奈良交響楽団 第39回定期演奏会
2001年6月3日(日) 13:30 奈良県文化会館国際ホール

グラズノフ:祝典序曲 作品73
A.コッペル:マリンバ協奏曲
シューマン:交響曲第2番 ハ長調 作品61

(アンコール:J.S.バッハ:目覚めよ、と呼ぶ声がきこえ)

マリンバ:前川 典子

指揮:辻 俊彦

いつもながら意欲的なプログラミングの奈良交響楽団だが、今回もその意欲が見事に演奏に反映された演奏会だった。 なかでもデンマークのアナース・コッペルの1995年の作品・マリンバ協奏曲が、身体に染み入るような深いマリンバの響きと、終始緊張感を維持したオケの熱演によって非常に聴き応えのあるものに仕上がっていた。 普段は耳にすることのない曲を積極果敢に紹介する姿勢を何より評価するが、単に紹介するだけではなく、シューマンの交響曲第2番も含めて、きちんと曲を消化した演奏であり、とても聴き応え・聴き映えのした演奏会であった。 次回は高知交響楽団との交歓演奏会とのこと、こちらも大いに期待したい。

まずは露払いはグラズノフの祝典序曲。 時折曲名を耳にするはあるが始めて聴く曲だったが、よく練られオケの響きで充実した音楽になっていた。 プログラムには華々しく喜ばしいメロディでの開始と書かれていたのだが、そのように軽軽しくはなく、やや重量感のあるティムパニと金管ファンファーレによって厳かに始まった。 ここに弦楽器が爽やかに加わわってきて霧が晴れるように明るくなる。 確かにプログラムにも書かれているように明るくメロディアスな曲ではあったのだが、決して軽く弾き飛ばすようなことはなく、重心を少し低めにとった響きを大切にしたような演奏だった。 ここぞとばかりに打ち鳴らす思い切りの良い打楽器による華やかさを強調していたのが印象的だったが、途中のクラリネットの響きにどことなく懐かしさが含まれていて、これが全体の演奏によくマッチしていたのが特に印象に残った。
さてコッペルのマリンバ協奏曲。 現代音楽の打楽器の一部としてマリンバを聴くことはあっても、マリンバのための協奏曲は初めてである。 舞台中央にマリンバが出てくると、うわぁ大きいなぁ、というのがなんといっても最初の印象。 1995年の作品とのことだが、通常の協奏曲と同じく3楽章構成であり第3楽章にはカデンツァもあった。 そのこともあってか難解な感じはせず大きなマリンバの幅広くシャープで深い響きも魅力的で非常に聴きやすい曲であった。 しかしあくまでもそのように聞かせたのは、この大きなマリンバを自在に操った前川さんの抜群のテクニックと終始緊張感を維持し、マリンバの響きをしっかりと受け止めて支えたオーケストラの熱演によるものと思う。 じつに素晴らしい体験をさせてもらった。 さてその第1楽章はマリンバの深い音によるソロで始まった。 オケもフルート、ピッコロそして弦楽器と深い響きで応え、どことなく不安気なオケの響きはバーンスタインの音楽のようにも感じた。 このあとのマリンバのソロのリズム感が実に面白く、オケのノリのよい伴奏ともあいまってアフリカの密林を思わせた。 マリンバのリズムがアフリカの太鼓のようなにも感じて人間の根源的なところをくすぐっているかのようでもあった。 第2楽章はフルート、クラリネットの伴奏にのって雨だれのようなマリンバの音。 密やかな空間を漂っているかのようだ。 オケの管楽器が散発的に鳴らすソロが絶妙のタイミングで緊張感が全く途切れないのが素晴らしい。 また途中のヴァイオリンのソロもどこか湿っぽく響いていたのがよく曲想にマッチしていたと思う。 第3楽章は曲調が明るくなって、少々硬くリズムを強調したようなマリンバの音が浮き立つよう。 オケもこの明るさにぴったりと合わせての熱演が展開された。 主題が戻ってくるあたりではマリンバ、オケともに一段と輝きを増して熱っぽくなる。 カデンツァは前川さんの独壇場。 自在にマレットを操ってホール中を魅了。 マリンバの音が身体に吸い込まれていくような感じに聞こえたのが不思議な体験であった。 普通音は跳ねかえって響きが振幅するように感じるのだが、まるで身体の中に染み入って心の中で振幅しているようにも思えた。 そんな響きに魅了され、ちょっと呆然と聞いていたらスパっと終わったのでびっくりした。 とにかくとても素晴らしい体験だった。
シューマンの交響曲第2番は、なんと言っても確信に満ちたティムパニの連打による感動的なフィナーレを特筆しておきたい。 この楽章は冒頭から恰幅の良い音楽が展開され、木管楽器奏者も身体を左右に揺らせて吹くほどの熱っぽさだったが、ラストの力強さでトドメを刺された。 会場中が拍手の渦に巻き込まれていた。 第1楽章の冒頭、緊張からか金管ファンファーレが微妙にズレたのが惜しかったが、弦楽器は低弦の支えがしっかりしており十分に厳かで気分が高められる。 そしてその高揚した気分のまま主部でズンと力が入ってスパッと切れるのが気持ちいい。 そしてこの曲特有の執拗に繰り返されるフレーズが次第に熱を帯びてきたが、終始コントラバスがしっかりと支えていたのが印象的で、メリハリをつけてよく揃ったこの楽章のフィナーレに思わず客席から拍手も飛び出し、それも頷ける。 第2楽章の冒頭、ややオケがざわつき気味だったのが惜しい。 トリオのあたりから調子が乗ってきたのだろうか。 この楽章でもコントラバスの響きが心地よかったが全般的にオーソドックスで大人しい印象を持った。 楽章の終わりに第1楽章の序奏の基本動機が戻ってくるあたりは少々荒っぽいのが個人的な好みだから余計そう思ったのだろう。 これは好みの問題なので許して欲しい。 第3楽章の前に入念なチューニングを行い、しとやかに始まった。 少しゆっくり目のテンポ設定だろうか、じっくと歌い上げていく弦楽器がどこかバッハ風に響いていたのが印象的だった。 後半ちょっと気になったのは指揮者の辻さんがおおきく振りかぶってもオケが淡々と進んでいくような場面があったことだろうか。 第4楽章は前楽章のちょっと陰鬱な響きを吹き飛ばすかのような恰幅のよい音楽であった。 金管楽器に輝きが増し力強い弦楽合奏で行進曲風にずんずんと進んでいった。 木管楽器奏者も身体を左右に揺らせての熱演である。 第1楽章の音楽も顔を見せるコーダの金管も統率がよく取れて、これは熱いフィナーレになるなと思っていたら、なんとティムパニの連打がクレッシェンドしながら豪快に響き渡ったのに度肝を抜かれてしまった。 実に感動的なフィナーレ。 会場中から拍手の渦が巻き起こりブラボー声も飛んだ。 見事なエンディングだった。 カーテンコールで指揮者の辻さんが飛び出してきて真っ先にティムパニ女性奏者を称えていた。 実に確信を持った見事な演奏だった。
アンコールは J.S.バッハのコラール。 バッハ研究家のシューマンのあとにバッハをもってくることも憎い選曲だと思う。 のびやかな弦楽合奏が素晴らしかった。 音楽文化不毛とも言われる奈良の地でこのような意欲的なプログラミングを進めている奈良交響楽団が次回は高知交響楽団との交歓演奏会とのこと。 こちらもまた楽しみである。