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大阪センチュリー交響楽団第82回定期演奏会

岩城宏之さんのツボを抑えた指揮、川久保賜紀さんの豊かな情感戻る


大阪センチュリー交響楽団第82回定期演奏会
2003年2月7日(金) 19:00 ザ・シンフォニーホール

L.d.パブロ: ポプリ(ヴェンダハルから 第1楽章)<本邦初演>
ラロ: スペイン交響曲 ニ短調 作品21 (*)
ファリャ: バレエ音楽「三角帽子」 (**)

独奏(*):川久保 賜紀(vn)
独唱(**):福島 紀子

指揮:岩城 宏之


出張で行けなくなった大阪シンフォニカーの定期演奏会のチケットと交換で頂いた大阪センチュリーの定期演奏会。 申し訳ないけれど、大阪センチュリーの演奏会に行けて「大儲け」といった感じの素晴らしい演奏に大満足だった。 岩城宏之さんは、笑うと相好が完全に崩れておじいちゃんの顔になるのが年齢を感じてちょっと寂しかったけれど、演奏では相変わらず聴かせどころのツボを知り尽くしたような見事な指揮で、まるで棒の先から音が出ているようにも錯覚するほど。

またセンチュリー交響楽団も岩城さんの指揮に見事に応えて、押す引く揺らすなど、自在な演奏で巧さが光っていた。 三角帽子は、オケの資質かもしれないが、若干優等生的な演奏にも感じた面もあったけれども盛り上げた演奏には生気もあふれていて大満足。 終演後、ブラボーが飛び、会場からは割れんばかりの拍手が鳴り止まず、ドルソンさんは2回も立たされていた。

またスペイン交響曲も、ヴァイオリンの川久保賜紀さん(昨年のチャイコフスキーコンクールで1位なしの2位)がまだ若いのに濃厚な味付が見事で、加えてストラディヴァリの美音もあいまってゾクゾクっとくる素晴らしい演奏だった。 スペイン交響曲をこんなに面白く聴けたのは始めてかもしれない。 こちらも盛大な拍手とブラボーがかかっていた。 なお川久保さんは鳴り止まない拍手に、何度もカーテンコールに応じていたが、最後の礼のあとちょっと立ちすくんだ感じとなり、アンコールかと思ったけれど、はにかんだ笑みを見せ「もう弾けないのよ…」とでも言いたそうな表情を残してさがって幕となった。 もうちょっと聴きいと思わせる今後期待の人である。

なお、最初のスペインの現代作曲家パブロのホプリは5分ほどの短い曲だった。 現代音楽らしく打楽器がいっぱいあって、シロフォンの大・小、ヴィヴラフォン、鉄琴などが一緒に鳴るとガムラン音楽のようにも感じた。 ここでも岩城さんの棒が音楽を紡ぎ出すような見事さで、音楽よりも指揮棒に目がはりついてしまったみたいだった。 終始ヴェテラン岩城宏之さんの見事な指揮と、ソリスト、オーケストラの巧さの光った演奏会だった。


簡単に演奏会をふりかえってみたい。

定刻をちょっとすぎて岩城宏之さんが登場。 背筋はピンと伸ばし笑みをたたえながらスタスタと歩いて出てきたが、なんか痩せてしまっているし、髪の毛はふわりとしていけど薄くも感じられて歳取ったなぁ…というのが第一印象。 1932年生まれなので70歳でしょうか、テレビで見ていた1970年代中頃の印象が強いのでそう思うのもいたしかたないのだけれど、音楽を慈しむように紡ぎ出してくる指揮ぶりは相変わらず巧い。 特に、今回のような本邦初演ものを指揮させると、丁寧な棒がまた自在に動いて、棒の先から音楽がなぞられて出てくるような錯覚さえ覚える。

ポプリは、1994〜5年頃に作曲されたスペインのパブロという人の6楽章からなる曲の第1楽章とのことで、岩城さんとも親しく、今回の演奏にあたっては本人の推薦があったとのこと。 冒頭のトランペットのファンファーレに続いて、大小2台のシロフォンにヴィブラフォン、鉄琴、チェレスタ、ピアノ、チューブラベルなどの多彩な打楽器群が鳴り、インドネシアのガムラン音楽のようにも感じた。 音楽はゆったりと進み、途中で弦と管が呼応したあと急に盛り上がり、また静かになったりもしたのだが、目が岩城さんの棒に張りつき、流れ出てくる音楽を見ていたのでよく憶えていない。 最後はすぅ〜と静かになって指揮棒が降ろされ、岩城さんが指揮台を降りてコンマスと握手しようとしたあたりで拍手が始まった。 5分かかったかどうかの短い曲で、肩ならしといった感じだったろうか。

スペイン交響曲の演奏前にヴァイオリン用のスタンドマイクが出てきた。 演奏会を録音しているのだろうか、天井からも録音用のマイクが吊るされていたし、オケの中にもスタンドマイクがあるのに気付いた。 川久保さんが登場、タイトなワンピースを着て意外と小柄な人で、長い髪をぎゅっと後ろで一つに纏めていた。 なんとなく情熱的な面持ちだったけれど、出てきた音楽もまた最近のテクニックのみでバリバリと弾くといった感じとは違い、粘ちっこい表現や泣きの入った部分にも情感がこもっていて素晴らしかった。 もちろん若いこともあって明晰さもきちんと備えていて、若い女性らしいストレートな情感のようなものを感じた。 またオケと合わせる部分も指揮者を見て合わせ、ソロで歌う部分は一歩前に出て堂々と弾くなど、当たり前かもしれないが、いずれもきちっとしていて見ているほうも気持ちが乗ってくる。 また終楽章ではストラディバリの美音も堪能させてもらい、スペイン交響曲をこんなに面白く聴けたのは始めてのように思う。 素晴らしい演奏だった。

第1楽章は、重厚なオケの音、ソロは深い響きで、ちょっとねっとりとした感じの開始からゆったりめのテンポで進んみ、ティムパニの音も重くたっぷりと響いていた。 ソロが、ゆったりと歌うように鳴るのが情熱的でちょっと吃驚。 若い娘(コ)なので、もっとキリッとくるのかと思ったのだけれど。 岩城さんは音楽を慈しむようにゆったりと振って仕上げていた。 展開部あたりでフルートのソロを浮き立たせていたのがちょっと印象に残った。

第2楽章は優しい感じで、ヴァイオリン・ソロ、オーケストラともに纏めていたようだ。 川久保さんは細かなアクセントをつけて美しい音の戯れを演じていたように思えた。

第3楽章は、切れの良さと、重厚さが見事にマッチした音楽。 川久保さんは暗い情熱や泣きの表情が巧い。 もちろん速いパッセージも難なくこなすが、そのあとまたヴィブラートを効かせた泣きを入れる。 泣きは入っても明晰さがあって引きずらないのがジュリアードらしさだろうか…とも感じた。 オケは要所を力強く呼応し、こちらもちっとも機械的にならない自然な巧さがあった。 終結部あたりでオーボエのフレーズが浮き立たせていたようだ。

第4楽章の前に川久保さんのチューニングをしたあと、オケによる荘重でゆったり・たっぷりとした音楽が始まる。 ソロ・ヴァイオリンが静かに哀しみを込めて登場すると、弱々しく弾いたあと強くなったかと思うと、その後は優しく変幻する。 とにかく巧かった。

静かに消え入るようにこの楽章を閉じたあと、ちょっと息継ぎ程度の間を入れたアタッカで終楽章に入ったが、ぐんぐんと盛り上げたあとすぅーと音量を下げてソロが歌うように入ってくる。 清澄な音で、まさしく美音と呼ぶのに相応しい音色にしばし心を奪われた。 これがストラディバリの音なんでしょう。 オケはソロが入らない要所をぐぃっと盛り上げてはソロが入りやすいようにすっと音量を下げる、川久保さんは出番ではないところもオケの演奏に合わせて頭を振ってリズムを取り、合わせる部分では岩城さんをよく見て波に乗る。 聴かせどころの細かな装飾や難技巧の部分も表現力豊かに難なくこなしてゆく。 とにかくスペイン交響曲をこんなに面白く聴けたのは始めてのような気がするなぁと思っていたらクライマックスになり、熱気であふれた演奏で全体が締めくくられた。 会場からブラボーが飛び割れんばかりの拍手に包まれた。

三角帽子は全曲版による演奏だった。 休憩中に指揮台がちょっと小ぶりのものに変更されたのは、指揮者の動きが大きいせいからだろうか。 演奏は、押す引く揺らすなど、自在な演奏で指揮者・オケともに巧さの光った演奏だった。 若干優等生的にも感じたのは、オケの資質かもしれないが、盛り上った演奏には生気があふれていて大満足。 聴かせどころをよくわきまえた指揮者と、巧者なオケが見事にマッチングした三角帽子で、終演後、ブラボーが飛び会場からも割れんばかりの拍手が鳴り止まなかった。

序奏は、明るく張りのある音楽だった。 オケ・メンバー全員による拍手も(ちょっと照れくさそうな団員もいたが)見事に揃っていたし、上々の滑りだし。 福島さんによる歌は第1ヴァイオリンの後ろに立っての独唱で、こちらも変な色のない巧い歌だった。 このあと第1部が終わるまで切れ目なく演奏が続き、「昼下がり」はもたれない重厚さとカラフルさがよく出ていた。 合奏・ソロともにセンチュリーはやっぱり巧いなぁ、と感心しながら聴いていた。 「粉屋の女房の踊り」も情熱のこもったリズムがちょっと教科書的な感じもしたけどやっぱり聴かせどころをしっかりついていて巧いなぁ。 「ぶどうの房」でも岩城さんはオケを無理に煽ったりしないが、オケを自在に操って速度を上げたり、要所を強めにスパっと決める。 正攻法なのだが実に白熱した音楽を聴かせてくれた。 オケがそんな指揮に見事に応えていたのもとても印象に残った。 とにかく巧いにつきるという感じ。

第1部が終わっていったん音楽を切ってから、第2部も最後まで続けて演奏された。 「隣人たちの踊り」はより情熱的な音楽となり、場面転換もスパスパと切り分けて進んでいった。 メリハリがあって楽しい音楽。 「粉屋の踊り」はドルソンさんのタイトなホルンが巧かったが、オケもタイトな響きでザッザッザッ…と進んでいく。 ティムパニは、マレットを逆さまに持って柄の部分で叩いてようだ。 岩城さんはここでも決して煽らないけど力強い踊りを演出していた。 運命の響きはさりげなく過ぎていった感じ。 福島さんは舞台袖に立って歌う(バンダの設定だが、当方は右サイドのバルコニーに聴いているので真正面)。 響きの良い声と丁寧な歌唱で巧い。 「市長の踊り」もオケの個人プレーの巧さが満載といった感じだった。 ただここで響きが薄くなって若干オケの統率が緩んだようにも感じた面があったのは聴いていた場所のせいからだろうか。 音楽が盛り上がってきたらまたもとの調子に戻った。 「終幕の踊り」はより一段と音楽が大きくなった。 岩城さんは押す引く揺らすなど、聴かせどころをよくつかんだ指揮で、大きくたっぷりとした音楽、速くて強い音楽(コンマスがもの凄い速さで弾いていたのも印象的)と変幻自在。 ファリャのオーケストレーションの華麗さ、リズムの饗宴をいかんなく発揮して幕となった。

凄い拍手が沸きあがった。 コンマスもオケも皆もとても嬉しそうな笑顔、もちろん岩城さんも相好を崩してコンマスと堅い握手を交わしていた。 正直なところ、もっと教科書的な演奏になるのか、と思っていたが、ある面教科書的な部分は安心して聴かせてもらえる要素となり、その上での白熱した素晴らしい演奏として楽しませてもらってとても幸せな気分になった。 素晴らしい演奏だった。