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大阪シンフォニカー交響楽団 第80回定期演奏会

弦楽器の素晴らしさにすべて覆い尽くされた交響曲(戻る


大阪シンフォニカー交響楽団 第80回定期演奏会
2002年5月29日(水) 19:00 ザ・シンフォニーホール

ブラームス:悲劇的序曲 op.81
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 op.26
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 op.73

独奏:漆原朝子(Vn)

指揮:トーマス・ザンデルリンク

「私の愛するブラームス」と題された久しぶりのザンデルリンクさん指揮による演奏会。 このオーケストラの会員になった頃にやっていた特別演奏会「ドイツ音楽特集」を彷彿とさせる内容だが、演奏における弦楽器の充実ぶりは当時とは比べるまでもなく、またこのところのシンフォニカーの演奏と比較しても実に素晴らしいものだった。 そしてこのオーケストラの成長に多大な貢献をしてきたザンデルリンクさんの偉大さも改めて感じた演奏会であり、とにかくザンデルリンクさんが指揮をすると単なる熱演に止まらず、響きがぐっと引き締まる。 要所をタイトに締めたオケの響きには深みと熱さが漲り、弦楽器の響きを主体にしたブラームスの交響曲第2番が実に素晴らしい演奏だった。 このオケが燃えるときにはよくありがちな、突っ走るような感じはなく、透明感を持った弦楽器全体がじわっと盛りあがって奏でる強く豊かな響きと、スパっと切って捨てる反応の良さが実に素晴らしい。 管楽器も好演していたし、ティムパニも終始コンパクトな振りからタイトな音で曲を締めていたが、今回は弦楽器の素晴らしさにすべて覆い尽くされてしまったように感じた。 ことに終楽章ではザンデリンクさんが弦楽器を煽るような場面もあったが、それでも弾き飛ばすことはなく、一糸乱れず、弦の各パートが一斉に反応していたのは見ていてとても気持ちが良かった。 やはりブラームスの交響曲は弦楽器の響きが充実していないと… と改めて教えられたようである。 なお、これに先立って演奏されたブルッフのヴァイオリン協奏曲は、漆原朝子さんの渋い色調で響きを蓄えたヴァイオリンが素適だった。 ただオケが主体になる場面では、ザンデルリンクさんがちょっと気合が入りすぎていたようで、独奏と対比がつきすぎたようにも感じた。 もとから寄り添うようなタイプの伴奏をしない人なので、漆原さんの豊かな響きを中心に楽しませてもらった。 冒頭の悲劇的序曲は、これ1曲で交響曲を1曲聴いた感じがするほどの丁寧で充実した演奏だったが、最後に第2番のシンフォニーを聴いた後ではちょっとかすんでしまった感がある。 素晴らしい演奏に熱い気持ちになって演奏会場を後にした。

悲劇的序曲は、パッションのある出だしからぐっと惹き込まれる。 主題は重厚だが張りがある弦楽器が素晴らしい。 何よりヴァイオリンには力強さに透明感が備わっていて、好調なのがよく分かる。 第2主題のところで多少バラけたかなと思えたり、展開部のフルートがやや上ずったようにも聞こえたが体制には全く影響がなく、再現部あたりの弦楽器とオーボエをはじめとする木管楽器の優しい響きからじわじわっと盛り上がってゆくところがじつに素晴らしかった。 クライマックスにきてもホルン、ティムパニがタイトな響きで突っ走らず、たっぷりとした響きで盛り上がり、すっきりとしたエンディングに結びつけた。 とても丁寧で充実した演奏だった。
ブルッフのヴァイオリン協奏曲は、漆原朝子さんの渋い色調で響きを蓄えたヴァイオリンが素適だった。 第1楽章は、ティムパニのトレモロによるじわっとした出だしから、渋い音色の漆原さんのヴァイオリンの響きによる魅力的な開始。 オケは重心を低めにとっていて、主部の提示はちょっと強引かなと思えたほどたたみかけるよう。 これで独奏も少々熱を帯びて主題を演奏していたが、声高にならず終始じっくりと歌うようなヴァイオリンにしばし聞きほれた。 そして白眉は第2楽章の冒頭からしばらく瞑想的に響くあたり。 ゆったりと歌い、しだいに熱を持ってきて素晴らしかった。 オケの弦楽器による伴奏にもぬくもりが感じられ、たっぷりと盛り上がっていった。 ただ後半、独奏にちょっと伸びが感じられない面やフルートとホルンの繋がりがスムーズにいかない面も感じたがこの楽章の前半はとても素晴らしいものだった。 第3楽章は、じわっと熱く盛り上がったオケに煽られたのか、やや力任せ気味な独奏による開始になった。 終始オケの響きが大きく、ちょっと容赦がないような感じもしたが、漆原さんは冒頭こそ力任せになった感じもしたが、あとは終始暖かみのある音色、耳当たりの良い響きで会場を魅了していた。 お名前のとおり漆のような光沢を持った響きのようにも感じた。 ただ相変わらずオケは元気に盛り上がるので、独奏ヴァイオリンとオケの対比という面では面白いし、このまま大熱演としてフィナーレを飾ったことも事実なのだが、ちょっとやりすぎかなぁ、とも感じた演奏だった。
休憩を挟んでいよいよメインのブラームスの交響曲。 いわゆる十八番である。 ザンデルリンクさんは閉じた口の下唇をぐっと突き出すいつもの力の入ったしぐさから、意外とふわりとした主題の提示を行った。 優しいホルン、爽やかな木管とサラっとした肌触りがする響きによる開始だった。 さらに軽快に盛り上がってゆき、ビオラとチェロによる第2主体も美しい。 もっと重厚な感じを予想していたけれど、なるほどと唸らせる巧さが光っている演奏だ。 強引さや突っ走るのではなく、余裕をもたせたタイトな演奏に自信の深さを感じた。 ホルンが第1主題を素朴に吹いて再現部に入ったが、全体的に管楽器は控えめで弦楽器主体の演奏である。 特にこの場面から、弦の分奏が際立っていたように思う。 ヴァイオリンの響きには力があるが澄んでいるし、内声部を支えるビオラや第2ヴァイオリンもしっかりしているので響きにふくよかさがあった。 充実した弦の響きにリードされてこの楽章を閉じた。 若干終結部に乱れがあったようにも聴こえた。 第2楽章は、はっと大きく口をあけてふりかぶったザンデルリンクさんの指示から力の入ったチェロによる主題が提示された。 しかしその強さは最初だけで、すぐに引いた。 まろやかなホルンの響きがあって、チャーミングな木管楽器の響きがつらなってフーガ風に旋律を回していくあたり、ここでも充実した弦楽器の響きがあって、弦の響きの豊かさに塗り込められていくような感じだ。 めんめんと満ち足りた音楽が続いてゆくアダージョは、いつもシンフォニカーとは随分違う充足感を感じさせてくれた。 第3楽章はオーボエの暖かい音色による愛らしい旋律に他の木管も加わって、木管アンサンブルが素敵な開始。 テンポが変わってやや速めの弦楽器のメロディとなったが、スパっと音切れの良いヴァイオリンの響きが統制されていて気持ちが良い。 後半、主題が弦楽器に戻ってきたとき、ザンルデリンクさんが大きくふりかぶって抑揚をつけるとそれに見事にオケが反応していた。 終楽章も弦楽器の集中力の高さがそのまま曲の充実に繋がった演奏であった。 アレグロになって迎えた最初のクライマックス、ザンデルリンクさんがヴァイオリンに煽りを入れるときちんと反応する。 それも弾き飛ばしたりせず、弓の上げ下げが前から後ろまでピタッと揃っていて、まさに一糸乱れないのが見ていてとても気持ちが良い。 ティムパニも終始コンパクトな振りからタイトな音で曲を締め、ホルンも充分に締まった音で響きを充たしていたが、はやり弦楽器の素晴らしさにすべて覆い尽くされてしまったよう。 この後、弦楽器の分奏や木管楽器との旋律の受け渡しなどもじつに自然な流れで曲が進んでフィナーレになだれこんでいった。 最初のクライマックスよりもまた一段と力が入って壮大なのだが、ここでもこのオケにありがちな若さにまかせて暴走する盛りあがりや、響きが強く拡散することがなく、力強く統制された響きに満たされてのエンディングに結びついた。 強烈なブラボーがかかっていたが、これには同感。 とても充実した熱い演奏だった。
これだけ充実したブラームスの交響曲の演奏はめったに聴けるものではないだろう。 演奏終了後に呼び出されたザンデルリンクさんに対するオケの面々の拍手も凄まじかったし、また散会後、コンサートマスターとアシスタント・コンサートマスターの二人ががっちりと握手していたことからも充実の度合いを推して知ることができた。 素晴らしい演奏に充足し、とても熱い気持ちで演奏会場をあとにした。