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大阪シンフォニカー交響楽団 フェスティヴァル名曲コンサート18

現代音楽のように響くモーツァルト戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 フェスティヴァル名曲コンサート18
2001年6月10日(日) 18:00 フェスティヴァル・ホール

ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番「月光」
モーツァルト:ディベルティメント K.136
ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」

奈良田朋子(P)
六車智香(S)、田中友輝子(A)、山本裕之(T)、田中勉(B)
大阪シンフォニカー合唱団、和泉混声合唱団 合唱指導:谷幹夫

指揮:本名徹次

先日の池田市の痛ましい小学生殺傷事件の被害者のために黙祷を奉げてから演奏された第九は、ベーレンライター新版にバロック奏法も取り入れたいつものスタイル。 これを聴くのは僕自身もう4度目となり、またオケもこの演奏を自分のものとしているのか、新版やバロック奏法ということよりも自分たちのいつもの熱演という感じだった。 個人的には、これに先立って演奏されたモーツァルトのディヴェルティメントK.136 が、まるで現代音楽を耳にしたような新鮮な響きで耳を奪われた。 本名さんの指揮に合わせてソリッドにかつ自在に響く各弦楽器は、ザンデルリンクさんに統率された時とはまた違う側面を持ち、大阪シンフォニカーの弦楽器も本当に巧くなったなぁ... 感慨もひとしおだった。

最初はベートーヴェンのピアノソナタ「月光」なので指定された平土間右隅の席につくことにした。 続くディヴェルティメントのこともありちょっと迷ったが、さすがに2階席後方ではと思い、この2曲は指定された席につくことにした。 この時期に第九だからか、1階席にもやや空席があってキャンセルされている席が目立っていた。 さてそのようななか、奈良田さんの「月光」がひそやかに始まった。 しっとり弾きながら響きを確かめるような丁寧な演奏であったが、元来テクニックのある人なのであろう、第3楽章の速いパッセージになるとバリバリと弾き、それまでやや噛んで含めるかのような感じから趣きが少し違ったようだ。 普段ケンプなどで聴いていたこともあるし、会場の広さもあって、とても丁寧な印象を持ったのだが深刻ぶってはみてもやや深みに欠けたのはいたしかたないところだろうか。
モーツァルトのディヴェルティメントK.136 は、確か大阪シンフォニカーに初の外国人奏者としてライカンさん達4人が来たとき、定期演奏会のあとのアンコールで演奏されたのではないか(おぼろげな記憶だが)。 明るくはあるがどこか芯を捕らえにくく冗長で退屈にもなりかねないモーツァルトだが、本名さんはいきなりバロック奏法(?)で鋭く始めて惹き付けた。 鋭角的で歯切れの良いモーツァルトである。 ザンデルリンクさんのときのしなやかさとはとはまるで違う主張を持った響きは、まるで現代音楽を耳にしているように新鮮だ。 このようなのはモーツァルトではない、と評価は分かれるかもしれないが、手垢のついていないようなこんなモーツァルトを聴いているとゾクゾクとくる。 第2楽章も芯のあるコントラバスが時折顔を覗かせるが、バロック奏法のヴァイオリンがキューンと空間を切り裂く。 べたつかない潤いに乾いた響き、これもまた現代音楽のようだ。 第3楽章は、本名さんの指揮にぴったりとつけた各弦楽器群が自在にコントロールされ、強弱のメリハリがやや機械的につくあたりも面白かった。 本当に大阪シンフォニカーの弦楽器は巧くなったものである。 演奏後、バブアゼさんも非常に満足そうな表情をされていたのも印象的だった。 このようなモーツァルトを対抗配置の効果がよく分かるような席で聴けなかったのが残念だった。
休憩時間に2階席後方に移動、少々遠いが全体を見渡せる席がやはりいい。 同じ考えか、同じ考えをもったおじさんも僕の前方に移動してきた。 さて音楽が始まる前に本名さんのスピーチがあった。 最初ベーレンライター新版で演奏するので、と断わりを入れるのかと思ったが、あにはからんや先日の池田市の小学生殺傷事件の被害者への黙祷のお願いであった。 我ながら恥ずかしい。 会場の一同が物音も立てずに長い時間じっと黙祷し冥福を祈った。 そんななか始まった第九はいつもよりも熱く緊張感の高い音で始まり爆発した。 怒りをぶつけるかのような開始だろうか。 ベーレンライター新版にバロック奏法を加えたこのコンビによる第九もこれで4回目。 フレーズを短く切ってたたみ掛けるように進んでゆく。 ティムパニも振りを小さくして堅い音を演出している。 いつもながら切れのいい新鮮なベートーヴェンである。 フィナーレはふわっと終わるのだが僅かに乱れたのが残念だった。 第2楽章も速く鋭く妥協を許さない音群が半時計回りに回る。 前回のザンデルリンクさんのベートーヴェンの世界とはまるで異なる鋭さがある。 そのソリッドな弦楽器に対する木管楽器群が柔らかく巧い。 決して時計仕掛けのオレンジのように冷たくはなく熱い音楽がとうとうと流れていくような印象である。 この楽章のフィナーレもふわっと終わるがここは見事に決まった。 第3楽章の前にピッコロと打楽器隊が入場してからチューニングそしてソリストの登場とこれもいつもどおり。 響きを内に込めるような開始、2ndヴァイオリンやヴィオラが健闘している。 はやりフレーズを短く切るようにし引きずらない。 余計なものは一切省いたような音楽を形成している。 少々クールに始まったが次第に熱が篭もってくる。 が、それでも引きずるようにはならない。 ホルンのソロは細田さん。 最初にこの版を聴いた時には3rdホルンが吹いていたと思ったが第2回目以降は1stにしているようだ。 そんなことはともかくごくあっさりとしたホルンソロだった。 全体的に粘らずあっさりと流れていった。 第4楽章は、チェロ、コントラバスをバロック的に響かせよく締まった熱い開始。 逆に主題はゆっくりとおごそかである。 自信に満ちた音楽が最後まで展開されていった。 バリトンソロの田中さんは相変わらずよく通る声。 この裏で吹いているオーボエを主体とした木管楽器群との対比が面白かった。 テノールの山本さんは少々かすれ気味で通らないのが残念。 後半の4声の時には響いてきていたのだが。 アルトの田中さんはしっとりとして堅調。 ソプラノの六車さんはややドラマティックな歌唱でこの版にはちょっとそぐわないような印象を持った。 合唱は大きなホールなので力強く十分に感動的に歌っていたのが少々女声合唱の中から金切り声に近いものや男声だけになったときの乱れも気になったが、細かなことはさておいて全体的なまとまり感はよく出ていた好演だろう。 音楽はクライマックスに向けてどんどん熱を帯びてきてシンフォニカーらしい熱演・大団円でのフィナーレ。 真骨頂である。 ここまでくると個人的には聴き慣れたこのスタイルの熱演にも慣れっこになった感もあるのだが。 これが無くては終わらない、そんな感じだろうか。 しかしこの裏を返すと、当初は珍しかったベーレンライター新版やバロック奏法そのもの云々ではなく、このスタイルでの音楽を自分たちの財産としてしっかり定着させているのだろう。
常任指揮者を離れた本名さんではあるが、今後も競演されることで、先のモーツァルトやこのベートーヴェンのようなソリッドな音楽をより熟成させていって欲しい。